子犬のワルツ
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「た゛す゛け゛て゛く゛た゛さ゛い゛」
縋りついたのは張翼徳その人だった。時は三国、場は中国。突如現れた私に刃を突きつけた鎧武者の膝に泣き付き、助けを求めたことも記憶に新しい。兄者の元へ連れて行ってくれと懇願し、私は三兄弟の友情物語に名を連ねることになった。
初めに推したのは諸葛亮を迎えに行くことだった。本来ならば徐庶伝手の情報から始まるはずなのだが、当の徐庶がまだいなかったから仕方がない。一度二度、顔を合わせもしない諸葛亮に苛立つ弟二人。どうにかこうにか宥めすかして三度目、劉備が諸葛亮を連れ帰ってきたときはどれだけ安心したことか。そして今回は逆に、諸葛亮が徐庶を呼び寄せたところから私達の縁は始まった。
「徐庶殿ですよね」
新野の戦いで活躍を果たした徐庶に話し掛けると、知らない犬に吠えられた柴犬の顔をしていて笑いそうになってしまった。
「君は・・・名前殿、だったかな」
警戒されて当然だろう。私が未来から来たということはまだ三兄弟と諸葛亮しか知らない。なので予言師、祈祷師、呪術師、兎角奇術の類を用いて未来を読む女ということになっていた。怪しいことこの上ない。
「至急お話ししたいことがあります」
「俺にかい?」
「御母君に危険が迫っています」
曹操が徐庶の母君の住む地域を支配したとか、手紙を偽装して呼び寄せたとか、説は複数ある。言葉を濁しながらも精一杯説明する。途中経過はいずれにせよ、終末は一つだ。
「貴方が他国に下ったら、母君は自害なさいます」
徐庶が絶句した。顔を青くしながらも、信じていいかどうか迷っている様子だった。
「私を信じられなくても構いません。ただ母君の居所だけは暫し移していただけないでしょうか」
精一杯の誠意を込めて頭を下げる。僅かながら付き合いの長い諸葛亮が『元直』と一言だけ助け舟を出してくれた。
「分かったよ。少しの間だけだ」
得てしてすぐに結論は出た。母君のかつての住所近辺が曹操軍に奪取されたのである。
諸葛亮を紹介するという徐庶の名誉を私は奪ったのだ、当然の返礼だった。礼を言いに来た徐庶に、予め許可を得ていた私は未来から来ていることを話した。謝られたが、誤解など瑣末ごとだ。お人好しな彼の顔を曇らせずに済んだ、それだけで満足だった。予想できていなかったのが、徐庶がそれから『警戒中の柴犬』から『大好きなご主人様に対する柴犬』へと変貌を遂げたことだった。
縋りついたのは張翼徳その人だった。時は三国、場は中国。突如現れた私に刃を突きつけた鎧武者の膝に泣き付き、助けを求めたことも記憶に新しい。兄者の元へ連れて行ってくれと懇願し、私は三兄弟の友情物語に名を連ねることになった。
初めに推したのは諸葛亮を迎えに行くことだった。本来ならば徐庶伝手の情報から始まるはずなのだが、当の徐庶がまだいなかったから仕方がない。一度二度、顔を合わせもしない諸葛亮に苛立つ弟二人。どうにかこうにか宥めすかして三度目、劉備が諸葛亮を連れ帰ってきたときはどれだけ安心したことか。そして今回は逆に、諸葛亮が徐庶を呼び寄せたところから私達の縁は始まった。
「徐庶殿ですよね」
新野の戦いで活躍を果たした徐庶に話し掛けると、知らない犬に吠えられた柴犬の顔をしていて笑いそうになってしまった。
「君は・・・名前殿、だったかな」
警戒されて当然だろう。私が未来から来たということはまだ三兄弟と諸葛亮しか知らない。なので予言師、祈祷師、呪術師、兎角奇術の類を用いて未来を読む女ということになっていた。怪しいことこの上ない。
「至急お話ししたいことがあります」
「俺にかい?」
「御母君に危険が迫っています」
曹操が徐庶の母君の住む地域を支配したとか、手紙を偽装して呼び寄せたとか、説は複数ある。言葉を濁しながらも精一杯説明する。途中経過はいずれにせよ、終末は一つだ。
「貴方が他国に下ったら、母君は自害なさいます」
徐庶が絶句した。顔を青くしながらも、信じていいかどうか迷っている様子だった。
「私を信じられなくても構いません。ただ母君の居所だけは暫し移していただけないでしょうか」
精一杯の誠意を込めて頭を下げる。僅かながら付き合いの長い諸葛亮が『元直』と一言だけ助け舟を出してくれた。
「分かったよ。少しの間だけだ」
得てしてすぐに結論は出た。母君のかつての住所近辺が曹操軍に奪取されたのである。
諸葛亮を紹介するという徐庶の名誉を私は奪ったのだ、当然の返礼だった。礼を言いに来た徐庶に、予め許可を得ていた私は未来から来ていることを話した。謝られたが、誤解など瑣末ごとだ。お人好しな彼の顔を曇らせずに済んだ、それだけで満足だった。予想できていなかったのが、徐庶がそれから『警戒中の柴犬』から『大好きなご主人様に対する柴犬』へと変貌を遂げたことだった。
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