この恋に続きを
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私の初恋は幼い頃で近所に住んでいた男の子だった。この感情が特別だと知ったのは、小学校2年生くらいだったと思う。近所にはもう1人、同い年の男の子が居て、その子がソレは恋だと教えてくれた。今思えば、そんな時から恋だのなんだのと話していた私達はマセていたと思う。でも、ソレは紛れもなくホンモノで小さい頃から、中学3年生になった今でも私達は同じ人に変わらない感情を抱いている。
「またこんなトコに居んのかよ。待ってたってまだ帰ってきやしねーよ」
「知ってる」
「…はぁ、毎回付き合うオレの身にもなれって」
「頼んでないし」
「可愛くねー女」
「別にココにどう思われたっていいし」
「ハイハイ、イヌピーな」
私と乾 青宗と九井 一は幼馴染だ。小学校の時からこの図書館へよく来ていた。イヌピーのお姉さんの赤音さんとココが図書館の中で勉強している間、私とイヌピーは図書館の外にあるベンチで座っているか、中庭で遊んで2人をよく待っていた。今は1人でこのベンチに座って、イヌピーの帰りをひたすら待っている。たまにココが今日みたいに付き合ってくれる日もあるけれど、正直、1人で居る方が落ち着く。ココが居ると何かと厄介なのだ。
「イヌピー、いつ帰ってくるかな」
「さぁな。出所したってイヌピーは黒龍の所へ帰るぜ」
「…私、黒龍嫌い」
いつだって、イヌピーの1番は黒龍だった。彼が染まってしまったのも今、少年院にいるのも全部、黒龍のせいだ。なんて言っても、例え原因が黒龍だったとしても、全部イヌピーが決めて自分で行動した結果だ。頭では分かっているけど、矛先はどうしてもそっちへ向いてしまう。
「いつまでこだわってんだよ。さっさと忘れちまえよ」
「出来たら苦労しないって」
ほら、厄介だ。こうやっていつも私に「忘れちまえ」と言ってくる。自分だって同じ癖に。とは口には出来ないので、心の中でそう呟く。いつしか、私達は本音で言い合う事をしなくなった。遠慮して気を遣って衝突する事を避けてきた。昔はあんなに3人で喧嘩もして本音で言い合っていたのに。その結果、言いたい事は言えなくなって、イヌピーは少年院に入ってしまった。
小さくため息を零せば、ココは私の頭を軽く叩いてから「暗くなる前に家帰れよ」と言って立ち上がって、右手をヒラヒラとさせながら、立ち去ろうとした。その背中に向かって「送ってくれないの?」と冗談を言ってみれば、首だけで振り返って舌をペロッと出して「やだね」と言った。「だから、サッサと明るいうちに帰れって言ってんだよ」と言葉を残して、立ち去ってしまった。ココが私を置いてさっさと帰ってしまうのはいつもの事。ココが女の人を特別扱いするのはたった1人だけ。小学生の時、その人に彼女出来たら、そのコ以外に優しくしちゃダメだと言われた事を未だに律儀に守っている。
「いつまでこだわってんだって、アンタも人の事言えないじゃん」
小さな声で呟いてみると、胸がギュッと締め付けられて苦しくなった。私もココもイヌピーもたった1つのモノにこだわり続けている。良い事なんてないって分かっているのに止められないのは自分の中で1番大きくて大切なモノだから。そんな事は自分達が1番分かっている。
薄暗くなって来た空を見上げてから、家に帰ろうと腰を上げた。
*
あれから毎日、雨の日も雪の日もずっとあそこで私は1人で彼を待っていた。流石に雨の日はやめておいた方が良かったと軽く後悔している。なぜなら、昨日いつものようにあのベンチに座っていると、曇っていた空は急に雨を降らせた。そこで帰れば良かったものの、もう少しだけと、暫く雨に打たれながらその場に残ったせいで風邪を引いてしまった。
体温計が鳴って取り出して見てみれば、38.2度と表示されていて、数字を見たら余計に怠くなった。さっさと寝てしまおうと目を閉じて、ウトウトし始めた頃、ドアが開く音がして目を薄らと開けて視線だけをドアに向けると、そこには白い特服に身を包んだ私が1番会いたかった人の姿が見えた。
熱で幻覚でも見てるのか…?ボーッとする頭で現状を整理してみるが、混乱する一方だった。
「え、なんで…?」
