純愛センセーション
名前
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周りからは、柄シャツと歩き方が怖いだのガラが悪いだの声も酒焼けしてるだのデスボイスだのと散々陰で言われ、近寄り難いとよく言われる。東卍に所属もしている為、大人からの印象も良くない。
でも、なんと思われようと別に良かった。自分がコレが好きだから、他人の顔色を伺って周りに同調して生きていくのは真っ平ごめんだ。
オレの全てでもあるパーちんの下に就き、大好きな喧嘩をして、コテコテの不良グッズを集めたり、カッコイイ柄シャツを着て、肩肘張って歩いているのがオレだ。
だから、別に周りに怖がられようと、大人たちからの印象が悪かろうとどうでも良かった。
「ぺーやんは優しいよ!確かに、アホだけど良い人だもん!」
そう思っていたのに、あの時、名前さんはそう言ってくれた。どう思われても良いって思っていたけれど、そんな風に言って貰える事はこんなにも嬉しい事だと思っていなかった。
人に認めて貰えるなんて事、今まで一度も無かった為、初めてのこの感情にオレは戸惑っていた。
*
家の窓から外を見て見れば、天気も良く雲一つ無くて青空が広がっていた。セミの鳴く声と風鈴の音と隣の家の庭から見える向日葵の黄色。それらが夏の始まりの合図のような気がした。
そんな事言っても、夏なんてオレには関係ねぇ。彼女もいなければ、青春する相手も特にナシ。エアコンの効いた部屋でグダグダしているか、一人でカラオケに行くのがオレの夏の過ごし方だろう。
今日はカラオケにでも行こうかと、お気に入りの竜の柄シャツを着て外に出る。
だが、家を出て数分で嫌気が差した。
照りつける太陽がアスファルトに反射し、暑い。上からも下からも熱気が来て、とにかく暑い。エアコンの効いた部屋でアイスでも食っとくのが、正解だったと軽く後悔し始めた。
今ならまだ引き返せる距離だ。やっぱり、今日は帰ろうかと思いながら、灼熱の太陽に向かってブツブツと文句を漏らしながら歩いていれば目の前から「あ、ぺーやん!」と声をかけられた。
俯きがちだった視線を上げれば、そこには私服姿の名前さんの姿があった。
「ぺーやん、何してるの?」
「カラオケでも行こうかと思ってよ」
「一人?」
「まぁな。でも、あちぃ帰ろうかと思ってたとこ」
「ふぅん。暇なんだね。だったら、私に付き合ってよ!」
「は?どこに?」
「じゃーん!これやるの!」
そう言って見せてきたのは、水風船だった。突然、目の前に突き付けられたカラフルなソレに呆気に取られていると名前さんは太陽のような眩しい笑顔を見せた。
「涼しくなるよ!」
「いや、着替えねぇし」
「すぐ乾くよ!」
「このシャツ、お気に入りなんだわ」
「大丈夫!ダサいから!」
「ダサっ…!?」
容赦ない言葉にグサッと来るが、当の本人はそんな事お構い無しに「やろう!」と無邪気な笑顔を向けて来ている。キラキラと輝きを放っているかのような無邪気な笑顔に負けて「わかったよ」と答えてしまった。
そう答えれば彼女は嬉しそうに笑って、歩き出したので大人しく彼女の後を着いて行った。
暫く歩いて、名前さんの家に着くとすぐ様に庭へと案内された。女の家に行くのは初めてだから少しだけ鼓動が速くなっているのに気が付いた。
綺麗に整えられた花壇をぼんやりと眺め、緊張もあってか、初めて見た花だな。なんて、らしくも無い事を考えてみたりしていた。
そんな事考えていると、突如顔面に水風船が当たって破裂した。
「冷てっ…!」
「もう、始まってますよ。林さん?」
ケタケタと笑いながら、水風船を三つ手渡して来たので水風船を受け取り、一つを名前 さんの顔面に軽く投げ付け、バシャンと破裂した音が響いた。彼女はずぶ濡れになった顔をクシャッとしながら笑った。
