愛とか恋とか
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白ひげに負けてから数週間経った今でも、エースはモビーディック号の上にいた。
毎日のように白ひげにお礼参りをしに何度も向かったがその度に吹っ飛ばされて、海に落ちていた。
それをスペード海賊団の仲間、魚人のウォレスが海に飛び込んでは毎回、拾い上げている。
白ひげ海賊団のクルー達はその光景を恒例行事かのように眺めては、ひと段落すると笑っていた。隊長たちもそれは例外ではなく、「毎日毎日、飽きもせず...」「たいした根性だなあいつ」とサッチとビスタは言った。
もはや、この船でエースの名を知らない人間は居ないくらいに名物光景になっている。
親父に叩き落された衝撃で意識を飛ばしている上に悪魔の実の能力者であるエースは海に落ちてから引き上げられてからもピクリとも動かなかった。
「ナマエ、医務室運んでやれよ」
「えー!?サッチってば、女の子に運ばせる気なの?」
「なーに言ってんだか」
揶揄うようにケラケラと笑うサッチの右足を踏み付けると大袈裟に痛いと飛び上がって踏まれた方の足の甲を摩っていた。
そんなサッチを尻目にエースを医務室へ運ぼうとしてみるが、やはり想像通り重かったのでおんぶなんて出来る訳もなく、どうしようかと頭を悩ませた。
「致し方ないよね。これしか方法ないし」
突発的に思いついた方法で医務室まで運ぼうと、エースの両足首を掴んで引き摺って行こうとするとサッチとビスタが慌てて「待て待て待て!」と私の腕を掴んだ。
「何?」
「流石に可哀想じゃないか?」
「いくら何でもな」
「文句言うなら、ビスタかサッチが運んでよ」
「親父に海に叩き落とされ、意識飛ばしてる間にナマエに足掴んで引き摺られたって知ったら、可哀想すぎる。おれなら一週間寝込むね」
「勝手に寝込めば?」
「相変わらず、サッチには辛辣だな」
サッチは仕方ねェと呟きながらエースを背に乗せ、ビスタは私を見て苦笑いを浮かべていた。
ビスタとはその場で別れ、エースを背負ったサッチと共に医務室へと向かった。
医務室に入ると、中にはいつものナースさん達は居らず、エースの仲間のデュースだけが椅子に座っていた。
私たちを交互に見たあと、サッチの背中に居るエースに視線が止まった途端、深いため息を吐く。
「エースはまた白ひげに挑んだのか」
「うん。今日は負けちゃったみたい」
「今日も、の間違いだろ」
「それもそうだ」
デュースの言葉に私とサッチが笑うとデュースは苦虫を噛み潰したような表情で私たちを見た。
「うちの船長がすみません」と頭を下げたので、慌てて駆け寄り頭を上げさせた。
サッチはこの空気を緩めるかのように笑いながら「実はさ、ナマエがエースの足を持って引き摺って連れて来ようとしたんだよ」と言うものだから、慌ててサッチの腕を叩いた。
「ちょっと!人様の船の船長をそんな風に扱ったってバラさなくてもいいでしょ」
「いや、エースにはちょうどいい薬になるんじゃないか?」
そう言って、穏やかに笑うデュースに「なんか、すみません」と今度は私が頭を下げる番だった。サッチは後はよろしくと言わんばかりの顔を私に向けてから医務室から出て行ってしまい、残された私たちは微妙な空気感が漂った後に沈黙が落ちた。
「そういえば、ナマエちゃん。この間エースに手叩かれたって聞いたけど、大丈夫か?」
「あぁ、うん。そんなに痛くなかったし、手くらい大丈夫だよ」
「そっちじゃなくて。その、嫌な気分にさせちまったかなって」
「それも別に気にしてないよ。いきなり敵船に乗せられて息子になれって言われても戸惑うのは仕方ないでしょ」
