恋時雨
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仲見世通りを歩いていると、左右にズラリと並ぶお店に松野くんはキョロキョロしながら、「すげぇ!」と連呼している。飲食店やお土産屋さんが並び、お店からは食べ物の良い匂いがして、お腹が空いてくる。
「腹、減らねぇ?」
「何か食べようか」
1つのお店に入ってガッツリ食べるよりも、食べ歩きをして色々な物を食べようという事になり、散策をしながら、気になった所へ立ち寄って行く。
しらすまん、タコせんべい、お団子、ソフトクリームなど江ノ島名物や美味しそうな物を発見する度に片っ端から食べて行ったせいで、もうお腹は膨れてしまった。松野くんは、タコを丸ごと焼いたタコせんべいを気に入ったようで、もう1枚食べたいと言っていた。
フラフラと歩いていると、松野くんがジーッと一点を見つめている事に気付き、視線の先を見てみると、目の前でおじさんが海鮮を炭で焼いていた。
「食べたいの?」
「オレ、イカ好きなんだよ。炭焼きなんて美味いに決まってる」
「じゃあ、私はホタテのバター焼き買おうかな」
「お、それも美味そう」
それぞれ注文をして、目の前で焼いてもらった熱々のイカとホタテを受け取り、近くにあったベンチに腰掛けた。
いただきますの挨拶をしてから、2人で同時にかぶりついて、絶賛の声をあげた。
「やっぱ、イカは最高だな」
「そんなに好きなんだ」
「オレの夢は、のしいかポット買いなんだ」
「え?のしいかって駄菓子だよね?」
「おう、美味くね?」
「駄菓子の、のしいかってタラとかを擦り身にして伸ばしたやつなんじゃないの…?」
「は!?あれ、イカじゃねぇの!?」
「駄菓子のは違うと思うよ」
「詐欺じゃねぇか!」
若干キレ気味の松野くんに苦笑いが漏れる。知らずに食べてたんだ…。
「まぁ、美味いから、いっか」
「美味しいけど、ポット買いする程じゃなくない?」
「分かってねぇな。あのポットには夢が詰まってんだよ」
「はぁ…」
全くもって理解出来ない事に困惑の声を出せば、何で分からねぇの?と言いたげに、引いた顔で私を見ていた。分かる人の方が少ない気もするけど…。
松野くんは、時々ぶっ飛んでいると感じる事がある。でも、そこも嫌いじゃない。むしろ、好きかもしれない。
そう思いながら彼を見ると、パチッと目が合ってしまい、妙に照れくさくなって、勢いよく目を逸らした。
「は?何?」
「何でもないよ」
「じゃあ、何でそっぽ向くんだよ?」
「理由はないけど…」
「じゃあ、こっち向けよ」
顔を両手で挟まれ、無理矢理に松野くんの方へ向かされ、もう一度彼と目が合う。でも、今度は照れるよりも先に込み上げて来たのは別の感情。ブフッと吹き出して大声を上げて笑ってしまう。
「は?今度は何だよ」
「頬にタレ付いてるよ」
あんなに強引に向かせた癖に、イカのタレが頬に付いてたら、そりゃ笑ってしまう。口の周りならまだしも、何で頬にタレが付くのだろう。そんなの我慢出来るわけがない。慌てて拭こうとしても、全然違うところを擦っている彼が余計に笑えた。
「ここだよ」
バックの中からティッシュを取り出して、タレを拭いてあげると、今度は松野くんがパッと顔を逸らした。
「え?何?」
「何でもねぇ」
「じゃあ、なんでそっち向くの?」
「別に理由はねぇよ」
「じゃあ、こっち向いてよ」
さっきとは立場が逆転したやり取りを交わして、無理矢理にこちらを向かせると、彼は顔を真っ赤にさせていた。
「凄い真っ赤…」
「オマエのせいだろーが!」
「え?私、何かした?」
「バーーカ!」
「はぁ!?」
いきなり、馬鹿とは心外だ。頬にタレを付けている松野くんの方がよっぽどバカっぽい。
