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小学校時代、私は友達と呼べる人は1人も居なかった。小さい頃から両親には勉強だけをしていれば良いと言い聞かされて来た。勉強を沢山して、いい高校、いい大学に入って、一流企業に就職する。それが1番の幸せだと。私はそれを信じて疑わなかった。だから、学校が終われば直ぐに家に帰って勉強。高学年になれば塾へ通う為に寄り道なんてしなかった。同級生達が「帰ったら、あの公園に集合ねー!」と言い合っているのを羨ましく見ていたのを覚えている。そんな風に過ごしていたせいで、人との接し方、コミニュケーションの取り方が分からなくなってしまった。最初は仲良い子も何人か居た。
でも、段々と離れて行った。
「咲也香ちゃんと居てもつまんない」とお馴染みのセリフ付きで。
喜怒哀楽の感情はもちろんある。でも、それが表情に出にくい。そのせいで付けられたあだ名は「能面」だった。嫌だと思った。でも、仕方のない事だとも思った。上手く表現出来ない自分のせいだ。
能面とあだ名が付いた日を境に私の周りには誰も居なくなった。それは、きっと、中学校へ行っても変わらない。
私は、中学校は地元の学校へ入学した。中学受験を両親から勧められたが、中学は地元が良いと頑なに断った。別に仲良い子がいた訳でもなかったけれど、全部両親の言いなりにはなりたくない。だから、中学受験をしないというのが私の精一杯の抵抗だったのだと思う。何度も何度も説得されたけど、それだけは譲らなかった。多分、少しでも良いからみんなと同じように過ごしたかったのかもしれない。
入学式、当日。昇降口に貼られているクラス表を見て、自分のクラスを確認する。同じクラスだねとはしゃぐ生徒たちの横をすり抜けて、真っ直ぐに自分の教室へと向かった。教室に入り、黒板に貼られている座席表を見て、自分の名前を確認して席に向かうと私の席に既に人が座っていた。
もう一度、座席表を確認するがそこで間違いない。
私の席の隣は金髪で上だけを残し、後は刈り上げていて、残した部分は縛っている。そして、物凄い柄シャツ。私の席に座っているのは、黒髪で三つ編みをしているぽっちゃりした人。今は、このトップだけを残して縛るという髪型が流行っているのだろうか。
それにしても、この2人は目付きが凄く悪い。見た目的に不良ってやつだろうか。少し怖い。でも、座りたい。その2つの感情に揺られながらも勇気を振り絞って彼らの元へ行き、声を掛けた。
「あの、退いて貰って良いですか?」
「あ?」
2人から同時に睨まれ、ビクッと震える。すると、周りから「能面のヤツ、W林に喧嘩売ってるぞ」「バカだろ」などと聞こえて来た。
ダブリンとは何でしょうか…。それにしても、本当に怖い。迫力が凄い。怖くて動けずにその場に立ち尽くしていた。すると、後ろから「何やってんの?」と声を掛けられ、振り向くと今度は銀髪の人が立っていた。中学校ってこんなに不良が沢山いるんだ。銀髪なんて初めて見た。世界って広いな…。と感動していれば、彼は「何でずっと立ってんの?」と言った。
「そこ、私の席なんですけど」
「あ、悪ぃ」
黒髪の彼は謝罪を述べ、スっと退いてくれた。そして、私の前の席に座り直すと、今度は銀髪さんが「そこはオレの席」と言った。
「オレ、どこに座りゃいーんだよ」
「自分の席座れよ」
「オレの席ってどこだ?」
「黒板の座席表見て来いよ」
黒髪さんは黒板の方へ向かって行くのを見ていると「座んねぇの?」と言われたので、慌てて自分の席についた。銀髪さんは自分の席に座ってから振り返った。
「キミ、泉 咲也香さん?」
「そうですけど…。何で名前を?」
「座席表見たから」
「あ、なるほど…」
「で、林良平に林田春樹。ここらじゃ有名なW林ってオマエらの事だろ?」
金髪さんと戻ってきた黒髪さんにそう言った。
どっちがどっちだろう…。
「オマエ、名前は?」
「三ツ谷 隆」
「三ツ谷…、双龍の片割れか」
「え、何。オレそう呼ばれてんの?」
