恋時雨
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「1人じゃないから」
そう真っ直ぐに言い放てば、笑っていた彼女らは、ピタリと止まり私を見た。
「は?」
「友達と来てる」
「じゃあ、その友達とやらはどこにいんのよ」
「今はいないけど、すぐに戻って来るから」
「はいはい、嘘とかいいから」
「嘘なんかじゃ…!」
否定しようとすると、胸元の衣服を掴まれた。その行為に昔、そうされた事がフラッシュバックしてしまい、足がすくんで来てしまった。
「ねぇ。また、いじめてあげようか?」
その言葉に一気に目の前が真っ暗になってしまった。ほんの一握りくらいの勇気なんかじゃ、それを跳ね返すほどの力はなかった。また、あの日々が戻って来るのだろうか。そんなの嫌だ。胸元を離された瞬間に無意識に後ろへ数歩下がってしまった。
たった一言で、前を向こうとしていた気持ちが消されてしまう。松野くんが何度もたくさんの言葉をくれたというのに、崩れ去るのはたった一瞬だ。
もう、嫌になる。こんな弱い自分が。あぁ、泣きたくなんてないのに。涙がこぼれそうだ。目の形に縁取るように涙が溜まっていく。せめて、泣き顔だけでも見られないようにと下を向いて、必死に堪える。俯いていると、頭に何かが被されたと思ったら、目の前に誰かがいる気配がした。
「誰、アンタ」
「平野のダチ」
「ダチ?本当にコイツと友達やってんの?」
「友達なんてやめた方がいいよ。中学の時、ずっといじめられてた子だよ」
「関わらない方がいいって」
また、あの甲高い笑い声が聞こえてきて、耳を塞ぎたくなる。何でこうも全部奪おうとするのだろう。私、そんな悪い事した?そう思うのに何も言い返せない自分に腹が立って仕方がない。
「それって、オマエらが低レベルって自己紹介かなんか?」
「はぁ?」
「1人に多数で好き勝手やって、マジでダセェな」
「そんな奴、庇う必要ある?」
「平野なんて存在が邪魔だし、要らない人間じゃん」
ギュッと唇を噛み締めて、涙を堪える。口の中には鉄の味が広がった。
本当にその通りだと思ってしまう。あの日、可哀想だと別れを告げられた私は彼にとっても要らない存在だった。そして、それまで仲が良かった友達にも見捨てられた。
スクールカーストの上位にいた、彼女らに目を付けられたくなかったのだろう。
きっと、そんな彼女らに言い返せないのは、自分の立場や心が弱いというせいだけではない。自分でも自分の事が要らない存在だって認めてしまっているから。
悲しい、悔しい、惨め、そんな感情よりも一番大きい感情は”寂しい”だった。
独りが辛かった。誰にも話せない。私の話なんて誰も聞いてはくれない。その現実が寂しかった。
「平気でそんな事言えるテメェらの方が要らねぇよ。それに、オレには平野が必要だから」
松野くんの言葉に我慢していた涙は溢れ出し、大粒の涙がただただ下に流れ落ちていった。頭に被せてくれた、松野くんの上着のおかげで、きっと泣き顔は見えないはずだ。ここで、彼が頭に被せてくれた理由を知る。どこまでも優しい彼に更に涙は溢れ、とどまることを知らなかった。
彼に手を引かれ、その場を離れた。手を引かれている間もひたすら泣きながら歩いた。
本当は知っていたんだ。あの人が私に「可哀想」だと言って別れてから、いじめの主犯格の彼女らに「もう、別れたから何もしないで欲しい」と頭を下げてくれていた事。そのおかげで、彼女らからのいじめはなくなった。だから、彼が悪くないのも別れを告げたのも優しさだったという事も本当は知っている。
だけど、一度崩れてしまったものは簡単には元に戻らない。いじめがなくなったって、独りなのは変わらなかった。私は、弱くてズルイ人間だから誰かのせいにしていなきゃ、まともに立っていられなかったんだ。
出来る事なら、誰かのせいにしていたかった訳でもないし、こんなドロドロとした感情をいつまでも抱いていたかった訳でもない。
ただ、私はあの時、可哀想なんて言葉じゃなくて、松野くんが先程言ってくれたような言葉が欲しかっただけだった。それだけで、きっと心は救われた。だって、必要だというたった一言がこんなにも震えるくらいに嬉しくて、尊いものだったから。
もっと早く、松野くんに出会いたかった。
