ぺーやん
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今日は、苗字さんに誘われて、パーとぺーやんの四人で呑み会が開かれる。
中学三年の夏に苗字さんとぺーやんは付き合い始め、それからは順調に…いや、色々と珍事件を主に彼女が引き起こし、その度にオレは巻き込まれ、大変な思いをしながらもこの十年間、傍で見守って来た。
オレらは今年、25歳になりもう立派な大人だ。
それぞれ、きちんとした職にも就いて、個々に活躍している。そして、今は25歳の夏。十年目の節目だ。
このタイミングでの呑み会の誘いとなれば、そういう事の報告だろうと踏んで参加を決めた。
一番初めに仕事が終わり、先に居酒屋の席を取っておいてくれている苗字さんからの連絡で指定された席へと向かう。
パーは親父さんの跡を継いで不動産を経営していて、ぺーやんはその手伝いをしている。その関係で今日は接待があり、少し遅れるから先に二人で始めてくれとの連絡が入っていた。
店員さんに案内された個室に入ると、苗字さんが項垂れて座っていた。何事かと部屋の中を見回せば、その原因がすぐに分かった。
スーツのジャケットを脱ぎ、ハンガーに掛けてからソファーに座って、彼女の名を呼ぶと苦笑いを浮かべて顔を上げた。
「確認なんだけど、良かれと思って注文してくれたんだよね?」
「…はい」
「でも、さすがにビール、ピッチャー四つは飲めねぇよ?」
「違うんです。一番小さいサイズかと思って注文したら、これが来たんです。私も予想外でした」
「どうすんだよ、これ。流石に八リットルは飲めねぇよ」
ピッチャー一個あたり、大体二リットルは入っているので、それが四つとなれば、えげつない量だ。1人、ジョッキで4杯飲めば消費出来る計算だが、ビール4杯も正直、要らない。
まだ来ていない二人がいつ来るかも分からず、ぬるくなったビールは美味しくないので、二人は計算に入れないとなると、1人8杯。初っ端から頭を抱えたくなる案件だ。
「私が責任取って全部、呑みます!」
「…正気か?」
「そんなアホなヤツみたいな目で見なくても…」
「みたいなじゃなくて、ちゃんとアホだって思ってるよ」
「酷い!!」
この子が正気の沙汰じゃないのは、この十年間で充分理解している。それも嫌いじゃないが、彼女にしたいかと言われたら、別問題だ。
ぺーやんとは、バランスが取れていて良いとは思うが、オレはパス。
「私も三ツ谷君はパスですが」
「あれ、心の声を口に出してた?」
「ええ、思いっきり。心の中では私の事、そういう風に思ってたんだね」
「いや、まぁ…ハハッ。とりあえず、乾杯しよっか」
笑って誤魔化して、空のジョッキにビールを注いで彼女の前に出すと、苗字さんも同じようにジョッキを持って傾けた。
まだ、キンキンに冷えたビールと枝豆をつまみに乾杯をして、一気に流し込む。
仕事で疲れた体に染み込むように広がり、潤いを取り戻すかのような感覚がした。
苗字さんは一気に呑んで二杯目のビールに手を付け、オレは、二杯目は別の酒が呑みたかったので、ハイボールを注文した。
「そう言えばさ、この間、良平君とデートしてる途中で羽宮君に会ったんだけどさ、私の顔を見て、"噂の頭おかしい女じゃん"って言われたんだけど、私どんな噂されてるの?」
心外だと言わんばかりに眉を顰めて、ビールを呑んでいる。
一虎に言われるのは可哀想だとは思うが、否めないのが事実だ。珍事件の全貌やミッションの事について、ぺーやんが一虎に話したらしく、一虎の中では頭おかしい女だと認定されてしまったらしい。
「…まぁ、苗字さんは独創的な思考だよな」
「それは、褒めてる?貶してる?」
「ホメテルヨ」
「ならいっか!」
すぐに笑顔に戻り、美味しそうにビールを煽る彼女を見て、浮かぶ言葉は能天気の一言に尽きる。この言葉は彼女の為に造られたのではないかと思う程だ。
人生において何事もポジティブなのはいい事だし、その性格は羨ましくもあり、見習うべきだとも思う。特に一虎。