「オマエも有名だぜ?ドラケンと三ツ谷で双龍ってな」
W林に双龍。かっこいいコンビ名があるんだ。凄いなぁ。
ボーッと3人のやり取りを聞いていた。会話が飛び交う中で、もう既に3人は打ち解けて冗談を言い合うようになり、パーちん、ぺーやん、三ツ谷と呼び合うようになっていた。
あだ名まであるんだ。いいなぁ。ぱーちんとかぺーやんって可愛いあだ名があって。私なんて能面だし…。3人のコミニュケーション能力の高さに驚いた。こうやって、みんなは友達を作るんだね。簡単に出来て羨ましい。
「泉さんは?」
「え?」
「何かあだ名はとかないの?」
「えっと…能面です」
そう答えれば、林さんは大爆笑していた。林田さんは「能面ってなんだ?」と首を傾げていて三ツ谷さんは「何で能面なの?」と聞いた。
「私、表情が変わらないので」
「あ、笑っちまって悪ぃ。そう言う意味だったのか」
「いえ、大丈夫です」
罰が悪そうにそう言ってくれる林さんはいい人なのだろうと思った。
「楽しいとかって思ったりはしてんだよね?」
「はい。それは感じます。表現が上手く出来ないだけで、本当は今も皆さんとお話出来て嬉しいと思ってます」
「うーん、泉さん、笑ってみて」
「え?」
「ほら、こう口角をキュってあげてみて」
三ツ谷さんに言われた通りに口角をキュっとあげると、真っ先に林さんは「怖っ…」と顔を引きつらせてそう言った。私の笑顔って怖いのか。地味にショックだ。後で鏡で確認してみよう。
「全く表現出来ねぇとかあんのか?」
「オレはすぐ顔に出ちまう」
「オマエら単純そうだもんな」
「どういう意味だ、コラ!」
「そのままの意味だろーが」
不良同士の言い合いは迫力あるなぁ。そして、笑ったり怒ったり、コロコロ表情が変わる3人を眺めていた。
「で、全く表現出来ねぇ訳じゃねーんだろ?」
「よく、分からないんです。私、楽しいと思った時、自分では笑っているつもりでした。でも、周りはそうは見えないみたいで、いつも同じ顔でつまんないと言われて来ました」
「少しずつ練習していけば良いんじゃねぇの?」
「練習…ですか?」
「最初は上手くいかなくてもそのうち上手く表現出来るようになるって!オレらが協力するし」
「オレらって、三ツ谷、オマエまさか…」
「パーちんとぺーやんも強制な」
「はぁ!?オレらもかよ!?」
「オレはバカだから良くわかんねぇけど、どっちでも良いぞ」
「よし、決まりな」
あれよあれよという間に勝手に事が進んでいく。当の本人は置いてけぼりだ。でも、そう言って貰えたのは初めてだから、少し嬉しい。
「こういう時ってありがとうって言えば良いのでしょうか」
「うん、それで良いと思うよ」
「三ツ谷さん、林さん、林田さん、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げれば、頭上から笑い声が聞こえた。何だろうと顔を上げれば、「堅すぎ」と笑われていた。何年ぶりだろうか、自分の周りで笑い声が聞こえるのは。笑い声というものはこんなにも心地良かったのだと初めて知った。
「オレら同い年なんだし、三ツ谷でいいよ。こっちは、パーちん、ぺーやん」
「パーちん、ぺーやん、三ツ谷…くん」
「何でオレだけ?」
「何となく失礼かと…」
「何だそりゃ。ま、慣れるまでそれでいーわ」
「は、はい!頑張ります!」
「敬語もナシな」
「敬語もですか?」
「何か他人みてぇじゃん?折角、オレらダチになったんだし」
「友達…!!」
嬉しさのあまり、いつもより声を大きくしてしまい、少し恥ずかしくなる。でも、友達って初めて言って貰えた。凄く嬉しい…。
「全然、能面じゃねぇじゃん」
「はい?今何か言いました?」
「いや、何でもない」
「そうですか?」
友達…、初めての友達。少しだけ怖かった中学生活も楽しくなりそうな予感がして来た。
「そんな深く考えずに自然体で居れば良いと思うよ」
「自然体ですか…?そうしたら、能面治らないのでは?」
「オレがちゃんと見てるから」
「えっ…?」
