徒党の企み
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馴染みの侍女の耳に見慣れない煌めきを見つけてあれ、と声を上げた。瑠璃の耳飾りがついていて、なんの気はなしに『可愛いね』と褒めると、恥ずかしそうに目を逸した。
「それ、初めて見た。似合うね。貰い物?」
「うん、まあ、そんなとこかな」
「彼からもらったの?」
井戸端会議に花が咲く。いつも仕事終わりの夕刻に時間を見つけては侍女や女性の文官が集まって話をするのが恒例だった。
この日は彼女達の『ご新規さん』が多い日だった。紅が欲しいと言っていた彼女の唇は朱に染まり、飾りが欲しいと言っていたあの子の帯には組紐が結わえられている。もしや三国時代にボーナスという概念があったかと問うてみるとそういった制度はないと言う。偶然というのもあるものだと不思議に思っていると紅の彼女が切り上げた。
「ねえ、私達のことはいいから、今日は名前の話を聞かせて頂戴」
名前が未来から来ていることは一部の将のみが知っている秘密だった。副官以下には遠い異国で育って移り住んだと話してある。名前の過ごしていた時代の恋物語に、娯楽の少ない彼女達は浪漫を見出して夢中で聞き入った。
「今回はいつもと違う店に行きますよ。少し着飾って来るといい」
逢瀬の約束を取り付ける法正に名前はふうん、と首を回した。珍しいこともあるものだ。普段法正と出掛けるときは名前好みの居酒屋か割烹料理屋のような場所で食事を取ることが多かった。今回は高級な店なのだろうか。
「何か守るべき礼儀でもあるの?仕事場に行く服装で行けばいい?」
「好きな格好で構いませんよ。めかし込んで来て欲しいという意味だ」
ますます難しい。名前はそんなに沢山の服を持っているわけではない。余所行きといえば、数着衣装店で買ったものがあるくらいだ。頭の中で、法正の普段着と色を揃えたものに当たりをつける。
「装飾品は必要?」
「あると望ましいな。この前遣ったのがいいだろう」
付き合いが長いとあれやそれで話が通じるものだ。名前は先日もらった翡翠のアクセサリーを思い描いた。耳飾りと首飾りがセットになったものだが、首飾りまでしているとあまりに『法正のものです』と顔に書いて歩いているようで恥ずかしく、両方身につけたことはなかった。前もって知らせに来るほどの店に行くとのことだから奮発するのだろう、今回ばかりは法正の意に添おうと名前は思った。
「妖艶な姿を見せて下さいよ。ああ、そのお礼はたっぷりとしますから」
「貴方ってそればっかりよね」
掌の裏で法正が名前の頬を撫でると、お返しに名前が法正を小突く。衣服、宝飾品、化粧品から日用品まで、名前が持っているものは殆どが法正に買い与えられたものばかりである。俺色に染めたいのだと告げられそれを実行されてから幾月、名前の周りからは人が離れていった。それでも良かった。真に応援してくれる人達が留まってくれたから、名前はこの生活に満足だった。
一通りじゃれ合いをこなして法正が去っていく。悪だの何だのと言われながら自分には甘い法正が面映かった。
「それ、初めて見た。似合うね。貰い物?」
「うん、まあ、そんなとこかな」
「彼からもらったの?」
井戸端会議に花が咲く。いつも仕事終わりの夕刻に時間を見つけては侍女や女性の文官が集まって話をするのが恒例だった。
この日は彼女達の『ご新規さん』が多い日だった。紅が欲しいと言っていた彼女の唇は朱に染まり、飾りが欲しいと言っていたあの子の帯には組紐が結わえられている。もしや三国時代にボーナスという概念があったかと問うてみるとそういった制度はないと言う。偶然というのもあるものだと不思議に思っていると紅の彼女が切り上げた。
「ねえ、私達のことはいいから、今日は名前の話を聞かせて頂戴」
名前が未来から来ていることは一部の将のみが知っている秘密だった。副官以下には遠い異国で育って移り住んだと話してある。名前の過ごしていた時代の恋物語に、娯楽の少ない彼女達は浪漫を見出して夢中で聞き入った。
「今回はいつもと違う店に行きますよ。少し着飾って来るといい」
逢瀬の約束を取り付ける法正に名前はふうん、と首を回した。珍しいこともあるものだ。普段法正と出掛けるときは名前好みの居酒屋か割烹料理屋のような場所で食事を取ることが多かった。今回は高級な店なのだろうか。
「何か守るべき礼儀でもあるの?仕事場に行く服装で行けばいい?」
「好きな格好で構いませんよ。めかし込んで来て欲しいという意味だ」
ますます難しい。名前はそんなに沢山の服を持っているわけではない。余所行きといえば、数着衣装店で買ったものがあるくらいだ。頭の中で、法正の普段着と色を揃えたものに当たりをつける。
「装飾品は必要?」
「あると望ましいな。この前遣ったのがいいだろう」
付き合いが長いとあれやそれで話が通じるものだ。名前は先日もらった翡翠のアクセサリーを思い描いた。耳飾りと首飾りがセットになったものだが、首飾りまでしているとあまりに『法正のものです』と顔に書いて歩いているようで恥ずかしく、両方身につけたことはなかった。前もって知らせに来るほどの店に行くとのことだから奮発するのだろう、今回ばかりは法正の意に添おうと名前は思った。
「妖艶な姿を見せて下さいよ。ああ、そのお礼はたっぷりとしますから」
「貴方ってそればっかりよね」
掌の裏で法正が名前の頬を撫でると、お返しに名前が法正を小突く。衣服、宝飾品、化粧品から日用品まで、名前が持っているものは殆どが法正に買い与えられたものばかりである。俺色に染めたいのだと告げられそれを実行されてから幾月、名前の周りからは人が離れていった。それでも良かった。真に応援してくれる人達が留まってくれたから、名前はこの生活に満足だった。
一通りじゃれ合いをこなして法正が去っていく。悪だの何だのと言われながら自分には甘い法正が面映かった。
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