恋時雨
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昨日、全教科のテストを無事に終えた。今は、テスト返却が行れている。テストが返って来る度に2人でドキドキしながら、答案用紙を開いて点数を確認しては、胸をなでおろしていた。今の所、赤点は1つもない。残すは後、1教科料のみ。コレが赤点じゃなければ、留年は回避出来るのだが…。
名前を呼ばれ、松野くんは教卓の前へ行き、先生から答案用紙を受け取り、席へ戻って来た。
「やべぇ、 テスト返却でこんな緊張すんの初めてなんだけど」
「私も他人のテストでこんなにドキドキするの初めて」
2人で深呼吸をしてから、松野くんはゆっくりと答案用紙を開く。用紙に書かれていた赤い教字は、65と書いてあった。その数字に腹の底から湧き上がってくる興奮を抑えられなかった。
「やった!やったね!松野くん!!」
「おう!平野のおかげだ!」
松野くんと手を取り合って、喜びを分かち合っていると、教室の前の方から咳払いが聞こえ、ふと我に返る。辺りを見渡せば、先生も生徒もみんなコチラを見ていた。一気に恥ずかしくなって、俯く。松野くんも居心地悪そうに舌打ちをした。
「オマエら、嬉しいのは分かるが、後にしろ」
「はい、すみません…」
先生のお叱りの声に私しか謝らないので、肘で松野くんをド突くが我関せず。結局、私が1人でペコペコと頭を下げる羽目になった。
松野くんが無事に進級出来そうなので、私はホッと胸を撫で下ろした。
*************
今日はテスト返却のみで学校は終わりなので、午前中で帰宅となり、松野くんと共に渋谷駅まで一緒に帰って来た。
「じゃあ、明日、10時に家に迎えに行くわ」
「バイクで行くの?」
「当然」
「そうですか…」
「あー、やっぱり嫌か?怖ぇなら、電車にするか」
「ううん、大丈夫。バイク乗るの初めてじゃないし」
「は?ちょ、オマエっ!誰の後ろだよ?男か!?」
「うん、そうだけど」
「…元彼か?」
「いや、お父さんですけど?」
「っンだよ!!紛らわしい言い方すんなよ!」
「どこが?」
「つーか、乗った事あんなら、最初から素直に乗れよ!何であの時、嫌がったんだよ?」
「お父さん免許持ってる、松野くん無免。この差よ!」
「あ、そっか」
「バカなの?」
松野くんは、ハハッと笑って「焦ったわ」と言った。何を焦ったのかは知らないけど、本当にこの人はアホすぎて呆れちゃうよ、全く。
「ほら、早く行けよ。電車来んぞ」
「あ、そうだね。じゃ、また明日ね!」
「おう、またな」
松野くんに見送られ、改札を通って電車に乗り、家へと帰った。
**********
当日、目覚ましが鳴る前に目が覚めてしまった。ケータイを開いて時間を確認すれば、まだ8時。集合の2時間前だ。2度寝出来ると思ったが、眠気はもうなかった為、布団から出た。
服装どうしよう。髪型は?化粧もする?って…バカみたい。デートじゃあるまいし。いつも通りでいいでしょ。どうせ、髪型もバイクに乗ったらヘルメット付けてグチャグチャになるし。
そう考えながら支度を始めるが、服装もなかなか決まらず、刻々と時間だけが過ぎていく。
早くしないと、約束の時間になってしまう。
でも、何故だろう。不思議と急ぐ気にならないのは。服だって選ぶの嫌いじゃないし、いつもなら直ぐに決まるのに。ベッドの上に散乱した衣類を見て、ため息をついた。
晴れないこの気持ちはきっと、未だに逃げ出したいからだ。でも、前を向くって決めた。心の中で松野くんの顔を思い浮かべる。いつも、私に向けてくれる笑顔を思い浮かべ、少し安心した。
