チョコレートを取り戻せ
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寒い季節の真っ只中、今日だけは男の子も女の子も真夏のように熱く燃える日。朝からクラス中がソワソワとしていて、浮き足立っている。
そう、今日はバレンタインデー。
告白を意気込む女の子達は、まるで戦に行く前の時のような緊張した面持ちでソワソワと気になる人にチラチラと視線を送ったりしている。
そんな中、私は特に告白する予定なんて全くないので、平和に過ごしている。友達同士で交換する友チョコは作っているので、友達と交換して昼休みにつまんで食べていた。
一応、本命のチョコも用意はしている。もちろん、相手は場地なのだが、告白なんてする気は全くない。ただ、ちょっと他のチョコより気合い入れて作り、ベタかもしれないが、ガトーショコラを作ってみた。
場地とは、学校は違うので放課後に千冬の分と一緒に渡しに行こうと思っている。
「藤堂、オレにはチョコないの?」
「え、ないけど」
「マジかよー、欲しかったなぁ」
隣の席の男の子が話し掛けてきて、チョコをくれと右手を出して来た。この人は、普段からおちゃらけているタイプの人間なので、特に深い意味はないのは分かっている。ただ、チョコが食べたいだけか、個数を増やしたいだけのどちらかだ。
特に深い意味はないのだから、別にあげてもいいかと思い、自分が食べるようにと持って来た形の悪い歪な失敗したトリュフチョコレートが入った箱を渡すと、パッと笑顔を輝かせて受け取った。
「失敗作だけど」
「そんなの全然気にしねぇよ!貰えるだけ嬉しいわ」
彼は口笛を吹きながら、軽やかな足取りで箱を抱えて教室から出て行った。
そんなにチョコレートが食べたかったのかと呆れつつも、友達から貰った生チョコを一つ口に含んだ。
すると、教室中が一気に静まり返ったので何事かと顔を上げると、教室のドアからマイキーとドラケンが入って来るのが見えた。二人は一直線に私の席までやって来た。
「今日は遅かったね。給食終わっちゃったよ」
「いーよ、別に。今日のメニュー揚げパンじゃねぇし」
マイキーの給食の好物は揚げパン。これがない日は結構、機嫌が悪い。つまり、月一出てるか出ないかの確率なので、ほとんど機嫌が悪いという事になるのだけれど、そこはドラケンがなんとか収めてくれているので、問題は無い。
マイキーは満面の笑みで「ん!」と私の目の前に手を差し出して来た。なんだ、この手はと差し出された手とマイキーの顔を交互に見比べていると、マイキーは「チョコ」と短く言った。
「あぁ、バレンタインの事ね。二人の分はちゃんとあるよ」
「コイツ、明日香のチョコ貰う為に学校行くっつってんだよ」
「理由が食べ物なのが、マイキーらしいね」
鞄の中から、マイキーとドラケンに作ったトリュフチョコレートの入った箱を手渡すと二人は嬉しそうに受け取ってくれた。
マイキーは包装を雑に破り開けて早速、頬張っていた。何個も何個も口に運ぶ姿を見て、ほっこりしてしまう。
フと鞄の中に視線を落とすと、ある違和感に気が付いた。何故か、さっきクラスの男の子に渡したハズの失敗作を入れた箱が鞄の中に入っていた。おかしいと思い、鞄の中を漁ると一番大事な箱が入っていなかった。
そう、場地にあげる為のガトーショコラが入った箱がない。
「間違えたっ!!」
私がそう叫ぶと、二人は不思議そうに私の顔を見ていた。間違えて場地に渡す為の箱を渡してしまったようだ。
頭を抱えてどうするかを懸命に模索すると、真っ先に浮かんだのは取り返す事だった。
「私、取り返しに行って来る」
「は?何を?」
「チョコレート」
マイキーは何故か自分のチョコを取り返されると思ったのか、箱をバッと背中に隠してしまった。マイキーのチョコではない事を告げると彼は安心したかのように机の上にチョコを戻した。
教室を出ようとした時、今度はクラス中が騒めいたので私達は教室を見回すと、今度はドアの所に場地が居た。彼も同じように真っ直ぐに私の席までやって来た。
「げっ…最悪」
「あ?なんか言ったかぁ?」
