勿忘草
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次の日、学校へ行くとマイキーとドラケンは来ていなかった。給食の時間の前には大抵やって来るのだが、今日は給食の時間を過ぎても来る事はなかった。ドラケンに昨日のお礼にとお菓子を持ってきたが、居なければ意味が無い。
ドラケンにだけ渡してマイキーの分がないとなると、絶対に拗ねると思ったのでマイキーの分も買ったのに渡せないとなると、残念だ。
ドラケンはいつもの喫茶店でチョコパフェを頼んだりしているので、甘い物が決して嫌いではないと思うので、老舗和菓子屋さんのどら焼きを買って来た。ドラケンのはちょっと冒険心でプリンの入ったどら焼きを買ってみた。マイキーは邪道だと怒る気もするが、遊び心も大事だ。
朝、ドラケンにメールで"マイキーと一緒?"と送った返信が今、"一緒"と返って来た。
一緒なら放課後にどら焼きを渡しに行こうと決め、ドラケンに渡しに行く事を伝えると、マイキーの家に居るとの返事が返って来た。
その後、何通かドラケンとメールのやり取りをしたが、メールが届く度に場地からではないかと、期待をしては落胆してを繰り返した。
一虎に会った日の夜にメールを送ってみたが、結局、一通も返事が返って来る事はなかった。
*
放課後、学校を出て、どら焼きを持ってマイキーの家へと行き、インターフォンを押すとマイキーのおじいちゃんが出て来た。
「こんにちは」
「オウ!今日は圭介は一緒じゃないのか?」
「今日は来てないです。マイキーとドラケンに用事があって来たんですけど…」
「あの二人ならさっき出ていったぞ」
「さっきまで家に居るって言ってたのに!」
「アイツらはフラフラしおって!ワシがガツンと言ってやる!」
顔の目の前で拳を握りしめているおじいちゃんに笑みを零す。私も昔、佐野道場に通っていたので、マイキーのおじいちゃんは師範にあたる。少し談笑してから、どら焼きをおじいちゃんに渡し、エマとマイキーの三人で食べてと伝えた。帰り間際に「圭介と一緒にいつでも稽古しに来なさい」と言ってくれた。
また来ますと頭を下げてから、佐野家を後にした。
二人が何処に居るのかも分からないので、今日は大人しく帰ろうと歩いていると、パラパラと雨が降ってきてしまった。鞄の中に入っている折り畳み傘を広げて雨を凌ぐ。
すると、前から金髪の男の子二人組が歩いてくるのが見えた。二人は私に気付き、声を揃えて私の名を呼んだ。
その二人組は千冬と武道君だった。
千冬は武道君を見て「何でオマエが明日香さんを知ってんの?」と不思議そうに言った。
「二人とも顔どうしたの?凄い怪我だけど」
「あぁ…コレはちょっと…。色々ありまして」
武道君は鼻や頬に絆創膏を貼り、千冬に関しては顔だけではなく、頭にも包帯を巻いて、右目も覆われていて、ボロボロだった。
千冬は気まずそうに視線を泳がせて、言葉を濁した。
「何で明日香さんとタケミっちが知り合いなんですか?」
「明日香ちゃんとは集会の時に一度会った事がある」
「は?オマエ、明日香ちゃんって失礼だろ!さん付けで呼べよ!場地さんの女だぞ!」
「それは関係ないでしょ」
千冬はまだ納得いかないというような表情でムスッとしていたが「明日香さんがいいなら…」と渋々引き下がった。武道君は「場地君の…」と呟いて、まじまじと私の顔を見た後に「あ、マイキー君と場地君と幼馴染なんですね」と納得したように頷いていた。
「あれ?武道君、前は場地の事知らなかったよね?」
「あ、昨日会ったんスよ」
「場地に会ったの!?」
「あっ、言うな!バカミチ!」
「へ?」
「場地とずっと会えてなくて、連絡も取れないし、今どういう状況なのかも全然分からなくて…」
段々と語尾が弱くなっていくのを自分でも感じた。武道君は顔を引き攣らせて、まずい事を言ってしまったと言わんばかりのバツの悪い表情を浮かべながら、私からスっと視線を逸らした。三人が何も言わなくなってしまい、沈黙が流れた。
