恋時雨
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初めて、人に話そうと思った。過去も自分の弱さも誰にも知られたくなくて、全部隠して生きて行こうと思っていたのに。
「中学二年の夏だったかな。その頃から、私ね、虐められてたの」
そう言葉にすれば、松野くんは驚いたように目を見開いた。それでも、私は構わず言葉を続けた。
「冬の終わりくらいまで、ソレは続いたの。最初は陰口から始まって、段々とエスカレートして物が無くなったり、壊されたり…。その後は思い出したくもないや」
口にするだけで当時の事が鮮明に思い出されて、気分が悪くなる。一度だってその記憶が薄れた事なんてない。胃から何かが逆流して来る感覚が襲って来て、それ以上は口を開けなくなった。
今思えば、最初の頃は可愛いものだったのかもしれない。物を隠されたって、平気だったし「神隠しにあった」と笑って受け流していた。ある事ない事言いふらされて、周りの人達は離れて行って1人になった。でも、別に理解してくれない人が減ろうがどうだって良かった。ちゃんと、私の事を信じてくれている人が1人居れば、それで良かった。
「オマエ、良い奴なのになんで…」
松野くんの問いに目を閉じて、ひとつ、深く息を吐いた。
「誰かの特別になって、誰かを特別に想った。ただそれだけだよ」
「何だそれ」
「前に屋上で過去に戻ってやり直せるなら、中二の時に好きになった人を好きにならないって言ったの覚えてる?」
「あぁ」
「私が初めて好きになった人は、一個上の先輩でバスケ部のエースで皆の憧れの的の人だった。そんな人の特別になってしまった」
「ンだよ、ソレ。くっだらねぇ。ただのやっかみじゃねーか」
「本当にくだらないよね」
「だから、周りに合わせて生きてんの?」
「うん。安心するの。私、皆と一緒だって」
そんな偽りの安心感なんて大した意味なんて持たない事も分かってはいる。自分がつまらない人間だと思えて、自嘲した。
私たちしかいない公園に私の乾いた笑い声だけが響いた。
「恋って、キラキラしてて楽しくて、ちょっぴり切なくて、でも甘くて…。夢中になれるものだって思ってた。でも、今は、誰かを特別に想う事も誰かの特別になる事も怖い」
隣にいる松野くんの顔を見れば、彼は口をキュッと結び、眉を釣りあげて、鋭い視線で私を見ていた。
「つーか、その男は何してんだよ?好きな女がやられてて、何も言わねーのかよ!?」
「私がバレないように振舞ってたから、学年も違うし仕方ないよ」
松野くんはイライラしたように舌打ちをした。
「ずっと、気付かないって訳なくねぇ?」
「最後はバレたよ。それで、フラれた」
「はぁ!?」
「可哀想って言われちゃった。笑っちゃうよね?惨めで仕方なかったよ」
それから、松野くんは黙ってしまった。彼も私を可哀想な女だと思ったのだろうか。今までみたいに対等ではなく、傷物を扱うようにされてしまうのだろうか。
やっぱり、話さなきゃ良かったかな…。
そう思っていれば、松野くんは勢いよく立ち上がり、叫んだ。
「あー、マジでムカつくなー!」
「え?」
「ソイツらもオマエの男も!マジでムカつく」
「なんで松野くんがそんなに怒るの?」
「何でって…。平野が悲しんでるの見るの嫌っつーか、平野には笑ってて欲しいって思う」
「何で?」
「分かんねぇ。でも、オレが平野を守ってやりたかったって思った」
この人は何を言っているんだ?と彼を凝視してしまう。すると、松野くんは思い付いたように「分かった」と声を上げた。
「オレ、平野の事好きだ」
「…はい?」
「前に場地さんが大事な女が出来たら死んでも守れって言ってたんだよ。惚れた女を泣かすような男にだけはなるなって」
「へぇ。場地さんって彼女さん居たの?」
「さぁ?場地さん、そういうの周りに言うタイプじゃなかったし」
「そうなんだ…」
場地さんって案外、まともな人だったりする?さっきの松野くんの話じゃ、めちゃくちゃな人だったけど、今のを聞くとまともな事言ってるし。場地さんって奥深い人なんだな。1度、会ってみたいかも。場地さんと言う人に興味が湧いた所で松野くんは私の名を静かに呼んだ。
「何?」
「何?じゃなくて、オレ、告白したんだけど?」
