恋時雨
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あの日から、まる三年。まだまだ傷は完全に塞がらないし、胸は痛む。過去に戻りたいと思う日もあるけれど、それでも今を生きて行こうとそう思える。それは、隣に彼女が居てくれるからだ。
*
平野と想いが通じ合ってから、一年。
付き合う前に平野が「場地さんに会ってみたい」と言っていた事を思い出し、命日の今日に平野を連れて行く事を決めた。
嫌なワケじゃねーけど、妙な緊張感で心音はうるせぇし、手汗は凄いしで最悪な気分だ。
例えるなら、彼女の親に挨拶をしに行くような感覚だ。
平野の親父さんとは、何度も会っているし、会えばバイクの話で盛り上がれるので、今より全然緊張はしない。場地さんに紹介する事がこの世で一番緊張する出来事かもしれないとすら思う。
深呼吸を繰り返していると、隣に居た平野が心配そうにオレの顔を覗き込んで来た。
「無理しなくてもいいよ。嫌なら、場地さんに紹介して貰わなくて大丈夫だし…」
「嫌とかじゃねーよ。ただ、スゲェ緊張してさ」
「松野君って心臓に毛が生えてるタイプかと思ってたけど、緊張とかするんだね」
「はぁ?オマエ、オレの事何だと思ってんだよ」
「だって、私に告白した時、シレッとサラッと言ったじゃん」
「オマエと場地さんを一緒にすんじゃねーよ」
「あ、久しぶりにそれ聞いたけど、ムカつくー!」
そう言いつつも、彼女は柔らかい笑みを浮かべてムカついてはいなそうだった。
そう言えば、高校に入学したての頃、タケミっちと八戒に「千冬は女が出来てもスグに振られそうだよな」と言われた事があった。
そんなワケがねぇと、矢沢あい作品を読み込んでいるから女心は手に取るように分かると反論したが、八戒に「タカちゃんを見習え」と鼻で笑われた。女と話せねぇ、八戒には一番言われたくねぇとイラッとした記憶がある。
後々、三ツ谷君にこの話をしたら「あー、なんとなく分かる」と言われ、理由を聞けば、思った事をすぐに口に出す癖と世界の中心が場地の所だと言われた。
確かに、オレは思った事をすぐに口に出してしまう。前に平野に向かって「カレーパンマンみてぇ」と言った時、怒らせた事を思い出した。
「この世の女の全てが場地とオマエの関係性を理解出来るワケじゃねーよ。"私と場地さん、どっちが大事なの"と言われると思うぞ」
三ツ谷君にそんな事も言われ、その言葉が脳裏に蘇る。
確か、それに対してオレは、場地さんだと即答した。三ツ谷君は「そういうとこだぞ」と呆れたような笑みを浮かべてオレの肩に手を置いた。
あの時はよく分からなかったけど、今のやり取りをしてやっと理解した。
思った事をすぐに口にしてしまう癖と場地さんを最優先な所をダブルで出してしまっていた。
だけど、平野は口ではムカつくと言っていても、笑って受け入れてくれる。
平野としか付き合った事がないから、知らなかったけど、こんな女は稀なのかもしれない。
「松野君はかなり正直に言ってくれるから、逆に清々しいよね」
「…は?」
「ほら、今どう思ってるのかなとか色々と疑わなくて済むじゃん?昔の癖でどうしても、疑っちゃうんだよね。でも、松野君は分かりやすくて、私は好き」
妙に"好き"という言葉だけを鮮明に拾ってしまい、小っ恥ずかしくなってしまった。
熱を帯びたオレの顔を見た平野は同じように顔を赤く染めて、若干下を向いた。
「そんな反応しないでよ、釣られちゃうじゃん」
「いきなり、好き、とか言うからだろ」
「いや、だって…」
頬を染めて口をもごもごとさせる姿に何とも言えない感情が湧き上がり、胸を占める。
あの日から、あまり好きという言葉をお互い出して来なかった。特別な言葉にしたいという、ちょっと女々しいかもしれねぇけど、そう思って、軽々しく言いたくなかった。
フイっと視線を逸らして「行くか」と言えば、視界の端で小さく頷くのが見えた。
少しだけ、緊張が和らいでいた。
場地さんの元へ行き、丁寧に掃除をして、持って来た花とペヤングを添えて、線香に火を付けて二人で手を合わせた。
目を瞑り、心の中で挨拶をしてから今日、平野を紹介したい事を告げると、柔らかな風に乗って、微かに線香の香りが薫った。
「場地さん、平野ッス」
そう言葉にしてから、なんて言ったらいいか分からず、口ごもってしまう。またドクドクと心臓が早くなり、緊張して来てしまった。
平野は「え、それだけ…?」とオレの顔を見て来るが、言葉が出て来ない。伝えたい事がありすぎて、分からなくなってしまった。
根拠なんかねぇけど、運命って言葉を信じたくなるような女だって思うけど、恥ずかしくて口には出来ないし、沢山の出会いの中から、たった一人に巡り会えた事に喜びを感じている事も絶対ぇに言えないし、何も言えない。
