4話
名前
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その場を立ち去ろうとした時、後ろから突然、「名前さん?」と肩にポンっと手を乗せられ、驚きのあまり「ぎゃあ!」と可愛げもない大声をあげてしまった。
バクバクとした心臓を抑えながら、振り返えると、私の声に驚いたのか、私と同じような表情をしていたぺーやんが立っていた。
すると、ぺーやんは私の顔を見るなり焦ったように辺りをキョロキョロし始めた。
「何で泣いてんだ?オレのせいじゃねーよな!?」
「違う!てか、逃げるよ!」
「は!?」
ひとまず、この場から立ち去りたかった私は、ぺーやんの手を引いて急いでその場から逃げ去った。
まさか、あそこでデカい声を出してしまうとは予想外だった。絶対に三ツ谷たちに私の叫び声が聞こえただろう。盗み聞きしてたのがバレたらまずいので、逃げる事にした。
暫く、廊下を走って三ツ谷達から離れた所へまでやって来たのを確認し、懸命に動かしていた足を緩め、その場に止まった。
「はぁ、疲れた…」
「なんで、逃げたんだよ?」
「あそこで三ツ谷が告白されてたんだよね」
「盗み見してたって訳か」
「いえ、たまたまですけど」
「名前さんって、三ツ谷の事好きだろ?」
「は…?」
「何その、なんで知ってんの?って顔」
「だって、誰にも言ってないよ!?友達にも親友にもお母さんにでさえ!!」
「バレバレだし」
「うっそーん…」
まさかの事実に鈍器で殴られたような衝撃が頭に走った。アホなぺーやんにバレてるという事は、察し良い三ツ谷にもバレてる可能性は高いはずだ。
最悪だと肩を落として、ため息を付くとぺーやんは「なんか、悪ぃ」とバツの悪そうな顔をしていた。
「で、なんで泣いてたんだ?三ツ谷が告白をオッケーするとは思えねぇし、他に理由があんだろ?」
「まぁ、断ってはいたんだけどさぁ…」
先程、三ツ谷が発していた断りのセリフをぺーやんに話し、自分もそうやって振られるのではないかと思って、悲しくなってしまった事を伝えた。そう口にしたら増々、悲しくて苦しくなってしまい、止まっていた筈の涙がまた頬を伝い始めてしまう。
「お、おいっ!泣くなって!」
頭をガシガシとかきながらアワアワしているぺーやんに「ハンカチ!」と手を出して要求するが「ねぇよ。そんなモン」と言われてしまった。それはそうだ。男子でハンカチなんて持ってそうなの三ツ谷くらいだ。三ツ谷が稀な人間なのだ。
ぺーやんはぎこちなく私の頭を撫で始めた。撫でると言っても、かなり雑で髪の毛をぐしゃぐしゃにしているだけだ。だけど、その行動に驚いてぺーやんを見上げると、彼は頬をほんのり朱に染めて視線を逸らした。
「三ツ谷が妹たちを慰める時はこれが一番効果的だって言ってたんだよ!」
「子供か。私は」
「どうしたらいいか、分かんねーんだよ!」
ムキになってそう反論してくるが、頭を撫でる手は未だに止まらない。必死に慰めようとしてくれる、その不器用な優しさに更に涙腺は壊れてしまった。
「はっ!?なんで余計に泣くんだよ!?三ツ谷の野郎、嘘つきやがったな…」
「ち、違うっ、そうじゃない…」
何をどう思ったのか、そんな勘違いをし始めたぺーやんに否定をしたいのだけれど、涙と嗚咽が邪魔して言葉を紡げない。
すると、後ろから「名前?」と私を呼ぶ声が。振り返らなくても分かる。その声は三ツ谷だ。
お話は終わったのかと思うのと同時に、この状況を冷静に分析すると、最悪な状況な事に気が付いた。泣いているのバレるの嫌だし、その経緯を話したら、盗み見してたのもバレてしまう。
