愛とか恋とか
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
エースのお世話係になってから数週間、皿洗いや甲板のブラシ掛け、洗濯物を干すという様な雑用ばかりをサッチに言いつけられ、共に雑用をしていた。
雑用をするだけなら、お世話係なんていらないのでないかとは思うがエースと話をする機会が増えるので、まぁ雑用でもいいかとは思ってしまう。
今は厨房でサッチと共に夕飯の仕込みをしているのだけれど、エースは食堂の椅子に腰掛けて、ブスッとした表情で私とサッチに不満をぶつけていた。
その原因は、現在、モビーではある噂話が広まっている。その噂はというと「百回挑んでオヤジに勝てなかったら、エースのやつ、うちの旗に降るらしい」という話だ。
その話は本人の耳にも届いたようで、物凄く腹を立てているらしい。
「なんだよ百回って…!おれはそんな条件聞いてねェぞ」
「そりゃそうだ。おれが流したネタだからな」
「あ、サッチなの?エースに最初に教えてあげたら良かったのに」
「こうでもしねェとこのバカ、いう事きかねぇだろ」
「それもそうだけどさ」
「おい、バカは否定しろよ」
「だってバカじゃん」
「テメェにだけは言われたくねェよ」
ここ数週間でエースとの仲は前よりかは良くなったと思う。多分。絶対的な自信はないけれど、軽口をお互いに叩き合えるくらいの仲にはなった。
その様子を近くで眺めているサッチは「はいはい、どっちも同じくらいだよ」と毎回、流して来る。
自分の事を賢いとまでは思ってはいないけれど、エースよりはバカではないと自負していたのだが、周囲から見たら同じくらいだと思うと少し凹んでしまう。
「勝負事は期限を切らないとな。その気になれば10年後でも、なんてのはナシだ」
「白ひげの軍門に降るといった覚えもねェ」
「オヤジの首はそんな安かねェんだよ…!大体百回やって勝てなけりゃ千回やったって同じだ。はい、鍋に火」
エースはブスッとした表情を崩さないまま、メラメラの実の能力で火を起こした。
「おほ、いいね…!中華鍋は火力が命だからな!よォ、エース…お前、うちのモンになったら4番隊に来い。おれが一流の炎の料理人に育ててやる」
「いってろ」
エースはオヤジに勝つ事を全く諦めてはいない様で、目は炎のように滾り芯の強い光が宿っていた。
仲間になるのは嬉しいがエースには勝って欲しいという思いもあるので、少し複雑な気持ちだ。
お世話係に任命された日、エースと色々話して一緒に探し物を見つけようと約束をした。
もしも、エースが勝ってスペード海賊団に戻る日が来るとしたら、その約束はどうなってしまうのだろうか。そうなったら、あの約束はナシになってしまうのかと少し寂しい気持ちが生まれてくる。
だったら、このまま勝負がつかないか、ウチに入ってくれないかな、だなんて自分勝手な事を思ってしまう。そんな自分に嫌気を差してしまい、エースとサッチにバレない様に小さくため息を吐いた。
サッチが急に「ちょっと用事思い出したから、マルコの所に行ってくる。その間、台所は任せた」と言って、エプロンを脱いでキッチンを出て行ってしまった。
エースと二人になったが、彼はもう愚痴を言うつもりはない様で口を真一文に結んでジッと私の手元を見つめていた。
「なァ。腹減ったんだけど、なんかねェ?」
「お昼ご飯ならさっき食べたんじゃないの?」
「食ったけど、足りねェ」
そう告げたエースのお腹の虫の音が盛大にキッチンにまで鳴り響く。
ウチの1食の量は多い方だとは思うが、それでもエースには足りないらしい。
年齢層がやや高めの白ひげ海賊団の中ではエースはまだ10代で断然若い方だし、食べ盛りでもあるから仕方のない事だとは思う。
サッチに内緒でお昼の余りで簡単にチャーハンでも作ってあげようかと、冷蔵庫の中身を確認し、具材になりそうなものを取り出して、中華鍋に具材を放り込んだ。
「エース、火」
「おまえも使うのかよ」
ブツクサと文句を言いながらもちゃんと火をくれるエースはなんだかんだ、優しい。
海賊船に火は貴重なもので、火がないと満足な料理が作れないので火は重宝している。
でも、メラメラの実があれば火は使い放題なので少し欲しいなと思ってしまったのはここだけの話だ。エースに言ったら、絶対にメラメラの実をバカにすんなとかなんとかと怒られそうな気がするので黙っておくのが最適解だ。
エースの起こした火でパパッと作ったチャーハンをお皿に盛り付けて、エースの前に置けば不思議そうにチャーハンと私の顔を交互に見た。
「それ食べていいよ。他の人には内緒ね。みんなに作ってたらキリないし、サッチに怒れちゃう」
