愛とか恋とか
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初めてエースをデカイ仕事に同行させた日から数週間の間に何度か4番隊と共に仕事をした。
エースが仕事のやり方も覚えて慣れて来た頃の事だった。
今回オヤジから言い渡された仕事は、とある島にあるオヤジの旗を蔑ろにした海賊たちに仁義とは何かを教える為に出向くというモノ。
今までの仕事と違う所といえば、サッチと私は同行せずにエースが仕切りをするということだ。
向かうのは4番隊隊員とティーチ、そしてスペード海賊団のウォレスとバンシーさんだ。
エースの指導係の私は今回の作戦を一通り把握しておく必要があるので食堂でエース、デュース、バンシーさんの4人で机を挟んで会議をしている。
「───てなわけで、こういう作戦で行こうと思う」
「ってデュースが考えてた」
「考えたのエースじゃないんだ」
「速攻バラさないでくれよ、オバちゃん」
「その作戦は有効だとは思うけど。バンシーさんは本当にそれで大丈夫ですか?」
「…正直に言えば、少し不安はあるね」
今回の任務はウチのシマでは御法度とされている奴隷を扱っているという情報が入って来た事が発端だ。
仕切りを任されたエースはいきなり殴り込みに行くのではなく、その街を見極める為にデュースの考えた作戦を決行したいと私に相談を持ちかけて来た。
その作戦は人魚の奴隷を商売として扱う、売り手としてエースがその街を仕切っている顔役に奴隷を売り捌く為に近づき、内部を探るというもの。
そのマーメイド役にバンシーさんが抜擢されたワケだが、バンシーさんに予めビブルカードを所持させて、買われた後に連れて行かれた場所にそれを辿ってエースたちが乗り込んで密かに行われている人身売買の全貌を押さえる事が目的だ。
「一歩間違えたら危険な目に遭うかもしれない役だもんね」
「私はそんなに戦闘は強くないしね…」
「そのマーメイド役、私がやろうか?」
「「は?」」
万が一のことがあった時に戦える方がいいだろうと思い、その役を買って出てみたがエースとデュースは眉間に皺を寄せて私の顔を見た。
バンシーさんは「ナマエちゃんに迷惑はかけられない」と首を横に振っているが、バンシーさんになにかあるよりかはマシだと言えば、バンシーさんは考え込むように黙ってしまった。
「今回の仕切りはエースだから、許可さえ出してくれれば私がやるよ」
「許可なんて出すわけねェだろ」
「人魚ほどの色気はないけど、危険性を考えたら私が適任だと思うよ」
「まァ、確かにバンシーよりナマエちゃんの人魚の方が適任だけどさ。見た目的にも」
「デュース、なんか言った?」
「なんでもないです、すみません」
バンシーさんにひと睨みされ、すぐさまに謝罪するデュースを他所にエースは難しい顔を崩さないで黙って私を見ていた。
仕切りとして最善策を考えているのだろうけど、エースは暫く黙った後に「だめだ」と答えた。
お前でも危険だから、という反論ならば多少なりとも聞く余地はあったのだが、エースの口から飛び出た反対の理由を聞いて自分の耳を疑った。
「お前の、その…ソレじゃ、足りねェから…だめだ!」
「へ…」
「バンシーサイズで用意してあっから」
エースの視線を追えば、首より下を見ては視線を外してを繰り返していた。
つまり、エースの言うソレとはそういうことだ。その意味を理解した瞬間にデュースが吹き出して肩をブルブルと震わせて笑うのを堪えていた。
両方から失礼な言動をされ、ダブルパンチで傷付く。
こんな私にだって、ナイーブな一面くらいあるんだからね…!と大声を出してやりたい気持ちでいっぱいになり、わなわなと震えながらも拳を強く握り締めた。
「サイテー!エースの変態!デュースもなに笑ってんの!」
「これだから、男共は!」
私がぶん殴る前にバンシーさんが鉄のオタマで二人の頭をどついて地面に沈めていた。
バンシーさん、覇気使ってますか?と聞きたくなるレベルの威力で2人の頭には大きなたんこぶが出来上がっている。
「気にしなくていいんだよ、まだまだこれからさ」と私を抱きしめてくれるバンシーさんの言葉がさらに追い打ちをかけて来る。