「エースは根は良い奴なんだ。今はちょっと意固地になってるだけでさ」
「何となく、分かるよ」
エースが親父に敗北した後、我が船長を取り戻そうとスペード海賊団全員が白ひげに挑みに来た時、彼の人望の厚さが見えた。
自分たちの船長でさえも勝てなかった相手、ましてや四皇でもある海賊団相手に向かって来るなんて、無謀でしかないのに。
負けると分かっていてもどうしても守りたいが為に立ち向かう彼らを見て、スペード海賊団の在り方を知った。
船長であるエースが仲間の為なら相手が誰だろうと立ち向かう強さを持った、優しい人なんだと。船長のエースの心が海賊団に生きているとそう感じていた。
だから、起きたら話してみたかったし、出来れば仲良くなりたかったんだけれど。そんな簡単には事は進まないようだ。
握手を求めた手は叩き落とされたし、まるで人間に敵意剥き出しの野犬のようにガルガル吠えられては、近づきようがない。
「私ね、エースと仲良くなりたいんだ」
「エースと?」
「うん。だって…」
そこまで言うと、ベッドの方から「っ!は───」という声が聞こえ、エースが跳ね起きて咳き込んでいるのが見えた。
ここがどこかを確かめるように周囲を見渡し、自分がベッドに寝かさせている事に気づいたエースにデュースが「また来たのか」と話しかけた。その声に弾かれるようにこちらを向いた彼は、デュースと私の顔を見て、驚いたように目を見開いた。
「お前がおれをここまで運んで来たのか」
「ナマエちゃんがお前の足を持って引きずって連れて来てくれたんだ。お礼言っとけよ」
「ちょッ!デュース!?」
「はァ!?ソイツからの謝罪の間違えだろ!」
「それはごもっともな意見で…ってそんな事してないよ!一瞬しか!」
「一瞬でもしてんじゃねェか!」
ギャーギャー騒ぐ私たちを見て、デュースはしてやったり顔を私に向けて来た。
確かに仲良くなりたいとは言ったが、逆効果なのではないかと思うくらいのやり方に大きな声で抗議をしたくなる。
そんな私の抗議の視線を交わしてデュースは真面目な顔つきになり、エースを見た。
「懲りないな。何十回目だ」
「てめェ…あのな──」
「若先生ェ」
エースが睨み付けるようにそう言葉を発した途端に語尾にハートマークが付きそうなくらいの甘えたような声と共に医務室のドアが開き、ナースたちが部屋へ入って来た。
超ミニスカナース服に身を包み、豹柄のハイブーツを履いた超お色気お姉さんたちだ。
同性ですら魅了してしまうくらいの色気と同時に香るいい匂いにドキドキしてしまう。
それに比べて、自分と来たら…。
色気とは程遠いスタイルに童顔に近い顔。そんでもって、無臭に近い匂い。せめてもの、香水くらい付けておけばお色気でも出るかなと思った事は一度ならず、二度三度と数え切れないくらいあるのだが、私の仕事は料理が多い為、嗅覚が鈍るといけないので幾度も諦めてきた。
私だって、お色気お姉さんに憧れを抱く年頃だ。まぁ、ナースのお姉さんを目の当たりにすると現実を突きつけられて、勝手に凹むのだけれど。
「ナマエ、大丈夫よ。そのままのアナタでも充分、可愛いわ」
私の心中を察した、いつも仲良くしてくれるナースさんが目くばせをしながらそう言った。
きゅん。
女の私でさえ、ときめきをしてしまうほどのウィンクの破壊力に胸を抑え、悶えた。隣に居るデュースの肩をバシバシと音を立てながら叩き「デュース、今の見た?堪らない」と興奮しながら言えば「オッサンか」と突っ込みを入れられてしまったがそんな事どうでも良いくらいに胸がトキメいたままだ。
ナースさんたちは船医長からの言伝をデュースに告げると色気のある笑みを含ませながら医療室から出て行った。
