恋時雨
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高校1年生の春、新しい学校へと入学。そして、少しずつ学校にも慣れ、新しい友達も出来て平凡な高校生活を送っている。
春、夏と過ごして夏休みが明けた。この半年は本当に平凡に過ごして来た。
平凡な私の隣の席の人は不良だ。名前は松野千冬。周りの人達がヒソヒソと"あの松野千冬だ"と言っていたのを聞いた事が何度かある。どの松野千冬なのかは分からないが、有名人らしい。
不良と言っても、見た目を派手にしてイキっているバカとは違うと私は思う。確かに、金髪だけどイキってる訳でもないし、誰かに迷惑かけている所を見た訳でもないし、弱い者を虐めているのを見た訳でもない。隣の席だからって被害がある訳でもない。
クラスからの私への視線は「可哀想」と言っているのはヒシヒシと伝わってくる。
別にクラスのみんなも松野くんに何かをされた訳じゃないのだから、そういうの止めれば良いのにとは思う。噂というのは勝手に一人歩きして大きくなってしまうのが大体だ。人間、面白いことが大好きな生き物。それが事実だろうが、嘘だろうが関係ない。面白ければそれで良い。結局は噂なんてそんなもん。だから、私はあの松野千冬という人物の色々な噂を信じている訳でもない。だからと言って、止めなよ!とか言う程の正義感は持ち合わせていない。私は平和に平凡に高校生活を送りたいのだ。
ひたすら、目立たなく、地味に生きて行ければそれで良い。
「なぁ」
「はい?」
「数学の教科書忘れた」
「は?」
「見して」
「…はぁ?」
「なんだよ?」
私の反応に怪訝そうな顔をしてコチラをジロリと見詰める。何か、気に障ったのでしょうか。
「今、教科書と言いました?」
「そうだけど」
絶句、絶句、絶句。開いた口が塞がらないとはこの事だろう。だって、あの松野くんが教科書見せてだなんて言ってるんだもの。あの松野くんと言ってもそこまで彼を知っているわけではないけど。
「松野くんも勉強するんだね」
「は?オレをなんだと思ってんの?」
「いや、いつも寝てるじゃん。教科書開いているところ見た事ないんだけど」
「…高校って留年するらしい」
「それは誰もが知ってる事だと思うけど」
さっき初めて知ったみたいな顔で言う松野くんは相当バカとみた。
「だから、アンタの教科書見してくれよ」
「アンタって私の名前知らないの?」
「クラスのヤツの名前なんて覚えてねぇ」
「私は、 平野 楓だよ」
「へぇ」
「へぇ、じゃなくて覚えてね?平野 楓 say!」
「平野 楓…」
「はい。よく出来ました」
「バカにしてんじゃねぇよ…」
私の勢いに押されたのか、ポカーンとした顔で私の名前を繰り返し呟いた。よく出来ましたと褒めれば、若干頬を染めてコチラを睨み付けた。
「まぁまぁ、私の数学の教科書見せてあげる…ってない!?」
机の中から数学の教科書を取り出そうと手を突っ込んで見ても出て来ない。中を覗いても空。何故、どうして。カバンを覗いてもない。
「どうして!?」
「知るかよ」
「どうする!?」
「オレに聞くな」
「松野くん取ったでしょ!?」
「人聞きの悪ぃ事言ってんじゃねーよ!」
そんな会話をしているうちに授業の始まる合図が校舎内に鳴り響いた。教室に入って来る先生。
教卓の前に立ち、授業開始の挨拶をするように促す。もう、終わったと察した。
「平野、教科書どうした?」
「えっと、神隠しに合いまして…」
「松野、オマエはどうなんだ?」
「さぁ。家のどっかにあると思う」
「平野、松野。二人揃ってなんだ!」
開始早々から教科書ないのがバレ、怒られてしまった。普通は隣に見せて貰うか、別のクラスの子から借りるとかするべきなんだろうけど、二人揃って持ってないとなれば大問題だよね。元々、この先生は厳しい人だし、昔ながらの教育方針なのだ。
「オマエら廊下へ立ってろ!」
ほら来た、廊下へ立て。そんな事今の時代やらないでしょう?渋々、席を立ち上がって廊下へ出る。
私の後をかったるそうについてくる松野くん。
2人で廊下に並んで立っていると、松野くんは「だりぃな〜」と愚痴をこぼした。
「仕方ないよ、忘れた私たちが悪いし」
「廊下へ立ってろって事はサボれって意味だろ?」
「はい?」
「よし、サボろうぜ」
「嫌です。1人でサボって」
「どうせ、オレが居なくなってたら怒られるの平野じゃね?」
「うっ…。それはありえる」
「よし、行こう」
松野くんはグイッと私の腕を掴んで歩き出してしまった。
「ちょ、待って待って!私、平和に過ごしたいの!こんな事したら目立っちゃう!」
「大丈夫だ!」
「その根拠はどこから!?」
「周りの目なんて気にすんな」
「無理!やだ!私の平凡な学校生活〜!」
私の叫びなんてお構い無しに連れていく松野くんに度肝を抜かれる。不良とはこう強引なものなのか。
ただ、松野千冬が強引なのか、よくわからないが。
「この不良め…!」
「褒め言葉」
ニッと笑う松野くんに逆らう気力も失せてしまった。もう好きにしてとすら思い始めてしまう。
笑った顔はちょっと可愛いな〜なんて思った事は内緒だ。
隣の席の松野くんはとんでもない人だった。
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