彼女なりに全力で慰めてくれているつもりなのだろうけど、エースの発言を肯定しているとも取れるそのセリフは胸にグサッと来てしまう。
「違うんだ、ナマエちゃん。おれが笑ったのは、エースのヤツ素直じゃねェなって思っただけで…!」
「は?素直に悪口言って来てますけど」
「そうじゃなくて、エースはナマエちゃんのこと心配して許可しないんだよ」
「…バンシーさんサイズだから、ポロリしちゃうって心配か…。事実であっても失敬な!」
「「そうじゃねェよ!!」」
エースとデュースは声を揃えてそう突っ込んだ。バンシーさんは何かを察したようで呆れたように笑って「エース、ちゃんと言わないと伝わらないよ」と言った。
すると、エースは「あー」とか「そうだよなァ…」とかブツブツ言いながら、居心地悪そうに右手で後頭部をガシガシと雑に掻いて頬を赤くしていた。
「だから…色々と危ねェからお前にやらせたくねェんだよ。あっちもバンシー相手なら変な気も起こんねェだろうし。…そんくらい分かれよ」
「エース、私へのその発言は必要だったかい?」
「すみませんでした」
「まだあるだろ?やらせたくない理由」
「うるせェ!てめェはもう黙ってろ!」
「え、なに?他の理由って」
「男心を察してあげられてこそ、いい女だよ。ナマエちゃん」
バンシーさんの言葉に首を傾げていれば、デュースとバンシーさんは私とエースを見て声をあげて笑った。
なぜ笑われているのかが分からず、更に困惑して眉を顰めていれはデュースが私の耳元に口を寄せて「変な奴らに見せたくないんだよ、エースは」とコソッと教えてくれた。
「デュース!てめェ、ふざけんじゃねェぞ!」
エースは勝手にバラされた事に激怒し、背後からメラメラと燃え盛る炎を出してデュースの首に腕を回して締め上げていた。
デュースが「ギブ!ギブ!おれが悪かった!」とエースの腕をバンバン叩いてギブアップ宣言をしているのにも関わらず、更に締め上げている。
そんな2人を見て、バンシーさんは呆れたように小さく溜息を吐いた。
どうしてエースは見せたくないのだろうかと考えたがよく分からないので、バンシーさんにコソッと聞いてみたが「それは、いつかエースに聞きな」と楽しそうに笑うだけだった。
「ナマエちゃん、ありがとう。少し気が楽になったよ。この仕事が無事に終わったら、女同士色んな話でもしよう」
「…うん、楽しみにしてる。だから、無事に帰って来てね」
「必ず戻るよ」
吹っ切れたような表情で笑いかけ来る顔を見ていたら、私の出る幕はないだろうと思い無事に帰ってくる事を祈りながら待つことを決めた。
何か起こりそうだったとしてもエースが付いているし、守ってくれるだろう。
バンシーさんとそう約束してお互いにハグをして、3人を島へと送り出した。
✴︎
エースたちが任された仕事は無事に終わり、バンシーさんも怪我一つなく、無事に無事に戻って来た。
元気な姿を見て安堵と嬉しさのあまり、すぐ様に駆け寄ってバンシーさんと抱擁を交わして、笑い合った。
その後に、仕事を遂行した恩としてエースはオヤジに勝負を申し込んだ。
約束の100回目の勝負だ。
白ひげ海賊団とスペード海賊の全員が見守る中、激闘の末、モビーディック号から炎の塊が海に投げ出されて勝負は終了した。
そう、100回目の最後の勝負はエースの負けだった。
「100回いったか」
「いったな、たぶん」
その声を皮切りに緊張に包まれていた空間は糸が切れたように解け、騒めきが戻って来た。
いつもの勝負でオヤジはグラグラの実を使わずに覇気だけでエースと勝負していたのだが、今回だけは世界を破壊するほどの力と言われているグラグラの実を使った。
前にデュースにコッソリ教えてもらった話だが、オヤジはエースを育てる為にこの勝負を受けていたらしい。
そう直接的な言葉を言ったわけではないが、そういうニュアンスだったとデュースは語っていた。
だから、オヤジは100回と言わずに、何百回でも何千回でも勝負は受けてもいいと言っていたそうだ。
オヤジは四皇と恐れられている人物だが、本当は凄く優しくて愛情深い人だ。だけど、それを大っぴらにするタイプではないので、エースが正々堂々と勝負が出来るように仕事を与えてその恩を返す代わりに勝負を受けるというまどろっこしいやり方を受け入れた。