「いいえ、何にも言ってないです」
いつもはウチの学校になんて来ないのに何故、今日に限ってやって来たのだろうか。
空気を読め、バカ場地。と心の中で毒づいてみるが、バカは渡し間違えた私の方だ。
場地はチラッとマイキーの食べているチョコを見てから、私の顔に視線を移した。
その視線に気が付かないフリをして作り笑顔を貼り付けて誤魔化してみるが、マイキーがサラッと「明日香から貰ったチョコ、うめぇよ」と言ってしまい、一気に血の気が引く感覚がした。
ジッと私の目を見てくる場地から目を逸らした。
とりあえず、今すぐ取り返して渡せば、きっとまだセーフだ。そう思い、一人で頷く。
「えーと、場地の分は今は無いというか、なんというか…うん、ちょっと、待ってて」
「は?なんだよそれ」
「場地の分はねぇってよ。残念だったな」
マイキーが揶揄うように指さして笑った事に場地はイラついたのか、大きな舌打ちをしてマイキーに喧嘩を吹っかけていた。
その隙に私は脱兎のごとく、教室から飛び出してさっきの箱を取り返すべく、学校を走り回った。
ようやく三階の廊下で発見し、返してもらおうかと思ったら、なんと彼は半分くらい食べてしまっていた。呑気に「どこが失敗作なんだよ、美味いじゃん」と声を掛けて来た。
そうだよ、それは失敗作じゃなくて本命なんだよと心の中で呟きながら、そのセリフは場地に言ってもらいたかったと肩を落とす。
「あの、それは間違いでですね…」
「ん?どういう事?」
本当は失敗作はこっちの箱でその箱は場地にあげる為の箱だった事を告げると、彼は顔を真っ青にした。2ヶ月ほどだけだが、場地とは同じクラスだった彼は場地が大分ぶっ飛んだ男だと言う事を知っているので、「やべぇ、場地の食っちまった…」と震えていた。
ごめんと何度も謝ってくれる彼に大丈夫だと言うが、未だに震えていた。彼が悪いわけでもなく、私が全部悪いので可哀想な事をしてしまったと思っていると、後ろから「オイ」と地を這うような低い声が聞こえた。
振り返ろうとしたのと同時にドンっという鈍い音が鳴り、目の前には腕が現れた。
横を見ると、場地が壁に手を付いて私を見下ろしていた。
「出せ」
「はい?」
「いいから、早く出せ」
「所持金をですか…?」
場地にカツアゲでもされているのかと思うほどの迫力で睨み付けられている。しかも、壁ドンというオプション付きだ。ヤクザの借金取りみたいなシュチュエーションに恐怖でドキドキしてしまう。
その瞬間に目の前に居た彼は、土下座する程の勢いで場地に謝り倒していた。その姿を見たら、正直に話した方がいいと思い、間違えて渡してしまい、半分食べられてしまった事、手元に残っているのは失敗作のトリュフチョコレートの箱だと言う事を告げると、場地は深い溜息を吐いて、壁に付いていた手を退かした。
安堵の溜息を漏らしたのも束の間、今度は彼に向かって場地はガンっという音を立てて、足を壁に付きつけた。
「今すぐ寄越せ」
「有り金をですか…?」
彼も場地にカツアゲされているような気分を味わっているのか、震えた声で財布を取り出していた。場地はイラついたように舌打ちをして、「違ぇよ」と低い声で言い、手に持っていた、食べかけのガトーショコラを奪い取った。
そして、私の腕を掴んでその場から移動した。
場地に引きづられるように連れ出されたのは、学校の裏庭だった。傍にあったベンチにドカッと座ると、視線でオマエも早く座れと言って来たので、私も場地の隣に腰を下ろした。
「本当にごめんね。半分になっちゃって…」
「その失敗作も寄越せ」
「え、でも、本当に形歪だよ」
「味は変わんねぇだろ」
場地がそう言ってくれたので鞄の中から失敗作の入った箱を渡すと、すぐ様に箱を開けて口の中にチョコを放り込んだ。
場地の顔をジッと見ていると「ンだよ」と横目で睨まれたので、視線を逸らした。
場地が美味しいとか言ってくれるワケないかと欲しかった言葉を諦めていると、場地は小さな声で「美味かった」と呟いた。
その声に思わず、顔を上げて凝視すると彼の頬は紅く染まっていた。
「…来年は、ちゃんと渡すね」
