愛とか恋とか
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エースと島に上陸し、街中をフラフラと歩く。サッチに頼まれた買い出しなんて本当はなかったので、適当にエースと息抜きでもして来いという、サッチの計らいだと都合よく解釈し、散策でもしてみようかと色々と頭の中で考える。
何かしたいことはあるかとエースに問いかけようと隣を見るが、そこには先ほどまで居たエースの姿は忽然と消え去っていた。
「え、どこ行ったの?」
まさかこの歳で迷子になった訳ではあるまいし、道に迷ったとかそんなおかしな話はないだろうとは思う。
仮にもスペード海賊団の船長である男だ。
まさか、私たちと同じようにこの島に上陸していた海賊団に敵襲を受けたとか、拉致にあったとかの可能性も脳裏に浮かび、焦りがジワジワと湧いて出て来る。
エースは強いし、万が一そんな事があったとしても負けるなんてことはありえないと思いながらも心臓はバクバクして冷や汗が滝のように流れて来てしまう。
仮に助けに行ったとして、エースが敵わない相手に私が勝てるはずもなく、もしも、その状況になってしまったら二人してお陀仏になってしまう。
いやいやいや、何を弱気になっているんだ。武装色の覇気でも使ってハッタリでも何でもいいから強そうな女を演じるべきだ。最初から弱気になっている海賊がどこにいる。
そうだ。私は四皇、白ひげ海賊団の一員だ。と心の中で自分を懸命に鼓舞する。
「グラララララ…、いや、私がやると物凄く弱そう…!」
オヤジのモノマネでもしたら少しでも強くなれそうな気がしてやってみたのはいいものの、極めてダサく、弱そうなアホ女が出来上がっただけだった。
一人でブツブツ言っているだけの不審者にしか見えない自分が至極気持ち悪い。
だけど、そのくらい動揺しているのだ。
ひとまず、落ち着きを取り戻してエースを探さないといけない。
もしかして、デュースの言っていたデンジャラスというのは、こういう事だったのだろうか。
突如、神隠しに合うエース。
だったら、財布じゃなくてビブルカードが欲しかったんですけど…!と心の中で叫びながら、早足でエースを探す。
オレンジのテンガロンハットを被った半裸の男を見ませんでしたか、と聞き周りながら街中を彷徨う。
そこだけを切り取ると、変態チックなビジュアルになってしまっているが、間違った事は言っていないし、他に特徴的な物がないのだから、仕方がない。
そう聞き回る事、数十分。前方に長蛇の列が出来ているのを発見した。
何の列だろうと不思議に思い、興味本位で最後尾に並んでいる男の人に事情聴取でもしようと声をかけた。
「すみません、この列はなんの列なんでしょうか」
「あァ、この列は支払い待ちだよ」
「支払い待ち?」
「ほら、先頭に凄い勢いで肉を食ってる奴がいるだろ。アイツ、食い逃げ犯なんだ。ソイツに食った分の支払いをしてもらおうと、逃げられた人たちが全員並んでいるんだよ」
男の人の話を聞きながら、そんな堂々としているアホな人がいるのかと思いながら、先頭にいる食い逃げ犯の顔を見ようと背伸びをして覗き込めば、そこには私が懸命に探している顔が見えた。
「うわッ!アホな人、エースだった…!」
「もしかして、ねェちゃん、あの兄ちゃんと知り合い?」
「知り合いというか…、はい、すみません。おいくらですか…」
男の人に何度も頭を下げ、エースが食べた分の金額を聞き、その額をエースの財布から支払った。
謝り、支払いをする、を行列を成している人数分を何度も繰り返し、ようやく先頭で呑気にご飯を食べているエースの元へと辿り着いた。
「エース!」
「ん?あァ、ナマエか。お前どこ行ってたんだよ。迷子か?」
「エースを探してたんだよ!それでなんで食い逃げなんてしてるの!」
「食い逃げ…?あ、おれ大事なこと忘れてた」
今、思い出したと言わんばかりの声色でうっかりという表情を浮かべて、エースは行列の出来ていた方向に向けてスッと頭を下げた。
「ごちそうさまでした」
「君の忘れ物はそこじゃないんだよ!!」
「お前も腹減ってんのか?なら、これやるよ」
「ぶッ!!」
勝手にお腹空いてると決めつけられて、エースが手に持っていたお肉を口にねじ込まれた。
突然の事で回避することは出来ず、咀嚼するにもかなりの回数を要する大きさのお肉を放り込まれた為、言いたい文句はモゴモゴとしか音にならず、本人には何一つ届かない。