「…平野です。場地さんの話は松野君から耳にタコが出来るほど、毎日聞いています」
勝手に喋り出した平野に、耳にタコが出来るほど話してねぇだろと突っ込みたくなるが、黙って耳を傾ける。
「腹減ったら車にガソリン撒いて火つけちゃうとか、眠いとすれ違った人殴るとか、ぶっ飛んだ人だって聞いてます。今、機嫌悪くないですか?もし、機嫌が悪ければ、殴られたくないので、そこのペヤング食べて機嫌直して下さい」
何言ってんだ、コイツと言う目で彼女を見ると、横目でオレを見てから、小さく頷いた。きっと、自分で話させて欲しいという意味だと思い、そのまま黙っている。
「ぶっ飛んだ人だけど、誰よりも真っ直ぐで強くてカッケェ人だったとも聞いています。松野君の人生を変えた人だとも。場地さん、松野君と出逢ってくれて、ありがとうございます」
場地さんに向けて頭を下げた彼女に呆気に取られる。
「真っ直ぐで強くて、太陽みたいな松野君に私は救われました。そんな強い松野君だけど、たまに危なかっしくて、消えてしまいそうな時もあります。そんな時は私が傍に居たいと思います。私だけじゃ頼りないかもしれないので、場地さんも空から見守っていて欲しいです」
初めて聞いた、彼女の本音に胸が苦しくなる。
この日になると、悔しくて、悲しくて、場地さんに会いたくて、まるで、止むことの無い土砂降りの中に居るようで苦しくて一人で泣いていた。
まだ、悲しく思う事も、場地さんに会いたいと思う日もあるけれど、この先はもう一人で泣くこともない。彼女がいつだって、傍に居てくれるだろうから。
平野はオレは太陽みたいだと言ってくれた。いつも、オレを見て優しく柔らかい笑みを浮かべる彼女は月みたいだと思う。
オレが暗闇にいる時は、彼女がぼんやりと優しい光で照らしてくれる。
逆に彼女が暗闇に居るのなら、オレが強い光で照らしてやりたい。
太陽と月、交わらないような気もする、相反したモノだけれど、一緒に居れば、暗闇に沈む事はない。
「楓、好きだ」
大きな声で場地さんに届くくらいに伝えたい。
オレの世界をひっくり返えしてしまうほど、好きだと。
今日という特別な日に、彼女が隣に居てくれて良かった。
初めて呼んだ名前に彼女は最初、驚いたように目を見開いたけど、すぐに嬉しそうに笑った。
「私も千冬が好きだよ」
微笑む彼女の後ろには、晴れ渡っている青い空があった。
場地さんがオレらを見守ってくれているような、優しい青空が広がっていた。
*
平野と想いが通じ合ってから、一年。
付き合う前に平野が「場地さんに会ってみたい」と言っていた事を思い出し、命日の今日に平野を連れて行く事を決めた。
嫌なワケじゃねーけど、妙な緊張感で心音はうるせぇし、手汗は凄いしで最悪な気分だ。
例えるなら、彼女の親に挨拶をしに行くような感覚だ。
平野の親父さんとは、何度も会っているし、会えばバイクの話で盛り上がれるので、今より全然緊張はしない。場地さんに紹介する事がこの世で一番緊張する出来事かもしれないとすら思う。
深呼吸を繰り返していると、隣に居た平野が心配そうにオレの顔を覗き込んで来た。
「無理しなくてもいいよ。嫌なら、場地さんに紹介して貰わなくて大丈夫だし…」
「嫌とかじゃねーよ。ただ、スゲェ緊張してさ」
「松野君って心臓に毛が生えてるタイプかと思ってたけど、緊張とかするんだね」
「はぁ?オマエ、オレの事何だと思ってんだよ」
「だって、私に告白した時、シレッとサラッと言ったじゃん」
「オマエと場地さんを一緒にすんじゃねーよ」
「あ、久しぶりにそれ聞いたけど、ムカつくー!」
そう言いつつも、彼女は柔らかい笑みを浮かべてムカついてはいなそうだった。
そう言えば、高校に入学したての頃、タケミっちと八戒に「千冬は女が出来てもスグに振られそうだよな」と言われた事があった。
そんなワケがねぇと、矢沢あい作品を読み込んでいるから女心は手に取るように分かると反論したが、八戒に「タカちゃんを見習え」と鼻で笑われた。女と話せねぇ、八戒には一番言われたくねぇとイラッとした記憶がある。
後々、三ツ谷君にこの話をしたら「あー、なんとなく分かる」と言われ、理由を聞けば、思った事をすぐに口に出す癖と世界の中心が場地の所だと言われた。
確かに、オレは思った事をすぐに口に出してしまう。前に平野に向かって「カレーパンマンみてぇ」と言った時、怒らせた事を思い出した。
「この世の女の全てが場地とオマエの関係性を理解出来るワケじゃねーよ。"私と場地さん、どっちが大事なの"と言われると思うぞ」
三ツ谷君にそんな事も言われ、その言葉が脳裏に蘇る。
確か、それに対してオレは、場地さんだと即答した。三ツ谷君は「そういうとこだぞ」と呆れたような笑みを浮かべてオレの肩に手を置いた。