すると、千冬は意を決したように深く息を吐き、私の目を真っ直ぐに見て「明日香さん、夕方お時間ありますか?」と言った。
この後、何も予定がない事を伝えると、千冬はやっぱり少しだけ迷ったように視線を泳がしてから、再度私に視線を戻した。
「今からタケミっちと行く所あるので、それが終わったら会えますか?全部話します」
「うん。千冬、ありがとう」
千冬と武道君と一旦、別れて千冬の用事が終わるまで近くの喫茶店で時間を潰し、一時間半くらい待った頃、終わったとの連絡が来たので、喫茶店を出て、渋谷駅前で合流した。
もう既に雨も上がっていたので、いつもと同じ団地の階段の踊り場に座って話す事にした。
千冬は重々しい口をゆっくりと開き、ここ最近の場地の様子、この間は話してくれなかった、謹慎中の場地が集会に来て話した内容を教えてくれた。
その内容は私の予想していた通りで、頭から冷水をかけられたかのように一気に身体中が冷えきっていく感覚がした。
一虎の言っていた事は事実だったと分かると同時に胸が張り裂けそうなくらいに痛かった。
ズキズキと痛み出す胸を和らげる方法がなく、次第に痛みは増していく。
ずっと大切にしてきた東卍を捨てて、一虎と共に芭流覇羅というチームに入ると言うのは、一虎の嘘ではなくて紛れもない事実だった。
悲しいという感情を通り越して、もう何が何だか分からなくて頭が真っ白になってしまった。
「もしかして、その怪我は場地が…?」
「…はい」
「ごめんね…」
「いえ!明日香さんのせいじゃないですからっ!」
喧嘩で怪我なんて慣れているから大丈夫だと言ってくれる千冬に余計苦しくなる。
場地に殴られて痛くない筈がないのに。体もそうだけど、それ以上に心が痛かっただろう。
もう一度、謝ると千冬は静かに首を横に振った。そして、私の様子を伺うように躊躇いがちに口を開いた。
「さっき、マイキー君からマイキー君のお兄さんの事と場地さんと一虎くんの事、聞いたんです」
「そっか…」
「明日香さんはずっと知ってたんですよね?」
「うん、ごめんね。でも、千冬の事信用してないから黙ってたワケじゃないよ」
「それは、分かってます」
千冬があまりにも柔らかく笑うから全てを打ち明けたくなってしまった。千冬の笑顔の中にある芯の強さに胸を打たれ、誰にも言えなかった事も千冬なら、きっと受け止めてくれると思えた。
だから、私はあの日の夜、場地の為にと体を重ねた事、それが凄く苦しかった事。
一虎に会って、場地もそっち側に居ると言うのを聞いて彼が分からなくなってしまった事。
心の内の全て話した。
全てを聞き終わった千冬は、掌を力いっぱい握り締めて、拳を震わしていた。少し怒ったような声色で「何で気付けなかったんだ」と呟いた。
「一人で抱えて、辛かったですよね 」
千冬の優しい声音に涙腺が緩み、泣きそうになってしまった。辛くなかったといえば、嘘になる。場地の為ならと思えば、どんな事でも踏ん張れた。でも、場地の事が分からなくなってきてしまった今、正直心が折れそうだった。
どうすれば良かったのかずっと考えても、答えは一つも出てこなくて苦しかった。
もがいた先に幸せがあると信じても、自分の心がどんどんと闇に沈んでいくような気がして怖かった。
「全部、意味なんてなかったのかな」
「そんな事ないです」
「でも…」
「明日香さんが場地さんを想ってした事には必ず意味はあります」
千冬は「だから大丈夫」と笑った。どうして千冬はこうも真っ直ぐ強くいられるのだろうか。
その強さが今は羨ましく思う。
「難しい事は一回全部、取っぱらっちゃいましょう。事件の事とかも全部。シンプルに考えましょう」
「シンプルに?」
「はい。明日香さんは場地さんのどこが好きですか?」
「場地の好きなところ…」
場地は、馬鹿で喧嘩早くて口も悪いし、機嫌が悪ければすぐに態度に出る。横暴で雑な人だけど、厳しい言動の中で不器用すぎる愛がある所。どんどん先に一人で行っちゃって「オマエが追い付いて来い」とか言う癖に、少し歩く速さを緩めてくれる所。
