色彩
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朝、目を覚ますと、知らない女の寝顔が視界いっぱいに広がっていた。突然の事に驚き、短い悲鳴が上がりそうになるのをグッと飲み飲んで堪えた。
視線を辺りに漂わせて見れば、真っ白なシーツが乱れたベットの上に横になっている事に気が付いた。一瞬、自分の部屋なのかと思ったが生憎、見ず知らずの女を自室へ上げるような性格ではない。
となると、ここはどこだろうか。この女の家なのか。薄暗い部屋をよく目を凝らして見れば、寝室にしては少し派手なような気がした。その背景から、そういう場所という事を察した。
何故、自分はこんな場所で見知らぬ女と一夜を共にしてしまったのだろうか。この状況になった経緯が思い出せなくて、混乱してしまう。
浅く息を吐いて、気持ちを落ち着かせ、昨日の記憶を思い返せる所まで辿ってみる。意外にもすぐに点と点は結ばれ、この状況へと繋がった。
昨日は、十月三十一日だった。碌でもない自分の人生の中で、一番の過ちを犯してしまった日。十何年と時が経とうと、その日の記憶や自身の過ちが色褪せる事は一生ない。
黒く、真っ赤に染まった記憶はずっと鮮明に脳裏にこびり付いている。
それらを少しだけでも良いから払拭したくて、池袋のバーで一人で呑んでいた。
呑んでも呑んでも払拭する事はなくて、元々、酒が強い方ではないので意識が朦朧として来てしまった。そんな時、カウンターに二席ほど空けて座っていた、女が声を掛けて来た。
セリフは何だったか全く覚えていないが、判断力も低下していた為に何となくでその女の誘いに乗ってしまい、ここへと足を運んだようだ。
その後は言うまでもなく、欲に忠実に従い、事を及んだ。酔いもだいぶ回っていた事もあって、疲れ切ってそのまま目を閉じた所まで思い出した。
経緯を思い出した所で、アルコールの所為で未だに気怠い体を動かして、ベットサイドに置いてあるケータイに手を伸ばして時間を確認する。時刻は、朝方の五時半を少し回った所だった。
もう一眠り出来る時間だが再度目を覚ました時、この知らない女と会話したりするのは考えただけで面倒だとうんざりしたので、起こさないように静かにベッドを抜け出す。
身支度を手早く済ませ、代金を多めにテーブルの上に置いて部屋を出た。
外に出ると昇り立ての太陽が自身を照らした。辺りにある雑草に降り露が白く光っていた。秋から冬に移り変わるこの時期はあまり好きじゃない。八重歯を覗かして笑う一人の男の姿を思い浮かぶからだ。それと、夏も好きじゃない。大事に想っていた筈の仲間の誕生日と命を奪ってしまった日、自分と場地とマイキーと…。数えきれない人の人生を大きく変えてしまったのも夏だった。
そして人生でたった一人、心から愛していた人物と決別したのも夏だった。夏の夜は必ずと言って良いほどに彼女との想い出が蘇る。冬を感じさせる頃の秋と秋の匂いを漂わせた夏の夜は、暗い気分にさせる。好きな季節の方が少なくて少し生き辛いなと思うと、なんだか乾いた笑いが漏れた。
すぐに家に帰る気分にもなれず、フラフラと適当に歩き続けていると無意識になのか意識してなのか分からないが、辿り着いたのは一軒の家の前だった。もう自分の知っている人物は住んでいない事を表札を見て知る。
過去はあの日に全てを置いて来たつもりだった。想い出も甘ったるい感情も全部。置いて来たはずなのに、昨日の出来事のように艶やかで鮮明に記憶が蘇ってしまう。それは、いつも突然にやって来て、心を掻き乱していく。いつになったら、思い出さなくなるのだろうか。今朝、目を覚ました時に居た女の顔なんて思い出せないくらいなのに十年以上会っていない奴の顔はすぐに浮かぶ。目を覚まして目の前にいる女が彼女だったら良かっただなんて、惨めな理想を抱いてしまう。
昔、一度だけ彼女と一緒に朝を迎えた事があった。気持ちよさそうに眠る彼女の顔。その顔を飽きる事なく、見つめ続けていた。彼女が目を覚まして、その瞳に自身を映すと包み込むような柔らかい笑顔で見つめ返して、掠れた声で「おはよう」と言った声も耳にこびり付いて離れない。
起きた時に酷い寝癖が付いていて、それを見たオレは腹を抱えて笑った事。頬を膨らまして拗ねる彼女の髪を軽く撫でて寝癖を直してやったら、機嫌も直った。そして、また彼女は優しく笑うんだ。
「一虎、大好き」
そう言って、小さな手で触れる瞬間が堪らなく好きだった。オレだけに向けられたその言葉も全てが好きだった。
親からも愛を受けて来なかったオレに初めて、愛というモノを与えてくれた人。彼女との記憶は優しく、愛おしくもあり、虚しくもあった。もしかしたら、それら全ては過去を美化したオレの幻想なのかもしれない。だけど、オレにとっては宝物のような輝かしい光を放つ時間だった事は確かだった。
あの頃はそれが当たり前だと思っていたから、気付けなかった。いつだってそうだった。手の届かない所に行ってしまってからやっと、大切だった事に気づくんだ。こんなにも冷たくて暗い世界になってしまった事に。だから、今日も思い出にしがみ付いて、過去に生きてしまう。そういう、生き方しか出来ない。キミが居ないと世界が輝く事はない事を知ってしまったから。