「いいのか!?おまえ、いい奴だな。ありがとう、いただきます!」
エースは嬉しそうに顔を輝かせながら、礼儀正しく手を合わせてからチャーハンをかき込む様に食べ出した。勢いよく豪快に食べる様子は見ているこっちが気持ち良くなるくらいの食べっぷりで自然と口元が緩んでしまう。
使った調理器具を洗いながら「スペード海賊団にコックさんとかいなかったの?」と問いかけても反応がない。それどころか、さっきまで聞こえていたお皿とレンゲのぶつかり合う音すら聞こえなくなっていたので、蛇口を捻って水を止めて顔をあげると、エースの顔が見えなくなっていた。
代わりに見えるのは、握り締められたレンゲだけがキッチンから見えていた。
「…え?え、なに、どういう事?え…?」
混乱しながら、キッチンを出てエースの方に回り込めば、顔をチャーハンの中に突っ込んで微動だにしていなかった。何度か名前を呼びかけても動く気配すら感じられず、一気に血の気が引くような感覚が襲い、手足の指先が冷えていき、動かしているのに動かせていない様な感覚に陥る。
突然死、その三文字が脳裏を掠め、若干指先が震えてしまった。もしかして、腐っていた具材とか入れてしまっただろうか。そうなったら、私が殺した事になってしまうのだろうか。
エースの賞金額は5億五千万ベリー。その賞金欲しさに毒殺したと思われてしまったらどうしよう、と焦る。
「ど、どうしよう…!マルコ呼んだ方がいいのかな、それともデュース!?私、5億とか要らないから起きてよ…!エース!死なないでー!!」
エースの両肩を掴んで前後に揺らしてそう叫んでいると、その願いが通じたかのようにエースがむくりと顔を上げて周囲を見渡した。そして、私と目が合うと「あー…寝てた」と呟いた。
「は…?寝てた…?」
「正確に言えば、気絶だな」
「いや、余計に分からないんだけど」
「おれの船、コックが居なくてよ。あんまり美味い飯食ってなかったんだ。だから、美味い飯食うと心が幸せすぎて気絶する」
「頭大丈夫?」
「ん?別に気絶した時に頭は打ってねェから大丈夫だ」
「そっちの心配はしてないよ」
エースは皮肉を言われた事に気が付かずひたすら、スペード海賊団のご飯の話をずっとしていた。コックが不在だった船では、バンシーというオバちゃん海賊の人が代理で作ってくれていたらしい。だけど、その料理は煮るか焼くか、そのまま生か。味付けは塩オンリーであまり美味しくはなかったらしい。
「でよ、文句言うもんなら、鉄のオタマでどつかれんだわ。あ、いや。いつもありがとうございます。文句言ってすみませんでした」
ここにはバンシーさんは居ないと言うのにオタマでどつかれるところを想像して、虚空に向かって頭を下げて謝罪していた。その姿は私の中では珍しくて、スペード海賊団の仲の良さを見た気がして、微笑ましかった。
若いとは言え、船長であり手配書が出回るくらいの海賊だと言うのに、オバちゃんには頭が上がらないところとか、年相応なエースに触れられた気がしてなんだか嬉しい気持ちと親近感が湧いた。
「あ、そうだ。いい事思いついた。ナマエさ、おれの船のコックになってくれよ。な、いいだろ」
「え、嫌です」
「なんでだよ。おまえいい奴だし、覇気使えんならそこそこ強ェんだろ。戦えるコックとか最高じゃねェか」
「無理だよ。そもそも、私は白ひげ海賊団の一員なの」
「よし、分かった。白ひげとの勝負に勝ったら、ナマエをもらう!その条件も付け足すか」
「何がどう分かったのか理解出来ないんですけど!?私、本人の意志はどこいった!?」
とんでもない発言を連発するエースに言い返していれば、背後から忍び寄って来ていたサッチがエースの頭を軽く叩いた。そして「勝手にウチのを勧誘するな」と言ってキッチンに入って行った。
「なんだよ、いいだろ。ここにはたくさんコックいるんだから」
「だったら、おまえもナマエじゃなくてもいいだろ。世の中にはコックならたくさん居るんだから」
「いや、おれはナマエがいい」
「なんで」
「なんでって…、いい奴だから?」
「なんで疑問系なんだよ。とにかくダメだ。ナマエはおれの妹分なんだ。欲しけりゃ、おれの許可が必要だ。まァ、一生許可なんて出さねェけどな」
「いつから妹分になったの?それに許可はサッチじゃなくて、オヤジでしょ」
「そこはツッコむなよ。それより、エース。顔を拭いたどうだ。米粒ついてんぞ」
サッチに指摘にエースはハッとした顔で私の顔を見た。そして、私も気が付く。
内緒ね、とチャーハンを作ったのに早速サッチにバレてしまった。
どう言い訳しようかと思考を巡らせていると、エースはなんの躊躇いもなく自分の視線の正面にある私のスカートの裾を掴んで顔を拭き始めた。
