2話
名前
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最初は怖いと思った。銀髪だし、眉毛途中ないし、中学生ながらピアス付いてるし、暴走族だし。だけど、そんな見た目と肩書きに惑わされてはいけないと思えたのは、本当の三ツ谷くんを知ったからだ。
「ってな風に最初の印象はそんな感じだったよ」
「何だそれ。オレ、そんなイメージ悪い?」
「だって、銀髪だし途中眉毛ないし」
「あー、それもそうか」
「でしょ?最初は本当に怖くて苦手だったもん」
「でも、今は好きだろ?」
「別に。普通だよ!好きな訳ないじゃん」
「ははっ!そこは人として好きくらい言えよな」
「残念。言わないよ」
私達は隣の席という事もあってハンカチを拾って貰ったあの日からよく喋るようになって随分と仲良くなった。今はこうやって冗談を言い合える程で、男の子の中で1番仲良しだと言ってもいいくらいだと思っている。
友人関係はもちろん家族の事など色々な話を包み隠さず話す程にまで発展した。
でも、そんな三ツ谷に隠している事が一つだけある。それは、誰にも言えない、秘密の恋心。
さっき人として好きくらい言えって言ってたけど本当は人としてどころか恋してるんだよ、キミに。前に落としたハンカチを拾ってくれた。たったそれだけ。優しい人だと思ったの。
それから、よく話すようになって話し方や笑い方、何気ない仕草だったり、その全部に惹かれていった。理由はそんな単純なもの。
恋をするのにそんな大それた理由なんて要らないでしょう?
「三ツ谷はさぁ、モテるでしょ?」
「は?何、いきなり」
「ギャップの塊だよね」
「なんだそれ」
意味分からないと言いたげに、右の口角だけを上げて引き攣った笑顔を見せた。
三ツ谷は、よくこの表情をする。俗に言う、苦笑いだ。その表情すらカッコイイと思ってしまう私は大分、重症だと思う。
「ギャップとかよく分かんねぇけど、オマエはそれがいいと思ってんの?」
「いいと思うよ。女はギャップに弱いものさ」
「ふーん。名前がそう言うなら、それでもいいわ」
ほら、こういう所がずるいよね。無自覚でサラッとこういう事、言っちゃうから女の子は勘違いして惚れちゃうんだよ。
そのうちの一人がまず私だ。他には三ツ谷が所属している手芸部の子達。確実に三ツ谷に惚れているだろうって子達は何人も見てきた。
暴走族でヤンチャしているのに、手芸部で部長を務めるなんてギャップの塊。その上、優しいなんて世の中の女の大半が惚れちゃうでしょ。
ライバルは多いよ、三ツ谷さん。
そして、私はそんなライバルに打勝てるような自信なんてこれっぽっちもない。自信さえあれば、積極的にアピールだって出来るけれど、友達関係を維持するのに精一杯でそれ以上なんて出来ない。
片思いからの進展なんか見込みゼロでため息を付きたくなってしまった。
「おーい、三ツ谷ぁ」
「あ、ぺーやんだよ」
「おー、ぺー。どうした?」
私たちのクラスに大声で叫びながら入って来たのは、三ツ谷と同じチームに所属している、林 良平くん。あだ名、ぺーやん。
三ツ谷とは同じ隊らしい。本当は参番隊だったけど、色々な事情があって三ツ谷の弐番隊に入ったとか三ツ谷が言っていた。
いつも、変な趣味の悪い柄シャツを着ている、いかにも不良と言わんばかりの見た目の人物だ。
「おー、名前さん。今日も三ツ谷と一緒なんだな」
「うん。まぁ、マブダチだからね」
「友達からマブダチに昇格してんじゃん」
「今、勝手に昇格させた」
「うわ、迷惑」
「ちょっとぉ!?迷惑ってなによ!」
三ツ谷繋がりで、ぺーやんともよく話すようになって最近では三人で話す事が格段に増えた。
ぺーやんも見た目が結構アレだし声もアレだしで怖かったけど、話してみれば話しやすくて面白い人だった。
「名前さんって結構ハッキリ言うな」
「何が?」
「見た目が結構アレとか声もアレだしって」
「あれ、声に出してた?」
「ダダ漏れ」
「それは、ごめん」
「オレ、物事ハッキリ言う子、結構好きなんだよね」
「そうなの?三ツ谷は大人しい子が好きだと思ってた」
「オレ、そんなイメージある?」
「「ある」」
私とぺーやんが声を揃えて言うと少し呆れたように「勝手なイメージすぎねぇ?」と言った。
三ツ谷って家庭的だしなんでも自分で出来ちゃうじゃない。だから、きっと料理も裁縫も出来て頭も良くて清楚で大人しい。そんな完璧な子を好きになりそうって勝手に思ってたの。
だから、三ツ谷に恋愛対象として見てもらいたくて料理と裁縫を始めてみたり、勉強も前よりちょっと頑張ってみたり。地味にコツコツと努力はしてはいるのです。
少しでもいいから、三ツ谷の理想に近づきたくて努力をしてきたけど、まさかのイメージとは全く違うという、新事実が発覚してしまった。
「でも、好きになった子がタイプだから」
「え?」
思わず聞き返して、三ツ谷の顔を凝視するが彼は何事も無かったかのように「何?」と不思議そうに首を傾げていた。
今の言い方だと三ツ谷は好きな人いるように聞こえてしまった。
"好きな人いるの?"