喉に詰まりそうになり、苦しそうにしているのにも関わらず、エースは「まだ欲しいのか?仕方ねェな」と勘違いをして追加でお肉を更に口にねじ込んで来た。
懸命に咀嚼と嚥下を繰り返して口の中の物を減らしたというのに振り出しに戻ってしまう。
呑気に「旨そうに食うな」と笑って、自分も美味しそうにお肉を食べ始めるエースを尻目に命懸けで口の中のモノを食べ切り、安堵のため息を吐いた。
デュースのいう通り、エースとの買い出しはデンジャラスだったし、血の気が引いて青くなる出来事の連続だった。
先に全部、聞いておくべきだったと後悔しても今更だが、そう思わずにはいられなかった。
「食い逃げ禁止!いきなりいなくなるのも禁止!私の口に食べ物をねじ込むのも禁止!!」
「なんだよ、禁止禁止って。ガキじゃねェんだから」
「子供と同じくらい無邪気に行動してますけどね。デュースがあんなに大人っぽくなる理由が分かった気がする」
「はァ?なんでそこでデュースが出て来るんだよ。お前、いっつもデュースデュース言いやがって」
「そんなにデュースって言ってないと思うんだけど」
「ほら、今も言ってんじゃねェか!」
「今のは不可抗力でしょ!」
私とエースが謎の言い合いをしていると、背後から男の人が恐る恐る、「あの、すみません。今、いいですか」と話しかけて来た。
その人の手元には伝票らしき紙を手にしているのが見え、これは絶対にまたエースの食い逃げの被害者だと思い、謝罪の意を込めて頭を下げた。
おいくらですかと問いかけようとした瞬間に男の人は「これ、よかったら」と私に手に伝票を握らせて来た。
なぜ支払いが選択制なのかと疑問に思っていると、いきなりエースに肩を抱き寄せられ「おわッ!」という、変な声を出してしまった。
今から肩を抱きますよ、なんて珍妙な掛け声なんてする訳がないのは分かっているが、心構えをさせて欲しいと思う。
それさえ出来れば、もう少し女の子らしい声を上げれたはずなのに、突然のことにはそう簡単には順応出来ない。
ナースのお姉さんたちのようなお色気レディへの道のりは果てしなく遠い。
そんな事を思いながら、謎の行動を取ったエースの顔を見上げれば、それはなんとも恐ろしい形相で相手の男の人を睨みつけていた。
エースの睨みに慄いた男の人は震え上がりながら「すみませんでした!!」とうわずった叫び声を上げて逃げ去って行くのを可哀想に…と同情をしながら見送った。
「脅して食い逃げを無罪化しようとするのはよくないよ」
「あ?誰もそんな事しようとしてねェだろ」
手に握らされた、丁寧に四等分に折ってある伝票を広げて見てみると、そこには「16時に海の見える丘で待ってます」と書かれていた。
「エース、ちゃんと取り立て場所の記載あったから、後でちゃんと支払いに行こう」
伝票ではなく取り立て案内だった紙をエースに見せると眉間に皺を深く刻み、小さく舌打ちを落とした。
そして、指先に火を灯して無言でその紙を燃やしてしまった。
「あー!なんで燃やすの!?食い逃げ分の取り立て案内だよ!?」
「…お前、変な男に引っかかりそうで心配だな」
「何それ。どっちかというと、エースの方がお色気お姉さんにホイホイとついて行きそうだけど」
「はァ!?おれはそんな見境ねェ男じゃねェ!!」
「どうだか」
肩をすくめて見せると、エースはイラッとした感情をむき出しにした表情で私の左頬をつねって来る。仕返しに私も左頬をつねり返すと、エースは更に眉を釣り上げて苛立ちをぶつけて来た。
「人が心配してるッつーのにその言い草はねェだろ!」
「さっきから話が飛躍してて意味わからないんだけど!」
「どう見たって、あれはナンパだろうがッ!」
エースは声を荒げて摘んでいた指の力を少し強め、更に捻った。地味に痛いその攻撃に「イタタタッ!」と声が上がってしまう。
その声を聞いたエースはハッとしたように目を軽く見張り、つねっていた指を離した。
ヒリヒリする頬を摩りながら「まさか、私のモテ期到来?」とふざけて呟くとエースに頭上に手刀を落とされた。
「少しくらい自惚れてもいいじゃんか!どうせ食い逃げの取り立てなのは分かってるけど、束の間の夢くらい見させてよ!ケチ!」
「取り立てなら、あんな書き方しねェよ」
「本当にモテ期到来!?」
「喜んでんじゃねェ」