大丈夫、松野くんが一緒だから大丈夫。
そう、自分に言い聞かせているうちに約束の時間になってしまいそうだったので、大慌てで着替えた。着替え終わるのと同時に遠くからバイクの排気音が聞こえ、徐々に近くなり、その音は家の前で止まった。そして、ケータイへ"着いた"とのメールが届いた。
下に降りて、玄関を開けると真っ黒なバイクに跨った真っ黒な服装の松野くんがが居た。
私に気付いた彼は、挨拶よりも先に口にしたのは「格好がやる気無さすぎだろ」だった。
私の今日の服装は白のパーカーに黒のスキニー、そしてスニーカーだ。季節は10月。10月と言えど、暑い日もあれば寒い日もあって、気候が様々だ。なので、無難な格好を選んだつもりだ。
「バイク乗るのに肌を出したら危ないでしょ?常識よ」
「いや、まぁ。そうだけどよ」
「でも、私も今、着替えようと思ったの」
「何で」
「松野くんとペアみたいだから」
そう、松野くんは黒のパーカーにグレーのMA-1、黒のスキニー、スニーカーという格好。上着を脱いだら、私とペアルックみたいになってしまう。地元でコレは普通に恥ずかしい。
「よし、これで行こう」
「やだ!無理!やだ!!」
「誰も見やしねぇよ」
「やだやだやだ!本当にやだ!」
「だーっ!うっせぇ!じゃあ、さっさと着替えて来いよ!」
「あ、でも、時間かかる…。着ていく服また迷っちゃう」
「じゃあ、オレが決めてやるよ」
そう言えば、松野くんはいつもお洒落だ。ここは、お洒落番長に任せた方が良いと判断し、任せる事にした。松野くんを家にあげ、部屋に入った瞬間に彼はドン引きの顔をした。
「ち、違うの!今日はたまたま散らかっちゃってるだけで…!いつもは綺麗でしょ!?」
「そうだけど、服くらい片付けて来いよ。オマエ、女だろ?」
「うっ…。おっしゃる通りで…」
服を選んでいるうちに時間がなくなり、慌てて飛び出したものだから、ベッドの上には大量の服が散乱したままだった。部屋に通すとは思っていなかった為、大誤算。ショックを受ける私を他所に松野くんは山積みになった服を漁り始め、1着の服を手に取った。
「これ、平野に似合いそう」
「え…あぁ、うん」
「何だよ、その微妙な反応」
「それ、元彼との初デートで着た服…」
「…今のナシ」
彼も似合いそうだねって言ってくれて、貯めていたお小遣いで買った真っ白なワンピース。
今では苦い思い出になってしまったこの服は、初デート以来1回も着ていない。捨てようとも思ったけど、捨てる勇気は出ず、ずっとクローゼットに眠っていた。
「コレでいーんじゃね?」
そう言って、見せてきたのはジーンズに白の無地のVネックシャツにカーキーのブルゾン。
「バイク女子に来て欲しい服No.1」
「へぇ。バイク男子統計?」
「いいや、オレ」
まさかのオレ1人ですか。雑誌とかネットの記事で見たとかそう言うのかと思ったら違うんだ。単に自分の好みの話なのね。
キラキラした眼差しで見られてしまったら、断れない。だって、何か犬みたいなんだもん。断ったら、犬をいじめてるみたいに思えてしまう。
「それにするよ」
その服を手に取ると、松野くんはニッコリ笑顔を見せた。ちょっと可愛いなんて思ってしまったのは、私だけの秘密。
出掛ける準備が整い、外に出てヘルメットを被って、松野くんの後ろに跨った。
「それじゃ、落ちるぞ」
「えっと、こう?」
肩に手を置くと、私の手を取り自分のお腹周りに手を持っていった。
「怪我したら困んだろ。しっかり捕まっとけよ」
「はい…」
流石にこの距離は近くないか…?何も考えずにバイクでいいって言ったけど、お父さんの後ろに乗るのと訳が違う事に今更気付いた。