あの時はよく分からなかったけど、今のやり取りをしてやっと理解した。
思った事をすぐに口にしてしまう癖と場地さんを最優先な所をダブルで出してしまっていた。
だけど、平野は口ではムカつくと言っていても、笑って受け入れてくれる。
平野としか付き合った事がないから、知らなかったけど、こんな女は稀なのかもしれない。
「松野君はかなり正直に言ってくれるから、逆に清々しいよね」
「…は?」
「ほら、今どう思ってるのかなとか色々と疑わなくて済むじゃん?昔の癖でどうしても、疑っちゃうんだよね。でも、松野君は分かりやすくて、私は好き」
妙に"好き"という言葉だけを鮮明に拾ってしまい、小っ恥ずかしくなってしまった。
熱を帯びたオレの顔を見た平野は同じように顔を赤く染めて、若干下を向いた。
「そんな反応しないでよ、釣られちゃうじゃん」
「いきなり、好き、とか言うからだろ」
「いや、だって…」
頬を染めて口をもごもごとさせる姿に何とも言えない感情が湧き上がり、胸を占める。
あの日から、あまり好きという言葉をお互い出して来なかった。特別な言葉にしたいという、ちょっと女々しいかもしれねぇけど、そう思って、軽々しく言いたくなかった。
フイっと視線を逸らして「行くか」と言えば、視界の端で小さく頷くのが見えた。
少しだけ、緊張が和らいでいた。
場地さんの元へ行き、丁寧に掃除をして、持って来た花とペヤングを添えて、線香に火を付けて二人で手を合わせた。
目を瞑り、心の中で挨拶をしてから今日、平野を紹介したい事を告げると、柔らかな風に乗って、微かに線香の香りが薫った。
「場地さん、平野ッス」
そう言葉にしてから、なんて言ったらいいか分からず、口ごもってしまう。またドクドクと心臓が早くなり、緊張して来てしまった。
平野は「え、それだけ…?」とオレの顔を見て来るが、言葉が出て来ない。伝えたい事がありすぎて、分からなくなってしまった。
根拠なんかねぇけど、運命って言葉を信じたくなるような女だって思うけど、恥ずかしくて口には出来ないし、沢山の出会いの中から、たった一人に巡り会えた事に喜びを感じている事も絶対ぇに言えないし、何も言えない。
「…平野です。場地さんの話は松野君から耳にタコが出来るほど、毎日聞いています」
勝手に喋り出した平野に、耳にタコが出来るほど話してねぇだろと突っ込みたくなるが、黙って耳を傾ける。
「腹減ったら車にガソリン撒いて火つけちゃうとか、眠いとすれ違った人殴るとか、ぶっ飛んだ人だって聞いてます。今、機嫌悪くないですか?もし、機嫌が悪ければ、殴られたくないので、そこのペヤング食べて機嫌直して下さい」
何言ってんだ、コイツと言う目で彼女を見ると、横目でオレを見てから、小さく頷いた。きっと、自分で話させて欲しいという意味だと思い、そのまま黙っている。
「ぶっ飛んだ人だけど、誰よりも真っ直ぐで強くてカッケェ人だったとも聞いています。松野君の人生を変えた人だとも。場地さん、松野君と出逢ってくれて、ありがとうございます」
場地さんに向けて頭を下げた彼女に呆気に取られる。
「真っ直ぐで強くて、太陽みたいな松野君に私は救われました。そんな強い松野君だけど、たまに危なかっしくて、消えてしまいそうな時もあります。そんな時は私が傍に居たいと思います。私だけじゃ頼りないかもしれないので、場地さんも空から見守っていて欲しいです」
初めて聞いた、彼女の本音に胸が苦しくなる。
この日になると、悔しくて、悲しくて、場地さんに会いたくて、まるで、止むことの無い土砂降りの中に居るようで苦しくて一人で泣いていた。
まだ、悲しく思う事も、場地さんに会いたいと思う日もあるけれど、この先はもう一人で泣くこともない。彼女がいつだって、傍に居てくれるだろうから。
平野はオレは太陽みたいだと言ってくれた。いつも、オレを見て優しく柔らかい笑みを浮かべる彼女は月みたいだと思う。
オレが暗闇にいる時は、彼女がぼんやりと優しい光で照らしてくれる。
逆に彼女が暗闇に居るのなら、オレが強い光で照らしてやりたい。
太陽と月、交わらないような気もする、相反したモノだけれど、一緒に居れば、暗闇に沈む事はない。
「楓、好きだ」
大きな声で場地さんに届くくらいに伝えたい。
オレの世界をひっくり返えしてしまうほど、好きだと。
今日という特別な日に、彼女が隣に居てくれて良かった。
初めて呼んだ名前に彼女は最初、驚いたように目を見開いたけど、すぐに嬉しそうに笑った。
「私も千冬が好きだよ」
微笑む彼女の後ろには、晴れ渡っている青い空があった。
場地さんがオレらを見守ってくれているような、優しい青空が広がっていた。
18/18ページ