Between The Sheets
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「俺は試しても頂けないのでしょうか」
据わった目の荀攸が私の服を掴んで見上げている。この男はこんなに積極的だっただろうか。
近頃の荀攸はやたらと二次会をしたがった。飲み会自体は二人きりだったり他に人がいたりとまちまちなのだが、その後自分の屋敷に私を連れ帰ろうとするのだ。誤解が生じては困ると毎回何かと理由をつけて断るのだが、あまりに縋られるので今日は私の部屋に案内したところだった。宿舎の両隣には馴染みの文官が揃っている。荀攸がもし酔って歩けなくなっても一緒に運んでもらえる用意はあり、安心だと思ったのだが。
酒もつまみもなくなって終いにしようという段階になってもずるずると話を続けようとするので『終わりにしよう』と線引きをしたところだった。彼が何を言いたいのか正直分からない。
「確かに俺は郭嘉殿や賈詡殿に比べて、経験豊富な方ではありません」
「いや」
「ですが今日のために書物は読み漁り、助言も頂いて参りました。決して生半可な覚悟で挑んでいるわけではありません」
「あのさ」
「実際に事を始めてみなければ分からないこともあります、不安でしょうが、ここは一つ俺に任せて頂きたく」
「ちょっと待って」
腕を掴むと荀攸が顔を上げた。止めようとしても全然話を聞いてもらえない。
「荀攸、さっきから何の話をしてるの?」
「やはり俺は度外視される程貴方に見向きもされない存在なんですね」
「いや待って本当に分かんない」
今度はしょんぼりと肩を落とす。押したり引いたりと波が忙しく変わる。この男が話を聞かないのはいつものことだが、それにしても今日は度を越していた。
「女官達と話しているのを聞いたのです」
確かに私はいつも女官の友人達と日々愚痴り合っている。正直に言えば将達よりも庶民派の感覚を持っている同性の彼女達の方が心を開け放って話し合えている存在と言えた。しかし何の話題だろうか。
「貴方の好みの男の話をしている時」
・・・ん?そんな話をしたのはいつのことだったか。確か飲み過ぎて頭がおかしくなっているときにした赤裸々な内輪ネタだったような気がする。なんだか不味い流れになってきたのを感じて耳を塞ぎたくなった。
「閨の相性が良くない男とは付き合う価値も無いと、」
「うわーーーーーーーーーーー!」
大声で遮ると荀攸が肩を震わせた。それは女性同士でしかしないど直球の下ネタ話じゃないか!よりによって何故その日に荀攸は同じ店に飲みに来てしまったのか、そして聞き耳を立ててしまったのか。己の振る舞いの悪しさが原因ではあるのだが、男女の鬱憤の話は耳に入っても素知らぬ顔をして生きていくのがマナーというものではなかろうか。この男は盗み聞きした上にそれを実践しようとしていたわけだ。ん、実践?
「あのね、荀攸。その話はね、私のいたところでの話なの。身持ちが堅いことが美徳であるここで生きる私には関係ない。いい?」
「しかし・・・」
「私達は友達。男女の関係とか、どうにかこうにかならなきゃ、そういう試験は必要ないの。だからこの話はここまでで」
「いいえ、貴方は分かっていない」
荀攸が立ち上がって、酒の香りが鼻腔を流れた。温かい。あれ?抱き締められてる?