松野くんは「行くぞ!」と顔を真っ赤にさせたまま、勢いよく立ち上がって、先に歩いて行ってしまった。私も慌てて立ち上がって、彼の後を追い掛けた。
その後、上まで歩き、江島神社で参拝をして、更に上へと登り、展望台へ向かった。今日は天気も良く、富士山が海の向こうに見えて凄く綺麗で松野くんと2人で感動をした。
展望台を降りて、お土産屋さんを見ながらゆっくりと下へと戻った。その後は、砂浜で海を眺めたりしているうちに日が暮れて来た。
「ねぇ、行きたい所があるの。一緒に来て」
砂浜からまた、弁天橋を渡って江ノ島へと戻り、リゾートスパの横の道を歩く。歩いた先には階段があり、数段降りると海水が上がって来ていて、先はもう海になっている。
目の前に広がる光景は、海一面で水平線に浮かぶ夕日。こんなにも観光客で賑わっている中、ここだけは人が一人も居なくて、まるで美しい写真の中に飛び込んで来たような感覚になる。
「夕日と海を独り占め出来たように思えるでしょ?」
「あぁ。こんな所、あったんだな」
「1人になりたい時とか考え事する時、よくここに来てた。ここに来ると嫌な事とかこの瞬間だけは忘れられた。私にとって、凄く大事な場所なの」
「そんな大事な場所にオレを連れて来て良かったのか?」
「うん。松野くんと一緒にこの景色を見たいって思ったの。誰かと一緒に見たいって思ったのは初めて」
「…何で?」
「何でだろうね。自分の世界に他人が入ってくるのは、凄く嫌な筈なのに松野くんなら不思議と嫌じゃないの」
「そっか」
嬉しそうに笑う彼につられて私も笑った。松野くんと居ると胸が暖かくなって、優しい気持ちになれる。まるで氷を太陽の光で溶かしていくかのようだった。
ほわほわとしたこの感情は今までにない。若干の戸惑いさえ感じるほどだ。
この感覚は一体何だろう。得体の知れないものだが、嫌じゃないのは確かだ。
「日も落ちて来ると流石に寒ぃな」
「だね、上着着てても寒いね」
「ちょっと、ここで待ってろ。何か温かいモン買ってくる」
松野くんはそう言って、立ち上がって人混みの方へ行ってしまった。待っている間も日の落ちかけている海をボンヤリと眺めていた。
落ちる寸前のオレンジと黒の混ざり合っている色も好きだ。鮮やかなコントラストをなしていた。日によって色を変える空はずっと見ていても飽きない。
「あれ、平野?」
背後から聞こえてきたその声に、つい先程まで穏やかで心地良かった心が一気にざわめき始めた。全身が心臓になってしまったかのようにドクンドクンと激しく脈打つ。汗も一気に吹き出し、身体中を冷たくした。
「あ、本当だ。絶対に平野じゃん」
「こんな所でもボッチ?」
「可哀想〜」
聞こえて来るその声と笑い声が耳につく。可哀想なんて言っているがその声は楽しげで、嘲笑っていた。体が硬直して動かない。息の仕方も分からなくて、脳に酸素が送られず、上手く思考が回らない。何も考えられない癖に、思い出したくもない記憶が次々に蘇って来る。怖くて振り返ることもその場から逃げ出す事も出来ずに、このまま何処かへ行ってくれないかと願った。しかし、その願いも虚しく背後から足音が近付いてきた。
「平野のくせに無視してんじゃねぇよ」
後ろから肩を掴まれ無理矢理に振り向かされてしまい、彼女らの顔を見た瞬間に私の顔は酷く歪んだだろう。
「1人で何やってんの?キモいんですけど」
「高校でも相変わらずボッチなわけ?」
「人生悲惨〜」
ケラケラと笑っているこの3人組に吐き気を覚えた。私の人生をめちゃくちゃにしたのは自分たちの癖に。よく笑っていられるよね。私はこんなにも…。
少なからず、私の中であの頃とは違う事はある。どうしようもなかった感情の矛先を今なら、彼女たちにぶつける勇気が少しだけあるという事。