大切なものを守る為に自分を犠牲にしようとするくらいに優しい所。時々、乱暴に撫でてくれる手が凄く暖かい所。
まだまだ際限なく出てくる、場地の好きな所。
「オレらの知ってる場地さんを信じましょう」
私の表情を見て、もう大丈夫だと察したのか千冬は力強く頷いて、また優しく笑った。
なんで私は忘れてしまっていたのだろう。場地は散ってしまった命に涙を流せる人だという事は私が一番知っている。あの日の夜だけじゃない、何度も何度も自分の罪と向き合って、後悔して悲しんで、それでも乗り越えようともがいているのを知っている。
きっと、周りを遠ざけているのにも理由がちゃんとあるんだ。今も一人で背負って一人で戦おうとしている。
「千冬は凄いね。こんなにも真っ直ぐで」
「オレはただ、自分の信じたいモノを信じてるだけです」
ははっと声を出して笑った千冬がやけに頼もしく見えた。場地の背中に憧れて、ずっと追い続けて来た千冬だからこそ、その言葉に重みがあった。
「明日香さん、場地さんの事、守りましょうね」
「うん、約束したもんね」
「はい。来年こそ、三人で武蔵祭りで花火見ましょう」
「そうだね。絶対に来年も一緒に行こうね」
「あっ、やっぱり今のナシ!」
「え、何で?」
「来年こそはオレ、邪魔ッスよ」
「千冬が彼女作って、四人で行けば問題ないよ」
「彼女、出来っかな…」
急に不安げな表情を浮かべる千冬に笑うと、千冬は「オレは真剣なんですから、笑わないで下さいよ」と言いながらも、笑っていた。
千冬のおかげで心が軽くなった。もう、場地が分からないなんて事はない。場地が私の好きな所を「オレをオレとして、見てくれるところ」と言ってくれた。だから、私の知っている場地を信じてみようと思えた。
「場地さんには明日香さんが必要ですから」
千冬の言葉に視界が歪んでしまった。
私が場地を必要としているように、場地も私を必要としてくれているのなら、私は力になりたい。きっと場地は今、一人で色々な事を抱えているのなら、私にしかできない事をしよう。
零れそうな涙を拭って、千冬に精一杯笑ってみせた。
ドラケンにだけ渡してマイキーの分がないとなると、絶対に拗ねると思ったのでマイキーの分も買ったのに渡せないとなると、残念だ。
ドラケンはいつもの喫茶店でチョコパフェを頼んだりしているので、甘い物が決して嫌いではないと思うので、老舗和菓子屋さんのどら焼きを買って来た。ドラケンのはちょっと冒険心でプリンの入ったどら焼きを買ってみた。マイキーは邪道だと怒る気もするが、遊び心も大事だ。
朝、ドラケンにメールで"マイキーと一緒?"と送った返信が今、"一緒"と返って来た。
一緒なら放課後にどら焼きを渡しに行こうと決め、ドラケンに渡しに行く事を伝えると、マイキーの家に居るとの返事が返って来た。
その後、何通かドラケンとメールのやり取りをしたが、メールが届く度に場地からではないかと、期待をしては落胆してを繰り返した。
一虎に会った日の夜にメールを送ってみたが、結局、一通も返事が返って来る事はなかった。
*
放課後、学校を出て、どら焼きを持ってマイキーの家へと行き、インターフォンを押すとマイキーのおじいちゃんが出て来た。
「こんにちは」
「オウ!今日は圭介は一緒じゃないのか?」
「今日は来てないです。マイキーとドラケンに用事があって来たんですけど…」
「あの二人ならさっき出ていったぞ」
「さっきまで家に居るって言ってたのに!」
「アイツらはフラフラしおって!ワシがガツンと言ってやる!」
顔の目の前で拳を握りしめているおじいちゃんに笑みを零す。私も昔、佐野道場に通っていたので、マイキーのおじいちゃんは師範にあたる。少し談笑してから、どら焼きをおじいちゃんに渡し、エマとマイキーの三人で食べてと伝えた。帰り間際に「圭介と一緒にいつでも稽古しに来なさい」と言ってくれた。
また来ますと頭を下げてから、佐野家を後にした。