「一番に渡せよ」
「うん、約束」
小指を絡めて、二人で小さく笑い合った。
そう、今日はバレンタインデー。
告白を意気込む女の子達は、まるで戦に行く前の時のような緊張した面持ちでソワソワと気になる人にチラチラと視線を送ったりしている。
そんな中、私は特に告白する予定なんて全くないので、平和に過ごしている。友達同士で交換する友チョコは作っているので、友達と交換して昼休みにつまんで食べていた。
一応、本命のチョコも用意はしている。もちろん、相手は場地なのだが、告白なんてする気は全くない。ただ、ちょっと他のチョコより気合い入れて作り、ベタかもしれないが、ガトーショコラを作ってみた。
場地とは、学校は違うので放課後に千冬の分と一緒に渡しに行こうと思っている。
「藤堂、オレにはチョコないの?」
「え、ないけど」
「マジかよー、欲しかったなぁ」
隣の席の男の子が話し掛けてきて、チョコをくれと右手を出して来た。この人は、普段からおちゃらけているタイプの人間なので、特に深い意味はないのは分かっている。ただ、チョコが食べたいだけか、個数を増やしたいだけのどちらかだ。
特に深い意味はないのだから、別にあげてもいいかと思い、自分が食べるようにと持って来た形の悪い歪な失敗したトリュフチョコレートが入った箱を渡すと、パッと笑顔を輝かせて受け取った。
「失敗作だけど」
「そんなの全然気にしねぇよ!貰えるだけ嬉しいわ」
彼は口笛を吹きながら、軽やかな足取りで箱を抱えて教室から出て行った。
そんなにチョコレートが食べたかったのかと呆れつつも、友達から貰った生チョコを一つ口に含んだ。
すると、教室中が一気に静まり返ったので何事かと顔を上げると、教室のドアからマイキーとドラケンが入って来るのが見えた。二人は一直線に私の席までやって来た。
「今日は遅かったね。給食終わっちゃったよ」
「いーよ、別に。今日のメニュー揚げパンじゃねぇし」
マイキーの給食の好物は揚げパン。これがない日は結構、機嫌が悪い。つまり、月一出てるか出ないかの確率なので、ほとんど機嫌が悪いという事になるのだけれど、そこはドラケンがなんとか収めてくれているので、問題は無い。
マイキーは満面の笑みで「ん!」と私の目の前に手を差し出して来た。なんだ、この手はと差し出された手とマイキーの顔を交互に見比べていると、マイキーは「チョコ」と短く言った。
「あぁ、バレンタインの事ね。二人の分はちゃんとあるよ」
「コイツ、明日香のチョコ貰う為に学校行くっつってんだよ」
「理由が食べ物なのが、マイキーらしいね」
鞄の中から、マイキーとドラケンに作ったトリュフチョコレートの入った箱を手渡すと二人は嬉しそうに受け取ってくれた。
マイキーは包装を雑に破り開けて早速、頬張っていた。何個も何個も口に運ぶ姿を見て、ほっこりしてしまう。
フと鞄の中に視線を落とすと、ある違和感に気が付いた。何故か、さっきクラスの男の子に渡したハズの失敗作を入れた箱が鞄の中に入っていた。おかしいと思い、鞄の中を漁ると一番大事な箱が入っていなかった。
そう、場地にあげる為のガトーショコラが入った箱がない。
「間違えたっ!!」
私がそう叫ぶと、二人は不思議そうに私の顔を見ていた。間違えて場地に渡す為の箱を渡してしまったようだ。
頭を抱えてどうするかを懸命に模索すると、真っ先に浮かんだのは取り返す事だった。
「私、取り返しに行って来る」
「は?何を?」
「チョコレート」
マイキーは何故か自分のチョコを取り返されると思ったのか、箱をバッと背中に隠してしまった。マイキーのチョコではない事を告げると彼は安心したかのように机の上にチョコを戻した。
教室を出ようとした時、今度はクラス中が騒めいたので私達は教室を見回すと、今度はドアの所に場地が居た。彼も同じように真っ直ぐに私の席までやって来た。
「げっ…最悪」
「あ?なんか言ったかぁ?」
「いいえ、何にも言ってないです」
いつもはウチの学校になんて来ないのに何故、今日に限ってやって来たのだろうか。
空気を読め、バカ場地。と心の中で毒づいてみるが、バカは渡し間違えた私の方だ。
