Paradise
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泉には清涼な水が湧き、静かなほとりで鳥が囀っていた。差し込む夕日が水面を透かして、沈めた足先まで橙色に染めていく。この小さな泉で煤けた手足を洗うのが、いつからか日課になっていた。冷たい水に肌を浸しながら、あの歌を口ずさむ。現代の、もう帰れない場所の歌。
段々と嗚咽が混じり、歌が途切れる。仕事に夢中になっている間はいい。手を動かし、誰かと話し、走り回っていれば考えずに済む。だけど独りになった途端、思考が溢れ出して止められなくなる。もう会えない家族。声も忘れてしまった友達。訳の分からない時代に降り立ってしまった不幸。身一つで生きていかなければならない不安。いつでも心には寂しさが蔓延った。そんな時、涙を受け止めてくれるのがこの小さな泉だった。
「なんだい、酒がしょっぱくなっちまうよ」
呑気な声が響いた。反射的に顔を上げると、大きな笠をかぶった男が岩に腰かけて酒を飲んでいた。
「すみません、お恥ずかしいところを」
「あっしこそ邪魔しちまったねえ」
急いで泉から出て足を拭い、半ば濡れたまま沓に足を突っ込む。この時代では他人に、尚且つ異性に肌を見せるのはご法度ではなかろうか。しかし男は気にした様子もなく、悠然と酒瓶を傾けていた。
「では、私はこれで」
「さっきの歌」
柔らかい声が遮った。
「もう一度歌っとくれよ。酒の肴が切れちまってねえ」
歌が酒の肴だなんて、変な人。そう思いながら、岩に腰を下ろした。小さな声で歌い始めると、男は目を閉じてゆったりと聞き入った。その日はそのまま何曲か所望されて歌い、お開きになった。名前すら名乗らず、礼と共に去っていった。それが私とおじさんとの、はじまりだった。
段々と嗚咽が混じり、歌が途切れる。仕事に夢中になっている間はいい。手を動かし、誰かと話し、走り回っていれば考えずに済む。だけど独りになった途端、思考が溢れ出して止められなくなる。もう会えない家族。声も忘れてしまった友達。訳の分からない時代に降り立ってしまった不幸。身一つで生きていかなければならない不安。いつでも心には寂しさが蔓延った。そんな時、涙を受け止めてくれるのがこの小さな泉だった。
「なんだい、酒がしょっぱくなっちまうよ」
呑気な声が響いた。反射的に顔を上げると、大きな笠をかぶった男が岩に腰かけて酒を飲んでいた。
「すみません、お恥ずかしいところを」
「あっしこそ邪魔しちまったねえ」
急いで泉から出て足を拭い、半ば濡れたまま沓に足を突っ込む。この時代では他人に、尚且つ異性に肌を見せるのはご法度ではなかろうか。しかし男は気にした様子もなく、悠然と酒瓶を傾けていた。
「では、私はこれで」
「さっきの歌」
柔らかい声が遮った。
「もう一度歌っとくれよ。酒の肴が切れちまってねえ」
歌が酒の肴だなんて、変な人。そう思いながら、岩に腰を下ろした。小さな声で歌い始めると、男は目を閉じてゆったりと聞き入った。その日はそのまま何曲か所望されて歌い、お開きになった。名前すら名乗らず、礼と共に去っていった。それが私とおじさんとの、はじまりだった。
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