簪
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「名前、もしかしてそれは・・・箸ではないかな?」
「げっ」
バレた。
頭を押さえて振り向くと郭嘉さんは可笑しそうに笑った。
この時代の中産階級以上の女性は大抵髪を結っている。庶民はその限りではないのだが、当初の長い髪を揺らして歩く私は城の中で浮いていた。面倒なので食堂勤めのおばちゃんにお願いし、使わなくなった箸をもらって髪を夜会巻きにすることで事なきを得ていた。そもそもこの纏め方をする人がこの時代にはいないので、それでも時偶変な視線を受けるのだが、兎に角髪を下ろして出歩いていたときよりはマシだった。甄姫様などは下ろしているが、あれは傾国の美姫が完璧にヘアセットをしているから許されるのだ。一般市民である私にはそこまで突出する勇気はなかった。
大学の授業で、前の席の女子が髪をぐるぐる巻きにして鉛筆を刺していたことを思い出す。夜会巻きというのは、とどのつまり棒が一本あれば成り立つ結い方だ。私にとってその棒が鉛筆であれ箸であれ、どうでもいいことだと思っていた。しかし粋な色男で通る郭嘉さんにとっては突っ込まざるを得ない状況だったのだろう。袖で口元を押さえて愉快に笑っている。
「あなたのいたところでは、箸で髪を纏めるのかな?」
「いや、そんなことないんですが。ごめんなさい、許して下さい」
触れられるのが恥ずかしくてあたふたとしてしまう。何より于禁殿のいる前で触れないで欲しかった。いつもきっちりと礼服を着込んで髪も綺麗に結う人の前で、曲がりなりにも女の身である自分が身なりについて言及される気恥ずかしさがあった。
「それなら今度、選びに行こうか。相応しいものを見繕ってあげるよ」
「私語はそこまで」
郭嘉さんが私の頭に手をやろうとしたところで上官ストップが掛かった。気のいい将が執務室に来るとき、学問の話か世間話か、はたまたその将の地位の高低によって于禁殿の許せる長さは変わってくる。今回はここまでのようだ。郭嘉さんは『では、また今度ね』と残り香を残して去っていった。
「げっ」
バレた。
頭を押さえて振り向くと郭嘉さんは可笑しそうに笑った。
この時代の中産階級以上の女性は大抵髪を結っている。庶民はその限りではないのだが、当初の長い髪を揺らして歩く私は城の中で浮いていた。面倒なので食堂勤めのおばちゃんにお願いし、使わなくなった箸をもらって髪を夜会巻きにすることで事なきを得ていた。そもそもこの纏め方をする人がこの時代にはいないので、それでも時偶変な視線を受けるのだが、兎に角髪を下ろして出歩いていたときよりはマシだった。甄姫様などは下ろしているが、あれは傾国の美姫が完璧にヘアセットをしているから許されるのだ。一般市民である私にはそこまで突出する勇気はなかった。
大学の授業で、前の席の女子が髪をぐるぐる巻きにして鉛筆を刺していたことを思い出す。夜会巻きというのは、とどのつまり棒が一本あれば成り立つ結い方だ。私にとってその棒が鉛筆であれ箸であれ、どうでもいいことだと思っていた。しかし粋な色男で通る郭嘉さんにとっては突っ込まざるを得ない状況だったのだろう。袖で口元を押さえて愉快に笑っている。
「あなたのいたところでは、箸で髪を纏めるのかな?」
「いや、そんなことないんですが。ごめんなさい、許して下さい」
触れられるのが恥ずかしくてあたふたとしてしまう。何より于禁殿のいる前で触れないで欲しかった。いつもきっちりと礼服を着込んで髪も綺麗に結う人の前で、曲がりなりにも女の身である自分が身なりについて言及される気恥ずかしさがあった。
「それなら今度、選びに行こうか。相応しいものを見繕ってあげるよ」
「私語はそこまで」
郭嘉さんが私の頭に手をやろうとしたところで上官ストップが掛かった。気のいい将が執務室に来るとき、学問の話か世間話か、はたまたその将の地位の高低によって于禁殿の許せる長さは変わってくる。今回はここまでのようだ。郭嘉さんは『では、また今度ね』と残り香を残して去っていった。
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