「泉さんの小さな変化にすぐ気づけるようにちゃんと見てる。これからは、能面なんて呼ばせねぇよ」
「クッセーー!三ツ谷ぁ!オマエそんな事言うタイプかよ」
「今のはクセェな」
「テメェら茶化してんじゃねぇよ!!」
3人が言い合いを始めたのを面白いと思いながら、見ていた。
中学1年生の春、初めての友達が出来ました。
でも、段々と離れて行った。
「咲也香ちゃんと居てもつまんない」とお馴染みのセリフ付きで。
喜怒哀楽の感情はもちろんある。でも、それが表情に出にくい。そのせいで付けられたあだ名は「能面」だった。嫌だと思った。でも、仕方のない事だとも思った。上手く表現出来ない自分のせいだ。
能面とあだ名が付いた日を境に私の周りには誰も居なくなった。それは、きっと、中学校へ行っても変わらない。
私は、中学校は地元の学校へ入学した。中学受験を両親から勧められたが、中学は地元が良いと頑なに断った。別に仲良い子がいた訳でもなかったけれど、全部両親の言いなりにはなりたくない。だから、中学受験をしないというのが私の精一杯の抵抗だったのだと思う。何度も何度も説得されたけど、それだけは譲らなかった。多分、少しでも良いからみんなと同じように過ごしたかったのかもしれない。
入学式、当日。昇降口に貼られているクラス表を見て、自分のクラスを確認する。同じクラスだねとはしゃぐ生徒たちの横をすり抜けて、真っ直ぐに自分の教室へと向かった。教室に入り、黒板に貼られている座席表を見て、自分の名前を確認して席に向かうと私の席に既に人が座っていた。
もう一度、座席表を確認するがそこで間違いない。
私の席の隣は金髪で上だけを残し、後は刈り上げていて、残した部分は縛っている。そして、物凄い柄シャツ。私の席に座っているのは、黒髪で三つ編みをしているぽっちゃりした人。今は、このトップだけを残して縛るという髪型が流行っているのだろうか。
それにしても、この2人は目付きが凄く悪い。見た目的に不良ってやつだろうか。少し怖い。でも、座りたい。その2つの感情に揺られながらも勇気を振り絞って彼らの元へ行き、声を掛けた。
「あの、退いて貰って良いですか?」
「あ?」
2人から同時に睨まれ、ビクッと震える。すると、周りから「能面のヤツ、W林に喧嘩売ってるぞ」「バカだろ」などと聞こえて来た。
ダブリンとは何でしょうか…。それにしても、本当に怖い。迫力が凄い。怖くて動けずにその場に立ち尽くしていた。すると、後ろから「何やってんの?」と声を掛けられ、振り向くと今度は銀髪の人が立っていた。中学校ってこんなに不良が沢山いるんだ。銀髪なんて初めて見た。世界って広いな…。と感動していれば、彼は「何でずっと立ってんの?」と言った。
「そこ、私の席なんですけど」
「あ、悪ぃ」
黒髪の彼は謝罪を述べ、スっと退いてくれた。そして、私の前の席に座り直すと、今度は銀髪さんが「そこはオレの席」と言った。
「オレ、どこに座りゃいーんだよ」
「自分の席座れよ」
「オレの席ってどこだ?」
「黒板の座席表見て来いよ」
黒髪さんは黒板の方へ向かって行くのを見ていると「座んねぇの?」と言われたので、慌てて自分の席についた。銀髪さんは自分の席に座ってから振り返った。
「キミ、泉 咲也香さん?」
「そうですけど…。何で名前を?」
「座席表見たから」
「あ、なるほど…」
「で、林良平に林田春樹。ここらじゃ有名なW林ってオマエらの事だろ?」
金髪さんと戻ってきた黒髪さんにそう言った。
どっちがどっちだろう…。
「オマエ、名前は?」
「三ツ谷 隆」
「三ツ谷…、双龍の片割れか」
「え、何。オレそう呼ばれてんの?」
「オマエも有名だぜ?ドラケンと三ツ谷で双龍ってな」
W林に双龍。かっこいいコンビ名があるんだ。凄いなぁ。
ボーッと3人のやり取りを聞いていた。会話が飛び交う中で、もう既に3人は打ち解けて冗談を言い合うようになり、パーちん、ぺーやん、三ツ谷と呼び合うようになっていた。
あだ名まであるんだ。いいなぁ。ぱーちんとかぺーやんって可愛いあだ名があって。私なんて能面だし…。3人のコミニュケーション能力の高さに驚いた。こうやって、みんなは友達を作るんだね。簡単に出来て羨ましい。
