月の光
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
馬鹿だった。やらかした。
郷に入りては郷に従えと言うがあんまりだ。天幕の並ぶ横をよろけながら通り抜ける。負傷者が担架で運ばれたり、小走りで兵士達が移動したりと忙しい。戦時の慌ただしい中、私に目を向ける人なんていない。自分の天幕の布を開きかけたところで、後ろから誰かが肩を叩いた。
「名前!陣形が変化した。次に取る動きなんだ・・・けど・・・・・・・・・」
徐庶だ。私を見るなり、語尾が窄まっていく。みるみるうちに暗雲が立ち込めて、その表情が曇った。
「その顔、誰にやられたんだ」
聞いたことのない声色に苦笑すると、左頬にひりつく痛みが生じた。そろそろ腫れて赤くなってくる頃だろう。
軍規に従わない兵士を見つけて、声を掛けた。ただ少し改めて欲しい気持ちだった。今になって振り返れば、優遇されている立場で私は驕っていたのだと思う。身なりに気を遣う余裕もなく、身分に相応しい服を着ていなかった。それなりに顔を知られている自覚はあったのだが、彼らの場合はそうではなかったらしい。
生意気な女と受け取られ、返ってきたのは嘲笑だった。思いは通じると信じて、二三重ねて注意した。まさか火種を生むとは思わなかったからだ。返答の代わりに飛んできたのは拳だった。
まさか自軍でこんな扱いを受けるとは思わず、地べたに這いつくばって呆然とした。劉備の軍は、仁君に仕えているだけあって、他の軍よりも善性が高いことが特徴だ。軍の中でも浮いていた一団は、新参の元ならず者だったらしい。
兎にも角にも目の前の男をどうしてくれようか。背後に揺蕩う闇を背負うように、どんどん顔つきが悪くなっていく。
「君が劉備殿のために日夜どれだけ尽くしているか知っていたら、こんなことはできないだろう。とんだ愚か者がいたんだな。可哀想に」
そろ、と手が頬に添えられた。痛くて肩を跳ねさせてしまう。それを見てまた悲しそうに『すまない』と徐庶は手を下げた。
「許せないよ。どこの誰だい?所属は?どんな風体だった?」
「そこまでしなくていいよ。心配掛けてごめんね」
「そういうわけにはいかないよ。俺が処理するから、教えてくれ」
「ありがとう。でも本当に大丈夫」
「君をこんな目に遭わせたことを後悔させ」
「徐庶」
どろどろと渦巻く怨念を断ち切るように言う。
「私は『いい』って言ってるの。こうなったのも、私の責任だから」
徐庶ははっとするようにこちらを見た。彼の目の中の淀みはその瞬間に引いていった。
郷に入りては郷に従えと言うがあんまりだ。天幕の並ぶ横をよろけながら通り抜ける。負傷者が担架で運ばれたり、小走りで兵士達が移動したりと忙しい。戦時の慌ただしい中、私に目を向ける人なんていない。自分の天幕の布を開きかけたところで、後ろから誰かが肩を叩いた。
「名前!陣形が変化した。次に取る動きなんだ・・・けど・・・・・・・・・」
徐庶だ。私を見るなり、語尾が窄まっていく。みるみるうちに暗雲が立ち込めて、その表情が曇った。
「その顔、誰にやられたんだ」
聞いたことのない声色に苦笑すると、左頬にひりつく痛みが生じた。そろそろ腫れて赤くなってくる頃だろう。
軍規に従わない兵士を見つけて、声を掛けた。ただ少し改めて欲しい気持ちだった。今になって振り返れば、優遇されている立場で私は驕っていたのだと思う。身なりに気を遣う余裕もなく、身分に相応しい服を着ていなかった。それなりに顔を知られている自覚はあったのだが、彼らの場合はそうではなかったらしい。
生意気な女と受け取られ、返ってきたのは嘲笑だった。思いは通じると信じて、二三重ねて注意した。まさか火種を生むとは思わなかったからだ。返答の代わりに飛んできたのは拳だった。
まさか自軍でこんな扱いを受けるとは思わず、地べたに這いつくばって呆然とした。劉備の軍は、仁君に仕えているだけあって、他の軍よりも善性が高いことが特徴だ。軍の中でも浮いていた一団は、新参の元ならず者だったらしい。
兎にも角にも目の前の男をどうしてくれようか。背後に揺蕩う闇を背負うように、どんどん顔つきが悪くなっていく。
「君が劉備殿のために日夜どれだけ尽くしているか知っていたら、こんなことはできないだろう。とんだ愚か者がいたんだな。可哀想に」
そろ、と手が頬に添えられた。痛くて肩を跳ねさせてしまう。それを見てまた悲しそうに『すまない』と徐庶は手を下げた。
「許せないよ。どこの誰だい?所属は?どんな風体だった?」
「そこまでしなくていいよ。心配掛けてごめんね」
「そういうわけにはいかないよ。俺が処理するから、教えてくれ」
「ありがとう。でも本当に大丈夫」
「君をこんな目に遭わせたことを後悔させ」
「徐庶」
どろどろと渦巻く怨念を断ち切るように言う。
「私は『いい』って言ってるの。こうなったのも、私の責任だから」
徐庶ははっとするようにこちらを見た。彼の目の中の淀みはその瞬間に引いていった。
1/2ページ