オヤジはもう既にエースの強さを充分に認めているけれど、その事は本人には口にしないところとかオヤジらしいな、と思う。
「誰か拾ってやれ!」
サッチの声にウォレスが海に飛び込んで沈んだエースを引き上げると、海の上に青い翼をはためかせていたのは、1番隊隊長のマルコだった。
「つかまるよい」
不死鳥の姿となったマルコが海面から引き上げて、気絶しているエースを甲板に寝かせてから視線で私に様子を見ておけと指示をした。
海水で濡れたエースの顔をタオルで拭いてから、デュースにオヤジとの勝負で負傷した怪我を診てもらおうと引き継いだ。
暫くして、目を覚ましたエースは何も言わずにびしょ濡れのまま船縁にもたれかかって蹲っている。
その様子を見て、何も言えずに口を閉ざしたまま遠目から見ていると、デュースが傍にやって来て私の肩に手を乗せた。
デュースは「今はそっとしておいてやってくれ。あいつには気持ちを整理する時間が必要さ」と小さく笑って肩を竦めた。
海に落ちて濡れたままの状態を放っておくこと
は出来なかったので、厨房へと一旦戻り、冷えた体を温められるスープを作って持って行こうとするとマルコがやって来て「その役目、おれに譲ってくれ」と言った。
確かに私が行くよりもマルコが行った方が良さそうだと思ったのでわスープを渡すとマルコは「ありがとう」と微笑んだ。
だけど、どうしてもエースの様子が気になってしまったので、マルコの後をバレないようにひっそりと着いて行って、甲板の影からコソッと覗くように二人の様子を静かに見守った。
「お前ら、なんであいつのことオヤジって呼んでんだ」
「あの人が息子と呼んでくれるからだ。おれたちァ、世の中じゃ嫌われ者だからよい、嬉しいだなァ…ただの言葉でも嬉しィんだ」
遠くから聞いていてでも伝わってくる、マルコのオヤジへの感情。
エースはただ黙ったまま蹲って、マルコの言葉を聞いている。表情は見えない為、エースがどのようにその言葉を受け取っているのかが分からない。
「お前、命拾いして、こんなことまだ続ける気かよい。そろそろ決断しろい。今のお前じゃオヤジの首は取れねェ。この船を降りて出直すか、ここに残って…白ひげのマークを背負うか…!」
マルコはそれだけを告げてエースの元を去り、真っ直ぐにこっちへ向かって来るので慌てて隠れようとするが「隠れるならもっと上手くやれい、ナマエ」と大きな声で言い、その声にエースが弾かれたように顔を上げた。
エースと目が合うと、妙に気まずくてどうしていいか分からず、ヘラッと曖昧な笑顔を浮かべてみた。
だけど、エースは私から一切目を逸らさず、表情も微動だにしないものだから、私の浮かべた曖昧な表情は固まってしまう。
固まる私にマルコは「あとは任せたよい」と肩に軽くポンと手を乗せてそう言い残して、船内に戻って行ってしまった。
マルコの背中が見えなくなり、エースの方に向き直ろうと踵を返すと真後ろにエースが立っていて、驚いて「うわァ!」と叫んで飛び上がってしまった。
「後ろに立ってますって言ってくれないと、ビビるじゃんか…」
「そんなこと言って後ろに立つヤツなんて居ねェだろ」
「そりゃそうだけどさ」
「…ちょっと付き合ってくれ」
そう告げたきり何も言葉は発しないエースに腕を引かれて人気のない船の端までやって来ると立ち止まって振り返った。
その表情はどこかまだ迷っているような煮え切れないような顔だった。
私も黙ったまま、エースが言葉にするのをジッと待つ。
エースは視線を海の方へやり、水平線を見つめるその横顔は今まで見た事もないような表情だった。
そして、閉ざしたままだった口をゆっくりと開いた。
「お前から全てを奪った海賊の…、白ひげ海賊団の家族になって、お前は心を支配されたことはあるか」
「…ないよ。オヤジとその海賊は違う。オヤジは…みんなは、支配しようとなんてしない」
「じゃあ…おれが白ひげの手を取ることは…ソレは屈服になんかにならねェ、よな…?」
「うん、ならない。絶対に。それだけは言い切れるよ」
「…はは、おれはなんも見えてなかったみてェだな」
乾いた笑いを漏らすエースは遠い目でまた海の先を見つめた。