初め、その行動がイマイチ理解出来なくて、ポカンとアホみたいに口を開けて固まっているとサッチの「おいおいおい、羨まし…じゃなくて、なにで拭いてんだよ」の声で我に返り、エースの奇行を理解する。理解した途端、火山のように膨れ上がった羞恥心が噴火しそうになるくらいの熱が顔に集中していくのを感じる。
今、履いているスカートはロング丈ではなく、膝上丈なので裾を掴まれたら太ももが大胆に露出してしまう。
ナースのお姉さんくらいの美脚ならば、とくとご覧あれ!くらいの心構えでいられるが、なにせ人様の目に触れさせて良い程の出来ではなく、むしろ魅力も何もない、貧相なものである。
自分で言っていて悲しくなって来るが事実は受け止めなければ、人は前を向いて生きていけないのよ、だなんて現実逃避を脳内でしていると、エースが不意に顔をあげた。
目がバッチリ合うと、彼は急に顔を真っ赤にさせて視線を泳がし始めた。
「なんで、エースが照れてんの」
「だって、そりゃァ、な。おまえがそんな顔真っ赤にしてたら、おれもつられてと言うか…、勝手にスカート捲ってすみませんでした」
「デリカシー!改めて、言葉にしないでもらっていいかな!?そして、サッチは無言で凝視すんな!!」
「いやー、エースありがとう」
「感謝しないで、変態!」
私たちが騒いでいると「そんな大声出してどうした」と言いながら、デュースが食堂に入ってきた。この中で唯一の常識人の登場に安堵で涙腺が緩みそうになってしまうくらい、救世主に歓喜してしまう。
「デュースこそ。昼飯でも食い損ねたか」
「おれは水でももらおうかと思ってな」
「デュース!この人たち、どうにかしてよ!」
「どういうことだ?」
不思議そうに小首を傾げるデュースに先ほどあった出来事を話せば、エースに叱ってくれるだろうと思っていたが彼の反応は予想とは違って、軽くため息を吐いて「ナマエちゃん、諦めろ」の一言だった。
その後に続く話を聞いていれば、デュースが諦めたくなるのも頷ける内容だった。
「つまり、エースの視界には顔を拭ける布という事実しか映ってなかったわけね?」
「あァ。こいつには悪気は一切ないんだ。下心とか邪な気持ちもない。ウチの船長が悪かったな」
「今回は許すけど、次やったら容赦なく鉄のオタマでどつくから」
「おまえまでオバちゃん化すんのかよ」
「覇気使ってどつかれるのとオタマでどつかれるのどっちがいい?」
「…オタマでお願いします」
「エース、そこはもうやらねェって言うところだぞ」
「ハハ、おまえら仲良いな」
「言っとくけど、サッチも次見たら覇気使ってどつくから」
「おれには選択肢ないの!?」
そんな話をしながら、コップに水を入れてデュースに渡せば「ありがとう」と丁寧にお礼を言って受け取り、一気に流し込んだ。
おかわりは要るかと聞いたが、デュースは緩く首を横に振ってコップを洗い始めた。
「そこに置いておいてくれたら洗うのに」
「いいよ、自分で使ったものだ。エース、おまえも使った食器くらい自分で洗えよ。ただでさえ、作ってもらったんだから」
「分かってるよ、うるせェな」
「デュース、お父さんみたい」
「じゃあ、おれはさしずめ、ナマエのお父さんって所だな」
「変態で軟派なお父さんは嫌」
「娘が反抗期なんですけど…!」
サッチの嘆きに私たちは声をあげて笑った。
数週間前の時みたいなギスギスとした、敵や味方だのという垣根を超えて、今ここにいるのは全員、仲間のようなそんな空気感が食堂を包み、居心地の良さを覚える。
やっぱり、このままエースもスペード海賊団のみんなも白ひげの仲間になってくれたらいいな、と思う。この居心地の良さを知ってしまったら、抜け出せなくなってしまう。
隣に居たデュースが肘で軽く私の腕を小突き、私にだけに聞こえるような声で「エースと仲良くなれて来たみたいだな」と囁いた。
その言葉を聞いて、やっぱり自分の勘違いではなく、傍からみてもそう見えるという事実に嬉しくなる。思わず、そう見える!?と詰め寄りたくなるが確実にドン引きされる気がするのでその衝動をグッと抑えた。
「そう見えるなら嬉しいな」
「だいぶ、気を許してると思うぞ」
「本当?じゃあ、私とエースは友達かな」
「本来、あいつは誰とでも仲良くなれるようなヤツだからな。友達と言ってもいいんじゃないか?」
「よしよし。一歩前進だ」
デュースとコソコソと話をしていたのだが、その話をサッチがいつの間にか背後に立って腕を組みながらうんうんと頷いて聞いていた。
そして、「おれに任せろ!」と謎のウィンク付きで親指を立ててくる。