ぺーやんはその状況だけはアホなりに瞬時に理解してくれて、サッと私と三ツ谷の間に入ってくれた。
「どうした?三ツ谷ぁ」
「どうしたはオレが聞きたいんだけど?」
「名前さんはちょっと今は…」
「泣いてるように見えたけど」
「そんな事ねぇから、大丈夫だ!」
「じゃあ、そこ退けよ」
「あー、いや。今はダメだ!」
「何でだよ」
声色から伝わるくらいに三ツ谷は不機嫌だった。それでも、この泣き顔を三ツ谷に見られる訳にはいかないので、ぺーやんには頑張って欲しい。
いや、ちょっと冷静に考えてみよう。何故、三ツ谷は不機嫌なんだと。そして、頭の中で点と点が結ばれ、一つの答えが導き出された。
盗み聞きしているのがバレていたのだと。その事を説教しに来たのだろうか。それなら、余計に無理だ。
死ぬ気で頑張って、ぺーやん。と心の中でエールを送った。
「ここだけの話、名前さん、鼻毛出てたから教えてやってたんだよ。まだ抜いてねーからその姿見せる訳にいかねーだろ」
「はぁ?…まぁ、それは女の子だしな」
「だろ?」
まさかの言い訳に、カチンと来てしまい、後ろからぶん殴りたくなってしまう。
勝手に人を鼻毛女した事、しかも、それを言った相手は好きな人。その上、三ツ谷も納得してしまっている。
二人の会話を聞いて涙は一気に引っ込んで、代わりに出てきたのは怒りだ。腹が立った私は思いっきり後ろから、ぺーやんに膝カックンをしてやれば、絵に描いたような見事な膝カックンを喰らってその場に崩れ落ちた。
「オイ!何すんだっ!」
「何すんだはこっちのセリフだ!勝手に鼻毛女にしないでよね!」
「オレのナイスフォローを無駄にする気か!?」
「どこがナイスフォローよ!鼻毛は有り得ないでしょ!?」
私たちがギャンギャン言い合っていれば、三ツ谷の吹き出した声ががしたので言い合いを一旦止め、三ツ谷の方を向くと彼は声を押し殺しながら、喉を鳴らして笑っていた。
「そんな漫画みてぇな崩れ落ち方、初めて見た」
「いきなり後ろからやられたら、そうなるだろーがよ」
「それにしても見事だったわ」
三ツ谷は遂に抑えきれず、声を上げて大爆笑をし始めた。
よく分からないが、三ツ谷の不機嫌は治ったしこれで万事解決なのだろうか。
「名前も泣いてんじゃなくて、鼻毛なら良かったわ」
「だから!鼻毛は違うの!」
必死にそう否定するが三ツ谷は「朝、鏡見てから来いよ。女の子だろ」と笑っていた。
「だから、ちがーーーう!!!」
「冗談だって。そんなムキになんなよ。可愛い顔が台無しになんじゃん」
「へ…?」
いきなりの甘い言葉に思考回路は完全に切れてしまった。今、この人は何と言ったのだろうか。サラっとしすぎて、理解が追い付かない。
「なぁ、ぺーやん?」
「お、おう…?」
突如、話を振られたぺーやんも何故か私と一緒に赤面をしていた。私の聞き間違いではなさそうだ。彼は絶対に可愛いと言った。
「ちょ、ちょっと、三ツ谷さん?今のは…」
「てか、もう授業始まってんじゃん」
「え?あ、うん。そうだね?」
「サボるか、三人で」
「お、いーじゃん」
「え、私も!?」
「今更行ったって、遅いし。ほら、行こーぜ」
三ツ谷は笑いながら、私の背中を右手で押した。背中から伝わる、微かな熱に胸がトクンと跳ねた。
「…不良め」
「なんとでも言えよ」
そう言って笑いながら歩き出す三ツ谷の笑顔に負けて、私も一緒に歩き出した。
さっきの可愛いの意味は見事にスルーされてしまったけれど、三ツ谷と一緒にサボる事になったこの予想外の出来事に少しだけ高揚感を感じていた。