その一言が簡単に言えたのなら良かったのに。
きっと、ただの友達なら言えた。
でも、私はそうじゃない。本当の事を聞くのが怖くて聞けないんだ。三ツ谷の口から好きな人がいるとハッキリ言われるのが怖い。
だから、今は友達のままでいいだなんて思ってしまう。完全に保身に走っているのは自覚している。
「部長ー!ちょっと今、大丈夫ですか?」
「おー、今、行く」
教室のドアの所から声を張り上げて三ツ谷を呼ぶのは、彼と同じ部活の安田さんだ。
おさげ髪が良く似合う、女の子。
「ちょっと、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
安田さんの元へ向かう三ツ谷の背中をただ、黙って見送る。そのまま、話し始めた二人を見ていれば、楽しそうに笑いながら話していた。
その姿にモヤモヤとした感情が胸を支配するのを感じた。嫌な感情だ。みっともない。こんな自分は嫌だと首を振って、その感情を打ち消そうと試みた。だけど、そのモヤモヤは晴れる事は無かった。
三ツ谷の好きな人って安田さんなのかもしれないという、答えが脳内を駆け巡る。
同じ部活で接点も多いし、安田さんもぺーやんにズケズケと物事をハッキリ言うのも聞いた事がある。
自分の中で答え合わせをしてしまい、凹んでしまう。気が付きたくなかったなと思いながら、二人の談笑する姿を黙って見つめる事しか出来なかった。
三ツ谷の瞳には今の私はどう映っているのかな。どれだけ、友達のままでも良いと強がってみても、自分の事は誤魔化せない。
本当は、三ツ谷に好きになってもらいたい。
たった一つの願いは、果てしなく遠くて難しい事なのだと、痛感してしまった。
「ってな風に最初の印象はそんな感じだったよ」
「何だそれ。オレ、そんなイメージ悪い?」
「だって、銀髪だし途中眉毛ないし」
「あー、それもそうか」
「でしょ?最初は本当に怖くて苦手だったもん」
「でも、今は好きだろ?」
「別に。普通だよ!好きな訳ないじゃん」
「ははっ!そこは人として好きくらい言えよな」
「残念。言わないよ」
私達は隣の席という事もあってハンカチを拾って貰ったあの日からよく喋るようになって随分と仲良くなった。今はこうやって冗談を言い合える程で、男の子の中で1番仲良しだと言ってもいいくらいだと思っている。
友人関係はもちろん家族の事など色々な話を包み隠さず話す程にまで発展した。
でも、そんな三ツ谷に隠している事が一つだけある。それは、誰にも言えない、秘密の恋心。
さっき人として好きくらい言えって言ってたけど本当は人としてどころか恋してるんだよ、キミに。前に落としたハンカチを拾ってくれた。たったそれだけ。優しい人だと思ったの。
それから、よく話すようになって話し方や笑い方、何気ない仕草だったり、その全部に惹かれていった。理由はそんな単純なもの。
恋をするのにそんな大それた理由なんて要らないでしょう?