いつかのナースのお姉さんと違って、きゅんとするどころかゾッとしてしまい、鳥肌の立ってしまった両腕を素早く摩った。
「さて、2人には買い出し行って来てもらおうか」
「2人じゃ無理があるよ。毎回、どれだけの量を買い込んでるのかは、サッチが1番分かってるでしょ」
「おまえらにはコレを頼む。他の食材は別の4番隊の奴らに行かせてる」
サッチはささっと一枚の紙に買い出しメモを書き残し、私の手に握らせるように手渡して来た。
「よーし、行ってこい」
「おい、サッチ。ナマエとデュースの二人に行かせるのか。おれじゃなくて」
「「「は?」」」
「おれも行く」
エースの言葉に私たち三人は素っ頓狂な声を同時に出してしまった。
なんでそこでデュースになるのか。
どことなく不機嫌そうに見えるエースと逆に怖いくらいにニヤニヤとしているサッチとデュース。
三人の表情の違いについて行けず、困惑しているとサッチが揶揄うような口調でエースの名前を呼びながら肩を組んだ。
「そんな怒らなくても、おれは最初からおまえとナマエを行かせるつもりだったぜ」
「そうだぞ、エース。おまえ以外、誰もおれと行くだなんて思ってなかったぞ」
サッチの反対側の肩をデュースが組み、二人はニヤニヤとしながらエースの顔を覗き込む。
エースはうざったそうに二人を睨みつけてから組まれた腕を払い除けた。
「だったら最初からそう言えよ」
「勘違いするなんて誰も思ってなかったさ」
「で、どうしておまえはそんなに不機嫌そうなんだ?」
「どこがだよ」
「ムスッとしてんじゃないの。若いねェ」
サッチは相変わらずニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている。揶揄いすぎてそのタワシみたいなリーゼントをエースに燃やされればいいのにと内心で毒づく。
怒られても知らないよ、と巻き込まれないようにと遠巻きに三人の様子を眺めていれば急にエースが大きな声で叫び始めた。
「バッカ!ンなんじゃねェよ!!」
「そんなんじゃないってなにー?」
「おまえには関係ねェ!」
「えー、私だけ仲間はずれ?感じ悪い!」
「まァまァ。若いお二人さんで買い出し行って来てよ。あ、帰りは少しくらい遅くなってもいいからね」
「そんなに買い出しの量多いの?」
サッチにそう聞いても薄気味悪い笑顔しか向けて来ないので、やっぱり頭に付いてるそのタワシを燃やしてほしいと思う。
居心地悪そうにソワソワしているエースが「さっさと行くぞ」と声を荒げて食堂を出て行こうとするので慌てて追いかけようとすると、デュースに呼び止められた。
「これ、ナマエちゃんに預けておくよ」
「なに、これ」
「エースの財布」
「なんで私に?エースに渡すべきじゃない?」
「エースとの買い出しは…こう…デンジャラスだからさ。よろしく頼むよ」
「は?買い出しにデンジャラスとかある?」
「行けばわかる。サッチの思うような展開にはならないとおれは思うから」
「サッチの思うような展開とは?」
「青い春が若いお二人に訪れるとオジサンは思っているんだよ」
「おれは違う意味で青くなると思うから、武運を祈る」
サッチとデュースの言っている意味が全く理解出来ずに首を傾げていると、背後から首元にガッシリとした腕が回ってきて、一気に血の気が引くのを感じた。
この展開を私は知っている。
脳内では防衛本能が瞬時に「気道の確保ー!今のうちにたくさんの酸素を吸いこめー!」と指令を送って来たので、水中に潜る時の如く、大量の酸素を肺に入れて息を止めた。
だけど、思っていたような息苦しさは来ず、ただ首元にふわりと腕を回されただけだった。
予想外の展開に固まっているとそのまま力を入れずに連行されて行く。
食堂を出た辺りで腕を離された事により、呼吸を止めていた事を思い出して、勢いよく息を吸い込むと頭上でエースの「なんで息止めてんだよ」という声が聞こえた。
「防衛本能です」
「は?わけわかんねェ」
そんな会話をしながら船内を歩いていると、そういえば買い出しのメモを握りしめていたままだった事を思い出した。
手のひらを開いてぐしゃぐしゃになった紙を伸ばしながら開けば、そこには「買い出しデート、楽しんで♡」と書かれていて、サッチのニヤニヤとしたあの顔が脳裏に浮かび、軽くイラッとしてしまった。
ハートの語尾が完全に揶揄っている事にムッとして、私たちはサッチの揶揄う為のネタ要員じゃないんだよと心の中で文句を言いながら、紙を再度ぐしゃぐしゃにしてエースに渡した。
「それ燃やして」
「それ買い出しメモだろ」
「いいから!」
「お、おう…?」
エースは困惑したような声を出しながらも手に火を宿して紙を消し炭へと変えていた。
「帰ったらサッチのタワシも燃やしていいから!」
