勿忘草
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温もりに包まれながら、目を閉じているうちに私も場地と一緒に眠りについてしまったようだ。目を開けて、時間を確認しようとすると何故か外が明るい気がして、急いで身を起こした。カーテンの隙間から外を覗くと、白々明けの光景が広がっていた。
「ウソ、あれからずっと寝ちゃったの…?」
お互い、疲れていたのかそのまま本格的に寝入ってしまい、朝を迎えてしまったようだった。
夕飯食べてないと思ったら、急にお腹が空いて来た。隣に居る場地を見ても気持ち良さそうに小さく鼾をかいて寝ていて起きそうもなかった。起こさないようにソっとベッドを抜け出して、先にお風呂に入ってから、朝ご飯を簡単に作った。
白ご飯にお味噌汁、だし巻き玉子に鮭のみりん醤油焼き、副菜にひじきを添えて完成だ。
場地を起こしに部屋に戻ると、案の定、まだ寝ていたので肩を揺らしながら彼の名前を呼んで起こす。少しすると、ムクっと起き上がりまだ眠たそうな瞳をゴシゴシと擦った後、欠伸をしながら大きく背伸びをした。
「スゲェ寝た気がする」
「実は、もう朝です」
「マジ?」
「大マジ」
「やっちまったなぁ…。夕飯食い損ねたわ」
「問題そこなんだ」
無断外泊しちゃったとか、お風呂に入らずに寝てしまったとかよりも夕飯食い損ねた方が大問題だったらしい。場地に「朝ご飯出来てるよ」と言えば、眠たそうだった目を見開いて嬉しそうにベッドから降りた。相当お腹が空いているらしい。
一階のリビングに戻ろうと踵を返すといきなり腕を引っ張られて重心が後ろに傾き、後ろに居た場地の胸元へ頭から倒れ込んだ。何してるのかと振り返って確認しようとすると、場地は突如、「なんかいい匂いする」と頭に鼻をうずめてそんな事を言い出した。
「え、何?」
「明日香から、いい匂いする」
「さっきお風呂入ったからかな?」
「いや、その匂いじゃねぇ。…なんか美味そうな匂いする」
「もしかして、鮭のみりん醤油焼きの匂い…?」
「それだ!あー、腹減った」
「…みりん醤油焼きなんてやんなきゃ、良かった」
焼いた時の煙で匂いが移ってしまったらしい。朝からみりん醤油の香りを頭に染み込ませてる女ってどうなのと悲しくなり、作ってからお風呂に入るべきだったと後悔した。
リビングで朝ご飯を済ませ、後片付けをしているうちに先にお母さんが帰って来て、場地を見て「こんな朝早くからどうしたの」と驚いていた。うちのお母さんも場地の寝起きの悪さは知っている。
「たまにはな、ほら。早起きは三文の徳って言うしよぉ」
「圭介君がそんな言葉使うなんて、お母さん泣いちゃいそう」
「何でだよ…」
場地は頬を引き攣らせて、苦笑いを漏らしていた。お母さんは場地の事を自分の息子のように可愛がっていた為、留年した時は泣いて悲しんでいた。愛読書のように持ち歩いている国語辞典のお陰で少しだけまともな日本語を言えるようになった事に、お母さんは口元を押さえて目元を潤ませていた。
リビングで三人で少しだけ雑談をした後、お母さんは眠いからと寝室に行ったので、私達も出掛ける準備をして、家を出た。
真っ先に向かったのは、渋谷のど真ん中にあるドラケンのお家。ビルの四階の風俗店らしい。
一回も行った事はないけれど、三ツ谷から聞いた事があった。
例え、ドラケンのお家だと言っても、風俗店に足を踏み入れるのは勇気がいるので躊躇ってしまう。意を決して、エレベーターに乗り込もうとすると、場地が「一人で行ってくる」と言ってエレベーターに乗り込んだ。