一人で頷いていると、彼女は三回目のおかわりをしていた。そこへ、丁度頼んだハイボールが届き、オレも半分くらい一気に呑んだ。
ハイペースで飲み進める彼女を見て心配するが、顔も赤くなってもいないので、大丈夫だと思い直して、ハイボールを一口含んだ。
「実はさ〜」と彼女が真剣な声色で切り出して来たので、ついに本題が来たかとオレも自然と背筋を伸ばしてしまう。
「この間、五回目のプロポーズを断られちゃったんだよねぇ」
「ついにだな!おめでとう…って、え?」
用意していたセリフを口にしてから理解した彼女の言葉の意味。
ツッコミ所満載過ぎて、どこから突っ込めばいいのやらで固まってしまう。
半分程、減ったハイボールに入っている氷が動き、ジョッキの中でカランと音を立てた。
「もうそろそろ、いいと思わない!?早く、良平君のお嫁さんになりたいのにぃ」
机に突っ伏してしまう、苗字さんのツムジを眺めながら、中学の頃からずっと、ぺーやんの嫁になりてぇと言っていた事を思い出した。
告白をすっ飛ばして、プロポーズして来ようとしていた事もあった。そんな苗字さんが五回もプロポーズしていたとしても、なんら不思議ではないと思ってしまうのが怖い所だ。
「どうやってプロポーズしたの?」
「ソファに座ってた良平君の膝の上に対面で座って、首に腕を回して"結婚して"って」
「…聞かなきゃ良かった」
どうも人間というものは、耳から得た情報を脳内で再生してしまうらしい。ぺーやんのそんな姿、想像もしたくなかった。
アルコールで顔が赤くなった彼女と対照にオレは真っ青になっているような気がした。
「いつになったら、受け取ってくれるのかなぁ」
少しだけしょんぼりしてしまった、苗字さんに同情しつつも、ぺーやんは未だに彼女に対してビクビクしているのだろうか。確かに、彼女の突拍子もない言動に慣れるのは難しいのかもしれないが、少しくらいアイツも男を見せるべきだとは思う。
「ヤケ酒じゃい、ちくしょう」
「あっ、バカ!それは、オレの酒だっての!」
先程、頼んだ大吟醸酒の獺祭を苗字さんは一気に煽ってしまった。酒に強いのか弱いのかよく分からないので、大丈夫なのかと様子を伺うと彼女は「何これ、美味しい」と満面の笑みを浮かべた。
もしかしたら、彼女はザルなのかもしれないと思い、残りの獺祭をあげると言えば、嬉しそうに受け取って呑んでいた。
その間も彼女のぺーやんへのラブコールは止まらず、ペラペラとマシンガンのように話していた。半分くらい聞き流していると、苗字さんは勢いよく、机に頭をゴツンとぶつけて突っ伏してしまった。
前触れもなく崩れ落ちた彼女に目を丸くしていると、小さな寝息を立てている事に気が付いた。
「嘘だろ、潰れたのかよ」
まだ、パーもぺーやんも来ていないのに潰れてしまうなんて、本当に予想外だ。
ため息を零すと同時に個室のドアが開き、二人が入って来た。
「名前、寝てんのか?」
「今さっき、潰れちまったんだよ」
「はぁ?つーか、このビールの量なんだよ…。ビアガーデンでも開催してんのかよ」
大量のビールがここにある経緯を話すと、ぺーやんはため息をついて、パーはゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。
ぺーやんが苗字さんの隣、パーが隣に座り、一応、全員揃ったという事で再度三人でビールを片手に乾杯をした。ぺーやんは「温ぃ」と文句言いつつも、一気に飲み干した。
最初は近況報告から仕事の事について三人で話した後、眠っている苗字さんへ目をやってから、ぺーやんへと視線を移した。
「オマエ、プロポーズ断ったんだって?」
「はっ!?なんで、オマエがそれ知ってんだよ!?」
慌てふためくぺーやんに彼女から話を聞いた事を言うと、頭を抱えてしまった。
「いくら呑気な子でも何回も断られたら、そりゃ落ち込むだろ」
「そんな事、分かってるっつーの」
「断る理由は?」
「…コイツとは中途半端な気持ちで付き合ってるワケじゃねぇから、なあなあで決めたくねーんだよ。オレだって、タイミングとかそういうの色々考えてんだよ…」
「それ、言ってやりゃいーじゃん」