「え、アレって告白なの?」
「好きって言ったろ」
「うん。でも、本当にそうなの?」
松野くんが嘘をついているようにも、同情で言っていると思っている訳でもないけど、サラッとしすぎと言うか、場地さんを好きと同じ感覚なのではないかと思った。相手が女だから恋だと勘違いしているのではないかとそう思ってしまった。
「平野の事、守りてぇって思うし、泣いてる所見たくねぇって思う。場地さんの言ってた事と一致してねぇ?」
キミの中で場地さんは神か何かなの?場地さんの言うことは~?って聞いたら、絶対!!って返ってくると思う。
「誰かと付き合うとか考えられないし…」
「うん」
「それに、私、言ったじゃん。誰かの特別になるのは怖いって」
「言ってたな」
「私は、私の小さな世界で生きて行きたいの。誰も私の世界に入れたくない」
誰かを入れて、傷付くのはもう嫌だ。だったら、最初から1人の方が良い。
「分かった」
案外、聞き分けが良くてホッとした。松野くんって強引な所あったから、あっさり引いてくれて良かった…。
「オレ、オマエの世界の一部になるわ」
「は?」
「誰も入れたくねぇんだろ?だったら、オレがその小さな世界の一部になっちまえば問題なくねぇ?」
「問題大アリですけど…」
「よし、決まった」
「何も決まってない!!」
「さて、帰るか!」
「人の話聞いてよ!?」
全然、聞き分けなんて良くなかった。そして、やっぱり強引だった。
松野くんはベンチから立ち上がって、私の方を見て右手を差し出してきた。一瞬、その手を取るか迷ったが、優しい瞳で私を見て笑ってくれていたので、自然と彼の手に自分の手を重ねていた。
「私の為に怒ってくれてありがとう。ちょっと嬉しかった」
「おう」
松野くんはニッと笑って、手を引いて私を立ち上がらせた。2人で公園を出ると、彼はバイクに跨り、エンジンを掛けた。
「遅くまで悪ぃな。真っ暗になる前に家に帰れよ」
「うん。ありがとう」
「じゃ、来週もよろしくなっ!」
大きな音を立てて走り出した、彼の背中を何も見えなくなるまで私はその場で見送った。
心臓がドクドクと脈打つのを体全身で感じる気がする。それが、何なのかはよくわからないけど、それでも私の中で何かが始まった事は確かだった。
「中学二年の夏だったかな。その頃から、私ね、虐められてたの」
そう言葉にすれば、松野くんは驚いたように目を見開いた。それでも、私は構わず言葉を続けた。
「冬の終わりくらいまで、ソレは続いたの。最初は陰口から始まって、段々とエスカレートして物が無くなったり、壊されたり…。その後は思い出したくもないや」
口にするだけで当時の事が鮮明に思い出されて、気分が悪くなる。一度だってその記憶が薄れた事なんてない。胃から何かが逆流して来る感覚が襲って来て、それ以上は口を開けなくなった。
今思えば、最初の頃は可愛いものだったのかもしれない。物を隠されたって、平気だったし「神隠しにあった」と笑って受け流していた。ある事ない事言いふらされて、周りの人達は離れて行って1人になった。でも、別に理解してくれない人が減ろうがどうだって良かった。ちゃんと、私の事を信じてくれている人が1人居れば、それで良かった。
「オマエ、良い奴なのになんで…」
松野くんの問いに目を閉じて、ひとつ、深く息を吐いた。
「誰かの特別になって、誰かを特別に想った。ただそれだけだよ」
「何だそれ」
「前に屋上で過去に戻ってやり直せるなら、中二の時に好きになった人を好きにならないって言ったの覚えてる?」
「あぁ」
「私が初めて好きになった人は、一個上の先輩でバスケ部のエースで皆の憧れの的の人だった。そんな人の特別になってしまった」
「ンだよ、ソレ。くっだらねぇ。ただのやっかみじゃねーか」
「本当にくだらないよね」
「だから、周りに合わせて生きてんの?」
「うん。安心するの。私、皆と一緒だって」
そんな偽りの安心感なんて大した意味なんて持たない事も分かってはいる。自分がつまらない人間だと思えて、自嘲した。
私たちしかいない公園に私の乾いた笑い声だけが響いた。
「恋って、キラキラしてて楽しくて、ちょっぴり切なくて、でも甘くて…。夢中になれるものだって思ってた。でも、今は、誰かを特別に想う事も誰かの特別になる事も怖い」