「え、私も行くよ!」
「オマエにはまだ早ぇ」
場地はそんなセリフを残してエレベーターのドアを閉めてしまった。パネルに表示されていた、1Fの文字は2Fへと切り替わり、最後は4Fで止まった。追い掛けようかと思ったが、流石に一人で行く勇気はないので、大人しく待つ事にした。
十分くらい経った頃、エレベーターが降りてきた音がしてドアが開き、場地がエレベーターから降りて来た。
「おかえり。どうだった?」
場地は私の問い掛けを無視しながら腕を掴んで、引き摺るように外に出た。何が何だか分からないか状態で、咄嗟に顔を見上げると場地は何だか微妙な表情をしていた。怒っているワケでもないような、本当に微妙な顔だ。
私が「何でそんな微妙な顔してるの?」と聞くと、一瞬黙った後、眉間の皺を深く刻み込んでから、「ウッセェ!何も聞くな!」と怒鳴った。そこで、私はある事に気が付いてしまった。
「もしかして…、大人のお姉さんと何かあったの!?」
「…何もねぇよ!」
「あー!その反応なんかあったんだ!」
「だから、違ぇって!」
私たちが外でギャンギャンと騒いでいると「オマエら、声デケェよ」と背後から顔を顰めたドラケンが出て来た。
「あ、ドラケン。聞いてよ、場地ったら、大人のお姉さんと…」
私がそこまで言うと、ドラケンはブブッと吹き出して笑い、場地をチラッと見た後また笑った。そして、ドラケンは「場地は店のヤツらに囲まれて、質問攻めにあった瞬間に逃げ帰ったんだよ」と笑いを堪えながら言った。
「あーいうの、得意じゃねぇんだよ…」
ボソッと言った声に私とドラケンは同時に吹き出してまた笑ってしまった。オマエにはまだ早ぇとかカッコつけて行ったのに、得意じゃないと逃げ帰って来たのが面白くて、笑いが止まらなくなる。
笑ってんじゃねぇと怒る場地に更に笑ってしまい、暫く私たちは笑っていた。
笑いが治まった頃、場地は不貞腐れた表情を浮かべながら、ドラケンを睨み付けながら「で、オマエらの喧嘩まだ続いてんの」と本題を切り出すと、ドラケンは一瞬にして笑みを消して、眉根を寄せた。
喧嘩した時の事を思い出したのか「あのヤロー、ふざけやがって」と苛立ちの篭った声でそう言った。いつも大人なドラケンがここまで怒りを見せ、折れないとなると、この喧嘩は長くなりそうな予感がした。
「つーか、その話ならしたくねぇから、もう行くわ」
ドラケンはそう言って、渋谷のざわめきの中へと姿を消してしまった。
「ねぇ、ドラケン言っちゃったけど、どうする?追い掛ける?」
「今追いかけても、同じだろ」
「そうだよねぇ…」
「また、日改めるしかねぇだろ」
場地は深い溜息をついた。今日はもう諦めようという結論になり、ドラケンのお家を後にして、渋谷をフラフラと歩いていると一件のカメラ屋さんが視界に入ったので、場地の裾を引っ張って止めると首だけで振り返った。
「動物園行った時の写真、現像してもいい?」
「おー」
カメラ屋さんに入り、デジタルカメラを渡して現像を頼むと、一時間程で仕上がると言うので、近くにあったゲームセンターで時間を潰して、一時間後に取りに行き受け取った。
袋から写真を一枚取り出すと、一番上にあったのは最後に撮った、ツーショットだった。
「はい、これ場地にあげる」
「オマエは要らねぇの?」
「これだけ、二枚現像したの。他の写真はアルバムを作って後で渡すね」
「女ってそーゆー、チマチマしたの好きだよなぁ」
「場地は大雑把だからねぇ」
「だから、オレは…「はいはい、思い切りがいいんでしたね」」