「うっせぇ!簡単に言えるかよ!」
最後は顔を真っ赤にして吠えるように叫んだ。
その赤さは酒のせいでないのは、明白だった。
ぺーやんが一度惚れ込んだら、その想いが強く長いのは、パーへの態度を見ていれば分かる。それは知っているから、適当に付き合ってるとは思ってはいないが、大事な所でヘタレなんだよなぁと苦笑を漏らした。
すると、苗字さんはまた前触れもなく、ガバッと起き上がり「よし、プロポーズ・ミッションだー!」と叫び出した。ぺーやんはビクッと肩を揺らして、表情は石のように固まっていた。
寝たフリして聞いていたのかと思ったが、違ったようで彼女はまた机に突っ伏して寝始めた。
つまり、今のはただ寝惚けていたらしい。
その事に気が付いた、ぺーやんは安堵の溜息を漏らした。
「プロポーズ・ミッションだってよ」
「男ならガツンと決めろよ」
「なんだよ。オマエら二人して他人事みてぇに」
「「他人事だろ」」
オレとパーが声を揃えて言うと、ぺーやんは恨めしそうに睨みつけて来た。そんなぺーやんに「ここで宣言でもしとけよ」と言えば、元々大きい目を更にかっ開いた。
「は?今、ここでオマエらの前で?」
「そう。オレらが傍聴しててやるからさ」
別にそんな事しなくてもいいし、ただ単純にぺーやんを弄りたかっただけなのだが、真剣に考え始めてしまったのを見て、ここで冗談と言うの何だかつまらねぇ気がして、そのまま何も言わずに待つ事にした。
ぺーやんが顔にかかった苗字さんの髪の毛を指で掬った事により、彼女の赤い頬が覗いた。
「…いつか、林にしてやるからもう少し待ってろ」
プロポーズ宣言を聞いて、オレとパーは口笛を高らかに鳴らして盛大に冷やかしに入った。ぺーやんは顔を真っ赤にして「テメェら、うっせぇな!」と叫んだが、オレらは声を出して笑った。
だって、全く気付いていないのは、ぺーやんだけだからだ。苗字さんが本当は髪の毛を触られた時から起きていて、タコみたいに顔を真っ赤にさせて、ニヤニヤと口元を緩ませている事に。
ぺーやんと苗字さんが苗字を重ねる日はそう遠くない気がした。
中学三年の夏に苗字さんとぺーやんは付き合い始め、それからは順調に…いや、色々と珍事件を主に彼女が引き起こし、その度にオレは巻き込まれ、大変な思いをしながらもこの十年間、傍で見守って来た。
オレらは今年、25歳になりもう立派な大人だ。
それぞれ、きちんとした職にも就いて、個々に活躍している。そして、今は25歳の夏。十年目の節目だ。
このタイミングでの呑み会の誘いとなれば、そういう事の報告だろうと踏んで参加を決めた。
一番初めに仕事が終わり、先に居酒屋の席を取っておいてくれている苗字さんからの連絡で指定された席へと向かう。
パーは親父さんの跡を継いで不動産を経営していて、ぺーやんはその手伝いをしている。その関係で今日は接待があり、少し遅れるから先に二人で始めてくれとの連絡が入っていた。
店員さんに案内された個室に入ると、苗字さんが項垂れて座っていた。何事かと部屋の中を見回せば、その原因がすぐに分かった。
スーツのジャケットを脱ぎ、ハンガーに掛けてからソファーに座って、彼女の名を呼ぶと苦笑いを浮かべて顔を上げた。
「確認なんだけど、良かれと思って注文してくれたんだよね?」
「…はい」
「でも、さすがにビール、ピッチャー四つは飲めねぇよ?」
「違うんです。一番小さいサイズかと思って注文したら、これが来たんです。私も予想外でした」
「どうすんだよ、これ。流石に八リットルは飲めねぇよ」
ピッチャー一個あたり、大体二リットルは入っているので、それが四つとなれば、えげつない量だ。1人、ジョッキで4杯飲めば消費出来る計算だが、ビール4杯も正直、要らない。
まだ来ていない二人がいつ来るかも分からず、ぬるくなったビールは美味しくないので、二人は計算に入れないとなると、1人8杯。初っ端から頭を抱えたくなる案件だ。
「私が責任取って全部、呑みます!」
「…正気か?」
「そんなアホなヤツみたいな目で見なくても…」
「みたいなじゃなくて、ちゃんとアホだって思ってるよ」