やっと絞り出した言葉がそれだった。もっと言いたい事とか沢山あった筈なのに、言葉が全く出てこない。
「今日、出所した」
「今日出所したのに、なんで顔中に傷があるの?」
「さっきタイマン張ってきた」
「…あっそ」
ココの「出所したって、イヌピーは黒龍の所へ帰るぜ」という言葉が胸を深く抉る。そんな事分かってるよ、自分がイヌピーの1番じゃない事くらい。現実から逃げるように布団を頭から被って「もう寝るから」とだけ告げた。すると、ドアが閉まる音が聞こえて、彼が出ていったようだった。その途端に涙が出そうになってしまった。また、言えなかった。素直に「おかえり」で良かったじゃん。小さな声で「青宗」と彼の名を呟いた。
「何だ」
「…は?」
突然聞こえて来た返事に慌てて布団を捲って起き上がると、出て行ったハズの彼が平然とした顔でベッドの傍に立っていた。
「さっき帰ったんじゃ…?」
「ドア閉めただけだ」
それからは、何となくお互い無言になってしまう。イヌピーは元からそんな喋るタイプじゃないから、いつも通りだけど、私は気まずさから何も言えなくて、俯いたまま布団をジッと見つめていた。
「名前で呼ばれるの久しぶりだった」
「そう言えばそうだったね」
昔はイヌピーの事は、青宗と呼んでいた。でも、あの火事があった日から、青宗と呼ぶのは避けて来た。直接言われた訳じゃないけど、何となく名前で呼ばれるのが苦痛そうに見えてしまったから。それから、私もココと同じようにイヌピーと呼ぶようになったけど、本当は今まで通り青宗って呼びたかった。
「寝なくていいのか?熱あるんだろ」
「うん。でも、もう少し青宗と話したい」
今度は少しだけ素直に言えた。そして、私が青宗と呼んでも昔みたいに苦痛そうな表情を見せる事は無かった。青宗は私をジッと見つめてから、特服を脱いで私の肩に掛けてくれた。
「…ありがとう。でも、良いの?大事な特服を私なんかに掛けちゃって」
「別に名前ならいい」
少しだけ表情を緩めてそう言った。そんな彼の右手に手を伸ばして指先でソッと触れてみる。冷たくて硬い手が微かに私の指先をキュッと包み込んだ。その瞬間に涙が滲んで来てしまい、見られまいと下を向いて瞳を隠すと、頭に優しく手が置かれた。ゆっくりと顔を上げると少しだけ微笑んだ彼と視線が絡み合った。やっぱり、彼にこだわらないなんて無理だ。
ほら、また好きになっていく。
「またこんなトコに居んのかよ。待ってたってまだ帰ってきやしねーよ」
「知ってる」
「…はぁ、毎回付き合うオレの身にもなれって」
「頼んでないし」
「可愛くねー女」
「別にココにどう思われたっていいし」
「ハイハイ、イヌピーな」
私と乾 青宗と九井 一は幼馴染だ。小学校の時からこの図書館へよく来ていた。イヌピーのお姉さんの赤音さんとココが図書館の中で勉強している間、私とイヌピーは図書館の外にあるベンチで座っているか、中庭で遊んで2人をよく待っていた。今は1人でこのベンチに座って、イヌピーの帰りをひたすら待っている。たまにココが今日みたいに付き合ってくれる日もあるけれど、正直、1人で居る方が落ち着く。ココが居ると何かと厄介なのだ。
「イヌピー、いつ帰ってくるかな」
「さぁな。出所したってイヌピーは黒龍の所へ帰るぜ」
「…私、黒龍嫌い」
いつだって、イヌピーの1番は黒龍だった。彼が染まってしまったのも今、少年院にいるのも全部、黒龍のせいだ。なんて言っても、例え原因が黒龍だったとしても、全部イヌピーが決めて自分で行動した結果だ。頭では分かっているけど、矛先はどうしてもそっちへ向いてしまう。
「いつまでこだわってんだよ。さっさと忘れちまえよ」
「出来たら苦労しないって」
ほら、厄介だ。こうやっていつも私に「忘れちまえ」と言ってくる。自分だって同じ癖に。とは口には出来ないので、心の中でそう呟く。いつしか、私達は本音で言い合う事をしなくなった。遠慮して気を遣って衝突する事を避けてきた。昔はあんなに3人で喧嘩もして本音で言い合っていたのに。その結果、言いたい事は言えなくなって、イヌピーは少年院に入ってしまった。