そんな言い合いをしていれば、場地と私の名前を呼ばれた気がして、写真から目を離して顔を上げると二メートル先くらいにいる人影が手を振っていた。そして、猛ダッシュで近付いて来る人物は、千冬だった。場地が小さい声で「やっぱ、あの柴犬に似てんな」と呟いた。
「場地さん、明日香さん!おはようございます」
「おはよう。千冬、どこか行くの?」
「はい、ダチから呼び出されたんですよ。お二人はこれから、どこか行くんですか?」
「ううん。用事は済んだから、今から帰る所なの」
「そうなんですね。…ん?その写真なんですか?」
「あぁ、これ?初デートの時の写真現像して来たの」
「初デートはキメェからやめろっての」
「間違った事は言ってないもん」
「え、初デート?まさか、お二人…」
「うん。実は一昨日から」
そこまで言うと、千冬は興奮しながら、大きな声で「おめでとうございます!めっちゃ嬉しいです」と言ってくれた。そのキラキラの瞳がどうしても、あの柴犬にしか見えなかったので、千冬の手にスっと現像した柴犬の写真を手渡した。
「この犬なんスか?」
「可愛いでしょ?」
「可愛いけど、オレ猫派ッス」
「まぁまぁ、そんな細かい事気にしないで」
千冬は首を傾げて私とその写真を交互に見ていた。そんな千冬に場地が「オマエ、どっか行くんじゃねぇの?」と言えば、ハッとした表情を浮かべた。
「ヤッべ、忘れてた。じゃあ、すみません、ここで失礼します」
私たちにバッと頭を下げた千冬に周りにいた人達は何事かと、あの二人は何者かとざわめいてしまったので、千冬に早く頭を上げてと促せば、千冬は何も気にする事なく、頭を上げて慌ただしく走り去った。まるで、嵐のような勢いだった。
「うっせぇなぁ、アイツ」
場地は千冬の事を後輩だとかそんな関係で見ているワケではなく、親友だと言っていた。
千冬は場地の事を慕っているが場地は対等に見ている。そんな二人の関係が堪らなく好きだ。
うっせぇと呟いた場地の表情は朗らかで、千冬の小さくなった背中を見つめていた。
「ウソ、あれからずっと寝ちゃったの…?」
お互い、疲れていたのかそのまま本格的に寝入ってしまい、朝を迎えてしまったようだった。
夕飯食べてないと思ったら、急にお腹が空いて来た。隣に居る場地を見ても気持ち良さそうに小さく鼾をかいて寝ていて起きそうもなかった。起こさないようにソっとベッドを抜け出して、先にお風呂に入ってから、朝ご飯を簡単に作った。
白ご飯にお味噌汁、だし巻き玉子に鮭のみりん醤油焼き、副菜にひじきを添えて完成だ。
場地を起こしに部屋に戻ると、案の定、まだ寝ていたので肩を揺らしながら彼の名前を呼んで起こす。少しすると、ムクっと起き上がりまだ眠たそうな瞳をゴシゴシと擦った後、欠伸をしながら大きく背伸びをした。
「スゲェ寝た気がする」
「実は、もう朝です」
「マジ?」
「大マジ」
「やっちまったなぁ…。夕飯食い損ねたわ」
「問題そこなんだ」
無断外泊しちゃったとか、お風呂に入らずに寝てしまったとかよりも夕飯食い損ねた方が大問題だったらしい。場地に「朝ご飯出来てるよ」と言えば、眠たそうだった目を見開いて嬉しそうにベッドから降りた。相当お腹が空いているらしい。
一階のリビングに戻ろうと踵を返すといきなり腕を引っ張られて重心が後ろに傾き、後ろに居た場地の胸元へ頭から倒れ込んだ。何してるのかと振り返って確認しようとすると、場地は突如、「なんかいい匂いする」と頭に鼻をうずめてそんな事を言い出した。
「え、何?」
「明日香から、いい匂いする」
「さっきお風呂入ったからかな?」
「いや、その匂いじゃねぇ。…なんか美味そうな匂いする」