1人じゃ無理だった。でも、私の脳裏には、力強く、でも優しく笑う松野くんがいるからだ。本当は怖いし逃げ出したいけど、今、私は1人じゃないという事実が前を向く勇気をくれる。心の中で、松野くんから勇気を貰って、キュッと拳を握り締め、3人を真っ直ぐに見つめた。
「腹、減らねぇ?」
「何か食べようか」
1つのお店に入ってガッツリ食べるよりも、食べ歩きをして色々な物を食べようという事になり、散策をしながら、気になった所へ立ち寄って行く。
しらすまん、タコせんべい、お団子、ソフトクリームなど江ノ島名物や美味しそうな物を発見する度に片っ端から食べて行ったせいで、もうお腹は膨れてしまった。松野くんは、タコを丸ごと焼いたタコせんべいを気に入ったようで、もう1枚食べたいと言っていた。
フラフラと歩いていると、松野くんがジーッと一点を見つめている事に気付き、視線の先を見てみると、目の前でおじさんが海鮮を炭で焼いていた。
「食べたいの?」
「オレ、イカ好きなんだよ。炭焼きなんて美味いに決まってる」
「じゃあ、私はホタテのバター焼き買おうかな」
「お、それも美味そう」
それぞれ注文をして、目の前で焼いてもらった熱々のイカとホタテを受け取り、近くにあったベンチに腰掛けた。
いただきますの挨拶をしてから、2人で同時にかぶりついて、絶賛の声をあげた。
「やっぱ、イカは最高だな」
「そんなに好きなんだ」
「オレの夢は、のしいかポット買いなんだ」
「え?のしいかって駄菓子だよね?」
「おう、美味くね?」
「駄菓子の、のしいかってタラとかを擦り身にして伸ばしたやつなんじゃないの…?」
「は!?あれ、イカじゃねぇの!?」
「駄菓子のは違うと思うよ」
「詐欺じゃねぇか!」
若干キレ気味の松野くんに苦笑いが漏れる。知らずに食べてたんだ…。
「まぁ、美味いから、いっか」
「美味しいけど、ポット買いする程じゃなくない?」
「分かってねぇな。あのポットには夢が詰まってんだよ」
「はぁ…」
全くもって理解出来ない事に困惑の声を出せば、何で分からねぇの?と言いたげに、引いた顔で私を見ていた。分かる人の方が少ない気もするけど…。
松野くんは、時々ぶっ飛んでいると感じる事がある。でも、そこも嫌いじゃない。むしろ、好きかもしれない。
そう思いながら彼を見ると、パチッと目が合ってしまい、妙に照れくさくなって、勢いよく目を逸らした。
「は?何?」
「何でもないよ」
「じゃあ、何でそっぽ向くんだよ?」
「理由はないけど…」
「じゃあ、こっち向けよ」
顔を両手で挟まれ、無理矢理に松野くんの方へ向かされ、もう一度彼と目が合う。でも、今度は照れるよりも先に込み上げて来たのは別の感情。ブフッと吹き出して大声を上げて笑ってしまう。
「は?今度は何だよ」
「頬にタレ付いてるよ」
あんなに強引に向かせた癖に、イカのタレが頬に付いてたら、そりゃ笑ってしまう。口の周りならまだしも、何で頬にタレが付くのだろう。そんなの我慢出来るわけがない。慌てて拭こうとしても、全然違うところを擦っている彼が余計に笑えた。
「ここだよ」
バックの中からティッシュを取り出して、タレを拭いてあげると、今度は松野くんがパッと顔を逸らした。
「え?何?」
「何でもねぇ」
「じゃあ、なんでそっち向くの?」
「別に理由はねぇよ」
「じゃあ、こっち向いてよ」
さっきとは立場が逆転したやり取りを交わして、無理矢理にこちらを向かせると、彼は顔を真っ赤にさせていた。
「凄い真っ赤…」
「オマエのせいだろーが!」
「え?私、何かした?」
「バーーカ!」
「はぁ!?」
いきなり、馬鹿とは心外だ。頬にタレを付けている松野くんの方がよっぽどバカっぽい。
松野くんは「行くぞ!」と顔を真っ赤にさせたまま、勢いよく立ち上がって、先に歩いて行ってしまった。私も慌てて立ち上がって、彼の後を追い掛けた。
