罰
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「名前」
「はい」
「この書簡は提出期限が過ぎている。夏侯淵殿から言伝はあったか」
「いえ、特には」
「次からは受け取らぬようにせよ」
「はい」
嘘である。一分の隙もなく答えたつもりなのだが、頭に手を当ててため息を付く于禁殿を見る限りそれもバレているのだろう。
夏侯淵殿から申し出はあった。あったが、于禁殿ではなく私への申し出だ。
于禁殿は基本的に規律の鬼なので、期限を過ぎた書類は担当者に申し開きをさせて直接説教をかまさないと受け取らない。そのため于禁殿が不在のとき、私の方に『何とか都合してもらえまいか』と交渉に来ることが度々あった。まず事情を聞く。大体三回に一回見逃す。可哀想なので、上官の代わりに生贄にされた副官も聞いてあげることが多い。そして見逃す度に私には何らかの罰が与られた。わざと言いつけに背いているのだから仕方のない事だった。
初めのうちは廊下に立たされた。これ幸いとばかりに通りかかる人に話し掛けて情報収集に勤しんだ。何度目かの会話で大いに盛り上がっていた時、いつの間にか背後に雷を背負いながら仁王立ちする于禁殿がいた。その日を境にその手法は止めたようだ。私には効かないと分かったらしい。
兵卒と一緒に訓練に参加させられることもあった。基本的に武器は持たない体力作り、走り込みが主な参加項目だった。幸か不幸か私はマラソンが趣味だった。演習場にランニングシューズとお気に入りのキャップを装着して登場し、兵の先頭を率いて永遠に走り続けると『もう良い』と追い出された。もうちょっと己の限界に挑みたかったんだけどな。
各地方に配る命令書の写しを命じられることもあった。これは中々に大変だった。何せ字がまだ上手く書けないのだから。だが誤るわけにもいかず必死に書くことも苦痛ではなかった。むしろ私の練習のために課題をくれたのではと感謝したくらいだ。山のように積み上げて成果物をニコニコと突き返すと『こいつはもう手遅れ』という顔をしていたのは爽快だった。
私がやらかすのは何も書類の受け取りだけではない。于禁殿の元に来てから罰を受けない月は無かったように思う。しかしえっさほいさと頑張っていると誰かしらが声をかけてくれるものだ、『名前、今度は何をやらかしたんだ?』と。それに応えるのも楽しい日常の一頁だった。無論私に効かない罰が増えていく度に于禁殿は苦しそうにしていたのだが。
意外なことに体罰や、著しく心身を消耗する罰は与えられなかった。私に出来るギリギリを攻めているつもりなのだろうか。しかし私が于禁殿の想定する『一般の女性』と程遠いために、チキンレースの勝者はいつも私だった。
「はい」
「この書簡は提出期限が過ぎている。夏侯淵殿から言伝はあったか」
「いえ、特には」
「次からは受け取らぬようにせよ」
「はい」
嘘である。一分の隙もなく答えたつもりなのだが、頭に手を当ててため息を付く于禁殿を見る限りそれもバレているのだろう。
夏侯淵殿から申し出はあった。あったが、于禁殿ではなく私への申し出だ。
于禁殿は基本的に規律の鬼なので、期限を過ぎた書類は担当者に申し開きをさせて直接説教をかまさないと受け取らない。そのため于禁殿が不在のとき、私の方に『何とか都合してもらえまいか』と交渉に来ることが度々あった。まず事情を聞く。大体三回に一回見逃す。可哀想なので、上官の代わりに生贄にされた副官も聞いてあげることが多い。そして見逃す度に私には何らかの罰が与られた。わざと言いつけに背いているのだから仕方のない事だった。
初めのうちは廊下に立たされた。これ幸いとばかりに通りかかる人に話し掛けて情報収集に勤しんだ。何度目かの会話で大いに盛り上がっていた時、いつの間にか背後に雷を背負いながら仁王立ちする于禁殿がいた。その日を境にその手法は止めたようだ。私には効かないと分かったらしい。
兵卒と一緒に訓練に参加させられることもあった。基本的に武器は持たない体力作り、走り込みが主な参加項目だった。幸か不幸か私はマラソンが趣味だった。演習場にランニングシューズとお気に入りのキャップを装着して登場し、兵の先頭を率いて永遠に走り続けると『もう良い』と追い出された。もうちょっと己の限界に挑みたかったんだけどな。
各地方に配る命令書の写しを命じられることもあった。これは中々に大変だった。何せ字がまだ上手く書けないのだから。だが誤るわけにもいかず必死に書くことも苦痛ではなかった。むしろ私の練習のために課題をくれたのではと感謝したくらいだ。山のように積み上げて成果物をニコニコと突き返すと『こいつはもう手遅れ』という顔をしていたのは爽快だった。
私がやらかすのは何も書類の受け取りだけではない。于禁殿の元に来てから罰を受けない月は無かったように思う。しかしえっさほいさと頑張っていると誰かしらが声をかけてくれるものだ、『名前、今度は何をやらかしたんだ?』と。それに応えるのも楽しい日常の一頁だった。無論私に効かない罰が増えていく度に于禁殿は苦しそうにしていたのだが。
意外なことに体罰や、著しく心身を消耗する罰は与えられなかった。私に出来るギリギリを攻めているつもりなのだろうか。しかし私が于禁殿の想定する『一般の女性』と程遠いために、チキンレースの勝者はいつも私だった。
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