隠れんぼ
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「ここにいたのか」
座り込んだ視線の先に影が掛かって、声が上から落ちてきた。夕陽が街に差し掛かっている。彼は普段の姿勢を崩さない。私を責めたり、訳を聞いたりしない。ただこうして捜して、迎えに来てくれる。
「帰るぞ」
手を差し出されるので、一拍置いて握り返す。大きくて、筋張っていて、長年武器を握ったまめのある手。男の人の手だ。暖かな体温を感じながら、家路につく。
「随分遠くまで来たな」
「うん、ごめんね」
「いいんだ。あんたが無事なら」
私は彼を避けてよく外へ出る。宿屋の裏、街角の隅、庭園の端。あらゆる所へ、足の向かうまま。昼寝をしているところを見計らって出たり、途中振り返って確認したり、足跡を消してみたり。自分なりに気配を消しても一日彼に会わずに済んだことはない。繰り返される日常、彼は私が何処に居ても必ず見つけ出す。
「足は痛んでいないか」
「ちょっとだけ」
「おぶさるといい」
「そこまでしなくていいよ、大丈夫」
「そうか。次は見つけやすいところにしてくれ」
「どうかな」
「手厳しいな」
回を追うごとに束縛が悪化していく。私は殆ど一人で出歩けたことがない。庵にいては息が詰まる。考え込んで薄暗いことばかり頭に浮かんでしまう。気分転換をしたくても、彼を除いた外出を許してもらえない。忙しくて人に求められがちな彼を、私の我儘に付き合わせたくない。だからこうして一人で逃げ出しているのに、いつも見つかってお縄になる。夕陽が傾く。一つに繋がった二人の影。申し訳無さが募っていく。いつか、きっといつか。私が彼の予想外の場所に行けたら、見つからずに済んだら。何処かで独り野垂れ死んで、迷惑を掛けずに消えることができるのに。
手を繋ぐのは私が逃げないようにするためなのだろうか。彼を目の前にして逃げ切ることなどできるはずがないのに。問い詰められない代わりに、私も言及するのは避けている。全てが曖昧なままに、生温い日々が続く。彼は遠征に出ない。気が向くのか運命が呼ぶのか、時折お金を稼ぐために出向くくらいだ。そしてその折には必ず元化くんを庵に置いていく。私の世話をさせる意味もあるし、手当をさせる目的もあるのだろう。
歩幅が合っている。今は何ともないが、始めの頃は引っ張られると痛かった。まだ腹に包帯が巻かれていて、空いた風穴が塞がれたばかりの血が滲み出ている頃は。
何故私は大怪我を負ったのだろう。何故私は彼から逃げたくなってしまうのだろう。何故彼は過保護なのだろう。何故手を繋ぐのだろう。私達の間に何があったのだろう。私は一体何を、忘れているのだろう。
全てが闇の中だ。私が記憶を失ってからは。
座り込んだ視線の先に影が掛かって、声が上から落ちてきた。夕陽が街に差し掛かっている。彼は普段の姿勢を崩さない。私を責めたり、訳を聞いたりしない。ただこうして捜して、迎えに来てくれる。
「帰るぞ」
手を差し出されるので、一拍置いて握り返す。大きくて、筋張っていて、長年武器を握ったまめのある手。男の人の手だ。暖かな体温を感じながら、家路につく。
「随分遠くまで来たな」
「うん、ごめんね」
「いいんだ。あんたが無事なら」
私は彼を避けてよく外へ出る。宿屋の裏、街角の隅、庭園の端。あらゆる所へ、足の向かうまま。昼寝をしているところを見計らって出たり、途中振り返って確認したり、足跡を消してみたり。自分なりに気配を消しても一日彼に会わずに済んだことはない。繰り返される日常、彼は私が何処に居ても必ず見つけ出す。
「足は痛んでいないか」
「ちょっとだけ」
「おぶさるといい」
「そこまでしなくていいよ、大丈夫」
「そうか。次は見つけやすいところにしてくれ」
「どうかな」
「手厳しいな」
回を追うごとに束縛が悪化していく。私は殆ど一人で出歩けたことがない。庵にいては息が詰まる。考え込んで薄暗いことばかり頭に浮かんでしまう。気分転換をしたくても、彼を除いた外出を許してもらえない。忙しくて人に求められがちな彼を、私の我儘に付き合わせたくない。だからこうして一人で逃げ出しているのに、いつも見つかってお縄になる。夕陽が傾く。一つに繋がった二人の影。申し訳無さが募っていく。いつか、きっといつか。私が彼の予想外の場所に行けたら、見つからずに済んだら。何処かで独り野垂れ死んで、迷惑を掛けずに消えることができるのに。
手を繋ぐのは私が逃げないようにするためなのだろうか。彼を目の前にして逃げ切ることなどできるはずがないのに。問い詰められない代わりに、私も言及するのは避けている。全てが曖昧なままに、生温い日々が続く。彼は遠征に出ない。気が向くのか運命が呼ぶのか、時折お金を稼ぐために出向くくらいだ。そしてその折には必ず元化くんを庵に置いていく。私の世話をさせる意味もあるし、手当をさせる目的もあるのだろう。
歩幅が合っている。今は何ともないが、始めの頃は引っ張られると痛かった。まだ腹に包帯が巻かれていて、空いた風穴が塞がれたばかりの血が滲み出ている頃は。
何故私は大怪我を負ったのだろう。何故私は彼から逃げたくなってしまうのだろう。何故彼は過保護なのだろう。何故手を繋ぐのだろう。私達の間に何があったのだろう。私は一体何を、忘れているのだろう。
全てが闇の中だ。私が記憶を失ってからは。
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