三国狐狸奇譚
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「三枚でどう?」
「乗った」
隠語である。女官から銭を受け取って品物を渡す。女官が去ってから、貨幣を財布に仕舞って辺りを見渡した。闇取引にはもってこいの場所、城の裏手。私は最近ここで荒稼ぎしていた。己の手腕に笑いが止まらない。
ここ三国時代の絵というものは写実性とは程遠かった。そもそも書き方が画一化されていない。情報が行き交うスピードも現代とは程遠いのだから、書く必要すらなかったのかもしれない。そこに目をつけたのがこの私名前だった。推しの絵を郭嘉様に取られて逆に閃いた、これを見て誰と分かるなら、格好良いという感情が湧くなら、郭嘉様の絵姿を描いて女性に売れば荒稼ぎができるのではないか?
果たしてその目論見は当たっていた。郭嘉様は城勤めの女官にも、酒屋の看板娘にも顔が広い。話したことはなくとも、道端で見掛けて憧れを抱かれることもしばしばだったようだ。彼女達を裏通りに連れ込んで絵を見せる。代わりに金子を頂く。そういう手法だった。
基礎的なエスキースから本格的なデッサンまで学んだ甲斐あって、一枚一枚が会心の出来だった。ちなみにポーズは本人にさせるわけにはいかないので楽進様にお願いした。頭にはてなを浮かべながら協力してくれた姿を思い出す度に笑いがこみ上げる。
ひいふうみい、頭の中で勘定しながら計算をする。紙と、下書きをするための炭、清書をするための墨は捻出しなければならない。ただし代金は金だけとは限らなかった。城中の文官だけは話が別だ。
あの宴会以来郭嘉様と会うのが気まずい私はどうしたら接触を避けられるか必死に考えた。そしてこの闇取引を応用することを思いついたのである。
上官である賈詡様から郭嘉様にまつわる頼みごとをされたときは、それを文官に頼めばいい。取引などなくても、憧れの男と話せる機会が作れると思えばこそ皆喜んで協力してくれた。
ただあまり大っぴらにはできない。機密性と寡作が命の取引だ。事が露見する恐ろしさは分かっているつもりだった。
道をぐるりと回ってわざと遠回りする。人が往来するルートを通るのを避けるためだ。普段誰もいない道に差し掛かって人の姿があったので、肩がびくりと大袈裟に震えた。
「やあ。奇遇だね」
郭嘉様だ。無意識に袖の中の在庫を探っていた。今回取引が成立しなかったものは二枚ある。これを見られたら終わりだ。
「こんにちは。今日は気持ちのいい陽気ですね」
「そうかな。昨日までの長雨が残ってどんよりとしているけれど」
「・・・・・・・・・」
適当に発した言葉がばっさりと斬り伏せられて気まずい。ただの社交辞令なのだから聞き流して欲しい。突っ込まれたくなくて『ではお先に失礼』と横をすり抜ける。
「まあ、そう慌てないで」
腕を掴まれた。あの日から郭嘉様は私に対して遠慮がない。歩く十八禁が全力で誘惑しに来ている。私の理性は発狂寸前だった。
「君が袖の中の品で暗躍しているのを知っているよ」
「・・・・・・・・・」
「ふふ、いけない子だね」
耳元で囁く必要ある?!!?!!!!!!?!
掠れ声が脳を侵しそうだ。体を引こうにも腕がびくともしない。力の差は歴然で、その腕力にむしろときめきさえ・・・・・・・・・いや抱いてない。抱いてないったらない。
「麗しの姫君達だけではなくて、私とも取引をしないかい?」
「慎んで遠慮させて頂きま」
「あなたの罪を賈詡に話してもいいんだよ」
「是非拝聴させて下さい!!!」
投げやりになって叫ぶと満足そうに笑った。この顔にだけはいつまでも勝てそうにない。
「乗った」
隠語である。女官から銭を受け取って品物を渡す。女官が去ってから、貨幣を財布に仕舞って辺りを見渡した。闇取引にはもってこいの場所、城の裏手。私は最近ここで荒稼ぎしていた。己の手腕に笑いが止まらない。
ここ三国時代の絵というものは写実性とは程遠かった。そもそも書き方が画一化されていない。情報が行き交うスピードも現代とは程遠いのだから、書く必要すらなかったのかもしれない。そこに目をつけたのがこの私名前だった。推しの絵を郭嘉様に取られて逆に閃いた、これを見て誰と分かるなら、格好良いという感情が湧くなら、郭嘉様の絵姿を描いて女性に売れば荒稼ぎができるのではないか?
果たしてその目論見は当たっていた。郭嘉様は城勤めの女官にも、酒屋の看板娘にも顔が広い。話したことはなくとも、道端で見掛けて憧れを抱かれることもしばしばだったようだ。彼女達を裏通りに連れ込んで絵を見せる。代わりに金子を頂く。そういう手法だった。
基礎的なエスキースから本格的なデッサンまで学んだ甲斐あって、一枚一枚が会心の出来だった。ちなみにポーズは本人にさせるわけにはいかないので楽進様にお願いした。頭にはてなを浮かべながら協力してくれた姿を思い出す度に笑いがこみ上げる。
ひいふうみい、頭の中で勘定しながら計算をする。紙と、下書きをするための炭、清書をするための墨は捻出しなければならない。ただし代金は金だけとは限らなかった。城中の文官だけは話が別だ。
あの宴会以来郭嘉様と会うのが気まずい私はどうしたら接触を避けられるか必死に考えた。そしてこの闇取引を応用することを思いついたのである。
上官である賈詡様から郭嘉様にまつわる頼みごとをされたときは、それを文官に頼めばいい。取引などなくても、憧れの男と話せる機会が作れると思えばこそ皆喜んで協力してくれた。
ただあまり大っぴらにはできない。機密性と寡作が命の取引だ。事が露見する恐ろしさは分かっているつもりだった。
道をぐるりと回ってわざと遠回りする。人が往来するルートを通るのを避けるためだ。普段誰もいない道に差し掛かって人の姿があったので、肩がびくりと大袈裟に震えた。
「やあ。奇遇だね」
郭嘉様だ。無意識に袖の中の在庫を探っていた。今回取引が成立しなかったものは二枚ある。これを見られたら終わりだ。
「こんにちは。今日は気持ちのいい陽気ですね」
「そうかな。昨日までの長雨が残ってどんよりとしているけれど」
「・・・・・・・・・」
適当に発した言葉がばっさりと斬り伏せられて気まずい。ただの社交辞令なのだから聞き流して欲しい。突っ込まれたくなくて『ではお先に失礼』と横をすり抜ける。
「まあ、そう慌てないで」
腕を掴まれた。あの日から郭嘉様は私に対して遠慮がない。歩く十八禁が全力で誘惑しに来ている。私の理性は発狂寸前だった。
「君が袖の中の品で暗躍しているのを知っているよ」
「・・・・・・・・・」
「ふふ、いけない子だね」
耳元で囁く必要ある?!!?!!!!!!?!
掠れ声が脳を侵しそうだ。体を引こうにも腕がびくともしない。力の差は歴然で、その腕力にむしろときめきさえ・・・・・・・・・いや抱いてない。抱いてないったらない。
「麗しの姫君達だけではなくて、私とも取引をしないかい?」
「慎んで遠慮させて頂きま」
「あなたの罪を賈詡に話してもいいんだよ」
「是非拝聴させて下さい!!!」
投げやりになって叫ぶと満足そうに笑った。この顔にだけはいつまでも勝てそうにない。
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