最後の日まで
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「おい、あんま遠く行くなよ」
場地くんの声で私は歩みを止めて振り返る。
真夜中の突然の場地くんからの呼び出しに応じると、場地くんは何も言わずに私を単車の後ろに乗せて走り出した。着いた場所は前に一緒に来た事があった海だった。先をどんどん歩く私にそう言う。
「そっちこそ」
そう言うと、訳が分からないという表情を見せた。
何となくだけどね、気付いているんだ。場地くんが遠くに行ってしまうんじゃないか。もう、会えなくなってしまうんじゃないかって。
ずっと今のような時間が続いて欲しいと思っている。今、場地くんの手を取ることが出来なくても、想いを口にする事が出来なくても、好きだって想いは伝わって欲しい。
場地くんの瞳を真っ直ぐ見つめるけど直ぐに逸らされてしまった。折角、絡んだ視線を逸らさないで。
「場地くん、私の瞳をちゃんと見てよ」
そう言えば、少しだけ私の方を見てくれた。
揺れている瞳から彼が何を言いたいのか読み取ろうとしても、全部は分からなくて。だから、この手から少しでも伝われば…だなんて思って、場地くんに手を伸ばして、ほんの少しだけ触れてみる。
「何」
「特に意味はないよ」
少し場地くんが手を動かせば私の手に触れた。すると「悪ぃ」と言って触れた手を離した。近づけた距離を離さないで。
「泣いてんのか?」
「…泣いてないよ」
「オマエは本当に強がりだよな」
小さく笑う場地くんの笑顔に期待をしてしまう。
このまま、私の側にいてくれるんじゃないかって。
堪えきれなくなって場地くんに抱きつけば、弱い力で抱き締め返してくれた。「名前」と私を呼んだので顔をあげて彼を見つめるが少しの間が空いてから「やっぱり、なんでもねぇ」と言った。
私に言いかけた言葉を胸の中に仕舞わないで。
そう言いかけて私も口を閉じる。
そんなの、卑怯か。私も言いかけた言葉を何度も胸に仕舞っている癖にね。
このまま私と貴方の時間が止まればいいのに。
そうすれば、ずっと今日でいられるから。
明日も側に居たいなんて当たり前の事を口にすら出来ないの。せめて、今日だけは終わらないで。なんて願ってしまうんだ。
「名前」
もう一度、私を呼ぶ声で抱きついていた手をそっと離す。離れたくないと心が言うけど、もう離さなければならない。完全に私の手が離れると場地くんは歩き出した。彼の影だけが伸びて行く。
永遠とまではいかなくても限りのある恋でもいいから、最後の日まで側に居たい。
「場地くん、消えてしまわないで…」
止まったままの私の声はきっと、場地くんには届かなかっただろう。