愛とか恋とか
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─────おれは海賊になって勝って勝って勝ちまくって最高の"名声"を手に入れる!!それだけがおれの生きた証になる!!
─────世界中の奴らがおれの存在を認めなくてもどれ程嫌われても!!"大海賊"になって見返してやんのさ!!
─────おれは誰からも逃げねェ!!誰にも負けねェ!!恐怖でもなんでもいい!!おれの名を世界に知らしめてやるんだ!!
脳内に響く、幼い頃の声。
兄弟たちと夢を語り合い、悔いのないように生きようと弟と誓い合ったというのに。
どうしてこうなってしまった。
固く閉じた瞳をゆっくりと開くと視界いっぱいに広がるのは雲ひとつない、晴れ晴れとした蒼空。幼い頃、兄弟たちと夢を語り合った時と同じような色をしていた。
それなのに、おれだけが違う場所に迷い込んでしまったかのような。あの日と変わらないはずの空が無性に虚しくて、むしゃくしゃしてやり場のない感情を抑え込むかのように拳を固く握りしめた。力んだ事で全身に鈍い痛みが走り、顔を歪めた。
自由な海へ出て、自分の生きる場所を探したかった。大恩ある母の名前を借り、ポートガス・D・エースという人間を世界中の人達に認めさせたかった。その為の手段が海賊であって、別に海賊になりたかった訳じゃない。
おれの人生を苦しめた張本人である父親、ゴール・D・ロジャーを超えなければ、きっとおれの目的は果たされない。
兄弟との約束通り、17歳で海に出て火拳のエースとして名を挙げて。短期間で七武海の勧誘が来るほどにまでに登り詰めた。
七武海なんてモノには興味はなく、勧誘を蹴り更なる高みを目指していた。
新世界に入ってからも順風満帆。のはずだった。
手始めに四皇の1人、白ひげ海賊団のエドワード・ニューゲートを倒す事を決め、新世界にある魚人島をナワバリとしていた白ひげの海賊旗を燃やして、宣戦布告をした。
そこまでは良かったのに。
魚人島を出てから、おれたちスペード海賊団は白ひげの領海に足を踏み入れた後、そこでおれたちを追いかけて来ていた、王下七武海に名を連ねる男、海峡のジンベエとやり合った。
ジンベエは白ひげ海賊団ではないが、義理あって、お前さんの相手をすると言い、闘いの火蓋を切った。
その闘いは5日を過ぎても勝負はつかず、死闘は繰り広げられていたが相打ちの状態でお互いに倒れ込んでいた所に白ひげ海賊団がやって来た。
おれは仲間たちを逃がし、正面から白ひげとの一騎打ちをする事を決めた。
1度向き合ったら逃げないを信条にしているおれがここで逃げて、後ろにいる仲間たちを死なせる訳にもいかない。
"仲間たちは逃がして貰う。そのかわり...おれが逃げねェ!!"
そう啖呵切ったものの、一振りの攻撃で完膚なきまでに叩きのめされてしまったのだ。ぐうの音も出ない程に。
白ひげに負けた後に一度、目を覚ますとそこは自分たちの船、ピース・オブ・スパディル号の上ではなく、それよりも遥かに大きい船の上だった。
目を覚ました事に気が付いてすぐに声を掛けた来た男は、白ひげ海賊団の4番隊隊長のサッチと名乗った。
敵船の船長のおれににこやかに笑いながら「仲間になるなら、仲良くしようぜ」なんて言いやがるから、うるせェと怒鳴ってもあっけらかんとした態度のまま「寝起き悪いな」なんて笑っていた。
そして、サッチは自分が白ひげに負けた後の事を話し始めた。
自分を取り返しに来た仲間たちを返り討ちにしたが、仲間たちは誰一人殺されずにこの船に乗っているらしい。
海賊が海賊旗を燃やす意味を知らないハズがない。なのに、情けをかけられた上に相手にすらされていなかった。
その話を聞いてから、自分は負けたという実感がじわりと胸に広がり、呼吸も出来ない程に悔しくて、起き上がる事すら出来ずに目を閉じた。
戦争にすらなり得なかった、今回の戦い。
白ひげにとっては、ただの勘違いルーキーがしゃしゃって喧嘩を売ってきただけ位の出来事なのだろう。
こんな屈辱は今までにねェ...!!