「タワシ…?」
絶対に帰ったらあのタワシも消し炭にしてやると意気込みながら、島へと向かう為に二人で船から降りた。
雑用をするだけなら、お世話係なんていらないのでないかとは思うがエースと話をする機会が増えるので、まぁ雑用でもいいかとは思ってしまう。
今は厨房でサッチと共に夕飯の仕込みをしているのだけれど、エースは食堂の椅子に腰掛けて、ブスッとした表情で私とサッチに不満をぶつけていた。
その原因は、現在、モビーではある噂話が広まっている。その噂はというと「百回挑んでオヤジに勝てなかったら、エースのやつ、うちの旗に降るらしい」という話だ。
その話は本人の耳にも届いたようで、物凄く腹を立てているらしい。
「なんだよ百回って…!おれはそんな条件聞いてねェぞ」
「そりゃそうだ。おれが流したネタだからな」
「あ、サッチなの?エースに最初に教えてあげたら良かったのに」
「こうでもしねェとこのバカ、いう事きかねぇだろ」
「それもそうだけどさ」
「おい、バカは否定しろよ」
「だってバカじゃん」
「テメェにだけは言われたくねェよ」
ここ数週間でエースとの仲は前よりかは良くなったと思う。多分。絶対的な自信はないけれど、軽口をお互いに叩き合えるくらいの仲にはなった。
その様子を近くで眺めているサッチは「はいはい、どっちも同じくらいだよ」と毎回、流して来る。
自分の事を賢いとまでは思ってはいないけれど、エースよりはバカではないと自負していたのだが、周囲から見たら同じくらいだと思うと少し凹んでしまう。
「勝負事は期限を切らないとな。その気になれば10年後でも、なんてのはナシだ」
「白ひげの軍門に降るといった覚えもねェ」
「オヤジの首はそんな安かねェんだよ…!大体百回やって勝てなけりゃ千回やったって同じだ。はい、鍋に火」
エースはブスッとした表情を崩さないまま、メラメラの実の能力で火を起こした。
「おほ、いいね…!中華鍋は火力が命だからな!よォ、エース…お前、うちのモンになったら4番隊に来い。おれが一流の炎の料理人に育ててやる」
「いってろ」
エースはオヤジに勝つ事を全く諦めてはいない様で、目は炎のように滾り芯の強い光が宿っていた。
仲間になるのは嬉しいがエースには勝って欲しいという思いもあるので、少し複雑な気持ちだ。
お世話係に任命された日、エースと色々話して一緒に探し物を見つけようと約束をした。
もしも、エースが勝ってスペード海賊団に戻る日が来るとしたら、その約束はどうなってしまうのだろうか。そうなったら、あの約束はナシになってしまうのかと少し寂しい気持ちが生まれてくる。
だったら、このまま勝負がつかないか、ウチに入ってくれないかな、だなんて自分勝手な事を思ってしまう。そんな自分に嫌気を差してしまい、エースとサッチにバレない様に小さくため息を吐いた。
サッチが急に「ちょっと用事思い出したから、マルコの所に行ってくる。その間、台所は任せた」と言って、エプロンを脱いでキッチンを出て行ってしまった。
エースと二人になったが、彼はもう愚痴を言うつもりはない様で口を真一文に結んでジッと私の手元を見つめていた。
「なァ。腹減ったんだけど、なんかねェ?」
「お昼ご飯ならさっき食べたんじゃないの?」
「食ったけど、足りねェ」
そう告げたエースのお腹の虫の音が盛大にキッチンにまで鳴り響く。
ウチの1食の量は多い方だとは思うが、それでもエースには足りないらしい。
年齢層がやや高めの白ひげ海賊団の中ではエースはまだ10代で断然若い方だし、食べ盛りでもあるから仕方のない事だとは思う。
サッチに内緒でお昼の余りで簡単にチャーハンでも作ってあげようかと、冷蔵庫の中身を確認し、具材になりそうなものを取り出して、中華鍋に具材を放り込んだ。
「エース、火」
「おまえも使うのかよ」
ブツクサと文句を言いながらもちゃんと火をくれるエースはなんだかんだ、優しい。
海賊船に火は貴重なもので、火がないと満足な料理が作れないので火は重宝している。
でも、メラメラの実があれば火は使い放題なので少し欲しいなと思ってしまったのはここだけの話だ。エースに言ったら、絶対にメラメラの実をバカにすんなとかなんとかと怒られそうな気がするので黙っておくのが最適解だ。
エースの起こした火でパパッと作ったチャーハンをお皿に盛り付けて、エースの前に置けば不思議そうにチャーハンと私の顔を交互に見た。
「それ食べていいよ。他の人には内緒ね。みんなに作ってたらキリないし、サッチに怒れちゃう」
「いいのか!?おまえ、いい奴だな。ありがとう、いただきます!」
