勿忘草
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火葬も全て終わり、場地さんは空へと還って行った。
火葬場から帰る前に、マイキー君に話をしに行こうと、彼の姿を探す。
あの日からずっと、東卍を抜ける事を考えていた。元々は場地さんに着いて行きたくて入っただけだった。場地さんが居ない今、オレが東卍に居る理由が何一つない。
マイキー君を見つけ、辞める事を話すとマイキー君は「壱番隊の灯火をオマエが消すのか?」と小さな声で言った。
小さな声だったけれど、強い意志の宿っているような声だった。その声にハッと顔を上げると、抗争に行く前の時のような、総長の表情をしていた。
「東卍に居る理由が無くなったなら、理由を作れ」
「理由を…?」
「話ならいつでも聞く。でも、今はまだ、オマエが辞める事は認めねぇよ」
マイキー君はオレを残し、葬儀場を出て行ってしまった。
正直、理由なんて何も浮かばない。オレの中では、場地さんが全てだった。それは、これからも変わらない。オレが東卍に居続ける理由なんて、出来るのだろうか。
*
毎日、毎日、場地さんを想って一人で涙を零した。ふとした瞬間に、場地さんの影が見えて自然と零れてしまう。たった、1年半という月日だったが、毎日が濃くて輝いていて、場地さんと過ごして来た日々は自分の人生そのものだった。
ひたすら、東卍に残る理由を考え続けたが、答えは何一つ出ないまま、二週間が経過してしまった。吹き抜ける風のようにあっという間に過ぎた、二週間の間で、場地さんの遺骨もお墓へと納骨された。
最期にした約束を果たす為に、場地さんに会いにお墓へと向かい、お線香をあげて、手を合わせた。
「場地さん…初めて会った時もそうだったっスね」
お墓の前で座り込み、彼に語りかけた。思い出すのは出会った日の事。あの日から、オレの腐った人生は変わったんだ。人を嫌い、人を傷付けてきた人生だったのに、場地さんのおかげで、人を好きになり、人を守りたいと思うようになった。
真っ直ぐさも優しさも強さも全て場地さんが教えてくれた。
「約束通り買ってきましたよ、半分コ」
最後に場地さんがペヤングを食べたいと言っていたので、ペヤングをいつものように半分コし、場地さんの目の前に置く。
一人で食べるペヤングは、味なんてしなくて、好物になるくらいに好きだったのに、初めてクソ不味いって思った。
「……場地さん、"ありがとう"なんて…ズリぃよ…オレはこれからどうしたらいいんスか!?」
また、涙が溢れ出てきてしまう。毎日、必死に憧れていた背中を追い続けていた。だけどその背中が見えなくなってしまい、自分の進むべき道さえ分からなくなってしまった。どうしたら良いかなんて問いかけても、答えが返ってくるワケがないのは分かっているのに、求めてしまう。場地さんがオレの人生の道しるべだった。それを失ってしまった今、何を頼りに歩めば良いのだろうか。
場地さんの前でひたすら泣き続け、涙が枯れてきた頃、辺りを見渡せば、日が暮れていて、寒くなって来ていた。寒さに身震いをさせ、家に帰ろうと腰を上げた。
一人で帰る、団地への道のりは少し遠く感じた。学校帰り、集会帰り、それら全てを場地さんと共にしていた。約束なんてしていなかったけど、会えばいつも一緒だった。それも無くなってしまったのだと思うと足取りも重くなる。
いつもより歩くペースを緩めて帰路に着いていると、小さな川の橋の上に明日香さんが立っているのが見えた。
一瞬、よからぬ事を考えているのではないかと思って、歩くスピードを上げて彼女に近寄った。
声を掛けようとした瞬間に明日香さんは手に持っていた、小さな本のような物を川に投げた。放り出された時に捲れて写真のような物が見えて、オレは何かを考える前に投げられた物を掴もうと橋から身を乗り出したが、届かず落ちて行ってしまった。