「なにピリピリしてるの。もしかして、お腹空いてる?」
「…そう言われれば、腹減って来たな」
「じゃあ、そこのカフェでも入ろうか。一緒に!」
お腹が空いてピリピリしているエースのご機嫌をとってみようとひとまず、言い合いっぽくなってしまったのを終わらせる事にした。
一緒にを強調して、二度と一人で行動させて食い逃げをさせないという意を込めたが、多分エースには伝わっていないだろう。
ここは、私がしっかりして犯行を阻止しなければならないと意気込んだ。
近くにあったカフェの中に入ると店内は混み合っており、店内の座席は満席でテラス席しか空いていなかった。
「私が注文してくるから、エースは先に席とっておいて。注文するものはなんでもいい?」
「お前に任せる」
返事をもらってから、一旦そこでエースとは別れ、注文をしにレジへと向かい、エスプレッソ二人分とエースのカレーと私のチーズケーキを頼んだ。
直ぐに用意が出来るエスプレッソとチーズケーキは先に渡され、カレーは出来上がり次第席に持っていくと伝えられた。
エスプレッソとチーズケーキが乗ったトレーを受け取り、テラス席に座っているエースの元へ向かう。
テーブルにトレーを置き、椅子を引いてエースの前に腰掛けた。
「ご飯は出来上がったら、席に持って来てくれるみたい」
「悪りィな」
エースは目の前に置かれたマグカップに手を伸ばして、ひとくち口に含むと「う゛ッ!」と呻き声を上げながら眉間を寄せた。
そして、口から滝の様にボタボタと黒い液体をこぼした。
慌てておしぼりをエースの口元に持っていき、口元を拭ってあげるがエースは涙目になりながら未だに顔を顰めている。
「なんだこれ、クソマジィ!」
「え、コーヒーだけど。もしかして、嫌いだった?」
「クソ苦ェ!こんなの人間が飲むもんじゃねェだろ!」
「へ〜、エースはコーヒーも飲めないんだね。お子様だね」
「あ!?こんなの旨いって言ってるお前の舌がバカなんだろ!」
「そんな事ないよ。ガキ舌なだけ〜」
「ッッバカにすんじゃねェ!こんくらい、飲めるっての!」
エースはムキになって再度カップを乱暴に掴み残りのコーヒーを一気に口に流し込んでは、また滝のように口から溢してした。
その様子があまりにもおかしくて、声を上げて笑ってしまった。
口からコーヒーを滝のように零す男とゲラゲラと笑う女が周囲から非難の視線が向けられずに済んでいるのは、テラス席に居るお客さんは私たち以外誰もいなかったからだ。
その事もあってか笑いは更に止まらず、ひたすら声を上げて笑った。
「笑いすぎだろ!」
エースは顔を真っ赤にしながら、背中と頭から火を微かに出しながらそう声を荒げるが迫力なんてモノは微塵も感じられないので笑いは一向に止まらない。
笑いすぎで出てしまった涙を拭いながら、おしぼりをもう一度、エースに渡すと奪うように取って口元を押さえていた。
そして「クソッ!」と不満を漏らしながら恨めしそうにこちらを睨みつけてくるがその姿がどうも可愛く見えてしまい、口元は緩んでしまう。
それをバカにしていると捉えられてしまったのか、エースは更に目付きを鋭くさせた。
「ごめん、ごめん。船に帰ったら、エースにも飲みやすいコーヒー淹れてあげる」
「…本当に飲みやすいんだろうな」
「うん。これ、エスプレッソだから」
「えすぷれっそ…?」
頭の周りに疑問符を散りばめているかのような表情で首を傾げているエースの表情が本当に子供のようにあどけなくて自然と微笑んでしまう。
今まで白ひげ海賊団の中には同い年の人は居なかったし、船員はみんな家族という形だったので同い年かつ、友達とこうやってカフェで会話することが凄く新鮮で。
自分が勝手に友達と思っているだけかもしれないが、友達が居たらこんな感じなのかな、とか思ってニヤけてみたりして。
完全にニヤニヤした気持ち悪い女になってしまっているが、どうしても楽しいと思ってしまう。
「この後、どうする?」
「は?」
少しでも楽しいこの時間を引き伸ばしたいと思ってしまい、思わずそんな事を口走ってしまった。だけど、エースはそんな気はなかったようで、何言ってんだお前、と言いたげな顔で見つめられてしまう。
もう少し一緒に居たいと思っていたのは自分だけだったと知ると寂しかったが、エースとは元は敵同士で仲間でもなんでもない事を思い出す。
まだ一緒に居たいと思って貰えるような関係の友達ですらなかったと思うと、胸がズキリと痛む。
