番外編
名前
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武蔵祭りの日に三ツ谷と付き合い始めてから2ヶ月が経った。お付き合いは順調だと思う。多分。 三ツ谷の部活や東卍の集会がない日は一緒に帰って、放課後デートというものもしているし、お互いのお家に行ったりとお家デートだってしている。普通に仲良しだと思う。多分と少し自信なさげに答えたのは、ぺーやんに「いつまで、苗字呼びなんだ?」と言われたからだ。恋人同士というものは下の名前で呼び合うのが主らしい。そう言えば、私の友達はあだ名で呼びあっているなぁ。三ツ谷のあだ名?うーん…何かいいあだ名ないかな。
「みっちゃん」
「はっ?何それ」
今は、私の家でお家デートしている最中で隣でファッション雑誌を読み漁っている三ツ谷は雑誌から私へと視線を移した。怪訝そうに見ている彼にあだ名を考えてみた事を伝えると余計に眉間のシワが深くなった。
「唐突過ぎねぇ?でも、みっちゃんは却下」
「だよね。私も似合わないと思った」
「失礼だな、オイ」
苦笑いをしながら私の額を軽くペチンと叩いた。叩いたと言っても、本当にあの東京卍會の隊長だとは思えないくらい優しい。女の子相手に本気で叩く男なんていないとは思うけど。そんな優しい所が大好きだ。付き合ってから、三ツ谷の優しさに触れる機会が増えて、好きは加速する。いつも、私のくだらない話にも飽きずにちゃんと付き合ってくれる。今のあだ名の話だって、三ツ谷は「他にねぇの?」なんて言って会話を広げてくれるんだもの。
「うーん…。タカちゃん?」
「いや、八戒と一緒はなぁ」
「出たな、八戒」
私がそう言うと三ツ谷は苦笑いを漏らした。仕方ないじゃない。八戒のタカちゃん愛は尋常じゃなくて、何かと私と三ツ谷の間に入って来ようとする。この間なんて、お家デートしようとしたら邪魔をされた。「タカちゃんの味噌汁が飲みたい」とか言って、三ツ谷のお家に押し掛けて来たんだから。
「珍しいよなぁ。八戒は女苦手なのに、苗字とは普通に話してるし」
「いや、私は女認定されていないだけだよ」
三ツ谷と八戒の姉の柚葉ちゃん曰く、八戒は女の子が苦手で目の前にするとフリーズしてしまって話を出来ないらしい。そんなの絶対に嘘だよ。だって、私には小馬鹿にしたような顔で鼻で笑ってくるし、オレの方がタカちゃんの事知ってるしってドヤ顔カマしてくるもん。アレは許されない案件だと思う。
「八戒も苗字の事、気に入ってるんだろ」
「はい?どこが?」
むしろ、敵認定なのでは?有り得ないという表情で三ツ谷を見るが本人は至って真面目に言ったようだった。
「私と八戒は、嫁と姑的な関係なんだよ」
「何だそれ」
本当にこれは嫁姑問題並に深刻な問題なのだ。訳が分からないと言いたげに薄ら笑いを浮かべる三ツ谷にため息をつきたくなる。見てて分からないのかねぇ。「八戒は姑だよ」と言えば、三ツ谷は読んでいた雑誌をテーブルの上に置いて、身体を私の方へ向けた。構わず「だいたい、八戒は…」と言いかけた所で私の言葉は遮られた。私の視界にいっぱいに三ツ谷の綺麗な顔。睫毛長いな、オイ。そして、三ツ谷の衣服から香る柔軟剤のフローラルの香りが鼻を掠め、唇には柔らかくて熱いものが重ねられていた。
急な出来事に驚いて顔を引こうとするが、後頭部を片手で押さえられて逃げる事は出来なかった。それでも逃さまいと三ツ谷は何度も角度を変えてキスを繰り返した。恋愛初心者の私には冷静で居られるわけもなくて、緊張や恥ずかしさから体は硬直して息の仕方すら分からなくなる。息を止めていたせいで苦しくなって来たので、彼の服の裾をクイッと引っ張ると顔が離れていった。ホッと息をついたのも束の間、三ツ谷は私の顔を下から覗き込んで来た。
「顔真っ赤じゃん」
「誰のせいですかね!」
「苗字のせい」
「なんでですかっ!?」
「八戒八戒、うるせぇ」
「…え?」
まさかの発言に私の脳内は大混乱だ。口をパクパクさせて目も泳ぎ、あっち見たりこっち見たりと顔を動かして変にワタワタとしてしまう。完全に挙動不審だ。だって、いつも余裕なあの三ツ谷がだよ?そんな事気にするなんて誰が思うだろうか。いいや、誰も思わない。それに、他の男の人ならまだしもあの八戒だよ。大丈夫だと思うじゃん…?