オレは迷わず橋から飛び降りて川の中に入って、彼女が投げた物を探す。
冬に近い秋の水は冷たく、服に染み込んで体温を奪っていくが、構わず探し続けた。
ようやく見つけて中が無事かを確かめる為に開くと、明日香さんが撮ったと思われる場地さんの写真や二人が写る写真、中にはオレやマイキー君達も居て、みんな笑っていた。
その写真たちの隣には明日香さんの手書きメッセージが添えられていた。
"15歳の誕生日、おめでとう"
そう書かれた文字を見た瞬間に心臓が握り潰されるように苦しくなって、呼吸さえままらなくなってしまった。あの抗争の三日後は場地さんの十五歳の誕生日だった。明日香さんは場地さんの誕生日にあげる為にアルバムを作っていたようだった。
思い出を捨てようとしていた事に気が付いて、目頭が熱くなった。
急いで川から上がり、橋の上まで戻ると橋の上で膝を抱えて小さく丸くなっている明日香さんの元に駆け寄った。
足音で気が付いたのか、顔は上げないけれど彼女は小さな声でオレの名前を呼んだので、返事をする。
「場地はどこ?」
「…え?」
「何処を探しても場地が居ないの」
消えてしまいそうなか細い声に一瞬息が止まった。きっと、この二週間ずっと探し続けていたのだろう。そんな彼女になんて言えば良いのだろうか。
場地さんはどこを探したってもう居ない。
そんなたった一言で片付けて良いのだろうか。凄く迷って、言葉を発する事は出来なかった。
「…明日香さん、場地さんは、どこを探したって居ません」
「…何で?」
「場地さんは亡くなったんです」
現実を突き付けるのは酷だとも思ったが、これ以上、こんな姿を見ていられなかった。
少しだけ顔を上げた彼女の目を見てハッキリとそう言えば、彼女は顔を歪ませた。そのまま地面に力が抜けたように座り込んでしまった。
「嘘だよ、場地は約束を破ったりなんてしない人だもん…」
その涙声に耳を塞ぎたくなる。これ以上、聞きたくない。胸が張り裂けそうなくらい痛かった。
「海も渓谷もまた来年行こうねって約束したんだよ?それに、それに…」
それ以降はもう声にはならず、聞こえて来るのは嗚咽だけだった。
オレは、アスファルトに落ちた無数の染みをただ見ている事しか出来なかった。
「…もうこの際、約束なんてどうでもいいから、お願いだから、場地を連れて行かないで…」
小さくなってしまった明日香さんの肩を抱き寄せようと右手を伸ばすが、触れる事は出来なかった。
違う、彼女が欲しいのはオレの手なんかじゃなくて、場地さんの手だ。行き場をなくした右手は虚しく宙をさ迷ってから力なく落ちた。
「っクソ…!」
場地さんを救う事が出来なかった。
場地さんに頼まれたって、明日香さんを救う事もオレには出来ない。無力だ。自分の無力さが恨めしい。誰一人として守る事が出来ない自分が悔しい。悲しい。
場地さんなら、こういう時どうするんだろう。なんて考えてしまう。答えを教えてくれる背中はもうないのに。
明日香さんならきっと立ち直ってくれるって、場地さんの死を受け入れられるって心のどこかで思っていたんだ。だって、オレの知っている彼女はどんな時でも強かったから。
だから、場地さんの最期に言った「アイツ、泣き虫だから」って言葉は正直、ピンと来ていなかった。だけど、今なら分かる。
明日香さんは、オレとたった一つしか違わない、まだ十四歳の女の子なんだ。強くなんてない。ただ、その弱い姿は場地さんにしか見せていなかっただけなんだ。
「すみません。オレが守れなかったせいです」
深々と頭を下げるが、彼女は小さな声で「何で死んじゃったの」と呟いた。
オレはあの日あった事を話した。一虎君が場地さんを刺してしまった事。そして、最後は自ら命を絶った事を伝えると彼女は肩を震わせながら、更に涙を零した。
「なんで、そんな事…!自ら命を絶つなんてそんな事を場地がしなきゃならなかったの…!?」
「今は分からないかもしれません。でも、場地さんの選択を否定しちゃダメです」