「行き先決めて島を回った事ねェからな。どうするって言われても…どうするか」
「船に戻らなくても、いいの…?」
「おれはまだ一緒に島を見て回るつもりだったぜ。お前が戻りてェなら、別に船に戻ってもいいけど…」
「私はまだエースと一緒に居たい!」
まだ一緒に居るつもりだったと聞いて嬉しさのあまり、食い気味にバカみたいにデカイ声でそう答えてしまった。
後にやってしまったと軽く後悔するハメになった。なぜなら、エースが顔を真っ赤にして固まっていたからだ。
もう少し別の言い方があったでしょうよ、と自分にツッコミを入れてみても今の言葉を取り消せるわけでもなくて。
「いや、いやいやいや!そういう意味じゃなくてですね…!いや、そう意味なのか?」
「知らねェよ…」
「あの、顔真っ赤にしないでもらえます?こっちも恥ずかしくなってくるんで…」
「それも知らねェよ。ナマエのせいだろ」
二人して顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。
この謎の空気感がむず痒くて、どうしていいか分からず逃げ出したくなる。
友達とか同い年の人と関わらずに今まで生きてきてしまったせいで最適解が全く分からない。
サッチー!!助けてー!!と心の中で叫んでみても私の嘆きがサッチに届くはずもなく、ひたすら落ちる沈黙。
完全に距離感を間違えてしまったのは確かで。ただでさえ、同性の友達との接し方もたいして知らないというのに、いきなり男女の友情というのは私にはハードルが高かったらしい。
サッチやマルコ、ビスタとかにまだ一緒に居たいと言ってもこんな風にはならないはずだ。
なぜなら、あの人たちは同い年でも若くもなく、オジサンだからだ。
子供がまだ遊びたいと駄々を捏ねているのと同じような感覚に捉えられる事だろう。
脳裏でサッチがおれはまだオジサンじゃないと怒る姿が思い浮かぶが事実なのだから、否定のしようがない。
おじ様だなんて高貴な感じでもないし…ってサッチの事は今はどうでもいい、と頭を横に数回振って、脳内サッチを打ち消した。
「あー…、なんか悪かった。そういう意味じゃねェのは分かってんだけど。そう言ってもらうの初めてだったから、なんつーか…」
エースは歯切れの悪い言い方で最後の方は尻つぼみになっていってしまい、両手で頭を抱える様に触れてそのまま俯いてしまった。
「おれと一緒に居たいとか、そう思ってくれんのって、嘘だったとしても嬉しいもんだな。誰もそんな風に思ってくれねェと思ってた」
そう言ったエースの顔はもう照れているとか恥ずかしがっているとかそんな感情は一切なく、どこか寂しそうで。
急に表情に影を落とした事がどうしても気になってしまうが触れてもいいのか分からず、黙ってしまう。
「…嘘なんかじゃないよ」
「…そうか」
絞り出すように放った言葉はエースにちゃんと届いたのか不安になるくらいに頼りない声で。エースは俯いたまま、ポツリと零したその声は微かに震えているように聞こえた。
私から見たエースは太陽みたいな人だった。
デュースから聞いた話やスペード海賊団の仲間たちからの信頼度を見ればそれは一目瞭然なのに、本人がどうもそれを受け止めていないというのか、受け入れるのを拒否しているのか。
それは分からないが自分はそうではないと否定している様な気がしていた。
黙ってエースを見つめているとその視線に気がついたのかフと顔を上げて、視線が絡むと直ぐにスッと視線を逸らされてしまった。
この数週間で近づいたと思った距離が急にまた開いてしまった様な気がした。
すり抜けていく風のように手を伸ばしてみても指の隙間から、全部こぼれ落ちていってしまう。
掴みたくても掴めない、エースの手。
こんなにも近いのにこんなにも遠い。
私が無理矢理にエースの手を掴んでも、いつかの様にきっと振り払われてしまう。
そんな気がして、触れる事はできなかった。
手を握る事も取り繕った言葉を投げ掛ける事もどれもエースは必要としていないような気がして。
今、エースが何を求めて、何を必要としているのかが私には分からない。
何となくで生きて来てしまった私には、その答えは簡単には見つけられない。
人が求めるモノ、人が生きる事に必要な要素なんて、分からない。
問いかけてもきっと、エースは答えてはくれない。