その後、上まで歩き、江島神社で参拝をして、更に上へと登り、展望台へ向かった。今日は天気も良く、富士山が海の向こうに見えて凄く綺麗で松野くんと2人で感動をした。
展望台を降りて、お土産屋さんを見ながらゆっくりと下へと戻った。その後は、砂浜で海を眺めたりしているうちに日が暮れて来た。
「ねぇ、行きたい所があるの。一緒に来て」
砂浜からまた、弁天橋を渡って江ノ島へと戻り、リゾートスパの横の道を歩く。歩いた先には階段があり、数段降りると海水が上がって来ていて、先はもう海になっている。
目の前に広がる光景は、海一面で水平線に浮かぶ夕日。こんなにも観光客で賑わっている中、ここだけは人が一人も居なくて、まるで美しい写真の中に飛び込んで来たような感覚になる。
「夕日と海を独り占め出来たように思えるでしょ?」
「あぁ。こんな所、あったんだな」
「1人になりたい時とか考え事する時、よくここに来てた。ここに来ると嫌な事とかこの瞬間だけは忘れられた。私にとって、凄く大事な場所なの」
「そんな大事な場所にオレを連れて来て良かったのか?」
「うん。松野くんと一緒にこの景色を見たいって思ったの。誰かと一緒に見たいって思ったのは初めて」
「…何で?」
「何でだろうね。自分の世界に他人が入ってくるのは、凄く嫌な筈なのに松野くんなら不思議と嫌じゃないの」
「そっか」
嬉しそうに笑う彼につられて私も笑った。松野くんと居ると胸が暖かくなって、優しい気持ちになれる。まるで氷を太陽の光で溶かしていくかのようだった。
ほわほわとしたこの感情は今までにない。若干の戸惑いさえ感じるほどだ。
この感覚は一体何だろう。得体の知れないものだが、嫌じゃないのは確かだ。
「日も落ちて来ると流石に寒ぃな」
「だね、上着着てても寒いね」
「ちょっと、ここで待ってろ。何か温かいモン買ってくる」
松野くんはそう言って、立ち上がって人混みの方へ行ってしまった。待っている間も日の落ちかけている海をボンヤリと眺めていた。
落ちる寸前のオレンジと黒の混ざり合っている色も好きだ。鮮やかなコントラストをなしていた。日によって色を変える空はずっと見ていても飽きない。
「あれ、平野?」
背後から聞こえてきたその声に、つい先程まで穏やかで心地良かった心が一気にざわめき始めた。全身が心臓になってしまったかのようにドクンドクンと激しく脈打つ。汗も一気に吹き出し、身体中を冷たくした。
「あ、本当だ。絶対に平野じゃん」
「こんな所でもボッチ?」
「可哀想〜」
聞こえて来るその声と笑い声が耳につく。可哀想なんて言っているがその声は楽しげで、嘲笑っていた。体が硬直して動かない。息の仕方も分からなくて、脳に酸素が送られず、上手く思考が回らない。何も考えられない癖に、思い出したくもない記憶が次々に蘇って来る。怖くて振り返ることもその場から逃げ出す事も出来ずに、このまま何処かへ行ってくれないかと願った。しかし、その願いも虚しく背後から足音が近付いてきた。
「平野のくせに無視してんじゃねぇよ」
後ろから肩を掴まれ無理矢理に振り向かされてしまい、彼女らの顔を見た瞬間に私の顔は酷く歪んだだろう。
「1人で何やってんの?キモいんですけど」
「高校でも相変わらずボッチなわけ?」
「人生悲惨〜」
ケラケラと笑っているこの3人組に吐き気を覚えた。私の人生をめちゃくちゃにしたのは自分たちの癖に。よく笑っていられるよね。私はこんなにも…。
少なからず、私の中であの頃とは違う事はある。どうしようもなかった感情の矛先を今なら、彼女たちにぶつける勇気が少しだけあるという事。
1人じゃ無理だった。でも、私の脳裏には、力強く、でも優しく笑う松野くんがいるからだ。本当は怖いし逃げ出したいけど、今、私は1人じゃないという事実が前を向く勇気をくれる。心の中で、松野くんから勇気を貰って、キュッと拳を握り締め、3人を真っ直ぐに見つめた。