恋時雨
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時間は無情にも過ぎ朝が来てしまった。あの後、なんとか家に辿り着いて暖かいシャワーを浴びても気持ちは晴れることはなく、モヤモヤは残ったまま。無理矢理にも寝ようと試みるも、一睡も出来ずにケータイのアラームの音が聞こえて来てしまった。
重い体を起こして鏡で自分の顔を見てみると、そこにはあまりにも酷い顔の自分が映っていて驚愕した。化粧でなんとか誤魔化してみたが、流石に泣き腫れた目は誤魔化せなかった。
制服に着替えて家を出たものの、学校に行く気にもならず、駅とは真逆の方向へと足を向けていた。重い足取りでフラフラと歩いていると
以前、松野君に私の過去を打ち明けた公園が見えて来た。
懐かしく思えて、誘われるように公園に足を踏み入れた。奥に進んで行くと、バスケットボール特有の跳ねる音がして、フと視線を向けるとそこには懐かしい後ろ姿があった。その後ろ姿は綺麗なシュートフォームでボールを放ち、ボールは綺麗な孤を描いてゴールに吸い込まれていった。昔、好きだったその姿に釘付けになってしまい、動けずにいた。落ちたボールを拾って、汗を拭いながら振り返った彼と目が合ってしまい、心臓がドキッと跳ねた。
「…楓?」
「お久しぶり、です。センパイ…」
あの頃、大好きだった先輩を目の前にしてあの時のような初々しい恋心が戻ってくる訳でもなく、懐かしさと少しだけの寂しさを感じた。お互いぎこちなく挨拶をしてから、沈黙が訪れた。すると、先輩は私の顔を見て驚いたように目を見開いて近付いて来た。
「その顔、どうした?」
「あ…やっぱり不細工ですよね?」
「いや、不細工とは言ってないけど。…泣いてたのか?」
「昨日、ちょっと色々あって」
「何かあったの?あ、無理に話さなくても良いけど」
心配そうに眉を下げてそう聞いてくれた先輩に昨日の事を話してしまった。1人で抱えるには少し荷が重過ぎた。全てを話し終わった後、また胸が痛くなって来てしまい、誤魔化すように小さく乾いた笑いを漏らした。
「センパイも私を振った時、こんな気持ちでしたか?」
「うん、苦しかったよ。凄く胸が痛かった」
「人をフるってこんなにも苦しい事なんですね」
「なんでそんなに苦しいの?」
「…え?」
先輩は私の顔を真剣に見つめて来た。その真っ直ぐな瞳から目を逸らす事が出来なくなってしまう。ただ黙って彼の瞳を見つめ返す事しか出来なかった。
「オレはこんなにも苦しい理由をちゃんと知ってる。他の人じゃこんな風にはならない。楓じゃなきゃ、こんなにも苦しくなかったよ」
「…それってどういう意味、ですか」
「楓の事が誰よりも大切だったから」
そう言い切る先輩の言葉に涙が滲み、ハラハラとこぼれ落ちて、太腿の上で握りしめた拳にぽたぽたと落ちていく。そして、先輩は私の心臓の辺りを拳で軽くトンっと叩いた。
「楓のココ、今、スゲェ痛てぇよな?」
声にはならず、必死に何度も頷いた。
傷付く事が怖くて自分の気持ちから目を逸らしてきた。その結果、松野君を傷付けた。傷付いた彼の顔や声色を思い出してズキズキと胸が痛くて苦しくなる。この痛みや苦しみは傷付けてしまった事への罪悪感だと思っていたけど、それだけじゃない。この胸の痛みはきっと、先輩と同じ。
「もう、自分の中で答えは出てるだろ?」
「でも、私、凄く松野君を傷付けた。もう、口も聞いて貰えないんじゃないかって思うと、会うのが怖い…」
「こうして、2人がすれ違っている間に、その人の気持ちも変わっていくかもしれない。それでもいいの?」
松野君が私を好きじゃなくなる。それは、もう彼の隣に居られない。太陽のような笑顔を向けて貰えなくなる。あの暖かい手も柔らかい声で私を呼ぶ事も全部無くなってしまう。それを私は本当に理解出来ていたの?覚悟の上でのごめんなさいだったの?そう自分に問い掛ける。
「そんなのヤダ。私、松野君と一緒に居たい」