そういえば、前にエースは自由になる為に海へ出たと言っていた。
もしかしたら、エースにとって白ひげに降る事は支配や屈服する事で自由とは反対のことだと思っていたのかもしれない。
だけど、勝負をしていくうちに少しずつ、オヤジがそういう人間じゃないということを、器のデカい男だと言うことに気付き、エースの中で揺れていたのだろう。
ただ、100回負けるまで意地張って認められないでいたのかもしれない。
「…ありがとう、おれ、決めた」
小さく笑って、そう呟いた。
すぐにその決断を聞きたかったが、エースが一番最初に告げたいのは私ではなく、スペード海賊団の仲間たちだろう。きっとそれが通すべき筋だ。
エースが「デュースたち、集めてくる」と言った時の顔はさっきまでの煮え切らないような表情ではなく、どこか吹っ切れたようなそんな顔をしていた。
「ナマエには世話になりっぱなしだったな」
「エースは世話が焼けるから」
「お前もだろ」
「そんな事ないよ。私はしっかり者だもん」
「どの口が言ってんだよ」
軽く頬を引っ張って来たので私も仕返しとばかりに頬抓り返して、子供みたいな事をやり合っていると前もこんな事したのを思い出した。
急におかしくなって吹き出すと、エースも同じタイミングで吹き出した。
前もやったな、と言って2人で笑っていると、エースら「いつものナマエだな」と安心したかのように頬を緩めてそう呟く。
「お前が元気ねェとなんか調子狂うんだよ」
エースが初めて大きな仕事を任された時、私が泣いてしまった日の事を言っているのだろう。
あの日以来、その事はお互い口にはしなかったけど、ずっと心配してくれていたようだ。
「私もエースがさっきみたいにしょぼくれてると調子狂うよ」
「しょぼくれてはねェだろ!」
さっきよりも大きな声で話すエースを見て、私も安心した。
エースの決断がオヤジの盃を受けるだとしても船を降りて一から出直す事にしたとしても、ちゃんと受け入れようと思う。
いなくなってしまったら、それはもちろん寂しいがエースが笑って自由に生きていることが一番、嬉しい。
「ずっと友達でいてね」
「は?」
「船、降りちゃってもエースとは友達でいたいなって。デュースとバンシーさんとも」
「…まァ、後でちゃんとお前にも話すさ」
「うん、待ってる」
お互いに笑い合ってから、エースとは別れた。
今、スペード海賊団が集合してエースの決断を聞き、今後どうするかの話し合いをしている。その間、私は食堂でサッチと一緒にエースが戻って来るのを待つ。
さっきから、ソワソワが止まらなくて何度も時計を見ては「もうそろそろ来るかな」と言っては、サッチに「落ち着け」やら「さっきから5分も経ってねェ」と言われてしまっていた。
「なるようにしかならないんだから、お前が今ここでソワソワしたってしょうがないでしょうよ」
「そういうサッチだって貧乏揺すり凄いけど」
「…まァ、そうなっちゃうよなァ」
結局、サッチもエースの決断が気になるようで少し照れ臭そうに鼻の頭を掻きながら視線を逸らした。
落ち着きのない二人でずっとソワソワしながら待っていると、食堂のドアが開かれエースが顔を覗かせた。
その姿を見た瞬間に私たちは立ち上がって、我先にと駆け寄る。
エースは緊張した面持ちで視線を彷徨わせた後、しっかりと私とサッチの顔を真っ直ぐに見てから帽子を取り、丁寧にお辞儀をした。
「これからも、よろしくお願いします」
その一言でエースの決断がオヤジの息子になる事だと分かり、私は手放しで喜んだ。
サッチも大きくガッツポーズをする。
歓喜に湧く私たちを見て、照れ臭そうに笑うエースの肩をサッチが抱き、私の肩も抱き寄せて来たので3人が密集する形になった。
エースは客人としてだったけれど、同じ船に乗って一緒に仕事して笑いあって、3人で過ごした時間が大好きだった。
今度は、エースも家族としてこの船に残り、3人で一緒に過ごす時間が増えると思うと堪らなく嬉しくなる。
「おれが一流の炎の料理人にしてやるからな」
「それは断る」
「なんでだよ!?」
喚くサッチに私とエースは顔を見合わせて笑った。
