約束
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「気持ちがいい風ですね!」
「だな」
長く続いた雨が上がり、ようやく外出できる時が来た。体を動かさないと死ぬ生きものである私はちょうど良く部屋を訪れた李典さんを誘って、一緒に城郭の外壁まで見物に出掛けた。
これほどの高い建物は三国に他に無いだろう。石造りで積まれているそれはどっしりとして固く、簡単には破られそうになかった。凹凸のある天辺は弓矢を射掛けたり避けたりするためであろうことが予想され、正に戦のためにある城なのだと思い出された。
将と副官が並ぶ様子に見張りの兵士が挨拶をする。私の服は戦で進言してそれが功を奏する度に変わっていった。呼び出されて『○○に任ずる』と曹操様から言われるのだが、聞き慣れない言葉なので何なのかは覚えていない。ただ地位は順調に上がっていっているようだった。私の顔を見ると一般兵は拱手するようになったし、李典さんや郭嘉さんを人前でさん付けで呼んでも于禁殿が怒らなくなった。ただし前々から仲良くなっていた兵士や女官、副官同士ではあまり気を遣いたくなかったので、その旨を伝えて今でも気安い関係を保っていた。
「しかし于禁様もやり過ぎだよな」
下から何やら声がする。覗き込むと、新参の兵達が愚痴を言い合っているようだった。
「ああ、俺達下々の兵のことなんか考えていないんだよ」
「じゃなきゃあんなに無茶な訓練はしないぜ」
「規則規則ってうるさいしよ」
隣にいる李典さんが気まずそうに頭をかいた。
「なんだか俺・・・いやーな予感がするぜ。名前、何考えてんだ?」
残念なことに于禁殿はあまり人望はなかったようだ。直接言うと怖いので私に代わりに伝言を頼む人が後を絶たない。于禁殿はそれを無責任と思うのか良い気持ちにはならないようだが、私としてはむしろ使命感に燃えていた。実は于禁殿が考えているのはこういうことなのですよ、貴方や貴方の属する集団の利になることをするために心を鬼にしているのですよ、と真意をその耳に吹き込むと、少しずつ周りの態度も変わっていった。柔らかくなった対応を受ける度に于禁殿は戸惑い、『また何か言ったのか』と言いたげな視線を私に寄越すのだが、その度ほくそ笑んで無視していた。彼は残酷なまでに自分にも厳しい人だ。少しでも報われて欲しかったし、その一翼を担えて嬉しかった。
ただこのように、理解できない輩もどうしてもいるわけで。
「李典さん、私達友達ですよね」
「あ、ああ・・・そうだけどよ」
「秘密を守ってくれるって信じています」
櫓の隅には桶が置いてあった。恐らく今回のように水が溜まったときに掻き出すためのものだろう。そこには昨日までの長雨が溜まって青空を反射していた。
桶を両手にもって城壁に引っ掛ける。上からよくよく位置を確認してひっくり返すと、下から不届き者の騒ぐ声が聞こえた。
「やらかしたなおい!」
「何してるんですか!ほら逃げますよ」
顔を青くする李典さんを横目に全力で階段を駆け下りる。兵士達が上に登ってくるまでには時間がかかるはずだ。正義の鉄槌を下した私は勝利に酔って高笑いをしながら走った。
「だな」
長く続いた雨が上がり、ようやく外出できる時が来た。体を動かさないと死ぬ生きものである私はちょうど良く部屋を訪れた李典さんを誘って、一緒に城郭の外壁まで見物に出掛けた。
これほどの高い建物は三国に他に無いだろう。石造りで積まれているそれはどっしりとして固く、簡単には破られそうになかった。凹凸のある天辺は弓矢を射掛けたり避けたりするためであろうことが予想され、正に戦のためにある城なのだと思い出された。
将と副官が並ぶ様子に見張りの兵士が挨拶をする。私の服は戦で進言してそれが功を奏する度に変わっていった。呼び出されて『○○に任ずる』と曹操様から言われるのだが、聞き慣れない言葉なので何なのかは覚えていない。ただ地位は順調に上がっていっているようだった。私の顔を見ると一般兵は拱手するようになったし、李典さんや郭嘉さんを人前でさん付けで呼んでも于禁殿が怒らなくなった。ただし前々から仲良くなっていた兵士や女官、副官同士ではあまり気を遣いたくなかったので、その旨を伝えて今でも気安い関係を保っていた。
「しかし于禁様もやり過ぎだよな」
下から何やら声がする。覗き込むと、新参の兵達が愚痴を言い合っているようだった。
「ああ、俺達下々の兵のことなんか考えていないんだよ」
「じゃなきゃあんなに無茶な訓練はしないぜ」
「規則規則ってうるさいしよ」
隣にいる李典さんが気まずそうに頭をかいた。
「なんだか俺・・・いやーな予感がするぜ。名前、何考えてんだ?」
残念なことに于禁殿はあまり人望はなかったようだ。直接言うと怖いので私に代わりに伝言を頼む人が後を絶たない。于禁殿はそれを無責任と思うのか良い気持ちにはならないようだが、私としてはむしろ使命感に燃えていた。実は于禁殿が考えているのはこういうことなのですよ、貴方や貴方の属する集団の利になることをするために心を鬼にしているのですよ、と真意をその耳に吹き込むと、少しずつ周りの態度も変わっていった。柔らかくなった対応を受ける度に于禁殿は戸惑い、『また何か言ったのか』と言いたげな視線を私に寄越すのだが、その度ほくそ笑んで無視していた。彼は残酷なまでに自分にも厳しい人だ。少しでも報われて欲しかったし、その一翼を担えて嬉しかった。
ただこのように、理解できない輩もどうしてもいるわけで。
「李典さん、私達友達ですよね」
「あ、ああ・・・そうだけどよ」
「秘密を守ってくれるって信じています」
櫓の隅には桶が置いてあった。恐らく今回のように水が溜まったときに掻き出すためのものだろう。そこには昨日までの長雨が溜まって青空を反射していた。
桶を両手にもって城壁に引っ掛ける。上からよくよく位置を確認してひっくり返すと、下から不届き者の騒ぐ声が聞こえた。
「やらかしたなおい!」
「何してるんですか!ほら逃げますよ」
顔を青くする李典さんを横目に全力で階段を駆け下りる。兵士達が上に登ってくるまでには時間がかかるはずだ。正義の鉄槌を下した私は勝利に酔って高笑いをしながら走った。
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