キミのいた夏
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真夏の夕方、6時。もう夕方だというのに外はまだ明るくて、暑かった。クーラーのガンガン効いた部屋でアイスを食べながら、過ごしている。体の中から外まで冷やさないと今日のような暑い日はやってらんない。ダラダラと過ごしていると、窓の外から低くて唸るような音が聞こえ、徐々に近づいて来るのが分かる。
この音ってもしかしてと思い、部屋の窓から顔を覗かせれば想像通りの人物が居た。
「マイキー!どうしたの?約束は明日でしょ?」
明日は、8月20日。マイキーの誕生日。一緒に過ごそうと約束したのは明日の当日だ。
首を傾げて彼の答えを待つがその返答はない。ただ、じっと私を見つめていた。
何となく分かった気がして、慌てて部屋を飛び出して彼のいる外に向かった。
「どこか行くの?」
「海、行こうぜ」
それだけ伝えると、再度バイクのエンジンを付けた。唸るバイクの後ろに乗れば、首に掛けていた半コルクを私の頭に雑に被せた。しっかり被り直すとバイクは走り始めた。
夏の暑い風を全身で感じながら、彼の腰に回した腕と触れている背中から伝わる彼の体温が熱くて、余計に暑くさせる。だけど、暑苦しいなんて思わなくてこのままがいいと思ってしまう。冬は寒さのせいにしてくっ付ける理由があるけど夏ってなかなかないじゃない。でも、彼の後ろに乗っている時は理由なんていらない。
だから、この瞬間が大好きだ。ほんのり甘い香りを感じながら回している腕の力を強めた。
段々と潮の香りがして来たので目を向ければ、私が想像していたものとは違う景色だった。マイキーはブレーキをかけて走るのを止めた。
「あれ、海…」
「海じゃん」
「まぁ、そうだけどさ。砂浜がある海を想像してた」
「人多いのやだ」
少し拗ねた口調で言う彼は年相応の子供のようだった。マイキーが連れて来てくれたのは、砂浜がある海ではなく工業地帯が見える、港だった。着いた頃には日が沈み始めていて、溶けていくように沈み出している空と彼の姿が重なった。
「この薄汚れた海が綺麗になる事ってあんのかな」
「え?」
「名前はどう思う?」
「ないんじゃないかな?」
彼の質問の意図が分からず、自分が思うままに答えた。すると、マイキーは少し寂しそうな笑みを浮かべて「だよね」と言った。その表情を見たら、胸が締め付けられるように苦しくなった。気の利いた言葉が言えれば良いのだけど、何も浮んでは来なかった。言葉の代わりに、彼の手に触れた。触れた手は夏だというのに冷んやりしていた。少しでも私の温もりで溶けて欲しくてただひたすら握り締めた。
マイキーも何も言わずに海を眺めていた。その横顔を見つめるが気付いていないのか、気付いていないフリをしているのか、私と目が合うことはない。
キミにしか見えない何かが海の先にあるの?そんな寂しい目をして何を見ているの?
明日は、キミの生まれた日だよ。もう少し、嬉しそうな顔をしてよ。
なんて言えるわけもなくて、俯く。海の先にある何かを分かりたくなくて目をギュッと瞑る。波の音と共に聞こえたのは「人間も同じだよな」と消え入るような彼の声だった。目を開けてマイキーの顔を見ると、彼は私を見ていた。漆黒の瞳に映る私は今にも黒に飲まれて消えてしまいそうだった。
「帰るか」
「やだ。もう少し一緒に居たい」
「明日も会えんじゃん」
「そうだけど…」
マイキーはもう帰る気しかないようで、愛車をひと撫でしてから跨がり、半コルクを私に投げた。本当はまだ帰りたくないし、このままマイキーを1人にしたくなかったけれど、彼は決めた事を変える人ではない事を知っている。帰るという選択肢しかないので諦めて彼の後ろに乗った。走り出して吹き付ける風は来た時より冷たくて夜が近づいて来ていた。
家の前で降ろして貰って、その場で立ちすくむ。帰っている途中に考えていた彼の為に用意していた言葉たちはどれも届かない気がして口が縫い付けられてしまったかのように開くことができなかった。
「中入んねぇの?」
「…入るよ」
彼は小さく笑って、私の頬に手を添えて触れるだけの優しいキスをした。
「じゃあね」
透き通るような金髪を靡かせてそう言った。いつもと同じ別れ方なのに凄く悲しくて寂しく思えた。私も「バイバイ」と言って手を振った。そして、小柄だけど広い背中が見えなくなるまで見送った。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
結局、次の日の誕生日は彼に会えなかった。その次の日もずっと会えなかった。
あの日で本当にさよならだった。あの時、何と言えば良かったのだろう。
こうなると心のどこかで分かっていた。けれど、何も出来なかった。今の私なら思いつく限りに眩しい明日を彼にあげられただろうか。
新聞の一面を見てそんな事を思う。東京卍會は大きくなったね。いつも、目を輝かして「時代を創る」って言ってたもんね。でも、本当にこれで良かったの?あの日、海の先に見えていたモノはこれだった?そうなら、私はあの時、目を瞑って正解だったね。きっと、その先を見せたくなくて居なくなったんでしょう?
