Tennesee Cooler
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「名前よ、箸の持ち方が妙だぞ」
「え?」
袁紹に指摘されて箸を止める。代わりに彼の手を見遣ると、ただの食事の一風景なのに彫刻のような美しさで二本の棒を支えていた。
「ま、食べられればいいよ。それで」
「ならぬ!私の手を見よ、まず二本の指で一本を持ち、」
説教が始まって白目を剥いた。袁紹はここのところ私に何かと常識を身に着けさせようと世話を焼く。うんざりしているのだが、本人は気付いているのかいないのか夢中で話し続けるのだ。この前なんて大広間に呼び出されたと思えば、楽団の演奏と踊り子の舞を見せつけられた。客という客が私と袁紹しかいなかったので、ただ私に披露するためだけのものだったらしい。居眠りしそうになる度に横から脇を突かれ、終わった後『どうだ』と聞かれたので適当に答えた。
「なんか、伸びやかだね。眠気を誘う感じ」
「愚か者!この曲は山に登った天女を追い掛ける男の心情を表しているのだぞ、よく聞け」
そのまま長時間の講義が続いて気絶するかと思った。
「お前が名族に名を連ねる日は遠いな!」
「何言ってるの。そんな日来ないよ」
「いや、そうとも限らない。ではなくてな!」
ぐぬぬ、と言い淀む。袁紹と私は友達だ。趣を解する貴族でなければ友人ですらいられないと言うのだろうか。
袁紹と私の縁は不思議な一本の木によって成り立っている。小さい頃、山の裏に遊びに行くのが好きだった。中心にそびえ立つ大木の中腹には大きな穴が開いていて、覗いてみると何処かの庭に繋がっていた。果たしてそこには泣いている男の子がいた。小学生の私よりも幾分か小さくて、今のように生意気でもなかった。素直で可愛らしく、名前、名前と後ろをついて回った。私が木の中へ遊びに行く度彼は大きくなって、身長も年齢も逆転していった。時の流れが異なるのか、私が中学生になる頃には既に立派な若者になっていた。
「名前よ、お前に渡したい物がある。次は早めに来い」
「分かった」
そうは言ったものの行けなくなってしまったのが心残りだった。突如引っ越すことになり、別れを言う暇も無かったのだ。高校生活はアルバイトに明け暮れ、大学は遠方に通うことになり、忙しさにかまけて彼のことは忘れていた。久々におばあちゃんちに行くことになり、そこであの木のことを思い出したのである。行ってみると、果たしてそこにまだ木はあった。潜ると前と変わらない、むしろ、豪華絢爛になった庭がそこにあった。人に取り押さえられて騒ぎになった。地面に顔を押し付けられて、声だけが上から降ってきた。
「何者だ。この袁本初の館に忍び込んだのだ、見る目は利くのだろう」
なんだか懐かしい声だな。そう思って見上げると、白髪にメッシュ、面影のある顔をした男が立っていた。
「もしやお前、名前か」
「おじさん誰?」
彼が『この私を忘れるとは!』と怒り心頭になったのは言うまでもない。
「え?」
袁紹に指摘されて箸を止める。代わりに彼の手を見遣ると、ただの食事の一風景なのに彫刻のような美しさで二本の棒を支えていた。
「ま、食べられればいいよ。それで」
「ならぬ!私の手を見よ、まず二本の指で一本を持ち、」
説教が始まって白目を剥いた。袁紹はここのところ私に何かと常識を身に着けさせようと世話を焼く。うんざりしているのだが、本人は気付いているのかいないのか夢中で話し続けるのだ。この前なんて大広間に呼び出されたと思えば、楽団の演奏と踊り子の舞を見せつけられた。客という客が私と袁紹しかいなかったので、ただ私に披露するためだけのものだったらしい。居眠りしそうになる度に横から脇を突かれ、終わった後『どうだ』と聞かれたので適当に答えた。
「なんか、伸びやかだね。眠気を誘う感じ」
「愚か者!この曲は山に登った天女を追い掛ける男の心情を表しているのだぞ、よく聞け」
そのまま長時間の講義が続いて気絶するかと思った。
「お前が名族に名を連ねる日は遠いな!」
「何言ってるの。そんな日来ないよ」
「いや、そうとも限らない。ではなくてな!」
ぐぬぬ、と言い淀む。袁紹と私は友達だ。趣を解する貴族でなければ友人ですらいられないと言うのだろうか。
袁紹と私の縁は不思議な一本の木によって成り立っている。小さい頃、山の裏に遊びに行くのが好きだった。中心にそびえ立つ大木の中腹には大きな穴が開いていて、覗いてみると何処かの庭に繋がっていた。果たしてそこには泣いている男の子がいた。小学生の私よりも幾分か小さくて、今のように生意気でもなかった。素直で可愛らしく、名前、名前と後ろをついて回った。私が木の中へ遊びに行く度彼は大きくなって、身長も年齢も逆転していった。時の流れが異なるのか、私が中学生になる頃には既に立派な若者になっていた。
「名前よ、お前に渡したい物がある。次は早めに来い」
「分かった」
そうは言ったものの行けなくなってしまったのが心残りだった。突如引っ越すことになり、別れを言う暇も無かったのだ。高校生活はアルバイトに明け暮れ、大学は遠方に通うことになり、忙しさにかまけて彼のことは忘れていた。久々におばあちゃんちに行くことになり、そこであの木のことを思い出したのである。行ってみると、果たしてそこにまだ木はあった。潜ると前と変わらない、むしろ、豪華絢爛になった庭がそこにあった。人に取り押さえられて騒ぎになった。地面に顔を押し付けられて、声だけが上から降ってきた。
「何者だ。この袁本初の館に忍び込んだのだ、見る目は利くのだろう」
なんだか懐かしい声だな。そう思って見上げると、白髪にメッシュ、面影のある顔をした男が立っていた。
「もしやお前、名前か」
「おじさん誰?」
彼が『この私を忘れるとは!』と怒り心頭になったのは言うまでもない。
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