場地はチラッとマイキーの食べているチョコを見てから、私の顔に視線を移した。
その視線に気が付かないフリをして作り笑顔を貼り付けて誤魔化してみるが、マイキーがサラッと「明日香から貰ったチョコ、うめぇよ」と言ってしまい、一気に血の気が引く感覚がした。
ジッと私の目を見てくる場地から目を逸らした。
とりあえず、今すぐ取り返して渡せば、きっとまだセーフだ。そう思い、一人で頷く。
「えーと、場地の分は今は無いというか、なんというか…うん、ちょっと、待ってて」
「は?なんだよそれ」
「場地の分はねぇってよ。残念だったな」
マイキーが揶揄うように指さして笑った事に場地はイラついたのか、大きな舌打ちをしてマイキーに喧嘩を吹っかけていた。
その隙に私は脱兎のごとく、教室から飛び出してさっきの箱を取り返すべく、学校を走り回った。
ようやく三階の廊下で発見し、返してもらおうかと思ったら、なんと彼は半分くらい食べてしまっていた。呑気に「どこが失敗作なんだよ、美味いじゃん」と声を掛けて来た。
そうだよ、それは失敗作じゃなくて本命なんだよと心の中で呟きながら、そのセリフは場地に言ってもらいたかったと肩を落とす。
「あの、それは間違いでですね…」
「ん?どういう事?」
本当は失敗作はこっちの箱でその箱は場地にあげる為の箱だった事を告げると、彼は顔を真っ青にした。2ヶ月ほどだけだが、場地とは同じクラスだった彼は場地が大分ぶっ飛んだ男だと言う事を知っているので、「やべぇ、場地の食っちまった…」と震えていた。
ごめんと何度も謝ってくれる彼に大丈夫だと言うが、未だに震えていた。彼が悪いわけでもなく、私が全部悪いので可哀想な事をしてしまったと思っていると、後ろから「オイ」と地を這うような低い声が聞こえた。
振り返ろうとしたのと同時にドンっという鈍い音が鳴り、目の前には腕が現れた。
横を見ると、場地が壁に手を付いて私を見下ろしていた。
「出せ」
「はい?」
「いいから、早く出せ」
「所持金をですか…?」
場地にカツアゲでもされているのかと思うほどの迫力で睨み付けられている。しかも、壁ドンというオプション付きだ。ヤクザの借金取りみたいなシュチュエーションに恐怖でドキドキしてしまう。
その瞬間に目の前に居た彼は、土下座する程の勢いで場地に謝り倒していた。その姿を見たら、正直に話した方がいいと思い、間違えて渡してしまい、半分食べられてしまった事、手元に残っているのは失敗作のトリュフチョコレートの箱だと言う事を告げると、場地は深い溜息を吐いて、壁に付いていた手を退かした。
安堵の溜息を漏らしたのも束の間、今度は彼に向かって場地はガンっという音を立てて、足を壁に付きつけた。
「今すぐ寄越せ」
「有り金をですか…?」
彼も場地にカツアゲされているような気分を味わっているのか、震えた声で財布を取り出していた。場地はイラついたように舌打ちをして、「違ぇよ」と低い声で言い、手に持っていた、食べかけのガトーショコラを奪い取った。
そして、私の腕を掴んでその場から移動した。
場地に引きづられるように連れ出されたのは、学校の裏庭だった。傍にあったベンチにドカッと座ると、視線でオマエも早く座れと言って来たので、私も場地の隣に腰を下ろした。
「本当にごめんね。半分になっちゃって…」
「その失敗作も寄越せ」
「え、でも、本当に形歪だよ」
「味は変わんねぇだろ」
場地がそう言ってくれたので鞄の中から失敗作の入った箱を渡すと、すぐ様に箱を開けて口の中にチョコを放り込んだ。
場地の顔をジッと見ていると「ンだよ」と横目で睨まれたので、視線を逸らした。
場地が美味しいとか言ってくれるワケないかと欲しかった言葉を諦めていると、場地は小さな声で「美味かった」と呟いた。
その声に思わず、顔を上げて凝視すると彼の頬は紅く染まっていた。
「…来年は、ちゃんと渡すね」
「一番に渡せよ」
「うん、約束」
小指を絡めて、二人で小さく笑い合った。
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