そこからは、二人とも本気になって水風船の乱れ打ちだ。あっちにこっちにと色とりどりの水風船が飛び交い、顔や体に当たって太陽の熱で熱くなった全身を冷やしていく。
「ここまで濡れたら、こうしちゃえ!」
突如、名前さんは手にホースを持って、そのままオレにかけてきた。
「オイ!それはズルくねぇ!?」
「ははっ!ぺーやん、全身びしょ濡れだ!」
「オレにもよこせ!」
ホースを奪い取って名前さんに水をかければ、悲鳴を上げながらも楽しそうに逃げ回っていた。
お互いが満足するまで水遊びを続けていると、フと空を見てみれば、青かった空も少し日が傾いて、朱に染まっていた。
「涼しくなったねぇ」
「あぁ、さっきまで暑かったのにな」
「あ。そうだ!スイカ食べよ!」
彼女はびしょ濡れのまま、軽快な足取りで家に上がって行った。廊下も畳も濡れた足跡がくっきりと残っていて、後で絶対にお袋さんとかに怒られるんだろうなと思い、そんな姿を想像して、少しだけ笑えた。
「キンキンに冷えてるよ〜!」
名前さんはいつの間にか戻って来ていて、既に綺麗に切られているスイカを目の前に差し出した。スイカの身はぎっしりとしていて、みずみずしく、鮮やかな赤色が食欲を駆り立てた。
彼女からスイカを受け取り、二人で縁側に座って、スイカにかぶりつく。キンキンに冷えていて、甘みが口の中一杯に広がり、乾いた喉を潤した。
「夏が始まったね」
スイカを頬張りながら、夏休みを待ち遠しく思っていた子供のような笑顔を見せる、名前さんを見ていると、妙にソワソワして、鼓動が速くなっている気がする。
「三ツ谷も夏を感じてるのかなぁ」
「三ツ谷は妹達の面倒見てて、それ所じゃねぇかもな」
「そっかぁ。じゃあ、尚更、武蔵祭り一緒に行けるの嬉しいな」
今が楽しくて一瞬、忘れてしまっていた。
そうだ、名前さんは三ツ谷が好きなんだ。
そう思うと、今度は心臓が息を止めたみたいに遅くなって、ドクドクと痛み出す。
上がって下がってを繰り返すこの感覚は正直疲れる。
「三ツ谷に告白しねぇの?」
「武蔵祭りの時にしようかなって思ってるよ」
「じゃあ、二人になれるように協力してやろうか?」
「え、いいの?」
「安田さんもいるから難しいかもだけど、任せろ」
「ありがと。ぺーやんは本当に優しいね」
「武蔵祭りの時にかき氷で手を打ってやるよ」
「お安い御用ですよ」
名前さんは、本当に告白を決意したようで、前みたいな自信なさげな表情ではなく、瞳はらんらんと輝き、決意を宿した表情をしていた。
「武蔵祭り、楽しみだね」
「だな。頑張れよ」
「うん、頑張る」
「よし、スイカも食い終わったし、そろそろ帰るわ」
「うん。今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかった!」
「オレの方こそ楽しかったぜ。スイカご馳走様」
「良かった。じゃあ、またね!」
ニコニコと笑顔を振り撒きながら手を振る彼女にヒラヒラと手を振り返す。夕暮れ時の「またね」がこんなにも寂しいとは思った事は今まで一度もなかった。
分かってはいるけれど、いつかは終わる。今日の時間のようにこの感情もいつかは終わるんだ。
「あ、そうだ!名前、呼び捨てでいいよ!」
「は?」
「私達、仲良しでしょ?」
いきなり何事かと呆気に取られていれば、夏休みに入る前、オレら仲良しだろ?って言った時の事を言っているのだと分かった。その時は、そうでもないと否定してた癖に。
「名前…」
気付けば彼女の名前を小さな声で呟ぶやいていた。その声をちゃんと拾ってくれた名前はピースをしながら嬉しそうに笑った。
夏とか青春とかオレには関係ないと思っていたけれど、オレにも関係あるかもしれない。