「八戒だって男だし」
「あ、はい…」
前に八戒は弟みたいなモンとは言っていたけど、ダメだったようだ。
「それに、オレは三ツ谷なのもムカつく」
「えっ?はっ?えぇ!?」
「呼び方、変えてくんねぇ?」
「…分かった。今度から八戒の事、柴って呼ぶ」
「いや、そっちじゃなくて。他に変えるトコあるでしょ」
「ある…けど…」
多分、今の私の顔はリンゴのように真っ赤だと思う。自発的に呼ぶのと呼ばされるのとじゃ、訳が違う。なかなか、呼ばない私に三ツ谷は甘えたような声で「呼んで」なんて言ってくる。そんな声で言われたら断れるわけも無い。ズルいぞ、三ツ谷隆。
「…隆」
目をギュッと瞑り、下を向いて彼に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でポツリと彼の名を呼ぶが反応は何も返って来なかった。その沈黙が余計に恥ずかしくなってしまう。チラッと視線だけを上げて彼を見る。
「何か言ってよ」
「あーうん。暫くは三ツ谷でいーわ」
「え?なんで?」
「別に深い意味なんてねぇけど」
そんな事を言っている割には頬がほんのり紅くなっている事に気付いてしまった。もしかして…。と思い、私の中で悪戯心が芽生えた。いつも、私ばかり振り回されて悔しいからたまには私が三ツ谷を振り回したい。仕返ししてやろう。
「隆」
「…何?」
「隆」
「だから、何?」
何度も名前を呼んでいると、段々と私の思惑に気が付いたのか三ツ谷はいきなり私との距離を一気に詰めて、唇が触れるまで数センチという所でピタリと動きを止めた。
「煽ってんの?」
「い、いや…、煽ってるつもりはないです…」
「ふーん?」
納得いっていないような顔をしている三ツ谷はジッと私の瞳を数秒見つめた後「名前」と囁いた。突然呼ばれた私の名前。いつもは苗字だからいきなりの事にドキドキしてしまう。そんな私を他所に彼は仕返しと言わんばかりに何度も名前を呼んだ。
呼ばれる度に胸がキュウっと締め付けられて苦しくなる。もう耐えられそうにないのでストップをかけると、意外にもあっさりと止んだ。
そして、三ツ谷は数センチあった距離を0センチに詰めて私たちは重なった。唇を離して今度は耳元に口を寄せて彼は囁いた。
「名前、好きだよ」
「…っムリ!!」
色々な意味で限界な私はそう叫んで思いっきり彼から距離を取って、火照った顔を手で覆う。すると、笑いを堪えているような声が聞こえて来たので手を離して顔を上げれば、楽しそうに笑っている三ツ谷がいた。また、振り回された…!悔しさから、キッと睨み付けた。
「三ツ谷のバカ!」
「あれ?もう、三ツ谷に戻すの?」
今度は右の口角をキュッとあげて意地悪そうに笑っていた。初めて見たその表情に心臓がドクンと鳴った。三ツ谷を振り回すなんて私には到底無理そうだ。
「みっちゃん」
「はっ?何それ」
今は、私の家でお家デートしている最中で隣でファッション雑誌を読み漁っている三ツ谷は雑誌から私へと視線を移した。怪訝そうに見ている彼にあだ名を考えてみた事を伝えると余計に眉間のシワが深くなった。
「唐突過ぎねぇ?でも、みっちゃんは却下」
「だよね。私も似合わないと思った」
「失礼だな、オイ」
苦笑いをしながら私の額を軽くペチンと叩いた。叩いたと言っても、本当にあの東京卍會の隊長だとは思えないくらい優しい。女の子相手に本気で叩く男なんていないとは思うけど。そんな優しい所が大好きだ。付き合ってから、三ツ谷の優しさに触れる機会が増えて、好きは加速する。いつも、私のくだらない話にも飽きずにちゃんと付き合ってくれる。今のあだ名の話だって、三ツ谷は「他にねぇの?」なんて言って会話を広げてくれるんだもの。
「うーん…。タカちゃん?」
「いや、八戒と一緒はなぁ」
「出たな、八戒」
私がそう言うと三ツ谷は苦笑いを漏らした。仕方ないじゃない。八戒のタカちゃん愛は尋常じゃなくて、何かと私と三ツ谷の間に入って来ようとする。この間なんて、お家デートしようとしたら邪魔をされた。「タカちゃんの味噌汁が飲みたい」とか言って、三ツ谷のお家に押し掛けて来たんだから。
「珍しいよなぁ。八戒は女苦手なのに、苗字とは普通に話してるし」
「いや、私は女認定されていないだけだよ」
三ツ谷と八戒の姉の柚葉ちゃん曰く、八戒は女の子が苦手で目の前にするとフリーズしてしまって話を出来ないらしい。そんなの絶対に嘘だよ。だって、私には小馬鹿にしたような顔で鼻で笑ってくるし、オレの方がタカちゃんの事知ってるしってドヤ顔カマしてくるもん。アレは許されない案件だと思う。
「八戒も苗字の事、気に入ってるんだろ」
「はい?どこが?」