「チヤホヤされて、いいご身分だな。デュース」
「まァ、おれのことをどう思おうが、いいんだけどな」
トゲのあるエースの言い方にデュースは淡々と見返してそう言い放った。若干、ピリついた空気が流れ出しながら、二人は淡々と会話を進めていた。
白ひげに負けたが、いずれは白ひげの首を取ると宣言するエースに今まで淡々としていたデュースは深くため息をついた。
この会話を白ひげの船員である自分が聞いていていいのかと場違いな気がして、席を外そうと右足を引くとデュースに「そんなに気を遣わなくても大丈夫だ」と引き止められてしまった。
「ここの医療チームはな…すげェんだ」
「ナースのおねェちゃんがか?」
「まじめに聞けよ。ここは設備も大きな町の病院と同じ…それ以上かもしれない。なぜだと思う」
「知らねェよ」
エースの言葉に深く何度も同意の意味を込めて頷きたかったが、デュースの真面目に聞けという言葉を聞いて、慌てて口を噤んで背筋を伸ばした。
やっぱり、空気をぶち壊してしまう前にさっさと立ち去ろうと「やっぱり、外で待機してますね…」と言葉を残してドアノブに手をかけるが今度は引き止められる事もなく、そのまま外に出た。
医務室のドアから少し離れた所の壁に寄りかかり、二人の会話がひと段落つくのを待っていると、数分した頃、医務室のドアが乱暴に開かれて、険しい顔をしたエースが出て来た。
待っていたのはいいものの、どう考えても話しかけていいような表情ではなかった為、どうしようかと思っていると私の存在に気がついたエースは荒々しくこっちに向かって来る。
そのあまりの迫力に思わず後退りをしてしまい、そのまま逃げ去ろうと踵を返して数歩足を進めると「ちょっと待て」と声と共に首根っこをガシッと掴まれた。
恐る恐る振り返ると鬼のような迫力の強面表情で私を見下ろしていたエースとガッチリと視線が合ってしまった。
「お前、少し付き合え」
「ぐェッ!ちょ…首!締まって…!」
掴まれていた首根っこを離されたと思ったら、今度は首元に右腕を回されてそのまま引きずるように連れ去られてしまった。
その腕は首に食い込み、息が出来なくなるほどの力加減でこのまま殺られると思った刹那、パッと腕を離された。解放された瞬時に酸素を一気に吸い込んでしまった為、むせて咳き込んでしまう。
息を荒くしながらエースを睨み付けると、彼は怪訝そうに眉を顰めた。
「窒息死させる気ですか!?」
「は?何がだよ」
「絞め殺されるかと思ったんだけど!」
「…あぁ。それは悪ぃ。力加減間違えた。まァ、足持って引きづられるよりマシだろ」
「それ根に持ってるのね…」
「それはひとまず、置いとけ。おれが言いたいのは…」
「…言いたいのは?」
待てど暮らせど、その後の言葉は続かず、言いづらそうに口籠るエースを見ていると、視線を周囲に漂わせた後に顔を真っ赤にさせながらも真っ直ぐに私の顔を見た。
「おれに仕事を…クダサイ」
「…は?」
「〜〜ッッ!だから!仕事をくれって言ってんだよ!!」
最初に言われた言葉が理解出来ず、ぽかんとしているとエースは半ばヤケになったように叫んだ。「仕事を下さい」その言葉を脳内で反芻させ、ようやく理解をした途端に私は船内に響くほどの大絶叫をしてしまった。
「しごっ!?え…?エースが?」
「悪りぃかよ」
「いや、だって。どういう風の吹き回?どうしたの、急に」
「おれの仲間たちがここでメシを食わせてもらっている恩がある。その分の借りはちゃんと返す。食った分は働く。仁義は通す。そう言うこった」
「はぁ…」
「はぁ…じゃねェよ!もっと他にリアクションねェのかよ!」