エースは嬉しそうに顔を輝かせながら、礼儀正しく手を合わせてからチャーハンをかき込む様に食べ出した。勢いよく豪快に食べる様子は見ているこっちが気持ち良くなるくらいの食べっぷりで自然と口元が緩んでしまう。
使った調理器具を洗いながら「スペード海賊団にコックさんとかいなかったの?」と問いかけても反応がない。それどころか、さっきまで聞こえていたお皿とレンゲのぶつかり合う音すら聞こえなくなっていたので、蛇口を捻って水を止めて顔をあげると、エースの顔が見えなくなっていた。
代わりに見えるのは、握り締められたレンゲだけがキッチンから見えていた。
「…え?え、なに、どういう事?え…?」
混乱しながら、キッチンを出てエースの方に回り込めば、顔をチャーハンの中に突っ込んで微動だにしていなかった。何度か名前を呼びかけても動く気配すら感じられず、一気に血の気が引くような感覚が襲い、手足の指先が冷えていき、動かしているのに動かせていない様な感覚に陥る。
突然死、その三文字が脳裏を掠め、若干指先が震えてしまった。もしかして、腐っていた具材とか入れてしまっただろうか。そうなったら、私が殺した事になってしまうのだろうか。
エースの賞金額は5億五千万ベリー。その賞金欲しさに毒殺したと思われてしまったらどうしよう、と焦る。
「ど、どうしよう…!マルコ呼んだ方がいいのかな、それともデュース!?私、5億とか要らないから起きてよ…!エース!死なないでー!!」
エースの両肩を掴んで前後に揺らしてそう叫んでいると、その願いが通じたかのようにエースがむくりと顔を上げて周囲を見渡した。そして、私と目が合うと「あー…寝てた」と呟いた。
「は…?寝てた…?」
「正確に言えば、気絶だな」
「いや、余計に分からないんだけど」
「おれの船、コックが居なくてよ。あんまり美味い飯食ってなかったんだ。だから、美味い飯食うと心が幸せすぎて気絶する」
「頭大丈夫?」
「ん?別に気絶した時に頭は打ってねェから大丈夫だ」
「そっちの心配はしてないよ」
エースは皮肉を言われた事に気が付かずひたすら、スペード海賊団のご飯の話をずっとしていた。コックが不在だった船では、バンシーというオバちゃん海賊の人が代理で作ってくれていたらしい。だけど、その料理は煮るか焼くか、そのまま生か。味付けは塩オンリーであまり美味しくはなかったらしい。
「でよ、文句言うもんなら、鉄のオタマでどつかれんだわ。あ、いや。いつもありがとうございます。文句言ってすみませんでした」
ここにはバンシーさんは居ないと言うのにオタマでどつかれるところを想像して、虚空に向かって頭を下げて謝罪していた。その姿は私の中では珍しくて、スペード海賊団の仲の良さを見た気がして、微笑ましかった。
若いとは言え、船長であり手配書が出回るくらいの海賊だと言うのに、オバちゃんには頭が上がらないところとか、年相応なエースに触れられた気がしてなんだか嬉しい気持ちと親近感が湧いた。
「あ、そうだ。いい事思いついた。ナマエさ、おれの船のコックになってくれよ。な、いいだろ」
「え、嫌です」
「なんでだよ。おまえいい奴だし、覇気使えんならそこそこ強ェんだろ。戦えるコックとか最高じゃねェか」
「無理だよ。そもそも、私は白ひげ海賊団の一員なの」
「よし、分かった。白ひげとの勝負に勝ったら、ナマエをもらう!その条件も付け足すか」
「何がどう分かったのか理解出来ないんですけど!?私、本人の意志はどこいった!?」
とんでもない発言を連発するエースに言い返していれば、背後から忍び寄って来ていたサッチがエースの頭を軽く叩いた。そして「勝手にウチのを勧誘するな」と言ってキッチンに入って行った。
「なんだよ、いいだろ。ここにはたくさんコックいるんだから」
「だったら、おまえもナマエじゃなくてもいいだろ。世の中にはコックならたくさん居るんだから」
「いや、おれはナマエがいい」
「なんで」
「なんでって…、いい奴だから?」
「なんで疑問系なんだよ。とにかくダメだ。ナマエはおれの妹分なんだ。欲しけりゃ、おれの許可が必要だ。まァ、一生許可なんて出さねェけどな」
「いつから妹分になったの?それに許可はサッチじゃなくて、オヤジでしょ」
「そこはツッコむなよ。それより、エース。顔を拭いたどうだ。米粒ついてんぞ」
サッチに指摘にエースはハッとした顔で私の顔を見た。そして、私も気が付く。
内緒ね、とチャーハンを作ったのに早速サッチにバレてしまった。
どう言い訳しようかと思考を巡らせていると、エースはなんの躊躇いもなく自分の視線の正面にある私のスカートの裾を掴んで顔を拭き始めた。