むしろ、敵認定なのでは?有り得ないという表情で三ツ谷を見るが本人は至って真面目に言ったようだった。
「私と八戒は、嫁と姑的な関係なんだよ」
「何だそれ」
本当にこれは嫁姑問題並に深刻な問題なのだ。訳が分からないと言いたげに薄ら笑いを浮かべる三ツ谷にため息をつきたくなる。見てて分からないのかねぇ。「八戒は姑だよ」と言えば、三ツ谷は読んでいた雑誌をテーブルの上に置いて、身体を私の方へ向けた。構わず「だいたい、八戒は…」と言いかけた所で私の言葉は遮られた。私の視界にいっぱいに三ツ谷の綺麗な顔。睫毛長いな、オイ。そして、三ツ谷の衣服から香る柔軟剤のフローラルの香りが鼻を掠め、唇には柔らかくて熱いものが重ねられていた。
急な出来事に驚いて顔を引こうとするが、後頭部を片手で押さえられて逃げる事は出来なかった。それでも逃さまいと三ツ谷は何度も角度を変えてキスを繰り返した。恋愛初心者の私には冷静で居られるわけもなくて、緊張や恥ずかしさから体は硬直して息の仕方すら分からなくなる。息を止めていたせいで苦しくなって来たので、彼の服の裾をクイッと引っ張ると顔が離れていった。ホッと息をついたのも束の間、三ツ谷は私の顔を下から覗き込んで来た。
「顔真っ赤じゃん」
「誰のせいですかね!」
「苗字のせい」
「なんでですかっ!?」
「八戒八戒、うるせぇ」
「…え?」
まさかの発言に私の脳内は大混乱だ。口をパクパクさせて目も泳ぎ、あっち見たりこっち見たりと顔を動かして変にワタワタとしてしまう。完全に挙動不審だ。だって、いつも余裕なあの三ツ谷がだよ?そんな事気にするなんて誰が思うだろうか。いいや、誰も思わない。それに、他の男の人ならまだしもあの八戒だよ。大丈夫だと思うじゃん…?
「八戒だって男だし」
「あ、はい…」
前に八戒は弟みたいなモンとは言っていたけど、ダメだったようだ。
「それに、オレは三ツ谷なのもムカつく」
「えっ?はっ?えぇ!?」
「呼び方、変えてくんねぇ?」
「…分かった。今度から八戒の事、柴って呼ぶ」
「いや、そっちじゃなくて。他に変えるトコあるでしょ」
「ある…けど…」
多分、今の私の顔はリンゴのように真っ赤だと思う。自発的に呼ぶのと呼ばされるのとじゃ、訳が違う。なかなか、呼ばない私に三ツ谷は甘えたような声で「呼んで」なんて言ってくる。そんな声で言われたら断れるわけも無い。ズルいぞ、三ツ谷隆。
「…隆」
目をギュッと瞑り、下を向いて彼に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でポツリと彼の名を呼ぶが反応は何も返って来なかった。その沈黙が余計に恥ずかしくなってしまう。チラッと視線だけを上げて彼を見る。
「何か言ってよ」
「あーうん。暫くは三ツ谷でいーわ」
「え?なんで?」
「別に深い意味なんてねぇけど」
そんな事を言っている割には頬がほんのり紅くなっている事に気付いてしまった。もしかして…。と思い、私の中で悪戯心が芽生えた。いつも、私ばかり振り回されて悔しいからたまには私が三ツ谷を振り回したい。仕返ししてやろう。
「隆」
「…何?」
「隆」
「だから、何?」
何度も名前を呼んでいると、段々と私の思惑に気が付いたのか三ツ谷はいきなり私との距離を一気に詰めて、唇が触れるまで数センチという所でピタリと動きを止めた。
「煽ってんの?」
「い、いや…、煽ってるつもりはないです…」
「ふーん?」
納得いっていないような顔をしている三ツ谷はジッと私の瞳を数秒見つめた後「名前」と囁いた。突然呼ばれた私の名前。いつもは苗字だからいきなりの事にドキドキしてしまう。そんな私を他所に彼は仕返しと言わんばかりに何度も名前を呼んだ。
呼ばれる度に胸がキュウっと締め付けられて苦しくなる。もう耐えられそうにないのでストップをかけると、意外にもあっさりと止んだ。
そして、三ツ谷は数センチあった距離を0センチに詰めて私たちは重なった。唇を離して今度は耳元に口を寄せて彼は囁いた。
「名前、好きだよ」
「…っムリ!!」
色々な意味で限界な私はそう叫んで思いっきり彼から距離を取って、火照った顔を手で覆う。すると、笑いを堪えているような声が聞こえて来たので手を離して顔を上げれば、楽しそうに笑っている三ツ谷がいた。また、振り回された…!悔しさから、キッと睨み付けた。
「三ツ谷のバカ!」
「あれ?もう、三ツ谷に戻すの?」
今度は右の口角をキュッとあげて意地悪そうに笑っていた。初めて見たその表情に心臓がドクンと鳴った。三ツ谷を振り回すなんて私には到底無理そうだ。
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