「そうは言っても、私も平船員だし…。幹部のサッチに頼むか直接、親父に聞かないと。私の独断で決められないよ」
「それもそうか」
視線を下げ、また悩ましげな表情を浮かべ始めてしまった。多分、医務室でデュースに何か言われたのだろう。そうでなければ、人が変わったようにこんな事を言い出すはずがない。
でも、前向こうとしているエースの力になりたかったので、ここで何も出来ないと突き放す事はしたくなかった。
「よし!ひとまず、一緒にサッチの所へ頼みに行こう!」
「…いいのか?」
「うん!サッチに言えば、きっと私と同じ4番隊に入れてくれると思うし!」
「は?おれは白ひげの息子になるとは言ってねェよ」
「へ…?」
「仲間の前で筋の通らねェ事は出来ねェ。それだけだ」
「どういうこっちゃ…。デュース!!翻訳!!」
脳内でマスクを付けた彼の仲間を思い浮かべながらそう叫んでも、ここはもう医務室から離れた場所に居る為、私の声は届くはずもなく。
エースと仲間になれると喜んだ矢先、全く見当違いな返答をされて困惑するばかりだ。
「早速、サッチんトコ行こうぜ」
「うぇッ!また首…!!」
「さっきの仕返しだ。つーか、さっきから変な声ばっかり出してて、ナースのおねェちゃんみてェになれねェぞ」
「ぐッ…!人が気にしてる事をサラッと!!」
「この前はお前に散々いい様にやられたからな。目には目を歯には歯を、だ」
「数週間前の事を未だに根に持ってるの!?」
「うるせェ!あんな屈辱、忘れてたまるか!」
「ぎゃーー!更に首絞めないでよ!!」
先程と同じように首に回された腕に力を込められれば、締まる首元に色気もへったくりもない声を上げて叫んでしまう。
そんな私にお構いなしにサッチの元へ引き摺る様に歩くエースに抗議の声を上げるが、言い返されを繰り返しながら船内を進んで行く。
すれ違う船員たちに好奇な視線を向けられている事にサッチの元へ着くまで、私たちが気づく事はなかった。
毎日のように白ひげにお礼参りをしに何度も向かったがその度に吹っ飛ばされて、海に落ちていた。
それをスペード海賊団の仲間、魚人のウォレスが海に飛び込んでは毎回、拾い上げている。
白ひげ海賊団のクルー達はその光景を恒例行事かのように眺めては、ひと段落すると笑っていた。隊長たちもそれは例外ではなく、「毎日毎日、飽きもせず...」「たいした根性だなあいつ」とサッチとビスタは言った。
もはや、この船でエースの名を知らない人間は居ないくらいに名物光景になっている。
親父に叩き落された衝撃で意識を飛ばしている上に悪魔の実の能力者であるエースは海に落ちてから引き上げられてからもピクリとも動かなかった。
「ナマエ、医務室運んでやれよ」
「えー!?サッチってば、女の子に運ばせる気なの?」
「なーに言ってんだか」
揶揄うようにケラケラと笑うサッチの右足を踏み付けると大袈裟に痛いと飛び上がって踏まれた方の足の甲を摩っていた。
そんなサッチを尻目にエースを医務室へ運ぼうとしてみるが、やはり想像通り重かったのでおんぶなんて出来る訳もなく、どうしようかと頭を悩ませた。
「致し方ないよね。これしか方法ないし」
突発的に思いついた方法で医務室まで運ぼうと、エースの両足首を掴んで引き摺って行こうとするとサッチとビスタが慌てて「待て待て待て!」と私の腕を掴んだ。
「何?」
「流石に可哀想じゃないか?」
「いくら何でもな」
「文句言うなら、ビスタかサッチが運んでよ」
「親父に海に叩き落とされ、意識飛ばしてる間にナマエに足掴んで引き摺られたって知ったら、可哀想すぎる。おれなら一週間寝込むね」
「勝手に寝込めば?」
「相変わらず、サッチには辛辣だな」