「分かるわけないよ!自ら命を絶つ事が正しいなんて事、ある訳ないじゃん!!」
そう叫んで、また下を向いてしまった。小さな声で場地さんの名を呼ぶ声が痛い。痛々しくて、見ていられなかった。もう、この場に居たくない。逃げ出したいって思ってしまう。
「もう、いい…。私も場地の所に逝きたい」
ポロリと零れ落ちた本音にオレは、何も考えずに気付けば、彼女の両肩を掴んでいた。
「そんな事言わないで下さい。場地さんはそんな事、望んでません」
「もう場地は居ないんでしょ?だったら、もういいよ…」
「居ないからこそ、場地さんの選択を正解に出来るのは今はオレらだけなんです。そうなるように生きていかなきゃ」
彼女の揺れる瞳をしっかりと見据えて、そう言った。自分でそう言ってから、気が付いた。
そうだ、オレには東卍に居続ける理由がまだあった。
「オレが場地さんの遺志を継ぎます。場地さんが命を懸けてまで守ろうとしたモノをオレが必ず、守り続けますから。その選択は正しかったんだって証明してみせます」
場地さんが遺してくれたモノ、それを守り続ける事が今のオレに出来ること。最期に場地さんはオレに道を示してくれていたんだ。 ようやく、見つけられた答えに心が生き返った気がした。
「オレが明日香さんの生きる理由を作ります。だから、どうか、自らの手で命を摘み取らないで下さい。場地さんと過ごした大事な思い出まで捨てようとしないで下さい」
明日香さんの前にアルバムを差し出すと、彼女は震える手で受け取り、胸の前で抱き締めるようにして、また泣き出してしまった。
これ以上、大事な物を失いたくない。自分の非力さを嘆きたくない。その為にもっと、強くならなくてはいけない。オレが人の生きる理由を作るなんておこがましいかもしれないけど…
「明日香さんまで居なくならないで」
生きて欲しいって思ったんだ。今はまだ、そう願う事しか出来ないけど、這い上がって、乗り越えて、前を向いて生きて行って欲しい。
いつか場地さんに会える時が来たら、胸を張って会えるように。
火葬場から帰る前に、マイキー君に話をしに行こうと、彼の姿を探す。
あの日からずっと、東卍を抜ける事を考えていた。元々は場地さんに着いて行きたくて入っただけだった。場地さんが居ない今、オレが東卍に居る理由が何一つない。
マイキー君を見つけ、辞める事を話すとマイキー君は「壱番隊の灯火をオマエが消すのか?」と小さな声で言った。
小さな声だったけれど、強い意志の宿っているような声だった。その声にハッと顔を上げると、抗争に行く前の時のような、総長の表情をしていた。
「東卍に居る理由が無くなったなら、理由を作れ」
「理由を…?」
「話ならいつでも聞く。でも、今はまだ、オマエが辞める事は認めねぇよ」
マイキー君はオレを残し、葬儀場を出て行ってしまった。
正直、理由なんて何も浮かばない。オレの中では、場地さんが全てだった。それは、これからも変わらない。オレが東卍に居続ける理由なんて、出来るのだろうか。
*
毎日、毎日、場地さんを想って一人で涙を零した。ふとした瞬間に、場地さんの影が見えて自然と零れてしまう。たった、1年半という月日だったが、毎日が濃くて輝いていて、場地さんと過ごして来た日々は自分の人生そのものだった。
ひたすら、東卍に残る理由を考え続けたが、答えは何一つ出ないまま、二週間が経過してしまった。吹き抜ける風のようにあっという間に過ぎた、二週間の間で、場地さんの遺骨もお墓へと納骨された。
最期にした約束を果たす為に、場地さんに会いにお墓へと向かい、お線香をあげて、手を合わせた。
「場地さん…初めて会った時もそうだったっスね」
お墓の前で座り込み、彼に語りかけた。思い出すのは出会った日の事。あの日から、オレの腐った人生は変わったんだ。人を嫌い、人を傷付けてきた人生だったのに、場地さんのおかげで、人を好きになり、人を守りたいと思うようになった。