また目を開けた時には、今のは全て夢だったのではないかと。そんな期待もしてみたりもしたが、敗北したという事実を身体の痛みで現実を突き付けられた。
ひとまず、起き上がろうとしてみるが全身に襲い来る痛みで小さく呻き声が上がってしまう。そんな自分の身体に腹を立てながらも何とか起き上がると、隣に人影が居る事に気が付いた。
「あ、起きた」
「…誰だ、お前」
隣に座っていたのは、先程おれに話し掛けた男ではなく、女だった。
サッチと名乗った男と同じようにあっけらかんと笑いながら「怪我凄いね」と言う。
おれの誰だなんて問いかけは聞こえていないかのように、ヘラヘラと笑っていた。
もう一度、同じ問いかけをしてやろうと口を開こうとするよりも前にこの謎の女が先に声を上げた。
「サッチー!起きたよー!」
「おい!質問に応えろ!」
「ん?あぁ、ごめん。私はサッチに頼まれて君の様子見てたんだ。怪しい者じゃないよ、白ひげ海賊団のクルーだし」
「ンな事聞いてねェんだよ!」
おれが怒鳴り付けても何も気にしてないかのようで、相も変わらずヘラヘラ笑っている。
その様子に苛立ちは募り、舌打ちが零れてしまう。
「サッチー!起きたってばー!」
「今、夕飯の仕込みしてて手が離せねェんだ。お前が面倒みてやってくれよ」
「分かったー!」
「任せたぞー!」
2人は船内に響き渡る程の大きな声でやり取りをし始めたかと思うと、当人のおれを置いてけぼりに勝手に話を進めては、面倒を見るとか決められてしまっていた。
そして、謎の女は傍らに置いてあった小さな救急箱を開いて消毒液とコットンを手に取って、その2つを交互に見つめた。
「手当てとかよく分からないけど、何となるよね。うんうん」
自問自答して勝手に納得した女はまたヘラッと笑っておれを見た。
あたかも平和ボケしたような表情ばっかり浮かべて来る女に小馬鹿にされているような気分になり、思いっきり恨みを込めるように睨み付けるがやっぱり、何一つ気にしてない様子だ。
その女はなんの前触れもなく、おれの前髪にソッと触れた。
海峡のジンベエと白ひげとの連戦中に飛び散った血が前髪にへばり付き、固まって乱れた前髪を掻き分けるように触れられ、一瞬ポカンとした顔で受け入れてしまったがすぐ様に我に返り、その手を叩き落とした。
「触んじゃねェ!」
「あ、勝手に触ってごめんね。でも、痛いでしょ?手当てしたいだけなんだ」
「こんなモン痛くねェよ!余計な事すんな!そもそも、おれとお前は敵だろ!」
ついに女はヘラヘラとした表情を崩し、常にキュッと上がっていた口角が少し下がった。だけど、その表情は怒っているとも苛立っているとも違って、何とも言えない表情だった。瞳は呆気に取られているようにも見えるがそこまでハッキリとした表現が出来ない程に曖昧で。
女はまた手をおれの方へ伸ばして来たので、また勝手に触れたら叩き落としてやろうとその手に神経を尖らせていたが、その手は予想を裏切るような行動を見せた。
指先が急に形を変えたと思った途端にバチンと言う音ともに額に衝撃が走った。
「...ッッてェッ!!」
「あ、痛いって言ったね。そうだよね、やっぱり痛いよね。よし、手当しよう」
「はァ!?今のはお前のせいだろ!つーか、おれはロギアだぞ!覇気使ってデコピンすんじゃねェよ!」
「じゃあ、これならどうだ!」
今度はアルコールを湿らせたコットンをピンセットを持った手でジンベエにやられた傷に無遠慮にグリグリと押付けて来た。
いくらなんでも、染みるし痛ェしで流石に呻き声が漏れてしまう。
「〜〜ッ!てめ...ッ!痛ェな!もっと優しくやれよ!!」
「うん、わかった。了承も得た事だし、ちゃんと手当てするね」
「あ...?」
思わず口走ってしまった了承とも捉えられる言葉。こいつ、ハメやがったなと睨み付けても、もう女はおれの傷しか見てないようで視線が合う事はなく、眉間に寄せた皺も力なく消えてしまった。
もうあーだこーだ言ったってこの頓珍漢な女には通じないと諦めて、大人しく黙って手当てさせてると、フと感じたのがこの女の触れ手の温かさだった。
不意に人の温かさに触れたのはいつぶりだっただろうか、なんて感傷的な想い出に浸り始めてしまいそうになる自分に苛立ち、奥歯を噛み締めた。
いくら、敗北したからってそんな所まで落ちぶれちゃいねェよ。
なんて誰に言う訳でもないのにそんな事を心の中で独りごちた。
「よし、終わったよ!」
その声と共に今度は額をベシンと音を立てながら掌で叩かれ、またも打撃が効いてしまった。
「てめェ…!また覇気を...!」
「今のは使ってないよ。君が油断してただけでしょ」
「...は?」
無意識だったらしい。敵船の上に敵の女の前で無意識に油断をしてしまっていたらしい。
自分の失態にこれ以上にない位の屈辱感を感じて右手の拳を強く握り締めた。
おれはこんな所で立ち止まっているワケにはいかねェんだ。敵と馴れ合う気は毛頭もねェっていうのに。
「おー、手当て終わったみてェだな」
「あ、サッチ。丁度終わったよ」
「そうか。じゃあ、そろそろ夕飯の支度手伝ってくれよ。人手が足りなくて困ってんだ」
「うん、分かった」