サッチは仕方ねェと呟きながらエースを背に乗せ、ビスタは私を見て苦笑いを浮かべていた。
ビスタとはその場で別れ、エースを背負ったサッチと共に医務室へと向かった。
医務室に入ると、中にはいつものナースさん達は居らず、エースの仲間のデュースだけが椅子に座っていた。
私たちを交互に見たあと、サッチの背中に居るエースに視線が止まった途端、深いため息を吐く。
「エースはまた白ひげに挑んだのか」
「うん。今日は負けちゃったみたい」
「今日も、の間違いだろ」
「それもそうだ」
デュースの言葉に私とサッチが笑うとデュースは苦虫を噛み潰したような表情で私たちを見た。
「うちの船長がすみません」と頭を下げたので、慌てて駆け寄り頭を上げさせた。
サッチはこの空気を緩めるかのように笑いながら「実はさ、ナマエがエースの足を持って引き摺って連れて来ようとしたんだよ」と言うものだから、慌ててサッチの腕を叩いた。
「ちょっと!人様の船の船長をそんな風に扱ったってバラさなくてもいいでしょ」
「いや、エースにはちょうどいい薬になるんじゃないか?」
そう言って、穏やかに笑うデュースに「なんか、すみません」と今度は私が頭を下げる番だった。サッチは後はよろしくと言わんばかりの顔を私に向けてから医務室から出て行ってしまい、残された私たちは微妙な空気感が漂った後に沈黙が落ちた。
「そういえば、ナマエちゃん。この間エースに手叩かれたって聞いたけど、大丈夫か?」
「あぁ、うん。そんなに痛くなかったし、手くらい大丈夫だよ」
「そっちじゃなくて。その、嫌な気分にさせちまったかなって」
「それも別に気にしてないよ。いきなり敵船に乗せられて息子になれって言われても戸惑うのは仕方ないでしょ」
「エースは根は良い奴なんだ。今はちょっと意固地になってるだけでさ」
「何となく、分かるよ」
エースが親父に敗北した後、我が船長を取り戻そうとスペード海賊団全員が白ひげに挑みに来た時、彼の人望の厚さが見えた。
自分たちの船長でさえも勝てなかった相手、ましてや四皇でもある海賊団相手に向かって来るなんて、無謀でしかないのに。
負けると分かっていてもどうしても守りたいが為に立ち向かう彼らを見て、スペード海賊団の在り方を知った。
船長であるエースが仲間の為なら相手が誰だろうと立ち向かう強さを持った、優しい人なんだと。船長のエースの心が海賊団に生きているとそう感じていた。
だから、起きたら話してみたかったし、出来れば仲良くなりたかったんだけれど。そんな簡単には事は進まないようだ。
握手を求めた手は叩き落とされたし、まるで人間に敵意剥き出しの野犬のようにガルガル吠えられては、近づきようがない。
「私ね、エースと仲良くなりたいんだ」
「エースと?」
「うん。だって…」
そこまで言うと、ベッドの方から「っ!は───」という声が聞こえ、エースが跳ね起きて咳き込んでいるのが見えた。
ここがどこかを確かめるように周囲を見渡し、自分がベッドに寝かさせている事に気づいたエースにデュースが「また来たのか」と話しかけた。その声に弾かれるようにこちらを向いた彼は、デュースと私の顔を見て、驚いたように目を見開いた。
「お前がおれをここまで運んで来たのか」
「ナマエちゃんがお前の足を持って引きずって連れて来てくれたんだ。お礼言っとけよ」
「ちょッ!デュース!?」
「はァ!?ソイツからの謝罪の間違えだろ!」
「それはごもっともな意見で…ってそんな事してないよ!一瞬しか!」
「一瞬でもしてんじゃねェか!」
ギャーギャー騒ぐ私たちを見て、デュースはしてやったり顔を私に向けて来た。