「時間は待ってはくれないんだ。今の自分の気持ちに正直に生きなきゃ、絶対に後悔する」
もう既に後悔ばかりしているのだから、これ以上後悔なんてしたって仕方がないでしょう。ここで松野君に本気でぶつからなきゃ、きっと今後の人生も含めて一番後悔する。
「楓にはちゃんと幸せになって欲しいんだ」
昔のように優しく微笑む先輩に何度もありがとうと言った。ここで先輩に会わなければ、私はずっと一人で迷って後悔して生きていく事になっていたかもしれない。
「幸せにとかオレが言えた事じゃないかもしれないけど…。オレの所為でたくさん泣かせて、傷を負わせてごめん」
「違うよ、センパイのせいなんかじゃないよ」
「…うん、ありがとう。楓のせいでもないんだよ。だから、もう必要以上に自分が弱いせいって責めないで」
先輩は昔のように優しくゆっくりと子供をあやす様に頭を撫でた。少しずつ心の蟠りが取れて、ほんの少しだけど昔の事を思い出しても苦しくなったりしなかった。先輩と過ごした思い出は優しくてキラキラしていた事をちゃんと思い出せた。昔を思い出させる彼の仕草が懐かしいのと同時に松野君の髪の毛が乱れるくらい雑な撫で方だったけど、物凄く暖かった手を思い出して恋しくなった。
怖い気持ちもあるけど、私の本当の気持ちを真っ向からぶつけたいと、松野君と一緒に前を向いて生きていきたいと思った。そう思ったら、無性に松野君に会いたくなった。
「私の為に振ってくれた事、ちゃんと知ってます。あの時は、私を守ってくれてありがとうございました」
私は先輩に頭を下げてから、彼に笑顔を向けた。最後に残る顔は泣き顔なんて嫌だと思ったから。私達にとって綺麗な思い出なんて無かった、なんて思って欲しくないって初めて思えたんだ。すると、彼も柔らかく笑ってくれた。心の中にあった重くて固いモノが解れてスっと軽くなった。苦しかった事、傷付いた事、全てを受け入れて前に進めるような気がした。そうした時、ようやく本当の自分として松野君の前に立てるような気がする。
「センパイの事、大好きでした」
「…オレも大好きだったよ」
もう一度、先輩に頭を下げて、心の中であの頃の自分と目の前にいる先輩にサヨナラを告げた。
重い体を起こして鏡で自分の顔を見てみると、そこにはあまりにも酷い顔の自分が映っていて驚愕した。化粧でなんとか誤魔化してみたが、流石に泣き腫れた目は誤魔化せなかった。
制服に着替えて家を出たものの、学校に行く気にもならず、駅とは真逆の方向へと足を向けていた。重い足取りでフラフラと歩いていると
以前、松野君に私の過去を打ち明けた公園が見えて来た。
懐かしく思えて、誘われるように公園に足を踏み入れた。奥に進んで行くと、バスケットボール特有の跳ねる音がして、フと視線を向けるとそこには懐かしい後ろ姿があった。その後ろ姿は綺麗なシュートフォームでボールを放ち、ボールは綺麗な孤を描いてゴールに吸い込まれていった。昔、好きだったその姿に釘付けになってしまい、動けずにいた。落ちたボールを拾って、汗を拭いながら振り返った彼と目が合ってしまい、心臓がドキッと跳ねた。
「…楓?」
「お久しぶり、です。センパイ…」
あの頃、大好きだった先輩を目の前にしてあの時のような初々しい恋心が戻ってくる訳でもなく、懐かしさと少しだけの寂しさを感じた。お互いぎこちなく挨拶をしてから、沈黙が訪れた。すると、先輩は私の顔を見て驚いたように目を見開いて近付いて来た。
「その顔、どうした?」
「あ…やっぱり不細工ですよね?」
「いや、不細工とは言ってないけど。…泣いてたのか?」
「昨日、ちょっと色々あって」
「何かあったの?あ、無理に話さなくても良いけど」
心配そうに眉を下げてそう聞いてくれた先輩に昨日の事を話してしまった。1人で抱えるには少し荷が重過ぎた。全てを話し終わった後、また胸が痛くなって来てしまい、誤魔化すように小さく乾いた笑いを漏らした。
「センパイも私を振った時、こんな気持ちでしたか?」