オレにしか出来ないオレなりの青春をしてやろうと心に決めた。
夏はまだ始まったばかりだ。
風鈴がチリンと鳴る音が微かに聞こえた気がした。
でも、なんと思われようと別に良かった。自分がコレが好きだから、他人の顔色を伺って周りに同調して生きていくのは真っ平ごめんだ。
オレの全てでもあるパーちんの下に就き、大好きな喧嘩をして、コテコテの不良グッズを集めたり、カッコイイ柄シャツを着て、肩肘張って歩いているのがオレだ。
だから、別に周りに怖がられようと、大人たちからの印象が悪かろうとどうでも良かった。
「ぺーやんは優しいよ!確かに、アホだけど良い人だもん!」
そう思っていたのに、あの時、名前さんはそう言ってくれた。どう思われても良いって思っていたけれど、そんな風に言って貰える事はこんなにも嬉しい事だと思っていなかった。
人に認めて貰えるなんて事、今まで一度も無かった為、初めてのこの感情にオレは戸惑っていた。
*
家の窓から外を見て見れば、天気も良く雲一つ無くて青空が広がっていた。セミの鳴く声と風鈴の音と隣の家の庭から見える向日葵の黄色。それらが夏の始まりの合図のような気がした。
そんな事言っても、夏なんてオレには関係ねぇ。彼女もいなければ、青春する相手も特にナシ。エアコンの効いた部屋でグダグダしているか、一人でカラオケに行くのがオレの夏の過ごし方だろう。
今日はカラオケにでも行こうかと、お気に入りの竜の柄シャツを着て外に出る。
だが、家を出て数分で嫌気が差した。
照りつける太陽がアスファルトに反射し、暑い。上からも下からも熱気が来て、とにかく暑い。エアコンの効いた部屋でアイスでも食っとくのが、正解だったと軽く後悔し始めた。
今ならまだ引き返せる距離だ。やっぱり、今日は帰ろうかと思いながら、灼熱の太陽に向かってブツブツと文句を漏らしながら歩いていれば目の前から「あ、ぺーやん!」と声をかけられた。
俯きがちだった視線を上げれば、そこには私服姿の名前さんの姿があった。
「ぺーやん、何してるの?」
「カラオケでも行こうかと思ってよ」
「一人?」
「まぁな。でも、あちぃ帰ろうかと思ってたとこ」
「ふぅん。暇なんだね。だったら、私に付き合ってよ!」
「は?どこに?」
「じゃーん!これやるの!」
そう言って見せてきたのは、水風船だった。突然、目の前に突き付けられたカラフルなソレに呆気に取られていると名前さんは太陽のような眩しい笑顔を見せた。
「涼しくなるよ!」
「いや、着替えねぇし」
「すぐ乾くよ!」
「このシャツ、お気に入りなんだわ」
「大丈夫!ダサいから!」
「ダサっ…!?」
容赦ない言葉にグサッと来るが、当の本人はそんな事お構い無しに「やろう!」と無邪気な笑顔を向けて来ている。キラキラと輝きを放っているかのような無邪気な笑顔に負けて「わかったよ」と答えてしまった。
そう答えれば彼女は嬉しそうに笑って、歩き出したので大人しく彼女の後を着いて行った。
暫く歩いて、名前さんの家に着くとすぐ様に庭へと案内された。女の家に行くのは初めてだから少しだけ鼓動が速くなっているのに気が付いた。
綺麗に整えられた花壇をぼんやりと眺め、緊張もあってか、初めて見た花だな。なんて、らしくも無い事を考えてみたりしていた。
そんな事考えていると、突如顔面に水風船が当たって破裂した。
「冷てっ…!」
「もう、始まってますよ。林さん?」
ケタケタと笑いながら、水風船を三つ手渡して来たので水風船を受け取り、一つを名前 さんの顔面に軽く投げ付け、バシャンと破裂した音が響いた。彼女はずぶ濡れになった顔をクシャッとしながら笑った。
そこからは、二人とも本気になって水風船の乱れ打ちだ。あっちにこっちにと色とりどりの水風船が飛び交い、顔や体に当たって太陽の熱で熱くなった全身を冷やしていく。