「酷い!!」
この子が正気の沙汰じゃないのは、この十年間で充分理解している。それも嫌いじゃないが、彼女にしたいかと言われたら、別問題だ。
ぺーやんとは、バランスが取れていて良いとは思うが、オレはパス。
「私も三ツ谷君はパスですが」
「あれ、心の声を口に出してた?」
「ええ、思いっきり。心の中では私の事、そういう風に思ってたんだね」
「いや、まぁ…ハハッ。とりあえず、乾杯しよっか」
笑って誤魔化して、空のジョッキにビールを注いで彼女の前に出すと、苗字さんも同じようにジョッキを持って傾けた。
まだ、キンキンに冷えたビールと枝豆をつまみに乾杯をして、一気に流し込む。
仕事で疲れた体に染み込むように広がり、潤いを取り戻すかのような感覚がした。
苗字さんは一気に呑んで二杯目のビールに手を付け、オレは、二杯目は別の酒が呑みたかったので、ハイボールを注文した。
「そう言えばさ、この間、良平君とデートしてる途中で羽宮君に会ったんだけどさ、私の顔を見て、"噂の頭おかしい女じゃん"って言われたんだけど、私どんな噂されてるの?」
心外だと言わんばかりに眉を顰めて、ビールを呑んでいる。
一虎に言われるのは可哀想だとは思うが、否めないのが事実だ。珍事件の全貌やミッションの事について、ぺーやんが一虎に話したらしく、一虎の中では頭おかしい女だと認定されてしまったらしい。
「…まぁ、苗字さんは独創的な思考だよな」
「それは、褒めてる?貶してる?」
「ホメテルヨ」
「ならいっか!」
すぐに笑顔に戻り、美味しそうにビールを煽る彼女を見て、浮かぶ言葉は能天気の一言に尽きる。この言葉は彼女の為に造られたのではないかと思う程だ。
人生において何事もポジティブなのはいい事だし、その性格は羨ましくもあり、見習うべきだとも思う。特に一虎。
一人で頷いていると、彼女は三回目のおかわりをしていた。そこへ、丁度頼んだハイボールが届き、オレも半分くらい一気に呑んだ。
ハイペースで飲み進める彼女を見て心配するが、顔も赤くなってもいないので、大丈夫だと思い直して、ハイボールを一口含んだ。
「実はさ〜」と彼女が真剣な声色で切り出して来たので、ついに本題が来たかとオレも自然と背筋を伸ばしてしまう。
「この間、五回目のプロポーズを断られちゃったんだよねぇ」
「ついにだな!おめでとう…って、え?」
用意していたセリフを口にしてから理解した彼女の言葉の意味。
ツッコミ所満載過ぎて、どこから突っ込めばいいのやらで固まってしまう。
半分程、減ったハイボールに入っている氷が動き、ジョッキの中でカランと音を立てた。
「もうそろそろ、いいと思わない!?早く、良平君のお嫁さんになりたいのにぃ」
机に突っ伏してしまう、苗字さんのツムジを眺めながら、中学の頃からずっと、ぺーやんの嫁になりてぇと言っていた事を思い出した。
告白をすっ飛ばして、プロポーズして来ようとしていた事もあった。そんな苗字さんが五回もプロポーズしていたとしても、なんら不思議ではないと思ってしまうのが怖い所だ。
「どうやってプロポーズしたの?」
「ソファに座ってた良平君の膝の上に対面で座って、首に腕を回して"結婚して"って」
「…聞かなきゃ良かった」
どうも人間というものは、耳から得た情報を脳内で再生してしまうらしい。ぺーやんのそんな姿、想像もしたくなかった。
アルコールで顔が赤くなった彼女と対照にオレは真っ青になっているような気がした。
「いつになったら、受け取ってくれるのかなぁ」
少しだけしょんぼりしてしまった、苗字さんに同情しつつも、ぺーやんは未だに彼女に対してビクビクしているのだろうか。確かに、彼女の突拍子もない言動に慣れるのは難しいのかもしれないが、少しくらいアイツも男を見せるべきだとは思う。
「ヤケ酒じゃい、ちくしょう」
「あっ、バカ!それは、オレの酒だっての!」
先程、頼んだ大吟醸酒の獺祭を苗字さんは一気に煽ってしまった。酒に強いのか弱いのかよく分からないので、大丈夫なのかと様子を伺うと彼女は「何これ、美味しい」と満面の笑みを浮かべた。