「大丈夫か?」
その声に顔をあげれば、コチラを振り返っている松野くんと目が合った。丁度、太陽が彼と被っていて、まるで松野くんから光が出ているように見えて凄く眩しかった。大丈夫だと頷くと、ニッと笑って前を向きバイクを走らせた。
さっきの笑顔、凄く暖かかった。松野くんは太陽みたいな人だな。私とは対照的だ。一緒にいると救われるのと同時に自分とは違い過ぎて惨めに思う時もある。彼にはこんな悩みないんだろうな…。
ゆっくりと走り出すバイクは想像よりも安定していて、怖いとは思わなかった。景色を楽しむ余裕さえある。慣れてると言うのは本当だったようだ。
免許は無いが、運転技量はしっかりとお持ちのようで、江ノ島まであっという間に着いた。
近くの駐輪場へとバイクを停めて、江ノ島弁天橋を2人で歩く。その間、松野くんは大はしゃぎで「マジで島みてぇ!」と目を輝かしていた。橋の下は砂浜だが、打ち付ける波は意外にも大きくて、水しぶきをあげている。それを見て、松野くんは余計にはしゃいでいる。
海の景色と薫りを楽しみながら、橋を渡りきると、鳥居が現れ、弁天仲見世通りと呼ばれる大通りがある。江ノ島の夏は、観光と海水浴で大混雑しているが、今は秋。海水浴のお客さんは居ないので、人も減っているだろうと思っていたが、考えは甘かったようだ。仲見世通りには沢山の人で道が埋め尽くされていた。
「人多いな」
「だね」
少しだけ、うんざりしたような表情を浮かべた松野くんだったが、「ま、いっか」と呟いた。
なんの事だろうと不思議に思っていると、いきなり、左手を掴まれた。そのまま、グイグイと私の手を引っ張って、仲見世通りを進んで行く彼に戸惑いながらもついて行く。
「ちょっと、手…!」
「嫌だったら、振り払えよ」
私の方を一切見ずにそう言った。
そんな言い方するのはズルい。嫌だとは思わないし、振り払えるわけないじゃん。
私は、指先に力を込めて、握り締められた手をキュッと握り返した。
名前を呼ばれ、松野くんは教卓の前へ行き、先生から答案用紙を受け取り、席へ戻って来た。
「やべぇ、 テスト返却でこんな緊張すんの初めてなんだけど」
「私も他人のテストでこんなにドキドキするの初めて」
2人で深呼吸をしてから、松野くんはゆっくりと答案用紙を開く。用紙に書かれていた赤い教字は、65と書いてあった。その数字に腹の底から湧き上がってくる興奮を抑えられなかった。
「やった!やったね!松野くん!!」
「おう!平野のおかげだ!」
松野くんと手を取り合って、喜びを分かち合っていると、教室の前の方から咳払いが聞こえ、ふと我に返る。辺りを見渡せば、先生も生徒もみんなコチラを見ていた。一気に恥ずかしくなって、俯く。松野くんも居心地悪そうに舌打ちをした。
「オマエら、嬉しいのは分かるが、後にしろ」
「はい、すみません…」
先生のお叱りの声に私しか謝らないので、肘で松野くんをド突くが我関せず。結局、私が1人でペコペコと頭を下げる羽目になった。
松野くんが無事に進級出来そうなので、私はホッと胸を撫で下ろした。
*************
今日はテスト返却のみで学校は終わりなので、午前中で帰宅となり、松野くんと共に渋谷駅まで一緒に帰って来た。
「じゃあ、明日、10時に家に迎えに行くわ」
「バイクで行くの?」
「当然」
「そうですか…」
「あー、やっぱり嫌か?怖ぇなら、電車にするか」
「ううん、大丈夫。バイク乗るの初めてじゃないし」
「は?ちょ、オマエっ!誰の後ろだよ?男か!?」
「うん、そうだけど」
「…元彼か?」