「うん、苦しかったよ。凄く胸が痛かった」
「人をフるってこんなにも苦しい事なんですね」
「なんでそんなに苦しいの?」
「…え?」
先輩は私の顔を真剣に見つめて来た。その真っ直ぐな瞳から目を逸らす事が出来なくなってしまう。ただ黙って彼の瞳を見つめ返す事しか出来なかった。
「オレはこんなにも苦しい理由をちゃんと知ってる。他の人じゃこんな風にはならない。楓じゃなきゃ、こんなにも苦しくなかったよ」
「…それってどういう意味、ですか」
「楓の事が誰よりも大切だったから」
そう言い切る先輩の言葉に涙が滲み、ハラハラとこぼれ落ちて、太腿の上で握りしめた拳にぽたぽたと落ちていく。そして、先輩は私の心臓の辺りを拳で軽くトンっと叩いた。
「楓のココ、今、スゲェ痛てぇよな?」
声にはならず、必死に何度も頷いた。
傷付く事が怖くて自分の気持ちから目を逸らしてきた。その結果、松野君を傷付けた。傷付いた彼の顔や声色を思い出してズキズキと胸が痛くて苦しくなる。この痛みや苦しみは傷付けてしまった事への罪悪感だと思っていたけど、それだけじゃない。この胸の痛みはきっと、先輩と同じ。
「もう、自分の中で答えは出てるだろ?」
「でも、私、凄く松野君を傷付けた。もう、口も聞いて貰えないんじゃないかって思うと、会うのが怖い…」
「こうして、2人がすれ違っている間に、その人の気持ちも変わっていくかもしれない。それでもいいの?」
松野君が私を好きじゃなくなる。それは、もう彼の隣に居られない。太陽のような笑顔を向けて貰えなくなる。あの暖かい手も柔らかい声で私を呼ぶ事も全部無くなってしまう。それを私は本当に理解出来ていたの?覚悟の上でのごめんなさいだったの?そう自分に問い掛ける。
「そんなのヤダ。私、松野君と一緒に居たい」
「時間は待ってはくれないんだ。今の自分の気持ちに正直に生きなきゃ、絶対に後悔する」
もう既に後悔ばかりしているのだから、これ以上後悔なんてしたって仕方がないでしょう。ここで松野君に本気でぶつからなきゃ、きっと今後の人生も含めて一番後悔する。
「楓にはちゃんと幸せになって欲しいんだ」
昔のように優しく微笑む先輩に何度もありがとうと言った。ここで先輩に会わなければ、私はずっと一人で迷って後悔して生きていく事になっていたかもしれない。
「幸せにとかオレが言えた事じゃないかもしれないけど…。オレの所為でたくさん泣かせて、傷を負わせてごめん」
「違うよ、センパイのせいなんかじゃないよ」
「…うん、ありがとう。楓のせいでもないんだよ。だから、もう必要以上に自分が弱いせいって責めないで」
先輩は昔のように優しくゆっくりと子供をあやす様に頭を撫でた。少しずつ心の蟠りが取れて、ほんの少しだけど昔の事を思い出しても苦しくなったりしなかった。先輩と過ごした思い出は優しくてキラキラしていた事をちゃんと思い出せた。昔を思い出させる彼の仕草が懐かしいのと同時に松野君の髪の毛が乱れるくらい雑な撫で方だったけど、物凄く暖かった手を思い出して恋しくなった。
怖い気持ちもあるけど、私の本当の気持ちを真っ向からぶつけたいと、松野君と一緒に前を向いて生きていきたいと思った。そう思ったら、無性に松野君に会いたくなった。
「私の為に振ってくれた事、ちゃんと知ってます。あの時は、私を守ってくれてありがとうございました」
私は先輩に頭を下げてから、彼に笑顔を向けた。最後に残る顔は泣き顔なんて嫌だと思ったから。私達にとって綺麗な思い出なんて無かった、なんて思って欲しくないって初めて思えたんだ。すると、彼も柔らかく笑ってくれた。心の中にあった重くて固いモノが解れてスっと軽くなった。苦しかった事、傷付いた事、全てを受け入れて前に進めるような気がした。そうした時、ようやく本当の自分として松野君の前に立てるような気がする。
「センパイの事、大好きでした」
「…オレも大好きだったよ」
もう一度、先輩に頭を下げて、心の中であの頃の自分と目の前にいる先輩にサヨナラを告げた。