その言葉は声にはならなかったけれど、彼の存在を確かめるように、触れている指先に力を込めた。
そう真っ直ぐに言い放てば、笑っていた彼女らは、ピタリと止まり私を見た。
「は?」
「友達と来てる」
「じゃあ、その友達とやらはどこにいんのよ」
「今はいないけど、すぐに戻って来るから」
「はいはい、嘘とかいいから」
「嘘なんかじゃ…!」
否定しようとすると、胸元の衣服を掴まれた。その行為に昔、そうされた事がフラッシュバックしてしまい、足がすくんで来てしまった。
「ねぇ。また、いじめてあげようか?」
その言葉に一気に目の前が真っ暗になってしまった。ほんの一握りくらいの勇気なんかじゃ、それを跳ね返すほどの力はなかった。また、あの日々が戻って来るのだろうか。そんなの嫌だ。胸元を離された瞬間に無意識に後ろへ数歩下がってしまった。
たった一言で、前を向こうとしていた気持ちが消されてしまう。松野くんが何度もたくさんの言葉をくれたというのに、崩れ去るのはたった一瞬だ。
もう、嫌になる。こんな弱い自分が。あぁ、泣きたくなんてないのに。涙がこぼれそうだ。目の形に縁取るように涙が溜まっていく。せめて、泣き顔だけでも見られないようにと下を向いて、必死に堪える。俯いていると、頭に何かが被されたと思ったら、目の前に誰かがいる気配がした。
「誰、アンタ」
「平野のダチ」
「ダチ?本当にコイツと友達やってんの?」
「友達なんてやめた方がいいよ。中学の時、ずっといじめられてた子だよ」
「関わらない方がいいって」
また、あの甲高い笑い声が聞こえてきて、耳を塞ぎたくなる。何でこうも全部奪おうとするのだろう。私、そんな悪い事した?そう思うのに何も言い返せない自分に腹が立って仕方がない。
「それって、オマエらが低レベルって自己紹介かなんか?」
「はぁ?」
「1人に多数で好き勝手やって、マジでダセェな」
「そんな奴、庇う必要ある?」
「平野なんて存在が邪魔だし、要らない人間じゃん」
ギュッと唇を噛み締めて、涙を堪える。口の中には鉄の味が広がった。
本当にその通りだと思ってしまう。あの日、可哀想だと別れを告げられた私は彼にとっても要らない存在だった。そして、それまで仲が良かった友達にも見捨てられた。
スクールカーストの上位にいた、彼女らに目を付けられたくなかったのだろう。
きっと、そんな彼女らに言い返せないのは、自分の立場や心が弱いというせいだけではない。自分でも自分の事が要らない存在だって認めてしまっているから。
悲しい、悔しい、惨め、そんな感情よりも一番大きい感情は”寂しい”だった。
独りが辛かった。誰にも話せない。私の話なんて誰も聞いてはくれない。その現実が寂しかった。
「平気でそんな事言えるテメェらの方が要らねぇよ。それに、オレには平野が必要だから」
松野くんの言葉に我慢していた涙は溢れ出し、大粒の涙がただただ下に流れ落ちていった。頭に被せてくれた、松野くんの上着のおかげで、きっと泣き顔は見えないはずだ。ここで、彼が頭に被せてくれた理由を知る。どこまでも優しい彼に更に涙は溢れ、とどまることを知らなかった。
彼に手を引かれ、その場を離れた。手を引かれている間もひたすら泣きながら歩いた。
本当は知っていたんだ。あの人が私に「可哀想」だと言って別れてから、いじめの主犯格の彼女らに「もう、別れたから何もしないで欲しい」と頭を下げてくれていた事。そのおかげで、彼女らからのいじめはなくなった。だから、彼が悪くないのも別れを告げたのも優しさだったという事も本当は知っている。
だけど、一度崩れてしまったものは簡単には元に戻らない。いじめがなくなったって、独りなのは変わらなかった。私は、弱くてズルイ人間だから誰かのせいにしていなきゃ、まともに立っていられなかったんだ。
出来る事なら、誰かのせいにしていたかった訳でもないし、こんなドロドロとした感情をいつまでも抱いていたかった訳でもない。
ただ、私はあの時、可哀想なんて言葉じゃなくて、松野くんが先程言ってくれたような言葉が欲しかっただけだった。それだけで、きっと心は救われた。だって、必要だというたった一言がこんなにも震えるくらいに嬉しくて、尊いものだったから。
もっと早く、松野くんに出会いたかった。
その言葉は声にはならなかったけれど、彼の存在を確かめるように、触れている指先に力を込めた。