もしかしたら、彼女はザルなのかもしれないと思い、残りの獺祭をあげると言えば、嬉しそうに受け取って呑んでいた。
その間も彼女のぺーやんへのラブコールは止まらず、ペラペラとマシンガンのように話していた。半分くらい聞き流していると、苗字さんは勢いよく、机に頭をゴツンとぶつけて突っ伏してしまった。
前触れもなく崩れ落ちた彼女に目を丸くしていると、小さな寝息を立てている事に気が付いた。
「嘘だろ、潰れたのかよ」
まだ、パーもぺーやんも来ていないのに潰れてしまうなんて、本当に予想外だ。
ため息を零すと同時に個室のドアが開き、二人が入って来た。
「名前、寝てんのか?」
「今さっき、潰れちまったんだよ」
「はぁ?つーか、このビールの量なんだよ…。ビアガーデンでも開催してんのかよ」
大量のビールがここにある経緯を話すと、ぺーやんはため息をついて、パーはゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。
ぺーやんが苗字さんの隣、パーが隣に座り、一応、全員揃ったという事で再度三人でビールを片手に乾杯をした。ぺーやんは「温ぃ」と文句言いつつも、一気に飲み干した。
最初は近況報告から仕事の事について三人で話した後、眠っている苗字さんへ目をやってから、ぺーやんへと視線を移した。
「オマエ、プロポーズ断ったんだって?」
「はっ!?なんで、オマエがそれ知ってんだよ!?」
慌てふためくぺーやんに彼女から話を聞いた事を言うと、頭を抱えてしまった。
「いくら呑気な子でも何回も断られたら、そりゃ落ち込むだろ」
「そんな事、分かってるっつーの」
「断る理由は?」
「…コイツとは中途半端な気持ちで付き合ってるワケじゃねぇから、なあなあで決めたくねーんだよ。オレだって、タイミングとかそういうの色々考えてんだよ…」
「それ、言ってやりゃいーじゃん」
「うっせぇ!簡単に言えるかよ!」
最後は顔を真っ赤にして吠えるように叫んだ。
その赤さは酒のせいでないのは、明白だった。
ぺーやんが一度惚れ込んだら、その想いが強く長いのは、パーへの態度を見ていれば分かる。それは知っているから、適当に付き合ってるとは思ってはいないが、大事な所でヘタレなんだよなぁと苦笑を漏らした。
すると、苗字さんはまた前触れもなく、ガバッと起き上がり「よし、プロポーズ・ミッションだー!」と叫び出した。ぺーやんはビクッと肩を揺らして、表情は石のように固まっていた。
寝たフリして聞いていたのかと思ったが、違ったようで彼女はまた机に突っ伏して寝始めた。
つまり、今のはただ寝惚けていたらしい。
その事に気が付いた、ぺーやんは安堵の溜息を漏らした。
「プロポーズ・ミッションだってよ」
「男ならガツンと決めろよ」
「なんだよ。オマエら二人して他人事みてぇに」
「「他人事だろ」」
オレとパーが声を揃えて言うと、ぺーやんは恨めしそうに睨みつけて来た。そんなぺーやんに「ここで宣言でもしとけよ」と言えば、元々大きい目を更にかっ開いた。
「は?今、ここでオマエらの前で?」
「そう。オレらが傍聴しててやるからさ」
別にそんな事しなくてもいいし、ただ単純にぺーやんを弄りたかっただけなのだが、真剣に考え始めてしまったのを見て、ここで冗談と言うの何だかつまらねぇ気がして、そのまま何も言わずに待つ事にした。
ぺーやんが顔にかかった苗字さんの髪の毛を指で掬った事により、彼女の赤い頬が覗いた。
「…いつか、林にしてやるからもう少し待ってろ」
プロポーズ宣言を聞いて、オレとパーは口笛を高らかに鳴らして盛大に冷やかしに入った。ぺーやんは顔を真っ赤にして「テメェら、うっせぇな!」と叫んだが、オレらは声を出して笑った。
だって、全く気付いていないのは、ぺーやんだけだからだ。苗字さんが本当は髪の毛を触られた時から起きていて、タコみたいに顔を真っ赤にさせて、ニヤニヤと口元を緩ませている事に。
ぺーやんと苗字さんが苗字を重ねる日はそう遠くない気がした。
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