なんて、そんな風に都合の良い解釈をしてしまう自分に乾いた笑いが漏れる。
手にしていた新聞をクシャッと握りしめて、涙を堪える。もう、二度と私とアナタが交わる事はないのは分かっている。
あの時、あの瞬間、キミといられた事はどんな奇跡にも敵わない。
キミとの夏、私の世界にキミが居た夏。願わくば、アナタの夏の中に私が居ますように。
この音ってもしかしてと思い、部屋の窓から顔を覗かせれば想像通りの人物が居た。
「マイキー!どうしたの?約束は明日でしょ?」
明日は、8月20日。マイキーの誕生日。一緒に過ごそうと約束したのは明日の当日だ。
首を傾げて彼の答えを待つがその返答はない。ただ、じっと私を見つめていた。
何となく分かった気がして、慌てて部屋を飛び出して彼のいる外に向かった。
「どこか行くの?」
「海、行こうぜ」
それだけ伝えると、再度バイクのエンジンを付けた。唸るバイクの後ろに乗れば、首に掛けていた半コルクを私の頭に雑に被せた。しっかり被り直すとバイクは走り始めた。
夏の暑い風を全身で感じながら、彼の腰に回した腕と触れている背中から伝わる彼の体温が熱くて、余計に暑くさせる。だけど、暑苦しいなんて思わなくてこのままがいいと思ってしまう。冬は寒さのせいにしてくっ付ける理由があるけど夏ってなかなかないじゃない。でも、彼の後ろに乗っている時は理由なんていらない。
だから、この瞬間が大好きだ。ほんのり甘い香りを感じながら回している腕の力を強めた。
段々と潮の香りがして来たので目を向ければ、私が想像していたものとは違う景色だった。マイキーはブレーキをかけて走るのを止めた。
「あれ、海…」
「海じゃん」
「まぁ、そうだけどさ。砂浜がある海を想像してた」
「人多いのやだ」
少し拗ねた口調で言う彼は年相応の子供のようだった。マイキーが連れて来てくれたのは、砂浜がある海ではなく工業地帯が見える、港だった。着いた頃には日が沈み始めていて、溶けていくように沈み出している空と彼の姿が重なった。
「この薄汚れた海が綺麗になる事ってあんのかな」
「え?」
「名前はどう思う?」
「ないんじゃないかな?」
彼の質問の意図が分からず、自分が思うままに答えた。すると、マイキーは少し寂しそうな笑みを浮かべて「だよね」と言った。その表情を見たら、胸が締め付けられるように苦しくなった。気の利いた言葉が言えれば良いのだけど、何も浮んでは来なかった。言葉の代わりに、彼の手に触れた。触れた手は夏だというのに冷んやりしていた。少しでも私の温もりで溶けて欲しくてただひたすら握り締めた。
マイキーも何も言わずに海を眺めていた。その横顔を見つめるが気付いていないのか、気付いていないフリをしているのか、私と目が合うことはない。
キミにしか見えない何かが海の先にあるの?そんな寂しい目をして何を見ているの?
明日は、キミの生まれた日だよ。もう少し、嬉しそうな顔をしてよ。
なんて言えるわけもなくて、俯く。海の先にある何かを分かりたくなくて目をギュッと瞑る。波の音と共に聞こえたのは「人間も同じだよな」と消え入るような彼の声だった。目を開けてマイキーの顔を見ると、彼は私を見ていた。漆黒の瞳に映る私は今にも黒に飲まれて消えてしまいそうだった。
「帰るか」
「やだ。もう少し一緒に居たい」
「明日も会えんじゃん」
「そうだけど…」
マイキーはもう帰る気しかないようで、愛車をひと撫でしてから跨がり、半コルクを私に投げた。本当はまだ帰りたくないし、このままマイキーを1人にしたくなかったけれど、彼は決めた事を変える人ではない事を知っている。帰るという選択肢しかないので諦めて彼の後ろに乗った。走り出して吹き付ける風は来た時より冷たくて夜が近づいて来ていた。
家の前で降ろして貰って、その場で立ちすくむ。帰っている途中に考えていた彼の為に用意していた言葉たちはどれも届かない気がして口が縫い付けられてしまったかのように開くことができなかった。
「中入んねぇの?」
「…入るよ」
彼は小さく笑って、私の頬に手を添えて触れるだけの優しいキスをした。
「じゃあね」
透き通るような金髪を靡かせてそう言った。いつもと同じ別れ方なのに凄く悲しくて寂しく思えた。私も「バイバイ」と言って手を振った。そして、小柄だけど広い背中が見えなくなるまで見送った。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
結局、次の日の誕生日は彼に会えなかった。その次の日もずっと会えなかった。
あの日で本当にさよならだった。あの時、何と言えば良かったのだろう。
こうなると心のどこかで分かっていた。けれど、何も出来なかった。今の私なら思いつく限りに眩しい明日を彼にあげられただろうか。
新聞の一面を見てそんな事を思う。東京卍會は大きくなったね。いつも、目を輝かして「時代を創る」って言ってたもんね。でも、本当にこれで良かったの?あの日、海の先に見えていたモノはこれだった?そうなら、私はあの時、目を瞑って正解だったね。きっと、その先を見せたくなくて居なくなったんでしょう?
なんて、そんな風に都合の良い解釈をしてしまう自分に乾いた笑いが漏れる。
手にしていた新聞をクシャッと握りしめて、涙を堪える。もう、二度と私とアナタが交わる事はないのは分かっている。
あの時、あの瞬間、キミといられた事はどんな奇跡にも敵わない。
キミとの夏、私の世界にキミが居た夏。願わくば、アナタの夏の中に私が居ますように。