「泉さんは?」
「え?」
「何かあだ名はとかないの?」
「えっと…能面です」
そう答えれば、林さんは大爆笑していた。林田さんは「能面ってなんだ?」と首を傾げていて三ツ谷さんは「何で能面なの?」と聞いた。
「私、表情が変わらないので」
「あ、笑っちまって悪ぃ。そう言う意味だったのか」
「いえ、大丈夫です」
罰が悪そうにそう言ってくれる林さんはいい人なのだろうと思った。
「楽しいとかって思ったりはしてんだよね?」
「はい。それは感じます。表現が上手く出来ないだけで、本当は今も皆さんとお話出来て嬉しいと思ってます」
「うーん、泉さん、笑ってみて」
「え?」
「ほら、こう口角をキュってあげてみて」
三ツ谷さんに言われた通りに口角をキュっとあげると、真っ先に林さんは「怖っ…」と顔を引きつらせてそう言った。私の笑顔って怖いのか。地味にショックだ。後で鏡で確認してみよう。
「全く表現出来ねぇとかあんのか?」
「オレはすぐ顔に出ちまう」
「オマエら単純そうだもんな」
「どういう意味だ、コラ!」
「そのままの意味だろーが」
不良同士の言い合いは迫力あるなぁ。そして、笑ったり怒ったり、コロコロ表情が変わる3人を眺めていた。
「で、全く表現出来ねぇ訳じゃねーんだろ?」
「よく、分からないんです。私、楽しいと思った時、自分では笑っているつもりでした。でも、周りはそうは見えないみたいで、いつも同じ顔でつまんないと言われて来ました」
「少しずつ練習していけば良いんじゃねぇの?」
「練習…ですか?」
「最初は上手くいかなくてもそのうち上手く表現出来るようになるって!オレらが協力するし」
「オレらって、三ツ谷、オマエまさか…」
「パーちんとぺーやんも強制な」
「はぁ!?オレらもかよ!?」
「オレはバカだから良くわかんねぇけど、どっちでも良いぞ」
「よし、決まりな」
あれよあれよという間に勝手に事が進んでいく。当の本人は置いてけぼりだ。でも、そう言って貰えたのは初めてだから、少し嬉しい。
「こういう時ってありがとうって言えば良いのでしょうか」
「うん、それで良いと思うよ」
「三ツ谷さん、林さん、林田さん、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げれば、頭上から笑い声が聞こえた。何だろうと顔を上げれば、「堅すぎ」と笑われていた。何年ぶりだろうか、自分の周りで笑い声が聞こえるのは。笑い声というものはこんなにも心地良かったのだと初めて知った。
「オレら同い年なんだし、三ツ谷でいいよ。こっちは、パーちん、ぺーやん」
「パーちん、ぺーやん、三ツ谷…くん」
「何でオレだけ?」
「何となく失礼かと…」
「何だそりゃ。ま、慣れるまでそれでいーわ」
「は、はい!頑張ります!」
「敬語もナシな」
「敬語もですか?」
「何か他人みてぇじゃん?折角、オレらダチになったんだし」
「友達…!!」
嬉しさのあまり、いつもより声を大きくしてしまい、少し恥ずかしくなる。でも、友達って初めて言って貰えた。凄く嬉しい…。
「全然、能面じゃねぇじゃん」
「はい?今何か言いました?」
「いや、何でもない」
「そうですか?」
友達…、初めての友達。少しだけ怖かった中学生活も楽しくなりそうな予感がして来た。
「そんな深く考えずに自然体で居れば良いと思うよ」
「自然体ですか…?そうしたら、能面治らないのでは?」
「オレがちゃんと見てるから」
「えっ…?」
「泉さんの小さな変化にすぐ気づけるようにちゃんと見てる。これからは、能面なんて呼ばせねぇよ」
「クッセーー!三ツ谷ぁ!オマエそんな事言うタイプかよ」
「今のはクセェな」
「テメェら茶化してんじゃねぇよ!!」
3人が言い合いを始めたのを面白いと思いながら、見ていた。
中学1年生の春、初めての友達が出来ました。
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