「三ツ谷はさぁ、モテるでしょ?」
「は?何、いきなり」
「ギャップの塊だよね」
「なんだそれ」
意味分からないと言いたげに、右の口角だけを上げて引き攣った笑顔を見せた。
三ツ谷は、よくこの表情をする。俗に言う、苦笑いだ。その表情すらカッコイイと思ってしまう私は大分、重症だと思う。
「ギャップとかよく分かんねぇけど、オマエはそれがいいと思ってんの?」
「いいと思うよ。女はギャップに弱いものさ」
「ふーん。名前がそう言うなら、それでもいいわ」
ほら、こういう所がずるいよね。無自覚でサラッとこういう事、言っちゃうから女の子は勘違いして惚れちゃうんだよ。
そのうちの一人がまず私だ。他には三ツ谷が所属している手芸部の子達。確実に三ツ谷に惚れているだろうって子達は何人も見てきた。
暴走族でヤンチャしているのに、手芸部で部長を務めるなんてギャップの塊。その上、優しいなんて世の中の女の大半が惚れちゃうでしょ。
ライバルは多いよ、三ツ谷さん。
そして、私はそんなライバルに打勝てるような自信なんてこれっぽっちもない。自信さえあれば、積極的にアピールだって出来るけれど、友達関係を維持するのに精一杯でそれ以上なんて出来ない。
片思いからの進展なんか見込みゼロでため息を付きたくなってしまった。
「おーい、三ツ谷ぁ」
「あ、ぺーやんだよ」
「おー、ぺー。どうした?」
私たちのクラスに大声で叫びながら入って来たのは、三ツ谷と同じチームに所属している、林 良平くん。あだ名、ぺーやん。
三ツ谷とは同じ隊らしい。本当は参番隊だったけど、色々な事情があって三ツ谷の弐番隊に入ったとか三ツ谷が言っていた。
いつも、変な趣味の悪い柄シャツを着ている、いかにも不良と言わんばかりの見た目の人物だ。
「おー、名前さん。今日も三ツ谷と一緒なんだな」
「うん。まぁ、マブダチだからね」
「友達からマブダチに昇格してんじゃん」
「今、勝手に昇格させた」
「うわ、迷惑」
「ちょっとぉ!?迷惑ってなによ!」
三ツ谷繋がりで、ぺーやんともよく話すようになって最近では三人で話す事が格段に増えた。
ぺーやんも見た目が結構アレだし声もアレだしで怖かったけど、話してみれば話しやすくて面白い人だった。
「名前さんって結構ハッキリ言うな」
「何が?」
「見た目が結構アレとか声もアレだしって」
「あれ、声に出してた?」
「ダダ漏れ」
「それは、ごめん」
「オレ、物事ハッキリ言う子、結構好きなんだよね」
「そうなの?三ツ谷は大人しい子が好きだと思ってた」
「オレ、そんなイメージある?」
「「ある」」
私とぺーやんが声を揃えて言うと少し呆れたように「勝手なイメージすぎねぇ?」と言った。
三ツ谷って家庭的だしなんでも自分で出来ちゃうじゃない。だから、きっと料理も裁縫も出来て頭も良くて清楚で大人しい。そんな完璧な子を好きになりそうって勝手に思ってたの。
だから、三ツ谷に恋愛対象として見てもらいたくて料理と裁縫を始めてみたり、勉強も前よりちょっと頑張ってみたり。地味にコツコツと努力はしてはいるのです。
少しでもいいから、三ツ谷の理想に近づきたくて努力をしてきたけど、まさかのイメージとは全く違うという、新事実が発覚してしまった。
「でも、好きになった子がタイプだから」
「え?」
思わず聞き返して、三ツ谷の顔を凝視するが彼は何事も無かったかのように「何?」と不思議そうに首を傾げていた。
今の言い方だと三ツ谷は好きな人いるように聞こえてしまった。
"好きな人いるの?"
その一言が簡単に言えたのなら良かったのに。
きっと、ただの友達なら言えた。
でも、私はそうじゃない。本当の事を聞くのが怖くて聞けないんだ。三ツ谷の口から好きな人がいるとハッキリ言われるのが怖い。
だから、今は友達のままでいいだなんて思ってしまう。完全に保身に走っているのは自覚している。
「部長ー!ちょっと今、大丈夫ですか?」
「おー、今、行く」
教室のドアの所から声を張り上げて三ツ谷を呼ぶのは、彼と同じ部活の安田さんだ。
おさげ髪が良く似合う、女の子。
「ちょっと、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
安田さんの元へ向かう三ツ谷の背中をただ、黙って見送る。そのまま、話し始めた二人を見ていれば、楽しそうに笑いながら話していた。
その姿にモヤモヤとした感情が胸を支配するのを感じた。嫌な感情だ。みっともない。こんな自分は嫌だと首を振って、その感情を打ち消そうと試みた。だけど、そのモヤモヤは晴れる事は無かった。
三ツ谷の好きな人って安田さんなのかもしれないという、答えが脳内を駆け巡る。
同じ部活で接点も多いし、安田さんもぺーやんにズケズケと物事をハッキリ言うのも聞いた事がある。
自分の中で答え合わせをしてしまい、凹んでしまう。気が付きたくなかったなと思いながら、二人の談笑する姿を黙って見つめる事しか出来なかった。
三ツ谷の瞳には今の私はどう映っているのかな。どれだけ、友達のままでも良いと強がってみても、自分の事は誤魔化せない。
本当は、三ツ谷に好きになってもらいたい。
たった一つの願いは、果てしなく遠くて難しい事なのだと、痛感してしまった。