真っ直ぐさも優しさも強さも全て場地さんが教えてくれた。
「約束通り買ってきましたよ、半分コ」
最後に場地さんがペヤングを食べたいと言っていたので、ペヤングをいつものように半分コし、場地さんの目の前に置く。
一人で食べるペヤングは、味なんてしなくて、好物になるくらいに好きだったのに、初めてクソ不味いって思った。
「……場地さん、"ありがとう"なんて…ズリぃよ…オレはこれからどうしたらいいんスか!?」
また、涙が溢れ出てきてしまう。毎日、必死に憧れていた背中を追い続けていた。だけどその背中が見えなくなってしまい、自分の進むべき道さえ分からなくなってしまった。どうしたら良いかなんて問いかけても、答えが返ってくるワケがないのは分かっているのに、求めてしまう。場地さんがオレの人生の道しるべだった。それを失ってしまった今、何を頼りに歩めば良いのだろうか。
場地さんの前でひたすら泣き続け、涙が枯れてきた頃、辺りを見渡せば、日が暮れていて、寒くなって来ていた。寒さに身震いをさせ、家に帰ろうと腰を上げた。
一人で帰る、団地への道のりは少し遠く感じた。学校帰り、集会帰り、それら全てを場地さんと共にしていた。約束なんてしていなかったけど、会えばいつも一緒だった。それも無くなってしまったのだと思うと足取りも重くなる。
いつもより歩くペースを緩めて帰路に着いていると、小さな川の橋の上に明日香さんが立っているのが見えた。
一瞬、よからぬ事を考えているのではないかと思って、歩くスピードを上げて彼女に近寄った。
声を掛けようとした瞬間に明日香さんは手に持っていた、小さな本のような物を川に投げた。放り出された時に捲れて写真のような物が見えて、オレは何かを考える前に投げられた物を掴もうと橋から身を乗り出したが、届かず落ちて行ってしまった。
オレは迷わず橋から飛び降りて川の中に入って、彼女が投げた物を探す。
冬に近い秋の水は冷たく、服に染み込んで体温を奪っていくが、構わず探し続けた。
ようやく見つけて中が無事かを確かめる為に開くと、明日香さんが撮ったと思われる場地さんの写真や二人が写る写真、中にはオレやマイキー君達も居て、みんな笑っていた。
その写真たちの隣には明日香さんの手書きメッセージが添えられていた。
"15歳の誕生日、おめでとう"
そう書かれた文字を見た瞬間に心臓が握り潰されるように苦しくなって、呼吸さえままらなくなってしまった。あの抗争の三日後は場地さんの十五歳の誕生日だった。明日香さんは場地さんの誕生日にあげる為にアルバムを作っていたようだった。
思い出を捨てようとしていた事に気が付いて、目頭が熱くなった。
急いで川から上がり、橋の上まで戻ると橋の上で膝を抱えて小さく丸くなっている明日香さんの元に駆け寄った。
足音で気が付いたのか、顔は上げないけれど彼女は小さな声でオレの名前を呼んだので、返事をする。
「場地はどこ?」
「…え?」
「何処を探しても場地が居ないの」
消えてしまいそうなか細い声に一瞬息が止まった。きっと、この二週間ずっと探し続けていたのだろう。そんな彼女になんて言えば良いのだろうか。
場地さんはどこを探したってもう居ない。
そんなたった一言で片付けて良いのだろうか。凄く迷って、言葉を発する事は出来なかった。
「…明日香さん、場地さんは、どこを探したって居ません」
「…何で?」
「場地さんは亡くなったんです」
現実を突き付けるのは酷だとも思ったが、これ以上、こんな姿を見ていられなかった。
少しだけ顔を上げた彼女の目を見てハッキリとそう言えば、彼女は顔を歪ませた。そのまま地面に力が抜けたように座り込んでしまった。
「嘘だよ、場地は約束を破ったりなんてしない人だもん…」
その涙声に耳を塞ぎたくなる。これ以上、聞きたくない。胸が張り裂けそうなくらい痛かった。
「海も渓谷もまた来年行こうねって約束したんだよ?それに、それに…」
