恋時雨
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
江ノ島を出て、人気の少ない所まで歩いて来ると松野くんはピタリと足を止めた。そして、私の方へ振り返った。振り返った彼の顔は怒りに満ちていて、目尻を釣り上げた瞳で私を見た。
「オマエ、何で言い返さねぇんだよ!あんな風に言われて悔しくねぇのかよ!?」
初めて聞く、私への怒りの声に顔を上げられない。私だって最初は言い返したんだよ。私なりに頑張ったんだよ。そう言いたいのに口を開いたら、もっと泣いてしまいそうで下唇を噛み締めてただ、俯く事しか出来なかった。そんな様子の私に更にイラついたのか、彼女らと私への怒りを爆発させていた。
「そうやって何も言わねぇから、アイツらが調子に乗んだよ!オマエも少しは強くなれよ!」
その言葉を聞いた瞬間に私の中で何かが弾けた。何かを考える前に手は勝手に動いて、頭に被さっていた上着を松野くんに向けて投げ付けてしまった。八つ当たりなのは分かっている。まずは、助けてくれたお礼を言うべきなのも頑張ったんだよと一言言えば彼だって分かってくれる事も分かっているのに自分でも止められない。全ての感情のコントロールが出来なくなったまま、私は松野くんに怒鳴り返してしまう。
「私だって最初は言い返したよ!今日も、あの時だって!でも、余計に酷くなるだけだった!」
もうこれ以上は止めようと頭では思うし、私だって話したくない。思い出したくもない事なのに口は勝手に動いてしまう。
「松野くんは、トイレに閉じ込められて上から水をかけられて濡れたまま一晩トイレで過ごした事ある!?焼却炉に捨てられた教科書を取りに行ったら焼却炉に押し込まれて、そのまま焼かれちゃうかもしれないって恐怖感じた事あるっ!?」
本当は誰にも言いたくなかった。話すと言う事は、それら全てを思い出さなくてはならない行為だったから。喉が狭窄されて、呼吸がヒューヒューと高い音を鳴らしていた。今まで自分でも聞いたことの無い音を立てていた。そんな私の様子を見て松野くんは「悪ぃ…」と呟いた。
「それも全部、弱い私が悪いの…?」
堪えきれず、一筋の涙が頬を伝うと同時に松野くんは私の頭部を右手で抱きすくめて自分の胸へと押し当てた。頭上の上から聞こえる「ごめん。もう、それ以上言わなくていいから」という声に余計に感情がゴチャゴチャになってしまう。松野くんは謝ってくれているし、私も謝らなければと思うのに、ずっと重い石で塞き止められていた感情が一度、溢れ出してしまって、止める術が分からなかった。
「最初から強い松野くんには私の気持ちなんて分からないよっ!」
そう叫んで、抱きすくめてくれていた彼の胸を力いっぱい押し返した。その勢いで数歩下がった松野くんと目が合うと、彼は悲しそうな瞳で私を見ていた。いつもは透き通るように綺麗な碧が今日は悲しみに染められて暗くなっているような気がした。まるで、自分の心が映し出されたかのような気がしてならなかった。そんな目で私を見ないでよ、惨めになる。その瞳から逃れたくて、私は踵を返してその場から走り去った。
さっきまでは、綺麗に見えていた夕焼けも沈んで辺りは暗闇に包まれていて、どれだけ走ってもどこへ逃げても永遠にこの暗闇から抜け出せないような感覚に陥ってしまい、怖くなる。ひたすら、走り続けて息も切れて肺が痛い。口の中には鉄の味が広がって気分が悪くなる。疲労でうまく動かなくなった足を引きずりながらも、近くにあった公園まで歩いた。滑り台の横にあるベンチに腰掛けて深くため息をついて乱れた呼吸を整え、滴る汗を腕で拭う。拭いても拭いても流れ落ちてくるのは汗なんかじゃなかった。頬を伝う雫は膝に落ちて衣服に染みを作っていく。
松野くんの悲しそうな瞳が脳裏にこびり付いて離れない。思い出す度に胸がズキズキと痛み出す。初めて自分を必要だと言ってくれた友達を突き放してしまった。私の気持ちなんて分からないなんて、ひどい事を言ってしまった。彼はいつだって私の気持ちに寄り添って、理解しようと真剣に向き合ってくれていたのに。そんな松野くんの気持ちを踏みにじるような事を言ってしまって、謝る事も出来ずに逃げ出した。