この先もエースとサッチと笑っていられる未来が輝かしくて。肩に触れる2人の温もりを手離したくなくて。この温もりが手のひらからこぼれ落ちてしまわないように、2人に触れる手をギュッと握り締めた。
エースが仕事のやり方も覚えて慣れて来た頃の事だった。
今回オヤジから言い渡された仕事は、とある島にあるオヤジの旗を蔑ろにした海賊たちに仁義とは何かを教える為に出向くというモノ。
今までの仕事と違う所といえば、サッチと私は同行せずにエースが仕切りをするということだ。
向かうのは4番隊隊員とティーチ、そしてスペード海賊団のウォレスとバンシーさんだ。
エースの指導係の私は今回の作戦を一通り把握しておく必要があるので食堂でエース、デュース、バンシーさんの4人で机を挟んで会議をしている。
「───てなわけで、こういう作戦で行こうと思う」
「ってデュースが考えてた」
「考えたのエースじゃないんだ」
「速攻バラさないでくれよ、オバちゃん」
「その作戦は有効だとは思うけど。バンシーさんは本当にそれで大丈夫ですか?」
「…正直に言えば、少し不安はあるね」
今回の任務はウチのシマでは御法度とされている奴隷を扱っているという情報が入って来た事が発端だ。
仕切りを任されたエースはいきなり殴り込みに行くのではなく、その街を見極める為にデュースの考えた作戦を決行したいと私に相談を持ちかけて来た。
その作戦は人魚の奴隷を商売として扱う、売り手としてエースがその街を仕切っている顔役に奴隷を売り捌く為に近づき、内部を探るというもの。
そのマーメイド役にバンシーさんが抜擢されたワケだが、バンシーさんに予めビブルカードを所持させて、買われた後に連れて行かれた場所にそれを辿ってエースたちが乗り込んで密かに行われている人身売買の全貌を押さえる事が目的だ。
「一歩間違えたら危険な目に遭うかもしれない役だもんね」
「私はそんなに戦闘は強くないしね…」
「そのマーメイド役、私がやろうか?」
「「は?」」
万が一のことがあった時に戦える方がいいだろうと思い、その役を買って出てみたがエースとデュースは眉間に皺を寄せて私の顔を見た。
バンシーさんは「ナマエちゃんに迷惑はかけられない」と首を横に振っているが、バンシーさんになにかあるよりかはマシだと言えば、バンシーさんは考え込むように黙ってしまった。
「今回の仕切りはエースだから、許可さえ出してくれれば私がやるよ」
「許可なんて出すわけねェだろ」
「人魚ほどの色気はないけど、危険性を考えたら私が適任だと思うよ」
「まァ、確かにバンシーよりナマエちゃんの人魚の方が適任だけどさ。見た目的にも」
「デュース、なんか言った?」
「なんでもないです、すみません」
バンシーさんにひと睨みされ、すぐさまに謝罪するデュースを他所にエースは難しい顔を崩さないで黙って私を見ていた。
仕切りとして最善策を考えているのだろうけど、エースは暫く黙った後に「だめだ」と答えた。
お前でも危険だから、という反論ならば多少なりとも聞く余地はあったのだが、エースの口から飛び出た反対の理由を聞いて自分の耳を疑った。
「お前の、その…ソレじゃ、足りねェから…だめだ!」
「へ…」
「バンシーサイズで用意してあっから」
エースの視線を追えば、首より下を見ては視線を外してを繰り返していた。
つまり、エースの言うソレとはそういうことだ。その意味を理解した瞬間にデュースが吹き出して肩をブルブルと震わせて笑うのを堪えていた。
両方から失礼な言動をされ、ダブルパンチで傷付く。
こんな私にだって、ナイーブな一面くらいあるんだからね…!と大声を出してやりたい気持ちでいっぱいになり、わなわなと震えながらも拳を強く握り締めた。
「サイテー!エースの変態!デュースもなに笑ってんの!」
「これだから、男共は!」
私がぶん殴る前にバンシーさんが鉄のオタマで二人の頭をどついて地面に沈めていた。
バンシーさん、覇気使ってますか?と聞きたくなるレベルの威力で2人の頭には大きなたんこぶが出来上がっている。
「気にしなくていいんだよ、まだまだこれからさ」と私を抱きしめてくれるバンシーさんの言葉がさらに追い打ちをかけて来る。
彼女なりに全力で慰めてくれているつもりなのだろうけど、エースの発言を肯定しているとも取れるそのセリフは胸にグサッと来てしまう。