二人が何処に居るのかも分からないので、今日は大人しく帰ろうと歩いていると、パラパラと雨が降ってきてしまった。鞄の中に入っている折り畳み傘を広げて雨を凌ぐ。
すると、前から金髪の男の子二人組が歩いてくるのが見えた。二人は私に気付き、声を揃えて私の名を呼んだ。
その二人組は千冬と武道君だった。
千冬は武道君を見て「何でオマエが明日香さんを知ってんの?」と不思議そうに言った。
「二人とも顔どうしたの?凄い怪我だけど」
「あぁ…コレはちょっと…。色々ありまして」
武道君は鼻や頬に絆創膏を貼り、千冬に関しては顔だけではなく、頭にも包帯を巻いて、右目も覆われていて、ボロボロだった。
千冬は気まずそうに視線を泳がせて、言葉を濁した。
「何で明日香さんとタケミっちが知り合いなんですか?」
「明日香ちゃんとは集会の時に一度会った事がある」
「は?オマエ、明日香ちゃんって失礼だろ!さん付けで呼べよ!場地さんの女だぞ!」
「それは関係ないでしょ」
千冬はまだ納得いかないというような表情でムスッとしていたが「明日香さんがいいなら…」と渋々引き下がった。武道君は「場地君の…」と呟いて、まじまじと私の顔を見た後に「あ、マイキー君と場地君と幼馴染なんですね」と納得したように頷いていた。
「あれ?武道君、前は場地の事知らなかったよね?」
「あ、昨日会ったんスよ」
「場地に会ったの!?」
「あっ、言うな!バカミチ!」
「へ?」
「場地とずっと会えてなくて、連絡も取れないし、今どういう状況なのかも全然分からなくて…」
段々と語尾が弱くなっていくのを自分でも感じた。武道君は顔を引き攣らせて、まずい事を言ってしまったと言わんばかりのバツの悪い表情を浮かべながら、私からスっと視線を逸らした。三人が何も言わなくなってしまい、沈黙が流れた。
すると、千冬は意を決したように深く息を吐き、私の目を真っ直ぐに見て「明日香さん、夕方お時間ありますか?」と言った。
この後、何も予定がない事を伝えると、千冬はやっぱり少しだけ迷ったように視線を泳がしてから、再度私に視線を戻した。
「今からタケミっちと行く所あるので、それが終わったら会えますか?全部話します」
「うん。千冬、ありがとう」
千冬と武道君と一旦、別れて千冬の用事が終わるまで近くの喫茶店で時間を潰し、一時間半くらい待った頃、終わったとの連絡が来たので、喫茶店を出て、渋谷駅前で合流した。
もう既に雨も上がっていたので、いつもと同じ団地の階段の踊り場に座って話す事にした。
千冬は重々しい口をゆっくりと開き、ここ最近の場地の様子、この間は話してくれなかった、謹慎中の場地が集会に来て話した内容を教えてくれた。
その内容は私の予想していた通りで、頭から冷水をかけられたかのように一気に身体中が冷えきっていく感覚がした。
一虎の言っていた事は事実だったと分かると同時に胸が張り裂けそうなくらいに痛かった。
ズキズキと痛み出す胸を和らげる方法がなく、次第に痛みは増していく。
ずっと大切にしてきた東卍を捨てて、一虎と共に芭流覇羅というチームに入ると言うのは、一虎の嘘ではなくて紛れもない事実だった。
悲しいという感情を通り越して、もう何が何だか分からなくて頭が真っ白になってしまった。
「もしかして、その怪我は場地が…?」
「…はい」
「ごめんね…」
「いえ!明日香さんのせいじゃないですからっ!」
喧嘩で怪我なんて慣れているから大丈夫だと言ってくれる千冬に余計苦しくなる。
場地に殴られて痛くない筈がないのに。体もそうだけど、それ以上に心が痛かっただろう。
もう一度、謝ると千冬は静かに首を横に振った。そして、私の様子を伺うように躊躇いがちに口を開いた。
「さっき、マイキー君からマイキー君のお兄さんの事と場地さんと一虎くんの事、聞いたんです」
「そっか…」
「明日香さんはずっと知ってたんですよね?」
「うん、ごめんね。でも、千冬の事信用してないから黙ってたワケじゃないよ」
「それは、分かってます」