「もう、消えちゃいたい…」
小さく呟いた言葉は遠く暗い世界にこぼれ落ちて行った。
「オマエ、何で言い返さねぇんだよ!あんな風に言われて悔しくねぇのかよ!?」
初めて聞く、私への怒りの声に顔を上げられない。私だって最初は言い返したんだよ。私なりに頑張ったんだよ。そう言いたいのに口を開いたら、もっと泣いてしまいそうで下唇を噛み締めてただ、俯く事しか出来なかった。そんな様子の私に更にイラついたのか、彼女らと私への怒りを爆発させていた。
「そうやって何も言わねぇから、アイツらが調子に乗んだよ!オマエも少しは強くなれよ!」
その言葉を聞いた瞬間に私の中で何かが弾けた。何かを考える前に手は勝手に動いて、頭に被さっていた上着を松野くんに向けて投げ付けてしまった。八つ当たりなのは分かっている。まずは、助けてくれたお礼を言うべきなのも頑張ったんだよと一言言えば彼だって分かってくれる事も分かっているのに自分でも止められない。全ての感情のコントロールが出来なくなったまま、私は松野くんに怒鳴り返してしまう。
「私だって最初は言い返したよ!今日も、あの時だって!でも、余計に酷くなるだけだった!」
もうこれ以上は止めようと頭では思うし、私だって話したくない。思い出したくもない事なのに口は勝手に動いてしまう。
「松野くんは、トイレに閉じ込められて上から水をかけられて濡れたまま一晩トイレで過ごした事ある!?焼却炉に捨てられた教科書を取りに行ったら焼却炉に押し込まれて、そのまま焼かれちゃうかもしれないって恐怖感じた事あるっ!?」
本当は誰にも言いたくなかった。話すと言う事は、それら全てを思い出さなくてはならない行為だったから。喉が狭窄されて、呼吸がヒューヒューと高い音を鳴らしていた。今まで自分でも聞いたことの無い音を立てていた。そんな私の様子を見て松野くんは「悪ぃ…」と呟いた。
「それも全部、弱い私が悪いの…?」
堪えきれず、一筋の涙が頬を伝うと同時に松野くんは私の頭部を右手で抱きすくめて自分の胸へと押し当てた。頭上の上から聞こえる「ごめん。もう、それ以上言わなくていいから」という声に余計に感情がゴチャゴチャになってしまう。松野くんは謝ってくれているし、私も謝らなければと思うのに、ずっと重い石で塞き止められていた感情が一度、溢れ出してしまって、止める術が分からなかった。
「最初から強い松野くんには私の気持ちなんて分からないよっ!」
そう叫んで、抱きすくめてくれていた彼の胸を力いっぱい押し返した。その勢いで数歩下がった松野くんと目が合うと、彼は悲しそうな瞳で私を見ていた。いつもは透き通るように綺麗な碧が今日は悲しみに染められて暗くなっているような気がした。まるで、自分の心が映し出されたかのような気がしてならなかった。そんな目で私を見ないでよ、惨めになる。その瞳から逃れたくて、私は踵を返してその場から走り去った。
さっきまでは、綺麗に見えていた夕焼けも沈んで辺りは暗闇に包まれていて、どれだけ走ってもどこへ逃げても永遠にこの暗闇から抜け出せないような感覚に陥ってしまい、怖くなる。ひたすら、走り続けて息も切れて肺が痛い。口の中には鉄の味が広がって気分が悪くなる。疲労でうまく動かなくなった足を引きずりながらも、近くにあった公園まで歩いた。滑り台の横にあるベンチに腰掛けて深くため息をついて乱れた呼吸を整え、滴る汗を腕で拭う。拭いても拭いても流れ落ちてくるのは汗なんかじゃなかった。頬を伝う雫は膝に落ちて衣服に染みを作っていく。
松野くんの悲しそうな瞳が脳裏にこびり付いて離れない。思い出す度に胸がズキズキと痛み出す。初めて自分を必要だと言ってくれた友達を突き放してしまった。私の気持ちなんて分からないなんて、ひどい事を言ってしまった。彼はいつだって私の気持ちに寄り添って、理解しようと真剣に向き合ってくれていたのに。そんな松野くんの気持ちを踏みにじるような事を言ってしまって、謝る事も出来ずに逃げ出した。
「もう、消えちゃいたい…」
小さく呟いた言葉は遠く暗い世界にこぼれ落ちて行った。