「違うんだ、ナマエちゃん。おれが笑ったのは、エースのヤツ素直じゃねェなって思っただけで…!」
「は?素直に悪口言って来てますけど」
「そうじゃなくて、エースはナマエちゃんのこと心配して許可しないんだよ」
「…バンシーさんサイズだから、ポロリしちゃうって心配か…。事実であっても失敬な!」
「「そうじゃねェよ!!」」
エースとデュースは声を揃えてそう突っ込んだ。バンシーさんは何かを察したようで呆れたように笑って「エース、ちゃんと言わないと伝わらないよ」と言った。
すると、エースは「あー」とか「そうだよなァ…」とかブツブツ言いながら、居心地悪そうに右手で後頭部をガシガシと雑に掻いて頬を赤くしていた。
「だから…色々と危ねェからお前にやらせたくねェんだよ。あっちもバンシー相手なら変な気も起こんねェだろうし。…そんくらい分かれよ」
「エース、私へのその発言は必要だったかい?」
「すみませんでした」
「まだあるだろ?やらせたくない理由」
「うるせェ!てめェはもう黙ってろ!」
「え、なに?他の理由って」
「男心を察してあげられてこそ、いい女だよ。ナマエちゃん」
バンシーさんの言葉に首を傾げていれば、デュースとバンシーさんは私とエースを見て声をあげて笑った。
なぜ笑われているのかが分からず、更に困惑して眉を顰めていれはデュースが私の耳元に口を寄せて「変な奴らに見せたくないんだよ、エースは」とコソッと教えてくれた。
「デュース!てめェ、ふざけんじゃねェぞ!」
エースは勝手にバラされた事に激怒し、背後からメラメラと燃え盛る炎を出してデュースの首に腕を回して締め上げていた。
デュースが「ギブ!ギブ!おれが悪かった!」とエースの腕をバンバン叩いてギブアップ宣言をしているのにも関わらず、更に締め上げている。
そんな2人を見て、バンシーさんは呆れたように小さく溜息を吐いた。
どうしてエースは見せたくないのだろうかと考えたがよく分からないので、バンシーさんにコソッと聞いてみたが「それは、いつかエースに聞きな」と楽しそうに笑うだけだった。
「ナマエちゃん、ありがとう。少し気が楽になったよ。この仕事が無事に終わったら、女同士色んな話でもしよう」
「…うん、楽しみにしてる。だから、無事に帰って来てね」
「必ず戻るよ」
吹っ切れたような表情で笑いかけ来る顔を見ていたら、私の出る幕はないだろうと思い無事に帰ってくる事を祈りながら待つことを決めた。
何か起こりそうだったとしてもエースが付いているし、守ってくれるだろう。
バンシーさんとそう約束してお互いにハグをして、3人を島へと送り出した。
✴︎
エースたちが任された仕事は無事に終わり、バンシーさんも怪我一つなく、無事に無事に戻って来た。
元気な姿を見て安堵と嬉しさのあまり、すぐ様に駆け寄ってバンシーさんと抱擁を交わして、笑い合った。
その後に、仕事を遂行した恩としてエースはオヤジに勝負を申し込んだ。
約束の100回目の勝負だ。
白ひげ海賊団とスペード海賊の全員が見守る中、激闘の末、モビーディック号から炎の塊が海に投げ出されて勝負は終了した。
そう、100回目の最後の勝負はエースの負けだった。
「100回いったか」
「いったな、たぶん」
その声を皮切りに緊張に包まれていた空間は糸が切れたように解け、騒めきが戻って来た。
いつもの勝負でオヤジはグラグラの実を使わずに覇気だけでエースと勝負していたのだが、今回だけは世界を破壊するほどの力と言われているグラグラの実を使った。
前にデュースにコッソリ教えてもらった話だが、オヤジはエースを育てる為にこの勝負を受けていたらしい。
そう直接的な言葉を言ったわけではないが、そういうニュアンスだったとデュースは語っていた。
だから、オヤジは100回と言わずに、何百回でも何千回でも勝負は受けてもいいと言っていたそうだ。
オヤジは四皇と恐れられている人物だが、本当は凄く優しくて愛情深い人だ。だけど、それを大っぴらにするタイプではないので、エースが正々堂々と勝負が出来るように仕事を与えてその恩を返す代わりに勝負を受けるというまどろっこしいやり方を受け入れた。