「いや、お父さんですけど?」
「っンだよ!!紛らわしい言い方すんなよ!」
「どこが?」
「つーか、乗った事あんなら、最初から素直に乗れよ!何であの時、嫌がったんだよ?」
「お父さん免許持ってる、松野くん無免。この差よ!」
「あ、そっか」
「バカなの?」
松野くんは、ハハッと笑って「焦ったわ」と言った。何を焦ったのかは知らないけど、本当にこの人はアホすぎて呆れちゃうよ、全く。
「ほら、早く行けよ。電車来んぞ」
「あ、そうだね。じゃ、また明日ね!」
「おう、またな」
松野くんに見送られ、改札を通って電車に乗り、家へと帰った。
**********
当日、目覚ましが鳴る前に目が覚めてしまった。ケータイを開いて時間を確認すれば、まだ8時。集合の2時間前だ。2度寝出来ると思ったが、眠気はもうなかった為、布団から出た。
服装どうしよう。髪型は?化粧もする?って…バカみたい。デートじゃあるまいし。いつも通りでいいでしょ。どうせ、髪型もバイクに乗ったらヘルメット付けてグチャグチャになるし。
そう考えながら支度を始めるが、服装もなかなか決まらず、刻々と時間だけが過ぎていく。
早くしないと、約束の時間になってしまう。
でも、何故だろう。不思議と急ぐ気にならないのは。服だって選ぶの嫌いじゃないし、いつもなら直ぐに決まるのに。ベッドの上に散乱した衣類を見て、ため息をついた。
晴れないこの気持ちはきっと、未だに逃げ出したいからだ。でも、前を向くって決めた。心の中で松野くんの顔を思い浮かべる。いつも、私に向けてくれる笑顔を思い浮かべ、少し安心した。
大丈夫、松野くんが一緒だから大丈夫。
そう、自分に言い聞かせているうちに約束の時間になってしまいそうだったので、大慌てで着替えた。着替え終わるのと同時に遠くからバイクの排気音が聞こえ、徐々に近くなり、その音は家の前で止まった。そして、ケータイへ"着いた"とのメールが届いた。
下に降りて、玄関を開けると真っ黒なバイクに跨った真っ黒な服装の松野くんがが居た。
私に気付いた彼は、挨拶よりも先に口にしたのは「格好がやる気無さすぎだろ」だった。
私の今日の服装は白のパーカーに黒のスキニー、そしてスニーカーだ。季節は10月。10月と言えど、暑い日もあれば寒い日もあって、気候が様々だ。なので、無難な格好を選んだつもりだ。
「バイク乗るのに肌を出したら危ないでしょ?常識よ」
「いや、まぁ。そうだけどよ」
「でも、私も今、着替えようと思ったの」
「何で」
「松野くんとペアみたいだから」
そう、松野くんは黒のパーカーにグレーのMA-1、黒のスキニー、スニーカーという格好。上着を脱いだら、私とペアルックみたいになってしまう。地元でコレは普通に恥ずかしい。
「よし、これで行こう」
「やだ!無理!やだ!!」
「誰も見やしねぇよ」
「やだやだやだ!本当にやだ!」
「だーっ!うっせぇ!じゃあ、さっさと着替えて来いよ!」
「あ、でも、時間かかる…。着ていく服また迷っちゃう」
「じゃあ、オレが決めてやるよ」
そう言えば、松野くんはいつもお洒落だ。ここは、お洒落番長に任せた方が良いと判断し、任せる事にした。松野くんを家にあげ、部屋に入った瞬間に彼はドン引きの顔をした。
「ち、違うの!今日はたまたま散らかっちゃってるだけで…!いつもは綺麗でしょ!?」
「そうだけど、服くらい片付けて来いよ。オマエ、女だろ?」
「うっ…。おっしゃる通りで…」
服を選んでいるうちに時間がなくなり、慌てて飛び出したものだから、ベッドの上には大量の服が散乱したままだった。部屋に通すとは思っていなかった為、大誤算。ショックを受ける私を他所に松野くんは山積みになった服を漁り始め、1着の服を手に取った。