確かに仲良くなりたいとは言ったが、逆効果なのではないかと思うくらいのやり方に大きな声で抗議をしたくなる。
そんな私の抗議の視線を交わしてデュースは真面目な顔つきになり、エースを見た。
「懲りないな。何十回目だ」
「てめェ…あのな──」
「若先生ェ」
エースが睨み付けるようにそう言葉を発した途端に語尾にハートマークが付きそうなくらいの甘えたような声と共に医務室のドアが開き、ナースたちが部屋へ入って来た。
超ミニスカナース服に身を包み、豹柄のハイブーツを履いた超お色気お姉さんたちだ。
同性ですら魅了してしまうくらいの色気と同時に香るいい匂いにドキドキしてしまう。
それに比べて、自分と来たら…。
色気とは程遠いスタイルに童顔に近い顔。そんでもって、無臭に近い匂い。せめてもの、香水くらい付けておけばお色気でも出るかなと思った事は一度ならず、二度三度と数え切れないくらいあるのだが、私の仕事は料理が多い為、嗅覚が鈍るといけないので幾度も諦めてきた。
私だって、お色気お姉さんに憧れを抱く年頃だ。まぁ、ナースのお姉さんを目の当たりにすると現実を突きつけられて、勝手に凹むのだけれど。
「ナマエ、大丈夫よ。そのままのアナタでも充分、可愛いわ」
私の心中を察した、いつも仲良くしてくれるナースさんが目くばせをしながらそう言った。
きゅん。
女の私でさえ、ときめきをしてしまうほどのウィンクの破壊力に胸を抑え、悶えた。隣に居るデュースの肩をバシバシと音を立てながら叩き「デュース、今の見た?堪らない」と興奮しながら言えば「オッサンか」と突っ込みを入れられてしまったがそんな事どうでも良いくらいに胸がトキメいたままだ。
ナースさんたちは船医長からの言伝をデュースに告げると色気のある笑みを含ませながら医療室から出て行った。
「チヤホヤされて、いいご身分だな。デュース」
「まァ、おれのことをどう思おうが、いいんだけどな」
トゲのあるエースの言い方にデュースは淡々と見返してそう言い放った。若干、ピリついた空気が流れ出しながら、二人は淡々と会話を進めていた。
白ひげに負けたが、いずれは白ひげの首を取ると宣言するエースに今まで淡々としていたデュースは深くため息をついた。
この会話を白ひげの船員である自分が聞いていていいのかと場違いな気がして、席を外そうと右足を引くとデュースに「そんなに気を遣わなくても大丈夫だ」と引き止められてしまった。
「ここの医療チームはな…すげェんだ」
「ナースのおねェちゃんがか?」
「まじめに聞けよ。ここは設備も大きな町の病院と同じ…それ以上かもしれない。なぜだと思う」
「知らねェよ」
エースの言葉に深く何度も同意の意味を込めて頷きたかったが、デュースの真面目に聞けという言葉を聞いて、慌てて口を噤んで背筋を伸ばした。
やっぱり、空気をぶち壊してしまう前にさっさと立ち去ろうと「やっぱり、外で待機してますね…」と言葉を残してドアノブに手をかけるが今度は引き止められる事もなく、そのまま外に出た。
医務室のドアから少し離れた所の壁に寄りかかり、二人の会話がひと段落つくのを待っていると、数分した頃、医務室のドアが乱暴に開かれて、険しい顔をしたエースが出て来た。
待っていたのはいいものの、どう考えても話しかけていいような表情ではなかった為、どうしようかと思っていると私の存在に気がついたエースは荒々しくこっちに向かって来る。
そのあまりの迫力に思わず後退りをしてしまい、そのまま逃げ去ろうと踵を返して数歩足を進めると「ちょっと待て」と声と共に首根っこをガシッと掴まれた。
恐る恐る振り返ると鬼のような迫力の強面表情で私を見下ろしていたエースとガッチリと視線が合ってしまった。
「お前、少し付き合え」
