洋灯
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「ここに油を入れて、芯を通します。先に火をつけると、ほら」
柔らかい火が点って曹操殿が関心したような声を上げました。数日前から名前殿が陶器の職人に何か頼んでいることは風の噂で耳にしていましたが、実物が持ち込まれたときには皆それを急須だと思ったのです。
「これは何と言う道具なのだ」
「洋灯と呼んでいます」
褒めそやさられて頬を赤くする貴方は俯きました。
「油に直接火がつかないので安全ですし、蝋は貴重でしょう。これなら使いやすいかと思います」
夜分まで作業する将の部屋に少しずつ洋灯は広まっていきました。単なる利便性だけではなく、曹操殿はその形の美しさにも虜になったようでした。職人に専用の工芸品を作らせ、繊細な模様を描いたものまで作らせていました。
「洋灯を擦ると、願いを叶えてくれる魔人が出てくるのよ」
「やってみる!」
「いいけど、気をつけてね」
曹操殿のご子息を貴方が世話しているのを、俺は扉の裏から聞いていました。殿に用事があって来たはずが、子供との話し中に割り込んでいいか躊躇いがあったのです。
次の瞬間何かが割れるような音がして、嫌な予感が的中したことを悟りました。部屋を覗くと顔を青くする子供と、屈んで割れた洋灯を手にしようとしている名前殿の姿がありました。
「父上に怒られてしまう」
小さく呟くその背に同情しました。殿の執務室で前回もやんちゃをやらかして、次は無いと厳命を受けたと聞いていたからです。服を両手で握りしめ、臣下の前で泣くまいとする姿はいじらしく思えましたが、どうすることもできないのです。貴方は気まずげに苦笑いを浮かべていました。
「見られてしまいましたか。面目無い」
そして最悪の瞬間に部屋の主が帰ってきました。
「何事だ」
ご子息が肩を震わせました。それを慰めるように撫でたあと、貴方は跪いて宣言しました。
「申し訳ありません、曹操様のランプを割ってしまいました。この罰は如何様にも」
地面に広がる油と陶器の破片、息を呑むご子息に、殿も状況を把握したことでしょう。名前殿の忠心を以てこの事件は無かったこととなり、闇に葬られました。先を行く貴方を廊下で呼び止めると、今度は花が綻ぶような笑みが咲きました。
「荀攸殿、黙っていて下さってありがとうございました」
「いえ。そんなことは。しかし貴方が罪を被っては、彼のためにもなりますまい」
「そうですよね、ごめんなさい」
謝らせたかったわけではないのに。貴方は時々場当たり的な謝罪を口にする癖がありますよね。
「後先考えず行動してしまう、私の悪い癖です」
殿に拱手するその手が、震えていたのを思い出しました。名前殿がおもねってばかりいるのは、人の不興を買うことを何よりも恐れているからなのでしょう。国一番の権力者である曹操殿に嘘の罪を告白するのに、どれ程勇気が要ったのでしょうか。そんなことには一言も触れず己を悪役にする姿を受けて、俺の心臓には僅かな痛みが走ったのです。
柔らかい火が点って曹操殿が関心したような声を上げました。数日前から名前殿が陶器の職人に何か頼んでいることは風の噂で耳にしていましたが、実物が持ち込まれたときには皆それを急須だと思ったのです。
「これは何と言う道具なのだ」
「洋灯と呼んでいます」
褒めそやさられて頬を赤くする貴方は俯きました。
「油に直接火がつかないので安全ですし、蝋は貴重でしょう。これなら使いやすいかと思います」
夜分まで作業する将の部屋に少しずつ洋灯は広まっていきました。単なる利便性だけではなく、曹操殿はその形の美しさにも虜になったようでした。職人に専用の工芸品を作らせ、繊細な模様を描いたものまで作らせていました。
「洋灯を擦ると、願いを叶えてくれる魔人が出てくるのよ」
「やってみる!」
「いいけど、気をつけてね」
曹操殿のご子息を貴方が世話しているのを、俺は扉の裏から聞いていました。殿に用事があって来たはずが、子供との話し中に割り込んでいいか躊躇いがあったのです。
次の瞬間何かが割れるような音がして、嫌な予感が的中したことを悟りました。部屋を覗くと顔を青くする子供と、屈んで割れた洋灯を手にしようとしている名前殿の姿がありました。
「父上に怒られてしまう」
小さく呟くその背に同情しました。殿の執務室で前回もやんちゃをやらかして、次は無いと厳命を受けたと聞いていたからです。服を両手で握りしめ、臣下の前で泣くまいとする姿はいじらしく思えましたが、どうすることもできないのです。貴方は気まずげに苦笑いを浮かべていました。
「見られてしまいましたか。面目無い」
そして最悪の瞬間に部屋の主が帰ってきました。
「何事だ」
ご子息が肩を震わせました。それを慰めるように撫でたあと、貴方は跪いて宣言しました。
「申し訳ありません、曹操様のランプを割ってしまいました。この罰は如何様にも」
地面に広がる油と陶器の破片、息を呑むご子息に、殿も状況を把握したことでしょう。名前殿の忠心を以てこの事件は無かったこととなり、闇に葬られました。先を行く貴方を廊下で呼び止めると、今度は花が綻ぶような笑みが咲きました。
「荀攸殿、黙っていて下さってありがとうございました」
「いえ。そんなことは。しかし貴方が罪を被っては、彼のためにもなりますまい」
「そうですよね、ごめんなさい」
謝らせたかったわけではないのに。貴方は時々場当たり的な謝罪を口にする癖がありますよね。
「後先考えず行動してしまう、私の悪い癖です」
殿に拱手するその手が、震えていたのを思い出しました。名前殿がおもねってばかりいるのは、人の不興を買うことを何よりも恐れているからなのでしょう。国一番の権力者である曹操殿に嘘の罪を告白するのに、どれ程勇気が要ったのでしょうか。そんなことには一言も触れず己を悪役にする姿を受けて、俺の心臓には僅かな痛みが走ったのです。
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