「俺は貴方と"どうにか"なってしまいたいのです」
びしりと空気が固まる。そんな。荀攸にはそんな欲などないと思っていた。だからこそ今まで二人きりの飲み会にも応じたし、今日も部屋まで招き入れたというのに。
「待って一旦落ち着こう」
「焦がれた女性を前に、落ち着けるはずがありません」
「いや私も混乱してて、時間が欲しくて」
「これ以上もう待てません」
身を剥がそうとしたりまたくっついたり離れたり、揉み合っているうちに押し倒されてどんと背中が寝台に着いた。嗚呼、目眩がくらくら。酩酊でふわふわ。荀攸の目はいつもの穏やかさとうって変わってぎらぎらと欲望を携えている。両腕は私の手首を押さえつけて、意外と強い力で離れない。子犬だと思っていたのに、いつの間にこんな。
「後悔はさせません。貴方の一夜を俺に下さい」
そして男は狼になった。二人の境界線が夜に融けていった。
Between The Sheets・・・貴方と夜を過ごしたい
据わった目の荀攸が私の服を掴んで見上げている。この男はこんなに積極的だっただろうか。
近頃の荀攸はやたらと二次会をしたがった。飲み会自体は二人きりだったり他に人がいたりとまちまちなのだが、その後自分の屋敷に私を連れ帰ろうとするのだ。誤解が生じては困ると毎回何かと理由をつけて断るのだが、あまりに縋られるので今日は私の部屋に案内したところだった。宿舎の両隣には馴染みの文官が揃っている。荀攸がもし酔って歩けなくなっても一緒に運んでもらえる用意はあり、安心だと思ったのだが。
酒もつまみもなくなって終いにしようという段階になってもずるずると話を続けようとするので『終わりにしよう』と線引きをしたところだった。彼が何を言いたいのか正直分からない。
「確かに俺は郭嘉殿や賈詡殿に比べて、経験豊富な方ではありません」
「いや」
「ですが今日のために書物は読み漁り、助言も頂いて参りました。決して生半可な覚悟で挑んでいるわけではありません」
「あのさ」
「実際に事を始めてみなければ分からないこともあります、不安でしょうが、ここは一つ俺に任せて頂きたく」
「ちょっと待って」
腕を掴むと荀攸が顔を上げた。止めようとしても全然話を聞いてもらえない。
「荀攸、さっきから何の話をしてるの?」
「やはり俺は度外視される程貴方に見向きもされない存在なんですね」
「いや待って本当に分かんない」
今度はしょんぼりと肩を落とす。押したり引いたりと波が忙しく変わる。この男が話を聞かないのはいつものことだが、それにしても今日は度を越していた。
「女官達と話しているのを聞いたのです」
確かに私はいつも女官の友人達と日々愚痴り合っている。正直に言えば将達よりも庶民派の感覚を持っている同性の彼女達の方が心を開け放って話し合えている存在と言えた。しかし何の話題だろうか。
「貴方の好みの男の話をしている時」
・・・ん?そんな話をしたのはいつのことだったか。確か飲み過ぎて頭がおかしくなっているときにした赤裸々な内輪ネタだったような気がする。なんだか不味い流れになってきたのを感じて耳を塞ぎたくなった。
「閨の相性が良くない男とは付き合う価値も無いと、」
「うわーーーーーーーーーーー!」
大声で遮ると荀攸が肩を震わせた。それは女性同士でしかしないど直球の下ネタ話じゃないか!よりによって何故その日に荀攸は同じ店に飲みに来てしまったのか、そして聞き耳を立ててしまったのか。己の振る舞いの悪しさが原因ではあるのだが、男女の鬱憤の話は耳に入っても素知らぬ顔をして生きていくのがマナーというものではなかろうか。この男は盗み聞きした上にそれを実践しようとしていたわけだ。ん、実践?
「あのね、荀攸。その話はね、私のいたところでの話なの。身持ちが堅いことが美徳であるここで生きる私には関係ない。いい?」
「しかし・・・」
「私達は友達。男女の関係とか、どうにかこうにかならなきゃ、そういう試験は必要ないの。だからこの話はここまでで」
「いいえ、貴方は分かっていない」
荀攸が立ち上がって、酒の香りが鼻腔を流れた。温かい。あれ?抱き締められてる?
「俺は貴方と"どうにか"なってしまいたいのです」
びしりと空気が固まる。そんな。荀攸にはそんな欲などないと思っていた。だからこそ今まで二人きりの飲み会にも応じたし、今日も部屋まで招き入れたというのに。
「待って一旦落ち着こう」
「焦がれた女性を前に、落ち着けるはずがありません」
「いや私も混乱してて、時間が欲しくて」
「これ以上もう待てません」
身を剥がそうとしたりまたくっついたり離れたり、揉み合っているうちに押し倒されてどんと背中が寝台に着いた。嗚呼、目眩がくらくら。酩酊でふわふわ。荀攸の目はいつもの穏やかさとうって変わってぎらぎらと欲望を携えている。両腕は私の手首を押さえつけて、意外と強い力で離れない。子犬だと思っていたのに、いつの間にこんな。
「後悔はさせません。貴方の一夜を俺に下さい」
そして男は狼になった。二人の境界線が夜に融けていった。
Between The Sheets・・・貴方と夜を過ごしたい
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