「もしかして、鮭のみりん醤油焼きの匂い…?」
「それだ!あー、腹減った」
「…みりん醤油焼きなんてやんなきゃ、良かった」
焼いた時の煙で匂いが移ってしまったらしい。朝からみりん醤油の香りを頭に染み込ませてる女ってどうなのと悲しくなり、作ってからお風呂に入るべきだったと後悔した。
リビングで朝ご飯を済ませ、後片付けをしているうちに先にお母さんが帰って来て、場地を見て「こんな朝早くからどうしたの」と驚いていた。うちのお母さんも場地の寝起きの悪さは知っている。
「たまにはな、ほら。早起きは三文の徳って言うしよぉ」
「圭介君がそんな言葉使うなんて、お母さん泣いちゃいそう」
「何でだよ…」
場地は頬を引き攣らせて、苦笑いを漏らしていた。お母さんは場地の事を自分の息子のように可愛がっていた為、留年した時は泣いて悲しんでいた。愛読書のように持ち歩いている国語辞典のお陰で少しだけまともな日本語を言えるようになった事に、お母さんは口元を押さえて目元を潤ませていた。
リビングで三人で少しだけ雑談をした後、お母さんは眠いからと寝室に行ったので、私達も出掛ける準備をして、家を出た。
真っ先に向かったのは、渋谷のど真ん中にあるドラケンのお家。ビルの四階の風俗店らしい。
一回も行った事はないけれど、三ツ谷から聞いた事があった。
例え、ドラケンのお家だと言っても、風俗店に足を踏み入れるのは勇気がいるので躊躇ってしまう。意を決して、エレベーターに乗り込もうとすると、場地が「一人で行ってくる」と言ってエレベーターに乗り込んだ。
「え、私も行くよ!」
「オマエにはまだ早ぇ」
場地はそんなセリフを残してエレベーターのドアを閉めてしまった。パネルに表示されていた、1Fの文字は2Fへと切り替わり、最後は4Fで止まった。追い掛けようかと思ったが、流石に一人で行く勇気はないので、大人しく待つ事にした。
十分くらい経った頃、エレベーターが降りてきた音がしてドアが開き、場地がエレベーターから降りて来た。
「おかえり。どうだった?」
場地は私の問い掛けを無視しながら腕を掴んで、引き摺るように外に出た。何が何だか分からないか状態で、咄嗟に顔を見上げると場地は何だか微妙な表情をしていた。怒っているワケでもないような、本当に微妙な顔だ。
私が「何でそんな微妙な顔してるの?」と聞くと、一瞬黙った後、眉間の皺を深く刻み込んでから、「ウッセェ!何も聞くな!」と怒鳴った。そこで、私はある事に気が付いてしまった。
「もしかして…、大人のお姉さんと何かあったの!?」
「…何もねぇよ!」
「あー!その反応なんかあったんだ!」
「だから、違ぇって!」
私たちが外でギャンギャンと騒いでいると「オマエら、声デケェよ」と背後から顔を顰めたドラケンが出て来た。
「あ、ドラケン。聞いてよ、場地ったら、大人のお姉さんと…」
私がそこまで言うと、ドラケンはブブッと吹き出して笑い、場地をチラッと見た後また笑った。そして、ドラケンは「場地は店のヤツらに囲まれて、質問攻めにあった瞬間に逃げ帰ったんだよ」と笑いを堪えながら言った。
「あーいうの、得意じゃねぇんだよ…」
ボソッと言った声に私とドラケンは同時に吹き出してまた笑ってしまった。オマエにはまだ早ぇとかカッコつけて行ったのに、得意じゃないと逃げ帰って来たのが面白くて、笑いが止まらなくなる。
笑ってんじゃねぇと怒る場地に更に笑ってしまい、暫く私たちは笑っていた。
笑いが治まった頃、場地は不貞腐れた表情を浮かべながら、ドラケンを睨み付けながら「で、オマエらの喧嘩まだ続いてんの」と本題を切り出すと、ドラケンは一瞬にして笑みを消して、眉根を寄せた。