やっぱり、三ツ谷が好きだと実感し、そう簡単には諦めきれない事も痛感した。
バクバクとした心臓を抑えながら、振り返えると、私の声に驚いたのか、私と同じような表情をしていたぺーやんが立っていた。
すると、ぺーやんは私の顔を見るなり焦ったように辺りをキョロキョロし始めた。
「何で泣いてんだ?オレのせいじゃねーよな!?」
「違う!てか、逃げるよ!」
「は!?」
ひとまず、この場から立ち去りたかった私は、ぺーやんの手を引いて急いでその場から逃げ去った。
まさか、あそこでデカい声を出してしまうとは予想外だった。絶対に三ツ谷たちに私の叫び声が聞こえただろう。盗み聞きしてたのがバレたらまずいので、逃げる事にした。
暫く、廊下を走って三ツ谷達から離れた所へまでやって来たのを確認し、懸命に動かしていた足を緩め、その場に止まった。
「はぁ、疲れた…」
「なんで、逃げたんだよ?」
「あそこで三ツ谷が告白されてたんだよね」
「盗み見してたって訳か」
「いえ、たまたまですけど」
「名前さんって、三ツ谷の事好きだろ?」
「は…?」
「何その、なんで知ってんの?って顔」
「だって、誰にも言ってないよ!?友達にも親友にもお母さんにでさえ!!」
「バレバレだし」
「うっそーん…」
まさかの事実に鈍器で殴られたような衝撃が頭に走った。アホなぺーやんにバレてるという事は、察し良い三ツ谷にもバレてる可能性は高いはずだ。
最悪だと肩を落として、ため息を付くとぺーやんは「なんか、悪ぃ」とバツの悪そうな顔をしていた。
「で、なんで泣いてたんだ?三ツ谷が告白をオッケーするとは思えねぇし、他に理由があんだろ?」
「まぁ、断ってはいたんだけどさぁ…」
先程、三ツ谷が発していた断りのセリフをぺーやんに話し、自分もそうやって振られるのではないかと思って、悲しくなってしまった事を伝えた。そう口にしたら増々、悲しくて苦しくなってしまい、止まっていた筈の涙がまた頬を伝い始めてしまう。
「お、おいっ!泣くなって!」
頭をガシガシとかきながらアワアワしているぺーやんに「ハンカチ!」と手を出して要求するが「ねぇよ。そんなモン」と言われてしまった。それはそうだ。男子でハンカチなんて持ってそうなの三ツ谷くらいだ。三ツ谷が稀な人間なのだ。
ぺーやんはぎこちなく私の頭を撫で始めた。撫でると言っても、かなり雑で髪の毛をぐしゃぐしゃにしているだけだ。だけど、その行動に驚いてぺーやんを見上げると、彼は頬をほんのり朱に染めて視線を逸らした。
「三ツ谷が妹たちを慰める時はこれが一番効果的だって言ってたんだよ!」
「子供か。私は」
「どうしたらいいか、分かんねーんだよ!」
ムキになってそう反論してくるが、頭を撫でる手は未だに止まらない。必死に慰めようとしてくれる、その不器用な優しさに更に涙腺は壊れてしまった。
「はっ!?なんで余計に泣くんだよ!?三ツ谷の野郎、嘘つきやがったな…」
「ち、違うっ、そうじゃない…」
何をどう思ったのか、そんな勘違いをし始めたぺーやんに否定をしたいのだけれど、涙と嗚咽が邪魔して言葉を紡げない。
すると、後ろから「名前?」と私を呼ぶ声が。振り返らなくても分かる。その声は三ツ谷だ。
お話は終わったのかと思うのと同時に、この状況を冷静に分析すると、最悪な状況な事に気が付いた。泣いているのバレるの嫌だし、その経緯を話したら、盗み見してたのもバレてしまう。
ぺーやんはその状況だけはアホなりに瞬時に理解してくれて、サッと私と三ツ谷の間に入ってくれた。