小さくため息を零せば、ココは私の頭を軽く叩いてから「暗くなる前に家帰れよ」と言って立ち上がって、右手をヒラヒラとさせながら、立ち去ろうとした。その背中に向かって「送ってくれないの?」と冗談を言ってみれば、首だけで振り返って舌をペロッと出して「やだね」と言った。「だから、サッサと明るいうちに帰れって言ってんだよ」と言葉を残して、立ち去ってしまった。ココが私を置いてさっさと帰ってしまうのはいつもの事。ココが女の人を特別扱いするのはたった1人だけ。小学生の時、その人に彼女出来たら、そのコ以外に優しくしちゃダメだと言われた事を未だに律儀に守っている。
「いつまでこだわってんだって、アンタも人の事言えないじゃん」
小さな声で呟いてみると、胸がギュッと締め付けられて苦しくなった。私もココもイヌピーもたった1つのモノにこだわり続けている。良い事なんてないって分かっているのに止められないのは自分の中で1番大きくて大切なモノだから。そんな事は自分達が1番分かっている。
薄暗くなって来た空を見上げてから、家に帰ろうと腰を上げた。
*
あれから毎日、雨の日も雪の日もずっとあそこで私は1人で彼を待っていた。流石に雨の日はやめておいた方が良かったと軽く後悔している。なぜなら、昨日いつものようにあのベンチに座っていると、曇っていた空は急に雨を降らせた。そこで帰れば良かったものの、もう少しだけと、暫く雨に打たれながらその場に残ったせいで風邪を引いてしまった。
体温計が鳴って取り出して見てみれば、38.2度と表示されていて、数字を見たら余計に怠くなった。さっさと寝てしまおうと目を閉じて、ウトウトし始めた頃、ドアが開く音がして目を薄らと開けて視線だけをドアに向けると、そこには白い特服に身を包んだ私が1番会いたかった人の姿が見えた。
熱で幻覚でも見てるのか…?ボーッとする頭で現状を整理してみるが、混乱する一方だった。
「え、なんで…?」
やっと絞り出した言葉がそれだった。もっと言いたい事とか沢山あった筈なのに、言葉が全く出てこない。
「今日、出所した」
「今日出所したのに、なんで顔中に傷があるの?」
「さっきタイマン張ってきた」
「…あっそ」
ココの「出所したって、イヌピーは黒龍の所へ帰るぜ」という言葉が胸を深く抉る。そんな事分かってるよ、自分がイヌピーの1番じゃない事くらい。現実から逃げるように布団を頭から被って「もう寝るから」とだけ告げた。すると、ドアが閉まる音が聞こえて、彼が出ていったようだった。その途端に涙が出そうになってしまった。また、言えなかった。素直に「おかえり」で良かったじゃん。小さな声で「青宗」と彼の名を呟いた。
「何だ」
「…は?」
突然聞こえて来た返事に慌てて布団を捲って起き上がると、出て行ったハズの彼が平然とした顔でベッドの傍に立っていた。
「さっき帰ったんじゃ…?」
「ドア閉めただけだ」
それからは、何となくお互い無言になってしまう。イヌピーは元からそんな喋るタイプじゃないから、いつも通りだけど、私は気まずさから何も言えなくて、俯いたまま布団をジッと見つめていた。
「名前で呼ばれるの久しぶりだった」
「そう言えばそうだったね」
昔はイヌピーの事は、青宗と呼んでいた。でも、あの火事があった日から、青宗と呼ぶのは避けて来た。直接言われた訳じゃないけど、何となく名前で呼ばれるのが苦痛そうに見えてしまったから。それから、私もココと同じようにイヌピーと呼ぶようになったけど、本当は今まで通り青宗って呼びたかった。
「寝なくていいのか?熱あるんだろ」
「うん。でも、もう少し青宗と話したい」
今度は少しだけ素直に言えた。そして、私が青宗と呼んでも昔みたいに苦痛そうな表情を見せる事は無かった。青宗は私をジッと見つめてから、特服を脱いで私の肩に掛けてくれた。
「…ありがとう。でも、良いの?大事な特服を私なんかに掛けちゃって」
「別に名前ならいい」
少しだけ表情を緩めてそう言った。そんな彼の右手に手を伸ばして指先でソッと触れてみる。冷たくて硬い手が微かに私の指先をキュッと包み込んだ。その瞬間に涙が滲んで来てしまい、見られまいと下を向いて瞳を隠すと、頭に優しく手が置かれた。ゆっくりと顔を上げると少しだけ微笑んだ彼と視線が絡み合った。やっぱり、彼にこだわらないなんて無理だ。
ほら、また好きになっていく。