それ以降はもう声にはならず、聞こえて来るのは嗚咽だけだった。
オレは、アスファルトに落ちた無数の染みをただ見ている事しか出来なかった。
「…もうこの際、約束なんてどうでもいいから、お願いだから、場地を連れて行かないで…」
小さくなってしまった明日香さんの肩を抱き寄せようと右手を伸ばすが、触れる事は出来なかった。
違う、彼女が欲しいのはオレの手なんかじゃなくて、場地さんの手だ。行き場をなくした右手は虚しく宙をさ迷ってから力なく落ちた。
「っクソ…!」
場地さんを救う事が出来なかった。
場地さんに頼まれたって、明日香さんを救う事もオレには出来ない。無力だ。自分の無力さが恨めしい。誰一人として守る事が出来ない自分が悔しい。悲しい。
場地さんなら、こういう時どうするんだろう。なんて考えてしまう。答えを教えてくれる背中はもうないのに。
明日香さんならきっと立ち直ってくれるって、場地さんの死を受け入れられるって心のどこかで思っていたんだ。だって、オレの知っている彼女はどんな時でも強かったから。
だから、場地さんの最期に言った「アイツ、泣き虫だから」って言葉は正直、ピンと来ていなかった。だけど、今なら分かる。
明日香さんは、オレとたった一つしか違わない、まだ十四歳の女の子なんだ。強くなんてない。ただ、その弱い姿は場地さんにしか見せていなかっただけなんだ。
「すみません。オレが守れなかったせいです」
深々と頭を下げるが、彼女は小さな声で「何で死んじゃったの」と呟いた。
オレはあの日あった事を話した。一虎君が場地さんを刺してしまった事。そして、最後は自ら命を絶った事を伝えると彼女は肩を震わせながら、更に涙を零した。
「なんで、そんな事…!自ら命を絶つなんてそんな事を場地がしなきゃならなかったの…!?」
「今は分からないかもしれません。でも、場地さんの選択を否定しちゃダメです」
「分かるわけないよ!自ら命を絶つ事が正しいなんて事、ある訳ないじゃん!!」
そう叫んで、また下を向いてしまった。小さな声で場地さんの名を呼ぶ声が痛い。痛々しくて、見ていられなかった。もう、この場に居たくない。逃げ出したいって思ってしまう。
「もう、いい…。私も場地の所に逝きたい」
ポロリと零れ落ちた本音にオレは、何も考えずに気付けば、彼女の両肩を掴んでいた。
「そんな事言わないで下さい。場地さんはそんな事、望んでません」
「もう場地は居ないんでしょ?だったら、もういいよ…」
「居ないからこそ、場地さんの選択を正解に出来るのは今はオレらだけなんです。そうなるように生きていかなきゃ」
彼女の揺れる瞳をしっかりと見据えて、そう言った。自分でそう言ってから、気が付いた。
そうだ、オレには東卍に居続ける理由がまだあった。
「オレが場地さんの遺志を継ぎます。場地さんが命を懸けてまで守ろうとしたモノをオレが必ず、守り続けますから。その選択は正しかったんだって証明してみせます」
場地さんが遺してくれたモノ、それを守り続ける事が今のオレに出来ること。最期に場地さんはオレに道を示してくれていたんだ。 ようやく、見つけられた答えに心が生き返った気がした。
「オレが明日香さんの生きる理由を作ります。だから、どうか、自らの手で命を摘み取らないで下さい。場地さんと過ごした大事な思い出まで捨てようとしないで下さい」
明日香さんの前にアルバムを差し出すと、彼女は震える手で受け取り、胸の前で抱き締めるようにして、また泣き出してしまった。
これ以上、大事な物を失いたくない。自分の非力さを嘆きたくない。その為にもっと、強くならなくてはいけない。オレが人の生きる理由を作るなんておこがましいかもしれないけど…
「明日香さんまで居なくならないで」
生きて欲しいって思ったんだ。今はまだ、そう願う事しか出来ないけど、這い上がって、乗り越えて、前を向いて生きて行って欲しい。
いつか場地さんに会える時が来たら、胸を張って会えるように。