3話
名前
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「あー、もう帰りたい…」
「まだ二限目始まってすらいねーじゃん」
「布団で寝てたいの」
「オレ、ベッド派」
「日本人なら敷布団に決まってるでしょ」
「あぁ、ベッドから落ちてそうだもんな」
「どんなイメージでしょうか、それ」
「そんで、そのまま落ちた事に気付かずに朝まで爆睡」
「そんなバカじゃないですよ!」
「それは気づいてないだけでさ」
「実は…?落ちてたり…?」
一限目の授業が終わって休み時間にボソッと呟けば、三ツ谷は話を膨らませてくれた。
そのくだらない話に二人でプッと吹き出して同時に笑い出した。
「名前ってさ、起きたら逆さに寝てて枕元に足が来てそうだよな」
「いや、だからどんなイメージよ!そんなに寝相悪くないよ!?」
「ちゃんと、布団掛けて寝ろよ。風引くから」
「ありがとう、気をつけるね。って、布団蹴飛ばして寝てないよ!」
三ツ谷は楽しそうに、ケラケラと笑っていた。そんな姿を見たら、私も楽しくなって来る。くだらないやり取りが楽しくて、二人で「バカだ〜」なんて言って笑い合う。この時間が本当に大好きだ。
三ツ谷といると楽しい。自然に笑いあえて居心地が良くて安心するんだ。
でも、三ツ谷は天然タラシだから、すぐドキドキするような事をサラッと言ってくるから、心臓が飛び出そうになる事も多々あるけれど、そんな所も含めて大好きなの。
三ツ谷と他愛のない話をしていれば隣のクラスの女の子、三組が私達の元へやって来て「三ツ谷くん」と声を掛けて来た。
「ん?」
「お話があるんだけど、今、ちょっといいかな?」
「あー、名前。悪ぃ、ちょっと行って来るわ」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
頬を赤く染めて、遠慮がちに話しかけて来る女の子は女の私から見ても凄く可愛い。彼女の雰囲気から、話の内容なんて聞かなくても、告白だと分かってしまう。
しかも、私が思い描いていたような清楚系で大人しそうな可愛い女の子。こんな子に告白されて揺れない男はいないだろうと思う。
周りにいた二人の女の子は「頑張れ」と小声で言っていた。私と残った二人の女の子は教室を出て行く、三ツ谷達の後ろ姿を黙って見ていた。
「ねぇ、この子、三ツ谷くんの彼女かな?」
「えー?ナイナイ。二人並んでても兄妹にしか見えないもん」
おいおい、聞こえてるって。本人が傍にいるのにそれは失礼だぞ。でも、言い返す言葉見当たらなくて、苦笑いを浮かべる他なかった。
この肩に付くくらいしかない、このショートカットをやめて、髪の毛を伸ばしてみれば少しは大人っぽくなるかな。
三ツ谷と並んでも兄妹じゃなくて恋人のように見えるようになるのかな。
元々、自信がない上にこんな事を言われたら更に自信無くなってしまう。自己嫌悪のループに陥ってしまい、悲しくなって来てしまった。
教室に居るのも嫌になって、廊下に出てフラフラと歩いていると階段の踊り場の所で三ツ谷とさっきの子が話しているのを見つけてしまい、思わずサッと壁に隠れた。
盗み聞きしているようで二人に悪いからと早く立ち去った方がいいと思うが、三ツ谷がなんて返事をなんてするのかも気になってしまう。
早く行かなくちゃという、心とは裏腹に足は動いてくれず、「バレなきゃ大丈夫」と言う、悪魔と「あなたには良心っていうものはないの?」と言う、天使が心の中で言葉を投げかけてくる。
一人で頭を抱えて葛藤していれば、三ツ谷の「ごめん」と言う声が聞こえてきた。
「オレなんかより、いい人いるって」
その言葉が聞こえた瞬間に私が言われている訳ではないのに、凄いショックを受けてしまった。
三ツ谷、それが一番残酷なの分かってる?
だって、三ツ谷が好きだから告白してるんだよ。他の誰かじゃなくて三ツ谷が良いからなんだよ。
もし、私が告白してもそう言って振られるのだろうか。盗み聞きなんてしなければ良かった。余計に自信を無くしてしまっただけだった。
「ほら、早く立ち去りなさいって言ったでしょ」と心の中で天使が私に言う。今は、その言葉は天使というより、悪魔の言葉に聞こえてしまう。大人しく立ち去れば良かったと後悔しか無かった。
「好き…」
気持ちが溢れ出して、ポロリと自分にしか聞こえないような声で呟いてしまった。
こんな小さな声で呟いたって三ツ谷に届く訳なんてないのに。大きな声で言ったとしても、届く気はしないけれど。
いつか、三ツ谷にこの想いが届く日は来るのだろうか。一度、好きだと口に出したら、想いと共に涙も一緒に溢れ出してしまった。
「三ツ谷、大好きだよ…っ!」
涙と共に溢れた私の言葉は、静かな廊下に虚しく溶けて消えていった。