初め、その行動がイマイチ理解出来なくて、ポカンとアホみたいに口を開けて固まっているとサッチの「おいおいおい、羨まし…じゃなくて、なにで拭いてんだよ」の声で我に返り、エースの奇行を理解する。理解した途端、火山のように膨れ上がった羞恥心が噴火しそうになるくらいの熱が顔に集中していくのを感じる。
今、履いているスカートはロング丈ではなく、膝上丈なので裾を掴まれたら太ももが大胆に露出してしまう。
ナースのお姉さんくらいの美脚ならば、とくとご覧あれ!くらいの心構えでいられるが、なにせ人様の目に触れさせて良い程の出来ではなく、むしろ魅力も何もない、貧相なものである。
自分で言っていて悲しくなって来るが事実は受け止めなければ、人は前を向いて生きていけないのよ、だなんて現実逃避を脳内でしていると、エースが不意に顔をあげた。
目がバッチリ合うと、彼は急に顔を真っ赤にさせて視線を泳がし始めた。
「なんで、エースが照れてんの」
「だって、そりゃァ、な。おまえがそんな顔真っ赤にしてたら、おれもつられてと言うか…、勝手にスカート捲ってすみませんでした」
「デリカシー!改めて、言葉にしないでもらっていいかな!?そして、サッチは無言で凝視すんな!!」
「いやー、エースありがとう」
「感謝しないで、変態!」
私たちが騒いでいると「そんな大声出してどうした」と言いながら、デュースが食堂に入ってきた。この中で唯一の常識人の登場に安堵で涙腺が緩みそうになってしまうくらい、救世主に歓喜してしまう。
「デュースこそ。昼飯でも食い損ねたか」
「おれは水でももらおうかと思ってな」
「デュース!この人たち、どうにかしてよ!」
「どういうことだ?」
不思議そうに小首を傾げるデュースに先ほどあった出来事を話せば、エースに叱ってくれるだろうと思っていたが彼の反応は予想とは違って、軽くため息を吐いて「ナマエちゃん、諦めろ」の一言だった。
その後に続く話を聞いていれば、デュースが諦めたくなるのも頷ける内容だった。
「つまり、エースの視界には顔を拭ける布という事実しか映ってなかったわけね?」
「あァ。こいつには悪気は一切ないんだ。下心とか邪な気持ちもない。ウチの船長が悪かったな」
「今回は許すけど、次やったら容赦なく鉄のオタマでどつくから」
「おまえまでオバちゃん化すんのかよ」
「覇気使ってどつかれるのとオタマでどつかれるのどっちがいい?」
「…オタマでお願いします」
「エース、そこはもうやらねェって言うところだぞ」
「ハハ、おまえら仲良いな」
「言っとくけど、サッチも次見たら覇気使ってどつくから」
「おれには選択肢ないの!?」
そんな話をしながら、コップに水を入れてデュースに渡せば「ありがとう」と丁寧にお礼を言って受け取り、一気に流し込んだ。
おかわりは要るかと聞いたが、デュースは緩く首を横に振ってコップを洗い始めた。
「そこに置いておいてくれたら洗うのに」
「いいよ、自分で使ったものだ。エース、おまえも使った食器くらい自分で洗えよ。ただでさえ、作ってもらったんだから」
「分かってるよ、うるせェな」
「デュース、お父さんみたい」
「じゃあ、おれはさしずめ、ナマエのお父さんって所だな」
「変態で軟派なお父さんは嫌」
「娘が反抗期なんですけど…!」
サッチの嘆きに私たちは声をあげて笑った。
数週間前の時みたいなギスギスとした、敵や味方だのという垣根を超えて、今ここにいるのは全員、仲間のようなそんな空気感が食堂を包み、居心地の良さを覚える。
やっぱり、このままエースもスペード海賊団のみんなも白ひげの仲間になってくれたらいいな、と思う。この居心地の良さを知ってしまったら、抜け出せなくなってしまう。
隣に居たデュースが肘で軽く私の腕を小突き、私にだけに聞こえるような声で「エースと仲良くなれて来たみたいだな」と囁いた。
その言葉を聞いて、やっぱり自分の勘違いではなく、傍からみてもそう見えるという事実に嬉しくなる。思わず、そう見える!?と詰め寄りたくなるが確実にドン引きされる気がするのでその衝動をグッと抑えた。
「そう見えるなら嬉しいな」
「だいぶ、気を許してると思うぞ」
「本当?じゃあ、私とエースは友達かな」
「本来、あいつは誰とでも仲良くなれるようなヤツだからな。友達と言ってもいいんじゃないか?」
「よしよし。一歩前進だ」
デュースとコソコソと話をしていたのだが、その話をサッチがいつの間にか背後に立って腕を組みながらうんうんと頷いて聞いていた。
そして、「おれに任せろ!」と謎のウィンク付きで親指を立ててくる。
いつかのナースのお姉さんと違って、きゅんとするどころかゾッとしてしまい、鳥肌の立ってしまった両腕を素早く摩った。
「さて、2人には買い出し行って来てもらおうか」