隣にいる松野くんの顔を見れば、彼は口をキュッと結び、眉を釣りあげて、鋭い視線で私を見ていた。
「つーか、その男は何してんだよ?好きな女がやられてて、何も言わねーのかよ!?」
「私がバレないように振舞ってたから、学年も違うし仕方ないよ」
松野くんはイライラしたように舌打ちをした。
「ずっと、気付かないって訳なくねぇ?」
「最後はバレたよ。それで、フラれた」
「はぁ!?」
「可哀想って言われちゃった。笑っちゃうよね?惨めで仕方なかったよ」
それから、松野くんは黙ってしまった。彼も私を可哀想な女だと思ったのだろうか。今までみたいに対等ではなく、傷物を扱うようにされてしまうのだろうか。
やっぱり、話さなきゃ良かったかな…。
そう思っていれば、松野くんは勢いよく立ち上がり、叫んだ。
「あー、マジでムカつくなー!」
「え?」
「ソイツらもオマエの男も!マジでムカつく」
「なんで松野くんがそんなに怒るの?」
「何でって…。平野が悲しんでるの見るの嫌っつーか、平野には笑ってて欲しいって思う」
「何で?」
「分かんねぇ。でも、オレが平野を守ってやりたかったって思った」
この人は何を言っているんだ?と彼を凝視してしまう。すると、松野くんは思い付いたように「分かった」と声を上げた。
「オレ、平野の事好きだ」
「…はい?」
「前に場地さんが大事な女が出来たら死んでも守れって言ってたんだよ。惚れた女を泣かすような男にだけはなるなって」
「へぇ。場地さんって彼女さん居たの?」
「さぁ?場地さん、そういうの周りに言うタイプじゃなかったし」
「そうなんだ…」
場地さんって案外、まともな人だったりする?さっきの松野くんの話じゃ、めちゃくちゃな人だったけど、今のを聞くとまともな事言ってるし。場地さんって奥深い人なんだな。1度、会ってみたいかも。場地さんと言う人に興味が湧いた所で松野くんは私の名を静かに呼んだ。
「何?」
「何?じゃなくて、オレ、告白したんだけど?」
「え、アレって告白なの?」
「好きって言ったろ」
「うん。でも、本当にそうなの?」
松野くんが嘘をついているようにも、同情で言っていると思っている訳でもないけど、サラッとしすぎと言うか、場地さんを好きと同じ感覚なのではないかと思った。相手が女だから恋だと勘違いしているのではないかとそう思ってしまった。
「平野の事、守りてぇって思うし、泣いてる所見たくねぇって思う。場地さんの言ってた事と一致してねぇ?」
キミの中で場地さんは神か何かなの?場地さんの言うことは~?って聞いたら、絶対!!って返ってくると思う。
「誰かと付き合うとか考えられないし…」
「うん」
「それに、私、言ったじゃん。誰かの特別になるのは怖いって」
「言ってたな」
「私は、私の小さな世界で生きて行きたいの。誰も私の世界に入れたくない」
誰かを入れて、傷付くのはもう嫌だ。だったら、最初から1人の方が良い。
「分かった」
案外、聞き分けが良くてホッとした。松野くんって強引な所あったから、あっさり引いてくれて良かった…。
「オレ、オマエの世界の一部になるわ」
「は?」
「誰も入れたくねぇんだろ?だったら、オレがその小さな世界の一部になっちまえば問題なくねぇ?」
「問題大アリですけど…」
「よし、決まった」
「何も決まってない!!」
「さて、帰るか!」
「人の話聞いてよ!?」
全然、聞き分けなんて良くなかった。そして、やっぱり強引だった。
松野くんはベンチから立ち上がって、私の方を見て右手を差し出してきた。一瞬、その手を取るか迷ったが、優しい瞳で私を見て笑ってくれていたので、自然と彼の手に自分の手を重ねていた。
「私の為に怒ってくれてありがとう。ちょっと嬉しかった」
「おう」
松野くんはニッと笑って、手を引いて私を立ち上がらせた。2人で公園を出ると、彼はバイクに跨り、エンジンを掛けた。
「遅くまで悪ぃな。真っ暗になる前に家に帰れよ」
「うん。ありがとう」
「じゃ、来週もよろしくなっ!」
大きな音を立てて走り出した、彼の背中を何も見えなくなるまで私はその場で見送った。
心臓がドクドクと脈打つのを体全身で感じる気がする。それが、何なのかはよくわからないけど、それでも私の中で何かが始まった事は確かだった。