夢幻
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ちょっと待って。ここどこ。さっきまで何をしていたっけ。いつも通りの帰り道、授業を録音したボイスレコーダーを操作しながら信号を渡っていたはずだ。眩い光が右手から見えて、クラクションの音と共にトラックが。あれ?それから私はどうなったんだっけ?
いつの間にか寝転んでいた野原で起き上がる。どこかから煙の香りがした。遠くで雄叫びのような声と地響きが聞こえる中、私の前にはひしゃげたボイスレコーダーと通学に使っているリュックが転がっていた。
(何ここ、天国?)
それにしては生臭い。薄く霧が立ち込めていて遠くまで見渡すことはできないが、綺麗な景色とは言えない。今は夕方か、朝か。冷えた空気が半袖に染みた。
リュックを背負い歩き始めると、何かが足に引っかかって転びかける。見下ろしてみると白いスニーカーに絵の具のようなものがべっとりと付着していた。
「うわ!最悪」
何がついたのかな、取れるかな。指で軽く触れてみると僅かに粘ついている。ペンキ?こんな野原に?
「そこにいるのは何者だ」
低い声が飛んできて振り向くと、霧の中に男が立っていた。青くはためく長い裾に、赤い鎧を身に纏っている。見上げると手には槍のようなものを持っている。その先は三つに分かれていて、ぎらりと不穏に輝いていた。
「答えぬか!」
威嚇するような二発目に肩が跳ねる。何もそんなに怒鳴らなくても。気が短すぎるでしょ。男が近づいてくるので慌てて立ち上がる。
「名前と言います。東京で、大学生をしています。すみませんが、ここってどこですか?」
男は答えない。近くに来てはっとした。見覚えのある顔つき、冠に甲冑。昨日遅くまでプレイしたゲーム。場所は中国、時は昔、三国の争う英雄達の戦争奇譚。彼はその中の一人だった筈だ。
(于禁殿じゃん)
これ夢かな。夢ならもうちょい甘い展開でお願いします。
現実逃避の最中于禁殿に腕を捕まれ上げさせられた。上背が高いため身長差で腱が引き攣る。
「いっ…」
堪らず声を上げても構わずだ。前から後ろから無遠慮に見られて何か思案している。今の私はTシャツに短パンという真夏ど真ん中のキッチュな装いだ。肌寒い空気のこの場所には合わない。
「お前は殿の前に引き出して裁定を受けさせる。東へ歩け」
登山ブランドのリュックを取り上げられて肩に掛けたかと思うと、私の両腕をがっちりと後ろで固定して言った。え、嘘でしょ?まさかこの状態で歩けと?
そのまさかだったようだ。止む方ない私はいつこの夢が終わるのかと思いながらとぼとぼと歩く。後ろで于禁殿が歩くたびにガシャガシャと乾いた音が鳴る。
霧が段々と晴れてきて、景色が広がってきた。地面に飛び散る血飛沫と、人体だったものの部品が転がっている。于禁殿を最初赤だと思ったのも、今自分の腕に触れている湿った感覚も、恐らく返り血によるものだ。
(どうしよう、これが夢じゃなかったら)
天を仰いだ。腕に巻き付く痛みも、お気に入りのスポーツメーカーのスニーカーについた赤い血も、紛れもなく今が現実だと伝えていた。
いつの間にか寝転んでいた野原で起き上がる。どこかから煙の香りがした。遠くで雄叫びのような声と地響きが聞こえる中、私の前にはひしゃげたボイスレコーダーと通学に使っているリュックが転がっていた。
(何ここ、天国?)
それにしては生臭い。薄く霧が立ち込めていて遠くまで見渡すことはできないが、綺麗な景色とは言えない。今は夕方か、朝か。冷えた空気が半袖に染みた。
リュックを背負い歩き始めると、何かが足に引っかかって転びかける。見下ろしてみると白いスニーカーに絵の具のようなものがべっとりと付着していた。
「うわ!最悪」
何がついたのかな、取れるかな。指で軽く触れてみると僅かに粘ついている。ペンキ?こんな野原に?
「そこにいるのは何者だ」
低い声が飛んできて振り向くと、霧の中に男が立っていた。青くはためく長い裾に、赤い鎧を身に纏っている。見上げると手には槍のようなものを持っている。その先は三つに分かれていて、ぎらりと不穏に輝いていた。
「答えぬか!」
威嚇するような二発目に肩が跳ねる。何もそんなに怒鳴らなくても。気が短すぎるでしょ。男が近づいてくるので慌てて立ち上がる。
「名前と言います。東京で、大学生をしています。すみませんが、ここってどこですか?」
男は答えない。近くに来てはっとした。見覚えのある顔つき、冠に甲冑。昨日遅くまでプレイしたゲーム。場所は中国、時は昔、三国の争う英雄達の戦争奇譚。彼はその中の一人だった筈だ。
(于禁殿じゃん)
これ夢かな。夢ならもうちょい甘い展開でお願いします。
現実逃避の最中于禁殿に腕を捕まれ上げさせられた。上背が高いため身長差で腱が引き攣る。
「いっ…」
堪らず声を上げても構わずだ。前から後ろから無遠慮に見られて何か思案している。今の私はTシャツに短パンという真夏ど真ん中のキッチュな装いだ。肌寒い空気のこの場所には合わない。
「お前は殿の前に引き出して裁定を受けさせる。東へ歩け」
登山ブランドのリュックを取り上げられて肩に掛けたかと思うと、私の両腕をがっちりと後ろで固定して言った。え、嘘でしょ?まさかこの状態で歩けと?
そのまさかだったようだ。止む方ない私はいつこの夢が終わるのかと思いながらとぼとぼと歩く。後ろで于禁殿が歩くたびにガシャガシャと乾いた音が鳴る。
霧が段々と晴れてきて、景色が広がってきた。地面に飛び散る血飛沫と、人体だったものの部品が転がっている。于禁殿を最初赤だと思ったのも、今自分の腕に触れている湿った感覚も、恐らく返り血によるものだ。
(どうしよう、これが夢じゃなかったら)
天を仰いだ。腕に巻き付く痛みも、お気に入りのスポーツメーカーのスニーカーについた赤い血も、紛れもなく今が現実だと伝えていた。
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