「これ、平野に似合いそう」
「え…あぁ、うん」
「何だよ、その微妙な反応」
「それ、元彼との初デートで着た服…」
「…今のナシ」
彼も似合いそうだねって言ってくれて、貯めていたお小遣いで買った真っ白なワンピース。
今では苦い思い出になってしまったこの服は、初デート以来1回も着ていない。捨てようとも思ったけど、捨てる勇気は出ず、ずっとクローゼットに眠っていた。
「コレでいーんじゃね?」
そう言って、見せてきたのはジーンズに白の無地のVネックシャツにカーキーのブルゾン。
「バイク女子に来て欲しい服No.1」
「へぇ。バイク男子統計?」
「いいや、オレ」
まさかのオレ1人ですか。雑誌とかネットの記事で見たとかそう言うのかと思ったら違うんだ。単に自分の好みの話なのね。
キラキラした眼差しで見られてしまったら、断れない。だって、何か犬みたいなんだもん。断ったら、犬をいじめてるみたいに思えてしまう。
「それにするよ」
その服を手に取ると、松野くんはニッコリ笑顔を見せた。ちょっと可愛いなんて思ってしまったのは、私だけの秘密。
出掛ける準備が整い、外に出てヘルメットを被って、松野くんの後ろに跨った。
「それじゃ、落ちるぞ」
「えっと、こう?」
肩に手を置くと、私の手を取り自分のお腹周りに手を持っていった。
「怪我したら困んだろ。しっかり捕まっとけよ」
「はい…」
流石にこの距離は近くないか…?何も考えずにバイクでいいって言ったけど、お父さんの後ろに乗るのと訳が違う事に今更気付いた。
「大丈夫か?」
その声に顔をあげれば、コチラを振り返っている松野くんと目が合った。丁度、太陽が彼と被っていて、まるで松野くんから光が出ているように見えて凄く眩しかった。大丈夫だと頷くと、ニッと笑って前を向きバイクを走らせた。
さっきの笑顔、凄く暖かかった。松野くんは太陽みたいな人だな。私とは対照的だ。一緒にいると救われるのと同時に自分とは違い過ぎて惨めに思う時もある。彼にはこんな悩みないんだろうな…。
ゆっくりと走り出すバイクは想像よりも安定していて、怖いとは思わなかった。景色を楽しむ余裕さえある。慣れてると言うのは本当だったようだ。
免許は無いが、運転技量はしっかりとお持ちのようで、江ノ島まであっという間に着いた。
近くの駐輪場へとバイクを停めて、江ノ島弁天橋を2人で歩く。その間、松野くんは大はしゃぎで「マジで島みてぇ!」と目を輝かしていた。橋の下は砂浜だが、打ち付ける波は意外にも大きくて、水しぶきをあげている。それを見て、松野くんは余計にはしゃいでいる。
海の景色と薫りを楽しみながら、橋を渡りきると、鳥居が現れ、弁天仲見世通りと呼ばれる大通りがある。江ノ島の夏は、観光と海水浴で大混雑しているが、今は秋。海水浴のお客さんは居ないので、人も減っているだろうと思っていたが、考えは甘かったようだ。仲見世通りには沢山の人で道が埋め尽くされていた。
「人多いな」
「だね」
少しだけ、うんざりしたような表情を浮かべた松野くんだったが、「ま、いっか」と呟いた。
なんの事だろうと不思議に思っていると、いきなり、左手を掴まれた。そのまま、グイグイと私の手を引っ張って、仲見世通りを進んで行く彼に戸惑いながらもついて行く。
「ちょっと、手…!」
「嫌だったら、振り払えよ」
私の方を一切見ずにそう言った。
そんな言い方するのはズルい。嫌だとは思わないし、振り払えるわけないじゃん。
私は、指先に力を込めて、握り締められた手をキュッと握り返した。