「どうした?三ツ谷ぁ」
「どうしたはオレが聞きたいんだけど?」
「名前さんはちょっと今は…」
「泣いてるように見えたけど」
「そんな事ねぇから、大丈夫だ!」
「じゃあ、そこ退けよ」
「あー、いや。今はダメだ!」
「何でだよ」
声色から伝わるくらいに三ツ谷は不機嫌だった。それでも、この泣き顔を三ツ谷に見られる訳にはいかないので、ぺーやんには頑張って欲しい。
いや、ちょっと冷静に考えてみよう。何故、三ツ谷は不機嫌なんだと。そして、頭の中で点と点が結ばれ、一つの答えが導き出された。
盗み聞きしているのがバレていたのだと。その事を説教しに来たのだろうか。それなら、余計に無理だ。
死ぬ気で頑張って、ぺーやん。と心の中でエールを送った。
「ここだけの話、名前さん、鼻毛出てたから教えてやってたんだよ。まだ抜いてねーからその姿見せる訳にいかねーだろ」
「はぁ?…まぁ、それは女の子だしな」
「だろ?」
まさかの言い訳に、カチンと来てしまい、後ろからぶん殴りたくなってしまう。
勝手に人を鼻毛女した事、しかも、それを言った相手は好きな人。その上、三ツ谷も納得してしまっている。
二人の会話を聞いて涙は一気に引っ込んで、代わりに出てきたのは怒りだ。腹が立った私は思いっきり後ろから、ぺーやんに膝カックンをしてやれば、絵に描いたような見事な膝カックンを喰らってその場に崩れ落ちた。
「オイ!何すんだっ!」
「何すんだはこっちのセリフだ!勝手に鼻毛女にしないでよね!」
「オレのナイスフォローを無駄にする気か!?」
「どこがナイスフォローよ!鼻毛は有り得ないでしょ!?」
私たちがギャンギャン言い合っていれば、三ツ谷の吹き出した声ががしたので言い合いを一旦止め、三ツ谷の方を向くと彼は声を押し殺しながら、喉を鳴らして笑っていた。
「そんな漫画みてぇな崩れ落ち方、初めて見た」
「いきなり後ろからやられたら、そうなるだろーがよ」
「それにしても見事だったわ」
三ツ谷は遂に抑えきれず、声を上げて大爆笑をし始めた。
よく分からないが、三ツ谷の不機嫌は治ったしこれで万事解決なのだろうか。
「名前も泣いてんじゃなくて、鼻毛なら良かったわ」
「だから!鼻毛は違うの!」
必死にそう否定するが三ツ谷は「朝、鏡見てから来いよ。女の子だろ」と笑っていた。
「だから、ちがーーーう!!!」
「冗談だって。そんなムキになんなよ。可愛い顔が台無しになんじゃん」
「へ…?」
いきなりの甘い言葉に思考回路は完全に切れてしまった。今、この人は何と言ったのだろうか。サラっとしすぎて、理解が追い付かない。
「なぁ、ぺーやん?」
「お、おう…?」
突如、話を振られたぺーやんも何故か私と一緒に赤面をしていた。私の聞き間違いではなさそうだ。彼は絶対に可愛いと言った。
「ちょ、ちょっと、三ツ谷さん?今のは…」
「てか、もう授業始まってんじゃん」
「え?あ、うん。そうだね?」
「サボるか、三人で」
「お、いーじゃん」
「え、私も!?」
「今更行ったって、遅いし。ほら、行こーぜ」
三ツ谷は笑いながら、私の背中を右手で押した。背中から伝わる、微かな熱に胸がトクンと跳ねた。
「…不良め」
「なんとでも言えよ」
そう言って笑いながら歩き出す三ツ谷の笑顔に負けて、私も一緒に歩き出した。
さっきの可愛いの意味は見事にスルーされてしまったけれど、三ツ谷と一緒にサボる事になったこの予想外の出来事に少しだけ高揚感を感じていた。
やっぱり、三ツ谷が好きだと実感し、そう簡単には諦めきれない事も痛感した。