「ぐェッ!ちょ…首!締まって…!」
掴まれていた首根っこを離されたと思ったら、今度は首元に右腕を回されてそのまま引きずるように連れ去られてしまった。
その腕は首に食い込み、息が出来なくなるほどの力加減でこのまま殺られると思った刹那、パッと腕を離された。解放された瞬時に酸素を一気に吸い込んでしまった為、むせて咳き込んでしまう。
息を荒くしながらエースを睨み付けると、彼は怪訝そうに眉を顰めた。
「窒息死させる気ですか!?」
「は?何がだよ」
「絞め殺されるかと思ったんだけど!」
「…あぁ。それは悪ぃ。力加減間違えた。まァ、足持って引きづられるよりマシだろ」
「それ根に持ってるのね…」
「それはひとまず、置いとけ。おれが言いたいのは…」
「…言いたいのは?」
待てど暮らせど、その後の言葉は続かず、言いづらそうに口籠るエースを見ていると、視線を周囲に漂わせた後に顔を真っ赤にさせながらも真っ直ぐに私の顔を見た。
「おれに仕事を…クダサイ」
「…は?」
「〜〜ッッ!だから!仕事をくれって言ってんだよ!!」
最初に言われた言葉が理解出来ず、ぽかんとしているとエースは半ばヤケになったように叫んだ。「仕事を下さい」その言葉を脳内で反芻させ、ようやく理解をした途端に私は船内に響くほどの大絶叫をしてしまった。
「しごっ!?え…?エースが?」
「悪りぃかよ」
「いや、だって。どういう風の吹き回?どうしたの、急に」
「おれの仲間たちがここでメシを食わせてもらっている恩がある。その分の借りはちゃんと返す。食った分は働く。仁義は通す。そう言うこった」
「はぁ…」
「はぁ…じゃねェよ!もっと他にリアクションねェのかよ!」
「そうは言っても、私も平船員だし…。幹部のサッチに頼むか直接、親父に聞かないと。私の独断で決められないよ」
「それもそうか」
視線を下げ、また悩ましげな表情を浮かべ始めてしまった。多分、医務室でデュースに何か言われたのだろう。そうでなければ、人が変わったようにこんな事を言い出すはずがない。
でも、前向こうとしているエースの力になりたかったので、ここで何も出来ないと突き放す事はしたくなかった。
「よし!ひとまず、一緒にサッチの所へ頼みに行こう!」
「…いいのか?」
「うん!サッチに言えば、きっと私と同じ4番隊に入れてくれると思うし!」
「は?おれは白ひげの息子になるとは言ってねェよ」
「へ…?」
「仲間の前で筋の通らねェ事は出来ねェ。それだけだ」
「どういうこっちゃ…。デュース!!翻訳!!」
脳内でマスクを付けた彼の仲間を思い浮かべながらそう叫んでも、ここはもう医務室から離れた場所に居る為、私の声は届くはずもなく。
エースと仲間になれると喜んだ矢先、全く見当違いな返答をされて困惑するばかりだ。
「早速、サッチんトコ行こうぜ」
「うぇッ!また首…!!」
「さっきの仕返しだ。つーか、さっきから変な声ばっかり出してて、ナースのおねェちゃんみてェになれねェぞ」
「ぐッ…!人が気にしてる事をサラッと!!」
「この前はお前に散々いい様にやられたからな。目には目を歯には歯を、だ」
「数週間前の事を未だに根に持ってるの!?」
「うるせェ!あんな屈辱、忘れてたまるか!」
「ぎゃーー!更に首絞めないでよ!!」
先程と同じように首に回された腕に力を込められれば、締まる首元に色気もへったくりもない声を上げて叫んでしまう。
そんな私にお構いなしにサッチの元へ引き摺る様に歩くエースに抗議の声を上げるが、言い返されを繰り返しながら船内を進んで行く。
すれ違う船員たちに好奇な視線を向けられている事にサッチの元へ着くまで、私たちが気づく事はなかった。