背後から現れたサッチという男は手当てをし終わったおれの顔を覗き込んでは、ニカッと笑ってから女に向き直った。
そして、また勝手に話を進めて2人はこの場を去ろうと数歩、歩みを進めた後に女が「あ」と小さな声を漏らして、振り返った。
「言い忘れてた。私、4番隊隊員のナマエって言うの。よろしく!」
今更かよとツッコミたくなるのがそんな気力もなく黙って見つめていると、何を思ったのか「4番隊って言うのはサッチの所ね」と要らない情報を付け足した。
「この人、こんなおかしな見た目だし少々軟派な所あるけど、いい人だから何かあったらサッチを頼るといいよ!」
「ん?前半の説明酷くない?」
「本当の事でしょ?」
「ひでェや...」
トホホという効果音が付きそうなくらいに肩を落としてわざとらしく落ち込むサッチをケラケラと笑うナマエを見て、何とも言えない感情が胸に広がる。
敵に向かって、よろしくだなんてどうかしてやがる。
「頼るも何もおれとお前らは敵同士だろ!」
「でも、親父がおれの息子になれって言ってたじゃん」
「ならねェって言っただろ!そもそも、なんで敵のおれを息子にしたがる!?」
「ああいうバカは嫌いじゃねェって言ってた」
「あァ!?バカは余計だろ!」
「...じゃあ、アホ」
「てめェが勝手に付け足すな!」
全くもって会話が成り立たない為、どんどんと声が大きくなってしまい最終的には怒鳴り散らすかのような声量になってしまった。
だけど、女は特に気にする様子でもなく、サッチに至っては「元気いいな」なんて呑気な事を言っていた。
「おれはスペード海賊団だ!」
「そうは言ってもね...」
「お前の仲間たち、もう既に他の隊に配属されて仕事してるぞ」
「......は?」
ここに来てから、間抜けな声しか出していない自分に軽く目眩すら覚える。
自分がやられて呑気に寝ている間に仲間たちはここの船員とよろしくやっているらしい。
「全員がこの船に乗ってる訳じゃないけど。医務室になら、若先生が居るけど会いに行く?」
「若先生...?」
「デュース。スペード海賊団の副船長だったんでしょ?」
あの仮面野郎の顔を脳裏で思い浮かべては、グラりと目眩が更に増したような気がした。
あいつ、若先生とか呼ばれて腑抜けてやがんのか。一言文句でも言いに行ってやろうかと思ったが、どうもそういう気分にはならない。
海よりも深いため息を吐き出せば、2人はヤレヤレと言わんばかりに肩を竦めた。
「まぁ、何かあったら私かサッチに言ってよ。力になれると思うよ」
「いらねェよ!余計なお世話だ」
「...あ、そう言えば、君の名前は?」
「はッ!?今更かよ!」
「聞くの忘れてた」
あはは、と呑気に笑い飛ばすのを見て、またもやため息が零れ落ちた。
この自由奔放さといい、いい加減さといい、アホ具合といい。なんというか、ルフィやジジイを連想させられてしまう。だからなのか、さっき無意識に気が緩んでしまっていたのは。
だからと言って、敵である事は変わりない。
「...ポートガス・D...エース」
なのに。心ではそう思っていたはずなのに。
何故か口から滑り落ちるように出てしまった自分の名前。
自分でも何を言っているのか分からない程に動揺してしまう。自分の口ではないみたいな感覚が気持ち悪くて唇を強く噛み締めると、じわりと鉄の味が口内に広がった。
「よろしくね、エース」
そう言って右手を差し出して来たナマエの顔は、海のように自由で太陽のように力強く光っていて。なのに、優しく吹き抜ける風のように柔らかくて。まるで、おれの欲しかった世界みたいだと思ってしまった。
心の底から憧憬を抱いてしまうような。そんな笑顔だった。
背景に青くて広くて太陽の光を反射させてキラキラと光る自由な海が見え、その中心で笑うナマエは本当に太陽のようだ。
おれなんかの炎とは違う、純粋で綺麗な光。
そんな印象を抱いてしまうほどに見惚れてしまった。
だけど、差し伸べられたその手を取る事は出来なくて。
おれは誰の手も取れない。触れちゃ、いけない。
おれの居る場所は嘘で固められただけの夜のように真っ暗で海の底のような何もない、そんな世界。正反対の居場所に存在するナマエの手を取るなんて事、許されない。
────ゴールド・ロジャーにもし子供がいたらァ?そりゃあ打首だ
────誰もそれを望まねェんだ。仕方ねェ
────世界中の人間のロジャーへの恨みの数だけ針を刺すってのはどうだ。火あぶりにしてよ、死ぬ寸前のその姿を、世界中の笑い者にするんだ!
────みんなが言うぞ...ザマァみろって
────遺言は、こういい残してほしいねェ。"生まれてきてすみませんゴミなのに"
幼い頃、投げ付けられた理不尽な心無い言葉たち。それらは未だに思い出されては、鋭利な刃物となって自身の心に突き刺さる。
おれの存在は生きているだけで大罪だと。
そんなおれが人の手を取るだなんて、罪だ。
...だから、その手は取れねェ。
おれは差し伸べられたその小さな手を叩き落とす事しか出来なかった。
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