絨毯
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何処からか泡が飛んできて肩で弾けました。子供の笑い声。水を扱っている音も。文官の集う宿舎で何があるのかと思い足を向けてみると、外には絨毯を広げている貴方の姿がありました。煤けた絨毯に水と洗浄剤を広げ、刷毛で擦る貴方の周りでは、水を手で掛け合う者や、出て来た泡を手に取って眺める者。兎角城で稀に見る子供が一同に介して侍っていました。
「荀攸殿。こんにちは」
挨拶する名前殿に、俺は目を逸らしました。それが作法だと思いました。貴方は濡れても問題ないようにか、腕と膝下を日の元に曝け出していたからです。その白さは俺には目の毒でした。
「お騒がせしております」
「これは一体・・・何をされているのですか?」
「絨毯を掃除しているんです。曹操様から頂いたものなんですが、汚れてしまったので」
西方から来る一群から曹操殿が物珍しい品々を購入していることは知っていました。生憎俺はあまり興味が無く、市場に出向いたことはありませんが。女性は光り物や化粧品を購入すると聞いていましたから、大方共に商人を迎え、褒美に下賜されたのだろうと予想がつきました。成程広げられた毛織物は、汚れはあるものの元は豪奢な柄が織り込まれていることが見て取れました。
「外で洗っていたら、はは。子供達が集まってきてしまって。それでこんなことに」
貴方が子供好きであることは風の噂で聞いていました。執務室の前を通ると小さな背格好が入り込む姿をよく目にしましたし、時にお伽噺を聞かせる会を開いているときには、廊下まで声が響いていました。城の庭で追いかけっこをしているのも既にお馴染みのものとなっています。貴方はそのせいでよく叱られているようでしたが、どうにも止められないのが性、といったところなのでしょうか。
「名前ちゃん、刷毛使っていい?」
「いいよ、優しく擦って汚れを落としてね」
「泡投げていい?!」
「だめ!目に入ったら危ないから」
口々に声を掛けられ面倒を見る貴方は、大変そうでありながら楽しそうでした。日の光に透けて泡が輝き、服を濡らしながら遊ぶ子供。甲高い声が青い空に響きました。
「濡れた服を見られては子供達の親に怒られるのでは無いでしょうか」
「う・・・そうですよね。駄目だとは分かっていたんですが、いつの間にか皆びしょ濡れになっていて」
「失敬。責めているわけではありません」
「いいえ、私が考え無しでした」
「いえいえ」
「いえいえ」
謝罪合戦になったところ、俺の服に子供の投げた泡が命中しました。ただでさえ色を失っていた顔を更に青くして、名前殿は慌てて頭を下げました。
「申し訳ありません!今拭くものを」
俺が止めようとしたときにはもう遅い。絨毯の上を走ろうとして、派手に滑って転びました。大の大人が大きな絨毯の上に大の字で突っ伏し、周囲から大きな笑い声が上がりました。ついに体中濡れてしまった名前殿の体に、同じく濡れた体の子供達がまとわりついて、辺りは混戦になりました。
「もう!皆!やめなさい!」
そう言いながら貴方も笑っていたのです。
血の舞う戦場を駆け抜ける日々、しのぎを削る他国との政治。緊張した毎日を過ごす俺の、どれだけ癒やしになっていたことか。流れる泡と青々とした絨毯は、洗われた俺の心そのもののように感じられたのです。
「荀攸殿。こんにちは」
挨拶する名前殿に、俺は目を逸らしました。それが作法だと思いました。貴方は濡れても問題ないようにか、腕と膝下を日の元に曝け出していたからです。その白さは俺には目の毒でした。
「お騒がせしております」
「これは一体・・・何をされているのですか?」
「絨毯を掃除しているんです。曹操様から頂いたものなんですが、汚れてしまったので」
西方から来る一群から曹操殿が物珍しい品々を購入していることは知っていました。生憎俺はあまり興味が無く、市場に出向いたことはありませんが。女性は光り物や化粧品を購入すると聞いていましたから、大方共に商人を迎え、褒美に下賜されたのだろうと予想がつきました。成程広げられた毛織物は、汚れはあるものの元は豪奢な柄が織り込まれていることが見て取れました。
「外で洗っていたら、はは。子供達が集まってきてしまって。それでこんなことに」
貴方が子供好きであることは風の噂で聞いていました。執務室の前を通ると小さな背格好が入り込む姿をよく目にしましたし、時にお伽噺を聞かせる会を開いているときには、廊下まで声が響いていました。城の庭で追いかけっこをしているのも既にお馴染みのものとなっています。貴方はそのせいでよく叱られているようでしたが、どうにも止められないのが性、といったところなのでしょうか。
「名前ちゃん、刷毛使っていい?」
「いいよ、優しく擦って汚れを落としてね」
「泡投げていい?!」
「だめ!目に入ったら危ないから」
口々に声を掛けられ面倒を見る貴方は、大変そうでありながら楽しそうでした。日の光に透けて泡が輝き、服を濡らしながら遊ぶ子供。甲高い声が青い空に響きました。
「濡れた服を見られては子供達の親に怒られるのでは無いでしょうか」
「う・・・そうですよね。駄目だとは分かっていたんですが、いつの間にか皆びしょ濡れになっていて」
「失敬。責めているわけではありません」
「いいえ、私が考え無しでした」
「いえいえ」
「いえいえ」
謝罪合戦になったところ、俺の服に子供の投げた泡が命中しました。ただでさえ色を失っていた顔を更に青くして、名前殿は慌てて頭を下げました。
「申し訳ありません!今拭くものを」
俺が止めようとしたときにはもう遅い。絨毯の上を走ろうとして、派手に滑って転びました。大の大人が大きな絨毯の上に大の字で突っ伏し、周囲から大きな笑い声が上がりました。ついに体中濡れてしまった名前殿の体に、同じく濡れた体の子供達がまとわりついて、辺りは混戦になりました。
「もう!皆!やめなさい!」
そう言いながら貴方も笑っていたのです。
血の舞う戦場を駆け抜ける日々、しのぎを削る他国との政治。緊張した毎日を過ごす俺の、どれだけ癒やしになっていたことか。流れる泡と青々とした絨毯は、洗われた俺の心そのもののように感じられたのです。
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