…あぁ、近づいたハズの距離がまた開いて行く。
遠のいていく感覚を手繰り寄せたいのに、身体は動かなくて。何も出来ずにただ、俯いたままのエースを見つめる事しか出来なかった。
何かしたいことはあるかとエースに問いかけようと隣を見るが、そこには先ほどまで居たエースの姿は忽然と消え去っていた。
「え、どこ行ったの?」
まさかこの歳で迷子になった訳ではあるまいし、道に迷ったとかそんなおかしな話はないだろうとは思う。
仮にもスペード海賊団の船長である男だ。
まさか、私たちと同じようにこの島に上陸していた海賊団に敵襲を受けたとか、拉致にあったとかの可能性も脳裏に浮かび、焦りがジワジワと湧いて出て来る。
エースは強いし、万が一そんな事があったとしても負けるなんてことはありえないと思いながらも心臓はバクバクして冷や汗が滝のように流れて来てしまう。
仮に助けに行ったとして、エースが敵わない相手に私が勝てるはずもなく、もしも、その状況になってしまったら二人してお陀仏になってしまう。
いやいやいや、何を弱気になっているんだ。武装色の覇気でも使ってハッタリでも何でもいいから強そうな女を演じるべきだ。最初から弱気になっている海賊がどこにいる。
そうだ。私は四皇、白ひげ海賊団の一員だ。と心の中で自分を懸命に鼓舞する。
「グラララララ…、いや、私がやると物凄く弱そう…!」
オヤジのモノマネでもしたら少しでも強くなれそうな気がしてやってみたのはいいものの、極めてダサく、弱そうなアホ女が出来上がっただけだった。
一人でブツブツ言っているだけの不審者にしか見えない自分が至極気持ち悪い。
だけど、そのくらい動揺しているのだ。
ひとまず、落ち着きを取り戻してエースを探さないといけない。
もしかして、デュースの言っていたデンジャラスというのは、こういう事だったのだろうか。
突如、神隠しに合うエース。
だったら、財布じゃなくてビブルカードが欲しかったんですけど…!と心の中で叫びながら、早足でエースを探す。
オレンジのテンガロンハットを被った半裸の男を見ませんでしたか、と聞き周りながら街中を彷徨う。
そこだけを切り取ると、変態チックなビジュアルになってしまっているが、間違った事は言っていないし、他に特徴的な物がないのだから、仕方がない。
そう聞き回る事、数十分。前方に長蛇の列が出来ているのを発見した。
何の列だろうと不思議に思い、興味本位で最後尾に並んでいる男の人に事情聴取でもしようと声をかけた。
「すみません、この列はなんの列なんでしょうか」
「あァ、この列は支払い待ちだよ」
「支払い待ち?」
「ほら、先頭に凄い勢いで肉を食ってる奴がいるだろ。アイツ、食い逃げ犯なんだ。ソイツに食った分の支払いをしてもらおうと、逃げられた人たちが全員並んでいるんだよ」
男の人の話を聞きながら、そんな堂々としているアホな人がいるのかと思いながら、先頭にいる食い逃げ犯の顔を見ようと背伸びをして覗き込めば、そこには私が懸命に探している顔が見えた。
「うわッ!アホな人、エースだった…!」
「もしかして、ねェちゃん、あの兄ちゃんと知り合い?」
「知り合いというか…、はい、すみません。おいくらですか…」
男の人に何度も頭を下げ、エースが食べた分の金額を聞き、その額をエースの財布から支払った。
謝り、支払いをする、を行列を成している人数分を何度も繰り返し、ようやく先頭で呑気にご飯を食べているエースの元へと辿り着いた。
「エース!」
「ん?あァ、ナマエか。お前どこ行ってたんだよ。迷子か?」
「エースを探してたんだよ!それでなんで食い逃げなんてしてるの!」
「食い逃げ…?あ、おれ大事なこと忘れてた」
今、思い出したと言わんばかりの声色でうっかりという表情を浮かべて、エースは行列の出来ていた方向に向けてスッと頭を下げた。
「ごちそうさまでした」
「君の忘れ物はそこじゃないんだよ!!」
「お前も腹減ってんのか?なら、これやるよ」
「ぶッ!!」
勝手にお腹空いてると決めつけられて、エースが手に持っていたお肉を口にねじ込まれた。
突然の事で回避することは出来ず、咀嚼するにもかなりの回数を要する大きさのお肉を放り込まれた為、言いたい文句はモゴモゴとしか音にならず、本人には何一つ届かない。
喉に詰まりそうになり、苦しそうにしているのにも関わらず、エースは「まだ欲しいのか?仕方ねェな」と勘違いをして追加でお肉を更に口にねじ込んで来た。