視線を辺りに漂わせて見れば、真っ白なシーツが乱れたベットの上に横になっている事に気が付いた。一瞬、自分の部屋なのかと思ったが生憎、見ず知らずの女を自室へ上げるような性格ではない。
となると、ここはどこだろうか。この女の家なのか。薄暗い部屋をよく目を凝らして見れば、寝室にしては少し派手なような気がした。その背景から、そういう場所という事を察した。
何故、自分はこんな場所で見知らぬ女と一夜を共にしてしまったのだろうか。この状況になった経緯が思い出せなくて、混乱してしまう。
浅く息を吐いて、気持ちを落ち着かせ、昨日の記憶を思い返せる所まで辿ってみる。意外にもすぐに点と点は結ばれ、この状況へと繋がった。
昨日は、十月三十一日だった。碌でもない自分の人生の中で、一番の過ちを犯してしまった日。十何年と時が経とうと、その日の記憶や自身の過ちが色褪せる事は一生ない。
黒く、真っ赤に染まった記憶はずっと鮮明に脳裏にこびり付いている。
それらを少しだけでも良いから払拭したくて、池袋のバーで一人で呑んでいた。
呑んでも呑んでも払拭する事はなくて、元々、酒が強い方ではないので意識が朦朧として来てしまった。そんな時、カウンターに二席ほど空けて座っていた、女が声を掛けて来た。
セリフは何だったか全く覚えていないが、判断力も低下していた為に何となくでその女の誘いに乗ってしまい、ここへと足を運んだようだ。
その後は言うまでもなく、欲に忠実に従い、事を及んだ。酔いもだいぶ回っていた事もあって、疲れ切ってそのまま目を閉じた所まで思い出した。
経緯を思い出した所で、アルコールの所為で未だに気怠い体を動かして、ベットサイドに置いてあるケータイに手を伸ばして時間を確認する。時刻は、朝方の五時半を少し回った所だった。
もう一眠り出来る時間だが再度目を覚ました時、この知らない女と会話したりするのは考えただけで面倒だとうんざりしたので、起こさないように静かにベッドを抜け出す。
身支度を手早く済ませ、代金を多めにテーブルの上に置いて部屋を出た。
外に出ると昇り立ての太陽が自身を照らした。辺りにある雑草に降り露が白く光っていた。秋から冬に移り変わるこの時期はあまり好きじゃない。八重歯を覗かして笑う一人の男の姿を思い浮かぶからだ。それと、夏も好きじゃない。大事に想っていた筈の仲間の誕生日と命を奪ってしまった日、自分と場地とマイキーと…。数えきれない人の人生を大きく変えてしまったのも夏だった。
そして人生でたった一人、心から愛していた人物と決別したのも夏だった。夏の夜は必ずと言って良いほどに彼女との想い出が蘇る。冬を感じさせる頃の秋と秋の匂いを漂わせた夏の夜は、暗い気分にさせる。好きな季節の方が少なくて少し生き辛いなと思うと、なんだか乾いた笑いが漏れた。
すぐに家に帰る気分にもなれず、フラフラと適当に歩き続けていると無意識になのか意識してなのか分からないが、辿り着いたのは一軒の家の前だった。もう自分の知っている人物は住んでいない事を表札を見て知る。
過去はあの日に全てを置いて来たつもりだった。想い出も甘ったるい感情も全部。置いて来たはずなのに、昨日の出来事のように艶やかで鮮明に記憶が蘇ってしまう。それは、いつも突然にやって来て、心を掻き乱していく。いつになったら、思い出さなくなるのだろうか。今朝、目を覚ました時に居た女の顔なんて思い出せないくらいなのに十年以上会っていない奴の顔はすぐに浮かぶ。目を覚まして目の前にいる女が彼女だったら良かっただなんて、惨めな理想を抱いてしまう。
昔、一度だけ彼女と一緒に朝を迎えた事があった。気持ちよさそうに眠る彼女の顔。その顔を飽きる事なく、見つめ続けていた。彼女が目を覚まして、その瞳に自身を映すと包み込むような柔らかい笑顔で見つめ返して、掠れた声で「おはよう」と言った声も耳にこびり付いて離れない。
起きた時に酷い寝癖が付いていて、それを見たオレは腹を抱えて笑った事。頬を膨らまして拗ねる彼女の髪を軽く撫でて寝癖を直してやったら、機嫌も直った。そして、また彼女は優しく笑うんだ。
「一虎、大好き」
そう言って、小さな手で触れる瞬間が堪らなく好きだった。オレだけに向けられたその言葉も全てが好きだった。
親からも愛を受けて来なかったオレに初めて、愛というモノを与えてくれた人。彼女との記憶は優しく、愛おしくもあり、虚しくもあった。もしかしたら、それら全ては過去を美化したオレの幻想なのかもしれない。だけど、オレにとっては宝物のような輝かしい光を放つ時間だった事は確かだった。
あの頃はそれが当たり前だと思っていたから、気付けなかった。いつだってそうだった。手の届かない所に行ってしまってからやっと、大切だった事に気づくんだ。こんなにも冷たくて暗い世界になってしまった事に。だから、今日も思い出にしがみ付いて、過去に生きてしまう。そういう、生き方しか出来ない。キミが居ないと世界が輝く事はない事を知ってしまったから。