「2人じゃ無理があるよ。毎回、どれだけの量を買い込んでるのかは、サッチが1番分かってるでしょ」
「おまえらにはコレを頼む。他の食材は別の4番隊の奴らに行かせてる」
サッチはささっと一枚の紙に買い出しメモを書き残し、私の手に握らせるように手渡して来た。
「よーし、行ってこい」
「おい、サッチ。ナマエとデュースの二人に行かせるのか。おれじゃなくて」
「「「は?」」」
「おれも行く」
エースの言葉に私たち三人は素っ頓狂な声を同時に出してしまった。
なんでそこでデュースになるのか。
どことなく不機嫌そうに見えるエースと逆に怖いくらいにニヤニヤとしているサッチとデュース。
三人の表情の違いについて行けず、困惑しているとサッチが揶揄うような口調でエースの名前を呼びながら肩を組んだ。
「そんな怒らなくても、おれは最初からおまえとナマエを行かせるつもりだったぜ」
「そうだぞ、エース。おまえ以外、誰もおれと行くだなんて思ってなかったぞ」
サッチの反対側の肩をデュースが組み、二人はニヤニヤとしながらエースの顔を覗き込む。
エースはうざったそうに二人を睨みつけてから組まれた腕を払い除けた。
「だったら最初からそう言えよ」
「勘違いするなんて誰も思ってなかったさ」
「で、どうしておまえはそんなに不機嫌そうなんだ?」
「どこがだよ」
「ムスッとしてんじゃないの。若いねェ」
サッチは相変わらずニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている。揶揄いすぎてそのタワシみたいなリーゼントをエースに燃やされればいいのにと内心で毒づく。
怒られても知らないよ、と巻き込まれないようにと遠巻きに三人の様子を眺めていれば急にエースが大きな声で叫び始めた。
「バッカ!ンなんじゃねェよ!!」
「そんなんじゃないってなにー?」
「おまえには関係ねェ!」
「えー、私だけ仲間はずれ?感じ悪い!」
「まァまァ。若いお二人さんで買い出し行って来てよ。あ、帰りは少しくらい遅くなってもいいからね」
「そんなに買い出しの量多いの?」
サッチにそう聞いても薄気味悪い笑顔しか向けて来ないので、やっぱり頭に付いてるそのタワシを燃やしてほしいと思う。
居心地悪そうにソワソワしているエースが「さっさと行くぞ」と声を荒げて食堂を出て行こうとするので慌てて追いかけようとすると、デュースに呼び止められた。
「これ、ナマエちゃんに預けておくよ」
「なに、これ」
「エースの財布」
「なんで私に?エースに渡すべきじゃない?」
「エースとの買い出しは…こう…デンジャラスだからさ。よろしく頼むよ」
「は?買い出しにデンジャラスとかある?」
「行けばわかる。サッチの思うような展開にはならないとおれは思うから」
「サッチの思うような展開とは?」
「青い春が若いお二人に訪れるとオジサンは思っているんだよ」
「おれは違う意味で青くなると思うから、武運を祈る」
サッチとデュースの言っている意味が全く理解出来ずに首を傾げていると、背後から首元にガッシリとした腕が回ってきて、一気に血の気が引くのを感じた。
この展開を私は知っている。
脳内では防衛本能が瞬時に「気道の確保ー!今のうちにたくさんの酸素を吸いこめー!」と指令を送って来たので、水中に潜る時の如く、大量の酸素を肺に入れて息を止めた。
だけど、思っていたような息苦しさは来ず、ただ首元にふわりと腕を回されただけだった。
予想外の展開に固まっているとそのまま力を入れずに連行されて行く。
食堂を出た辺りで腕を離された事により、呼吸を止めていた事を思い出して、勢いよく息を吸い込むと頭上でエースの「なんで息止めてんだよ」という声が聞こえた。
「防衛本能です」
「は?わけわかんねェ」
そんな会話をしながら船内を歩いていると、そういえば買い出しのメモを握りしめていたままだった事を思い出した。
手のひらを開いてぐしゃぐしゃになった紙を伸ばしながら開けば、そこには「買い出しデート、楽しんで♡」と書かれていて、サッチのニヤニヤとしたあの顔が脳裏に浮かび、軽くイラッとしてしまった。
ハートの語尾が完全に揶揄っている事にムッとして、私たちはサッチの揶揄う為のネタ要員じゃないんだよと心の中で文句を言いながら、紙を再度ぐしゃぐしゃにしてエースに渡した。
「それ燃やして」
「それ買い出しメモだろ」
「いいから!」
「お、おう…?」
エースは困惑したような声を出しながらも手に火を宿して紙を消し炭へと変えていた。
「帰ったらサッチのタワシも燃やしていいから!」
「タワシ…?」
絶対に帰ったらあのタワシも消し炭にしてやると意気込みながら、島へと向かう為に二人で船から降りた。