懸命に咀嚼と嚥下を繰り返して口の中の物を減らしたというのに振り出しに戻ってしまう。
呑気に「旨そうに食うな」と笑って、自分も美味しそうにお肉を食べ始めるエースを尻目に命懸けで口の中のモノを食べ切り、安堵のため息を吐いた。
デュースのいう通り、エースとの買い出しはデンジャラスだったし、血の気が引いて青くなる出来事の連続だった。
先に全部、聞いておくべきだったと後悔しても今更だが、そう思わずにはいられなかった。
「食い逃げ禁止!いきなりいなくなるのも禁止!私の口に食べ物をねじ込むのも禁止!!」
「なんだよ、禁止禁止って。ガキじゃねェんだから」
「子供と同じくらい無邪気に行動してますけどね。デュースがあんなに大人っぽくなる理由が分かった気がする」
「はァ?なんでそこでデュースが出て来るんだよ。お前、いっつもデュースデュース言いやがって」
「そんなにデュースって言ってないと思うんだけど」
「ほら、今も言ってんじゃねェか!」
「今のは不可抗力でしょ!」
私とエースが謎の言い合いをしていると、背後から男の人が恐る恐る、「あの、すみません。今、いいですか」と話しかけて来た。
その人の手元には伝票らしき紙を手にしているのが見え、これは絶対にまたエースの食い逃げの被害者だと思い、謝罪の意を込めて頭を下げた。
おいくらですかと問いかけようとした瞬間に男の人は「これ、よかったら」と私に手に伝票を握らせて来た。
なぜ支払いが選択制なのかと疑問に思っていると、いきなりエースに肩を抱き寄せられ「おわッ!」という、変な声を出してしまった。
今から肩を抱きますよ、なんて珍妙な掛け声なんてする訳がないのは分かっているが、心構えをさせて欲しいと思う。
それさえ出来れば、もう少し女の子らしい声を上げれたはずなのに、突然のことにはそう簡単には順応出来ない。
ナースのお姉さんたちのようなお色気レディへの道のりは果てしなく遠い。
そんな事を思いながら、謎の行動を取ったエースの顔を見上げれば、それはなんとも恐ろしい形相で相手の男の人を睨みつけていた。
エースの睨みに慄いた男の人は震え上がりながら「すみませんでした!!」とうわずった叫び声を上げて逃げ去って行くのを可哀想に…と同情をしながら見送った。
「脅して食い逃げを無罪化しようとするのはよくないよ」
「あ?誰もそんな事しようとしてねェだろ」
手に握らされた、丁寧に四等分に折ってある伝票を広げて見てみると、そこには「16時に海の見える丘で待ってます」と書かれていた。
「エース、ちゃんと取り立て場所の記載あったから、後でちゃんと支払いに行こう」
伝票ではなく取り立て案内だった紙をエースに見せると眉間に皺を深く刻み、小さく舌打ちを落とした。
そして、指先に火を灯して無言でその紙を燃やしてしまった。
「あー!なんで燃やすの!?食い逃げ分の取り立て案内だよ!?」
「…お前、変な男に引っかかりそうで心配だな」
「何それ。どっちかというと、エースの方がお色気お姉さんにホイホイとついて行きそうだけど」
「はァ!?おれはそんな見境ねェ男じゃねェ!!」
「どうだか」
肩をすくめて見せると、エースはイラッとした感情をむき出しにした表情で私の左頬をつねって来る。仕返しに私も左頬をつねり返すと、エースは更に眉を釣り上げて苛立ちをぶつけて来た。
「人が心配してるッつーのにその言い草はねェだろ!」
「さっきから話が飛躍してて意味わからないんだけど!」
「どう見たって、あれはナンパだろうがッ!」
エースは声を荒げて摘んでいた指の力を少し強め、更に捻った。地味に痛いその攻撃に「イタタタッ!」と声が上がってしまう。
その声を聞いたエースはハッとしたように目を軽く見張り、つねっていた指を離した。
ヒリヒリする頬を摩りながら「まさか、私のモテ期到来?」とふざけて呟くとエースに頭上に手刀を落とされた。
「少しくらい自惚れてもいいじゃんか!どうせ食い逃げの取り立てなのは分かってるけど、束の間の夢くらい見させてよ!ケチ!」
「取り立てなら、あんな書き方しねェよ」
「本当にモテ期到来!?」
「喜んでんじゃねェ」
「なにピリピリしてるの。もしかして、お腹空いてる?」
「…そう言われれば、腹減って来たな」
「じゃあ、そこのカフェでも入ろうか。一緒に!」