千冬があまりにも柔らかく笑うから全てを打ち明けたくなってしまった。千冬の笑顔の中にある芯の強さに胸を打たれ、誰にも言えなかった事も千冬なら、きっと受け止めてくれると思えた。
だから、私はあの日の夜、場地の為にと体を重ねた事、それが凄く苦しかった事。
一虎に会って、場地もそっち側に居ると言うのを聞いて彼が分からなくなってしまった事。
心の内の全て話した。
全てを聞き終わった千冬は、掌を力いっぱい握り締めて、拳を震わしていた。少し怒ったような声色で「何で気付けなかったんだ」と呟いた。
「一人で抱えて、辛かったですよね 」
千冬の優しい声音に涙腺が緩み、泣きそうになってしまった。辛くなかったといえば、嘘になる。場地の為ならと思えば、どんな事でも踏ん張れた。でも、場地の事が分からなくなってきてしまった今、正直心が折れそうだった。
どうすれば良かったのかずっと考えても、答えは一つも出てこなくて苦しかった。
もがいた先に幸せがあると信じても、自分の心がどんどんと闇に沈んでいくような気がして怖かった。
「全部、意味なんてなかったのかな」
「そんな事ないです」
「でも…」
「明日香さんが場地さんを想ってした事には必ず意味はあります」
千冬は「だから大丈夫」と笑った。どうして千冬はこうも真っ直ぐ強くいられるのだろうか。
その強さが今は羨ましく思う。
「難しい事は一回全部、取っぱらっちゃいましょう。事件の事とかも全部。シンプルに考えましょう」
「シンプルに?」
「はい。明日香さんは場地さんのどこが好きですか?」
「場地の好きなところ…」
場地は、馬鹿で喧嘩早くて口も悪いし、機嫌が悪ければすぐに態度に出る。横暴で雑な人だけど、厳しい言動の中で不器用すぎる愛がある所。どんどん先に一人で行っちゃって「オマエが追い付いて来い」とか言う癖に、少し歩く速さを緩めてくれる所。
大切なものを守る為に自分を犠牲にしようとするくらいに優しい所。時々、乱暴に撫でてくれる手が凄く暖かい所。
まだまだ際限なく出てくる、場地の好きな所。
「オレらの知ってる場地さんを信じましょう」
私の表情を見て、もう大丈夫だと察したのか千冬は力強く頷いて、また優しく笑った。
なんで私は忘れてしまっていたのだろう。場地は散ってしまった命に涙を流せる人だという事は私が一番知っている。あの日の夜だけじゃない、何度も何度も自分の罪と向き合って、後悔して悲しんで、それでも乗り越えようともがいているのを知っている。
きっと、周りを遠ざけているのにも理由がちゃんとあるんだ。今も一人で背負って一人で戦おうとしている。
「千冬は凄いね。こんなにも真っ直ぐで」
「オレはただ、自分の信じたいモノを信じてるだけです」
ははっと声を出して笑った千冬がやけに頼もしく見えた。場地の背中に憧れて、ずっと追い続けて来た千冬だからこそ、その言葉に重みがあった。
「明日香さん、場地さんの事、守りましょうね」
「うん、約束したもんね」
「はい。来年こそ、三人で武蔵祭りで花火見ましょう」
「そうだね。絶対に来年も一緒に行こうね」
「あっ、やっぱり今のナシ!」
「え、何で?」
「来年こそはオレ、邪魔ッスよ」
「千冬が彼女作って、四人で行けば問題ないよ」
「彼女、出来っかな…」
急に不安げな表情を浮かべる千冬に笑うと、千冬は「オレは真剣なんですから、笑わないで下さいよ」と言いながらも、笑っていた。
千冬のおかげで心が軽くなった。もう、場地が分からないなんて事はない。場地が私の好きな所を「オレをオレとして、見てくれるところ」と言ってくれた。だから、私の知っている場地を信じてみようと思えた。
「場地さんには明日香さんが必要ですから」
千冬の言葉に視界が歪んでしまった。
私が場地を必要としているように、場地も私を必要としてくれているのなら、私は力になりたい。きっと場地は今、一人で色々な事を抱えているのなら、私にしかできない事をしよう。
零れそうな涙を拭って、千冬に精一杯笑ってみせた。