オヤジはもう既にエースの強さを充分に認めているけれど、その事は本人には口にしないところとかオヤジらしいな、と思う。
「誰か拾ってやれ!」
サッチの声にウォレスが海に飛び込んで沈んだエースを引き上げると、海の上に青い翼をはためかせていたのは、1番隊隊長のマルコだった。
「つかまるよい」
不死鳥の姿となったマルコが海面から引き上げて、気絶しているエースを甲板に寝かせてから視線で私に様子を見ておけと指示をした。
海水で濡れたエースの顔をタオルで拭いてから、デュースにオヤジとの勝負で負傷した怪我を診てもらおうと引き継いだ。
暫くして、目を覚ましたエースは何も言わずにびしょ濡れのまま船縁にもたれかかって蹲っている。
その様子を見て、何も言えずに口を閉ざしたまま遠目から見ていると、デュースが傍にやって来て私の肩に手を乗せた。
デュースは「今はそっとしておいてやってくれ。あいつには気持ちを整理する時間が必要さ」と小さく笑って肩を竦めた。
海に落ちて濡れたままの状態を放っておくこと
は出来なかったので、厨房へと一旦戻り、冷えた体を温められるスープを作って持って行こうとするとマルコがやって来て「その役目、おれに譲ってくれ」と言った。
確かに私が行くよりもマルコが行った方が良さそうだと思ったのでわスープを渡すとマルコは「ありがとう」と微笑んだ。
だけど、どうしてもエースの様子が気になってしまったので、マルコの後をバレないようにひっそりと着いて行って、甲板の影からコソッと覗くように二人の様子を静かに見守った。
「お前ら、なんであいつのことオヤジって呼んでんだ」
「あの人が息子と呼んでくれるからだ。おれたちァ、世の中じゃ嫌われ者だからよい、嬉しいだなァ…ただの言葉でも嬉しィんだ」
遠くから聞いていてでも伝わってくる、マルコのオヤジへの感情。
エースはただ黙ったまま蹲って、マルコの言葉を聞いている。表情は見えない為、エースがどのようにその言葉を受け取っているのかが分からない。
「お前、命拾いして、こんなことまだ続ける気かよい。そろそろ決断しろい。今のお前じゃオヤジの首は取れねェ。この船を降りて出直すか、ここに残って…白ひげのマークを背負うか…!」
マルコはそれだけを告げてエースの元を去り、真っ直ぐにこっちへ向かって来るので慌てて隠れようとするが「隠れるならもっと上手くやれい、ナマエ」と大きな声で言い、その声にエースが弾かれたように顔を上げた。
エースと目が合うと、妙に気まずくてどうしていいか分からず、ヘラッと曖昧な笑顔を浮かべてみた。
だけど、エースは私から一切目を逸らさず、表情も微動だにしないものだから、私の浮かべた曖昧な表情は固まってしまう。
固まる私にマルコは「あとは任せたよい」と肩に軽くポンと手を乗せてそう言い残して、船内に戻って行ってしまった。
マルコの背中が見えなくなり、エースの方に向き直ろうと踵を返すと真後ろにエースが立っていて、驚いて「うわァ!」と叫んで飛び上がってしまった。
「後ろに立ってますって言ってくれないと、ビビるじゃんか…」
「そんなこと言って後ろに立つヤツなんて居ねェだろ」
「そりゃそうだけどさ」
「…ちょっと付き合ってくれ」
そう告げたきり何も言葉は発しないエースに腕を引かれて人気のない船の端までやって来ると立ち止まって振り返った。
その表情はどこかまだ迷っているような煮え切れないような顔だった。
私も黙ったまま、エースが言葉にするのをジッと待つ。
エースは視線を海の方へやり、水平線を見つめるその横顔は今まで見た事もないような表情だった。
そして、閉ざしたままだった口をゆっくりと開いた。
「お前から全てを奪った海賊の…、白ひげ海賊団の家族になって、お前は心を支配されたことはあるか」
「…ないよ。オヤジとその海賊は違う。オヤジは…みんなは、支配しようとなんてしない」
「じゃあ…おれが白ひげの手を取ることは…ソレは屈服になんかにならねェ、よな…?」
「うん、ならない。絶対に。それだけは言い切れるよ」
「…はは、おれはなんも見えてなかったみてェだな」
乾いた笑いを漏らすエースは遠い目でまた海の先を見つめた。
そういえば、前にエースは自由になる為に海へ出たと言っていた。