「ここまで濡れたら、こうしちゃえ!」
突如、名前さんは手にホースを持って、そのままオレにかけてきた。
「オイ!それはズルくねぇ!?」
「ははっ!ぺーやん、全身びしょ濡れだ!」
「オレにもよこせ!」
ホースを奪い取って名前さんに水をかければ、悲鳴を上げながらも楽しそうに逃げ回っていた。
お互いが満足するまで水遊びを続けていると、フと空を見てみれば、青かった空も少し日が傾いて、朱に染まっていた。
「涼しくなったねぇ」
「あぁ、さっきまで暑かったのにな」
「あ。そうだ!スイカ食べよ!」
彼女はびしょ濡れのまま、軽快な足取りで家に上がって行った。廊下も畳も濡れた足跡がくっきりと残っていて、後で絶対にお袋さんとかに怒られるんだろうなと思い、そんな姿を想像して、少しだけ笑えた。
「キンキンに冷えてるよ〜!」
名前さんはいつの間にか戻って来ていて、既に綺麗に切られているスイカを目の前に差し出した。スイカの身はぎっしりとしていて、みずみずしく、鮮やかな赤色が食欲を駆り立てた。
彼女からスイカを受け取り、二人で縁側に座って、スイカにかぶりつく。キンキンに冷えていて、甘みが口の中一杯に広がり、乾いた喉を潤した。
「夏が始まったね」
スイカを頬張りながら、夏休みを待ち遠しく思っていた子供のような笑顔を見せる、名前さんを見ていると、妙にソワソワして、鼓動が速くなっている気がする。
「三ツ谷も夏を感じてるのかなぁ」
「三ツ谷は妹達の面倒見てて、それ所じゃねぇかもな」
「そっかぁ。じゃあ、尚更、武蔵祭り一緒に行けるの嬉しいな」
今が楽しくて一瞬、忘れてしまっていた。
そうだ、名前さんは三ツ谷が好きなんだ。
そう思うと、今度は心臓が息を止めたみたいに遅くなって、ドクドクと痛み出す。
上がって下がってを繰り返すこの感覚は正直疲れる。
「三ツ谷に告白しねぇの?」
「武蔵祭りの時にしようかなって思ってるよ」
「じゃあ、二人になれるように協力してやろうか?」
「え、いいの?」
「安田さんもいるから難しいかもだけど、任せろ」
「ありがと。ぺーやんは本当に優しいね」
「武蔵祭りの時にかき氷で手を打ってやるよ」
「お安い御用ですよ」
名前さんは、本当に告白を決意したようで、前みたいな自信なさげな表情ではなく、瞳はらんらんと輝き、決意を宿した表情をしていた。
「武蔵祭り、楽しみだね」
「だな。頑張れよ」
「うん、頑張る」
「よし、スイカも食い終わったし、そろそろ帰るわ」
「うん。今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかった!」
「オレの方こそ楽しかったぜ。スイカご馳走様」
「良かった。じゃあ、またね!」
ニコニコと笑顔を振り撒きながら手を振る彼女にヒラヒラと手を振り返す。夕暮れ時の「またね」がこんなにも寂しいとは思った事は今まで一度もなかった。
分かってはいるけれど、いつかは終わる。今日の時間のようにこの感情もいつかは終わるんだ。
「あ、そうだ!名前、呼び捨てでいいよ!」
「は?」
「私達、仲良しでしょ?」
いきなり何事かと呆気に取られていれば、夏休みに入る前、オレら仲良しだろ?って言った時の事を言っているのだと分かった。その時は、そうでもないと否定してた癖に。
「名前…」
気付けば彼女の名前を小さな声で呟ぶやいていた。その声をちゃんと拾ってくれた名前はピースをしながら嬉しそうに笑った。
夏とか青春とかオレには関係ないと思っていたけれど、オレにも関係あるかもしれない。
オレにしか出来ないオレなりの青春をしてやろうと心に決めた。
夏はまだ始まったばかりだ。
風鈴がチリンと鳴る音が微かに聞こえた気がした。