お腹が空いてピリピリしているエースのご機嫌をとってみようとひとまず、言い合いっぽくなってしまったのを終わらせる事にした。
一緒にを強調して、二度と一人で行動させて食い逃げをさせないという意を込めたが、多分エースには伝わっていないだろう。
ここは、私がしっかりして犯行を阻止しなければならないと意気込んだ。
近くにあったカフェの中に入ると店内は混み合っており、店内の座席は満席でテラス席しか空いていなかった。
「私が注文してくるから、エースは先に席とっておいて。注文するものはなんでもいい?」
「お前に任せる」
返事をもらってから、一旦そこでエースとは別れ、注文をしにレジへと向かい、エスプレッソ二人分とエースのカレーと私のチーズケーキを頼んだ。
直ぐに用意が出来るエスプレッソとチーズケーキは先に渡され、カレーは出来上がり次第席に持っていくと伝えられた。
エスプレッソとチーズケーキが乗ったトレーを受け取り、テラス席に座っているエースの元へ向かう。
テーブルにトレーを置き、椅子を引いてエースの前に腰掛けた。
「ご飯は出来上がったら、席に持って来てくれるみたい」
「悪りィな」
エースは目の前に置かれたマグカップに手を伸ばして、ひとくち口に含むと「う゛ッ!」と呻き声を上げながら眉間を寄せた。
そして、口から滝の様にボタボタと黒い液体をこぼした。
慌てておしぼりをエースの口元に持っていき、口元を拭ってあげるがエースは涙目になりながら未だに顔を顰めている。
「なんだこれ、クソマジィ!」
「え、コーヒーだけど。もしかして、嫌いだった?」
「クソ苦ェ!こんなの人間が飲むもんじゃねェだろ!」
「へ〜、エースはコーヒーも飲めないんだね。お子様だね」
「あ!?こんなの旨いって言ってるお前の舌がバカなんだろ!」
「そんな事ないよ。ガキ舌なだけ〜」
「ッッバカにすんじゃねェ!こんくらい、飲めるっての!」
エースはムキになって再度カップを乱暴に掴み残りのコーヒーを一気に口に流し込んでは、また滝のように口から溢してした。
その様子があまりにもおかしくて、声を上げて笑ってしまった。
口からコーヒーを滝のように零す男とゲラゲラと笑う女が周囲から非難の視線が向けられずに済んでいるのは、テラス席に居るお客さんは私たち以外誰もいなかったからだ。
その事もあってか笑いは更に止まらず、ひたすら声を上げて笑った。
「笑いすぎだろ!」
エースは顔を真っ赤にしながら、背中と頭から火を微かに出しながらそう声を荒げるが迫力なんてモノは微塵も感じられないので笑いは一向に止まらない。
笑いすぎで出てしまった涙を拭いながら、おしぼりをもう一度、エースに渡すと奪うように取って口元を押さえていた。
そして「クソッ!」と不満を漏らしながら恨めしそうにこちらを睨みつけてくるがその姿がどうも可愛く見えてしまい、口元は緩んでしまう。
それをバカにしていると捉えられてしまったのか、エースは更に目付きを鋭くさせた。
「ごめん、ごめん。船に帰ったら、エースにも飲みやすいコーヒー淹れてあげる」
「…本当に飲みやすいんだろうな」
「うん。これ、エスプレッソだから」
「えすぷれっそ…?」
頭の周りに疑問符を散りばめているかのような表情で首を傾げているエースの表情が本当に子供のようにあどけなくて自然と微笑んでしまう。
今まで白ひげ海賊団の中には同い年の人は居なかったし、船員はみんな家族という形だったので同い年かつ、友達とこうやってカフェで会話することが凄く新鮮で。
自分が勝手に友達と思っているだけかもしれないが、友達が居たらこんな感じなのかな、とか思ってニヤけてみたりして。
完全にニヤニヤした気持ち悪い女になってしまっているが、どうしても楽しいと思ってしまう。
「この後、どうする?」
「は?」
少しでも楽しいこの時間を引き伸ばしたいと思ってしまい、思わずそんな事を口走ってしまった。だけど、エースはそんな気はなかったようで、何言ってんだお前、と言いたげな顔で見つめられてしまう。
もう少し一緒に居たいと思っていたのは自分だけだったと知ると寂しかったが、エースとは元は敵同士で仲間でもなんでもない事を思い出す。
まだ一緒に居たいと思って貰えるような関係の友達ですらなかったと思うと、胸がズキリと痛む。
「行き先決めて島を回った事ねェからな。どうするって言われても…どうするか」
「船に戻らなくても、いいの…?」