もしかしたら、エースにとって白ひげに降る事は支配や屈服する事で自由とは反対のことだと思っていたのかもしれない。
だけど、勝負をしていくうちに少しずつ、オヤジがそういう人間じゃないということを、器のデカい男だと言うことに気付き、エースの中で揺れていたのだろう。
ただ、100回負けるまで意地張って認められないでいたのかもしれない。
「…ありがとう、おれ、決めた」
小さく笑って、そう呟いた。
すぐにその決断を聞きたかったが、エースが一番最初に告げたいのは私ではなく、スペード海賊団の仲間たちだろう。きっとそれが通すべき筋だ。
エースが「デュースたち、集めてくる」と言った時の顔はさっきまでの煮え切らないような表情ではなく、どこか吹っ切れたようなそんな顔をしていた。
「ナマエには世話になりっぱなしだったな」
「エースは世話が焼けるから」
「お前もだろ」
「そんな事ないよ。私はしっかり者だもん」
「どの口が言ってんだよ」
軽く頬を引っ張って来たので私も仕返しとばかりに頬抓り返して、子供みたいな事をやり合っていると前もこんな事したのを思い出した。
急におかしくなって吹き出すと、エースも同じタイミングで吹き出した。
前もやったな、と言って2人で笑っていると、エースら「いつものナマエだな」と安心したかのように頬を緩めてそう呟く。
「お前が元気ねェとなんか調子狂うんだよ」
エースが初めて大きな仕事を任された時、私が泣いてしまった日の事を言っているのだろう。
あの日以来、その事はお互い口にはしなかったけど、ずっと心配してくれていたようだ。
「私もエースがさっきみたいにしょぼくれてると調子狂うよ」
「しょぼくれてはねェだろ!」
さっきよりも大きな声で話すエースを見て、私も安心した。
エースの決断がオヤジの盃を受けるだとしても船を降りて一から出直す事にしたとしても、ちゃんと受け入れようと思う。
いなくなってしまったら、それはもちろん寂しいがエースが笑って自由に生きていることが一番、嬉しい。
「ずっと友達でいてね」
「は?」
「船、降りちゃってもエースとは友達でいたいなって。デュースとバンシーさんとも」
「…まァ、後でちゃんとお前にも話すさ」
「うん、待ってる」
お互いに笑い合ってから、エースとは別れた。
今、スペード海賊団が集合してエースの決断を聞き、今後どうするかの話し合いをしている。その間、私は食堂でサッチと一緒にエースが戻って来るのを待つ。
さっきから、ソワソワが止まらなくて何度も時計を見ては「もうそろそろ来るかな」と言っては、サッチに「落ち着け」やら「さっきから5分も経ってねェ」と言われてしまっていた。
「なるようにしかならないんだから、お前が今ここでソワソワしたってしょうがないでしょうよ」
「そういうサッチだって貧乏揺すり凄いけど」
「…まァ、そうなっちゃうよなァ」
結局、サッチもエースの決断が気になるようで少し照れ臭そうに鼻の頭を掻きながら視線を逸らした。
落ち着きのない二人でずっとソワソワしながら待っていると、食堂のドアが開かれエースが顔を覗かせた。
その姿を見た瞬間に私たちは立ち上がって、我先にと駆け寄る。
エースは緊張した面持ちで視線を彷徨わせた後、しっかりと私とサッチの顔を真っ直ぐに見てから帽子を取り、丁寧にお辞儀をした。
「これからも、よろしくお願いします」
その一言でエースの決断がオヤジの息子になる事だと分かり、私は手放しで喜んだ。
サッチも大きくガッツポーズをする。
歓喜に湧く私たちを見て、照れ臭そうに笑うエースの肩をサッチが抱き、私の肩も抱き寄せて来たので3人が密集する形になった。
エースは客人としてだったけれど、同じ船に乗って一緒に仕事して笑いあって、3人で過ごした時間が大好きだった。
今度は、エースも家族としてこの船に残り、3人で一緒に過ごす時間が増えると思うと堪らなく嬉しくなる。
「おれが一流の炎の料理人にしてやるからな」
「それは断る」
「なんでだよ!?」
喚くサッチに私とエースは顔を見合わせて笑った。
この先もエースとサッチと笑っていられる未来が輝かしくて。肩に触れる2人の温もりを手離したくなくて。この温もりが手のひらからこぼれ落ちてしまわないように、2人に触れる手をギュッと握り締めた。