机上の空論
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「おめぇよお、それで男の気を引く気があんのかよ」
「ないですね」
酒臭い張飛の追撃を躱しながら名前は溜め息をついた。お局よろしく劉備軍で目立つ役職の中で未婚の女は名前だけで、酒宴の度に揶揄われるのが常だった。もう幾度も繰り返され襤褸雑巾のようになった話題に耳が疲れる。皆が皆酔って楽しむこの場は好きだったが、この恋愛話のときだけは気持ちが憂鬱だった。
「うむ。婚姻して家に入ってこそ女人の幸福というものであろう」
関羽が髭を撫でながら加わる。いつもは一本気で男らしく心から尊敬できる関羽だが、この時ばかりは敵だった。日頃働く中で感じる部分は大きくないが、男としての彼らは女性を物として扱う面があった。
「止めよ。名前が嫌がっているぞ」
いでよ仁君。劉備は大正義。一生着いていきます。
「しかし、何時までも独り身というわけにもいくまい。誰ぞ心当たりのある男はいないのか?」
名前が再度心中で忠誠を誓った瞬間その旗が翻った。この話題になったとき名前に味方はいないのである。
男は外で働き、女は家を守る、家父長制の社会で令和の女である名前は浮いていた。毎度の如く男を作れ結婚せよと言われていい加減うんざりしていた。今日こそこの流れを断ち切るぞと名前は酒を揺らしながら意気込んでいた。
「いないですね」
「まさか嫁入りする気がねえのか?」
「条件が完璧に合う男性がいたら考えます」
「おう、何だよ!言ってみろ!この張翼徳様が探してやらあ!」
名前が勢い良く立ち上がり、諸将がやいのやいのと騒ぎ立てた。
「まず、寒門の出であること」
聴衆が拍子抜けした。
「名誉ある男に嫁いでこそ婦人の徳も上がるというものではないのか」
「妻としての役割が重そうなので嫌ですね」
唖然とする周囲をそっちのけに二つ目!と喉を張る。
「天涯孤独であること」
「な、なぜそれが望ましい条件になるのだ」
「核家族化が進んでいましてね、広すぎる交友関係は面倒です。親に尽くすという考え方も理解できません」
三、家事と育児を分担すること
四、記念日は早めに帰宅し共に祝うこと
五、偶に化粧品や装飾品の贈り物をくれること
六、名前以外の妻を持たず浮気をしないこと
七、身分の上下関係なく万民に優しいこと
八、九、十、…
積み重なっていく毎に皆が頭を抱えた。名前はかつてないほどシナプスを燃やして並べられるだけの条件を述べていった。
「私のいたところではね、女が独り身でいても何の問題もないんです。治安が良いから武力が必要ない。自分でお金も稼げるから男手も必要ない。困ることは一切ありません。好きなものを買って食べて遊んで幸せに生きていけるし私はそうしたいんです。だからもうこの話は終わり!金輪際無し!条件に合う殿方が見つからない限り私は一生結婚しません。劉備殿に誓います、さあこれでいいですか」
名前が劉備に杯を掲げて飲み干すと、やれ早まるなだとかやれ後悔するぞだとか方々から野次が飛ぶ。あちこちから服が引っ張られてもみくちゃになった。次第に誰彼構わず揉み合い圧し合い理由もなく乱闘騒ぎになった。そうこれこれ。宴会のここが好きなのよ。乱痴気になる集団をこっそり抜け出して名前はほくそ笑んでいた。
「ないですね」
酒臭い張飛の追撃を躱しながら名前は溜め息をついた。お局よろしく劉備軍で目立つ役職の中で未婚の女は名前だけで、酒宴の度に揶揄われるのが常だった。もう幾度も繰り返され襤褸雑巾のようになった話題に耳が疲れる。皆が皆酔って楽しむこの場は好きだったが、この恋愛話のときだけは気持ちが憂鬱だった。
「うむ。婚姻して家に入ってこそ女人の幸福というものであろう」
関羽が髭を撫でながら加わる。いつもは一本気で男らしく心から尊敬できる関羽だが、この時ばかりは敵だった。日頃働く中で感じる部分は大きくないが、男としての彼らは女性を物として扱う面があった。
「止めよ。名前が嫌がっているぞ」
いでよ仁君。劉備は大正義。一生着いていきます。
「しかし、何時までも独り身というわけにもいくまい。誰ぞ心当たりのある男はいないのか?」
名前が再度心中で忠誠を誓った瞬間その旗が翻った。この話題になったとき名前に味方はいないのである。
男は外で働き、女は家を守る、家父長制の社会で令和の女である名前は浮いていた。毎度の如く男を作れ結婚せよと言われていい加減うんざりしていた。今日こそこの流れを断ち切るぞと名前は酒を揺らしながら意気込んでいた。
「いないですね」
「まさか嫁入りする気がねえのか?」
「条件が完璧に合う男性がいたら考えます」
「おう、何だよ!言ってみろ!この張翼徳様が探してやらあ!」
名前が勢い良く立ち上がり、諸将がやいのやいのと騒ぎ立てた。
「まず、寒門の出であること」
聴衆が拍子抜けした。
「名誉ある男に嫁いでこそ婦人の徳も上がるというものではないのか」
「妻としての役割が重そうなので嫌ですね」
唖然とする周囲をそっちのけに二つ目!と喉を張る。
「天涯孤独であること」
「な、なぜそれが望ましい条件になるのだ」
「核家族化が進んでいましてね、広すぎる交友関係は面倒です。親に尽くすという考え方も理解できません」
三、家事と育児を分担すること
四、記念日は早めに帰宅し共に祝うこと
五、偶に化粧品や装飾品の贈り物をくれること
六、名前以外の妻を持たず浮気をしないこと
七、身分の上下関係なく万民に優しいこと
八、九、十、…
積み重なっていく毎に皆が頭を抱えた。名前はかつてないほどシナプスを燃やして並べられるだけの条件を述べていった。
「私のいたところではね、女が独り身でいても何の問題もないんです。治安が良いから武力が必要ない。自分でお金も稼げるから男手も必要ない。困ることは一切ありません。好きなものを買って食べて遊んで幸せに生きていけるし私はそうしたいんです。だからもうこの話は終わり!金輪際無し!条件に合う殿方が見つからない限り私は一生結婚しません。劉備殿に誓います、さあこれでいいですか」
名前が劉備に杯を掲げて飲み干すと、やれ早まるなだとかやれ後悔するぞだとか方々から野次が飛ぶ。あちこちから服が引っ張られてもみくちゃになった。次第に誰彼構わず揉み合い圧し合い理由もなく乱闘騒ぎになった。そうこれこれ。宴会のここが好きなのよ。乱痴気になる集団をこっそり抜け出して名前はほくそ笑んでいた。
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