喧嘩した時の事を思い出したのか「あのヤロー、ふざけやがって」と苛立ちの篭った声でそう言った。いつも大人なドラケンがここまで怒りを見せ、折れないとなると、この喧嘩は長くなりそうな予感がした。
「つーか、その話ならしたくねぇから、もう行くわ」
ドラケンはそう言って、渋谷のざわめきの中へと姿を消してしまった。
「ねぇ、ドラケン言っちゃったけど、どうする?追い掛ける?」
「今追いかけても、同じだろ」
「そうだよねぇ…」
「また、日改めるしかねぇだろ」
場地は深い溜息をついた。今日はもう諦めようという結論になり、ドラケンのお家を後にして、渋谷をフラフラと歩いていると一件のカメラ屋さんが視界に入ったので、場地の裾を引っ張って止めると首だけで振り返った。
「動物園行った時の写真、現像してもいい?」
「おー」
カメラ屋さんに入り、デジタルカメラを渡して現像を頼むと、一時間程で仕上がると言うので、近くにあったゲームセンターで時間を潰して、一時間後に取りに行き受け取った。
袋から写真を一枚取り出すと、一番上にあったのは最後に撮った、ツーショットだった。
「はい、これ場地にあげる」
「オマエは要らねぇの?」
「これだけ、二枚現像したの。他の写真はアルバムを作って後で渡すね」
「女ってそーゆー、チマチマしたの好きだよなぁ」
「場地は大雑把だからねぇ」
「だから、オレは…「はいはい、思い切りがいいんでしたね」」
そんな言い合いをしていれば、場地と私の名前を呼ばれた気がして、写真から目を離して顔を上げると二メートル先くらいにいる人影が手を振っていた。そして、猛ダッシュで近付いて来る人物は、千冬だった。場地が小さい声で「やっぱ、あの柴犬に似てんな」と呟いた。
「場地さん、明日香さん!おはようございます」
「おはよう。千冬、どこか行くの?」
「はい、ダチから呼び出されたんですよ。お二人はこれから、どこか行くんですか?」
「ううん。用事は済んだから、今から帰る所なの」
「そうなんですね。…ん?その写真なんですか?」
「あぁ、これ?初デートの時の写真現像して来たの」
「初デートはキメェからやめろっての」
「間違った事は言ってないもん」
「え、初デート?まさか、お二人…」
「うん。実は一昨日から」
そこまで言うと、千冬は興奮しながら、大きな声で「おめでとうございます!めっちゃ嬉しいです」と言ってくれた。そのキラキラの瞳がどうしても、あの柴犬にしか見えなかったので、千冬の手にスっと現像した柴犬の写真を手渡した。
「この犬なんスか?」
「可愛いでしょ?」
「可愛いけど、オレ猫派ッス」
「まぁまぁ、そんな細かい事気にしないで」
千冬は首を傾げて私とその写真を交互に見ていた。そんな千冬に場地が「オマエ、どっか行くんじゃねぇの?」と言えば、ハッとした表情を浮かべた。
「ヤッべ、忘れてた。じゃあ、すみません、ここで失礼します」
私たちにバッと頭を下げた千冬に周りにいた人達は何事かと、あの二人は何者かとざわめいてしまったので、千冬に早く頭を上げてと促せば、千冬は何も気にする事なく、頭を上げて慌ただしく走り去った。まるで、嵐のような勢いだった。
「うっせぇなぁ、アイツ」
場地は千冬の事を後輩だとかそんな関係で見ているワケではなく、親友だと言っていた。
千冬は場地の事を慕っているが場地は対等に見ている。そんな二人の関係が堪らなく好きだ。
うっせぇと呟いた場地の表情は朗らかで、千冬の小さくなった背中を見つめていた。