「おれはまだ一緒に島を見て回るつもりだったぜ。お前が戻りてェなら、別に船に戻ってもいいけど…」
「私はまだエースと一緒に居たい!」
まだ一緒に居るつもりだったと聞いて嬉しさのあまり、食い気味にバカみたいにデカイ声でそう答えてしまった。
後にやってしまったと軽く後悔するハメになった。なぜなら、エースが顔を真っ赤にして固まっていたからだ。
もう少し別の言い方があったでしょうよ、と自分にツッコミを入れてみても今の言葉を取り消せるわけでもなくて。
「いや、いやいやいや!そういう意味じゃなくてですね…!いや、そう意味なのか?」
「知らねェよ…」
「あの、顔真っ赤にしないでもらえます?こっちも恥ずかしくなってくるんで…」
「それも知らねェよ。ナマエのせいだろ」
二人して顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。
この謎の空気感がむず痒くて、どうしていいか分からず逃げ出したくなる。
友達とか同い年の人と関わらずに今まで生きてきてしまったせいで最適解が全く分からない。
サッチー!!助けてー!!と心の中で叫んでみても私の嘆きがサッチに届くはずもなく、ひたすら落ちる沈黙。
完全に距離感を間違えてしまったのは確かで。ただでさえ、同性の友達との接し方もたいして知らないというのに、いきなり男女の友情というのは私にはハードルが高かったらしい。
サッチやマルコ、ビスタとかにまだ一緒に居たいと言ってもこんな風にはならないはずだ。
なぜなら、あの人たちは同い年でも若くもなく、オジサンだからだ。
子供がまだ遊びたいと駄々を捏ねているのと同じような感覚に捉えられる事だろう。
脳裏でサッチがおれはまだオジサンじゃないと怒る姿が思い浮かぶが事実なのだから、否定のしようがない。
おじ様だなんて高貴な感じでもないし…ってサッチの事は今はどうでもいい、と頭を横に数回振って、脳内サッチを打ち消した。
「あー…、なんか悪かった。そういう意味じゃねェのは分かってんだけど。そう言ってもらうの初めてだったから、なんつーか…」
エースは歯切れの悪い言い方で最後の方は尻つぼみになっていってしまい、両手で頭を抱える様に触れてそのまま俯いてしまった。
「おれと一緒に居たいとか、そう思ってくれんのって、嘘だったとしても嬉しいもんだな。誰もそんな風に思ってくれねェと思ってた」
そう言ったエースの顔はもう照れているとか恥ずかしがっているとかそんな感情は一切なく、どこか寂しそうで。
急に表情に影を落とした事がどうしても気になってしまうが触れてもいいのか分からず、黙ってしまう。
「…嘘なんかじゃないよ」
「…そうか」
絞り出すように放った言葉はエースにちゃんと届いたのか不安になるくらいに頼りない声で。エースは俯いたまま、ポツリと零したその声は微かに震えているように聞こえた。
私から見たエースは太陽みたいな人だった。
デュースから聞いた話やスペード海賊団の仲間たちからの信頼度を見ればそれは一目瞭然なのに、本人がどうもそれを受け止めていないというのか、受け入れるのを拒否しているのか。
それは分からないが自分はそうではないと否定している様な気がしていた。
黙ってエースを見つめているとその視線に気がついたのかフと顔を上げて、視線が絡むと直ぐにスッと視線を逸らされてしまった。
この数週間で近づいたと思った距離が急にまた開いてしまった様な気がした。
すり抜けていく風のように手を伸ばしてみても指の隙間から、全部こぼれ落ちていってしまう。
掴みたくても掴めない、エースの手。
こんなにも近いのにこんなにも遠い。
私が無理矢理にエースの手を掴んでも、いつかの様にきっと振り払われてしまう。
そんな気がして、触れる事はできなかった。
手を握る事も取り繕った言葉を投げ掛ける事もどれもエースは必要としていないような気がして。
今、エースが何を求めて、何を必要としているのかが私には分からない。
何となくで生きて来てしまった私には、その答えは簡単には見つけられない。
人が求めるモノ、人が生きる事に必要な要素なんて、分からない。
問いかけてもきっと、エースは答えてはくれない。
…あぁ、近づいたハズの距離がまた開いて行く。
遠のいていく感覚を手繰り寄せたいのに、身体は動かなくて。何も出来ずにただ、俯いたままのエースを見つめる事しか出来なかった。