1話
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桜が舞う暖かな日。そんな素敵な日に中学校の入学式。ランドセルを背負って通った小学校は卒業し、今日からは、ちょっぴり大人の仲間入りのような気がする中学生。
新しい友達できるかな。部活はなににしようかな。なんて、色々な事に胸を弾ませる。
小学校とは違う事を学べたり、沢山の経験が出来る中学に不安と期待を胸にまだ真新しい、パリパリの制服に腕を通す。着慣れないセーラー服に身を包んだ自分の姿を鏡で見て、やっぱり、少しだけ大人の仲間入りした気分になった。
この三年間で身長が伸びるだろうと想定して、規定の膝上より少し長めの丈のスカートを翻して、頬を緩ませる。きっと、三年生になる頃にはスカートも短くなっている自分の姿を想像して、更に胸が弾んだ。
小学校の時とは違う通学路を歩き、これから毎日この新しい道を歩いていく。そんな些細な事が無性に楽しかった。
ゆったりとしたペースでのんびりと桜並木を満喫しながら歩いていると、後ろから走っているような軽快な足音が聞こえ、その音は徐々に近くなって来る。振り向こうとした瞬間に後頭部にバシッという音ともに衝撃が走った。
「なんで先に行ってんだよ。オマエが起こしに来ねぇと遅刻すんだろーが」
近付いて来る足音で何となくだけれど、誰かは想像は付いていたが、その声で確信へと変わった。
「珍しいね。場地が自分で起きて来るなんて。さては、お母さんに叩き起されたでしょ?」
そう言いながら、振り向けば、彼は全速力で走って来たのか、額に薄らと汗を浮かべて頬が桜の花弁のように薄ピンクに染まっていた。
私と場地は幼馴染だ。近所に住んでいて物心付いた頃からずっと一緒にいた。出会いはどうだったとか、何をきっかけに仲良くなったのかもよく覚えていない。
覚えていないくらいの幼い頃からずっと一緒で何をするのにも一緒に居た。
私の隣には彼が、彼の隣には私が居る。それが当たり前になっていた。
さっきの「なんで先に行ってんだよ」という言葉は、中学生になっても、この関係は変わらないという表れで、本当は嬉しかった。私だけではなく、場地もそれが当たり前になっている事が分かって、嬉しかった。
「見ろよ、ココ。赤くなってねぇ?」
ココと指差したのは、右頬。その薄ピンク色は走って来た事によって、火照った色ではなかったようだ。本当にお母さんにぶっ叩かれて起こされたらしい。
寝起きがすこぶる悪い場地を起こすのは容易では無い。昔はよく、場地のお母さんが叩き起していたのだが、小学校の中学年になった頃からは、その日課は私の担当になった。
「いい加減、自分で起きれるようになりなよ」
「いつも、朝起きっと目覚ましぶっ壊れてんだよ」
「場地が壊してるんでしょ」
「壊してねーよ」
5年生くらいの時だったと思う。私たちが学校で喧嘩して、仲直りする事なくお互い家に帰った時、場地は次の日の朝私が起こしに来ないと思ったのか、ちゃんと目覚ましをセットして寝ていた。私は、習慣だったので躊躇いもなく場地を起こしに行った。部屋に入った途端に目覚ましのベルの音が鳴り響いた。
珍しい事もあるもんだと感心していたのも束の間、布団の中から手が伸びて来て目覚ましを掴んだと思ったら、そのまま思いっきり壁に投げ付けた。ガシャンと豪快な音を立てて、無惨に床に転げ落ちた壊れた目覚まし時計が何だか、悲しそうに見えた。
「相変わらず、バカだねぇ」
「あ?バカはオマエだろ」
これも、いつも通りのやり取りだ。何一つ変わらない私たちに、心がほっこりする感覚がして胸をじんわりと温かくさせた。
今日から通う事になる、中学校の門を二人並んでくぐる。そのまま、昇降口へと向かった。
昇降口には、自分と同じようにまだ新しい制服を着た人達で溢れ返っていた。
「邪魔くせぇな。何でバカみてぇに一箇所に集まってんだぁ?」
「あそこにクラス表が出てるみたいだよ」
張り出されている掲示板の周りには、緊張気味な表情をしている人や友達と一緒に笑い合っている人、友達とクラスが別れてしまったのか悲しんでいる人など様々な感情が渦巻いていた。
クラスなんてどこでもいい。なんて、言える程大人ではない。もちろん、仲良しな友達と一緒がいいし、場地と同じクラスになりたいとも思う。少し緊張しながら、張り出されているクラス表を見て自分の名前、藤堂 明日香と場地圭介の文字を必死に探した。
だけれど、直ぐには見つからなくて焦燥感に駆られてしまう。すると、隣で「お!」という声が聞こえた。
「オレと明日香、同じクラスじゃん」
「えっ、本当!?」
「ほら、三組」
場地の指差す方向を見ると、探していた二つの名前を見つけた。嬉しくて抱き着きたくなる衝動をグッと抑えたが、やっぱり嬉しくて、満面の笑みを彼に向けて「やったね!」と両手の平を場地に向けると、彼も私と同じように満面の笑みで返して掌を合わせて、乾いた音を鳴らした。
下駄箱で靴から上履きへと履き替えて、教室へと向かう。一年三組の札が付いているドアを開けて、黒板に張り出されている座席表を確認してそれぞれの席へと座った。
場地とは少し席が離れてしまったのを残念に思っていると、後ろから背中をちょんちょんとつつかれたので振り返ると、垂れ目で笑顔の可愛い女の子が話しかけてくれた。軽くお互いの自己紹介を済ませると、彼女は内緒話をするように声を潜めて顔を寄せた。
「ねぇねぇ、さっき一緒に入ってきた人彼氏?」
「ううん、ただの幼馴染だよ」
この言葉は何十回と言ってきただろう。小学校の時も「オマエら付き合ってんの?」と幾度も言われて来た。その度に返すのは「幼馴染」という言葉。
「そうなの?でも、カッコいいね!モテたりしてたでしょ?」
「いやいや場地は全くモテてなかったよ」
「そうなの?」
「色々ぶっ飛んでるからねぇ」
「男の子はちょっとぶっ飛んでる方が魅力的じゃない?」
「場地の場合はちょっとじゃないから…」
「例えば?」
「眠いってだけですれ違った人殴るし、腹減ったからって車にガソリン撒いて火付けたり…」
まだまだ出てくる、場地のぶっ飛びエピソード。だけど、途中で気が付いてしまった。彼女の顔が引き攣っている事に。
「それ藤堂さんも一緒にやってたりするの…?」
この手の話は、普通の女の子はドン引きしてしまう事を知る。場地が仲良くしている人達にはこの手のエピソードは爆笑の渦を誘うのだが、普通の人間なら引いてしまうらしい。
このままでは、私までヤバい奴だと思われて、女の子の友達が一人も出来なくなるかもしれない。どう弁解しようかと考えていると誰が私の頭を掴んだ。
「やっぱ、オマエ馬鹿だろ」
振り返ると、場地が怪訝そうな顔をして私の頭を掴んでいた。場地の事をペラペラと勝手に話してたのが聞こえていたらしい。
声のトーンで呆れているような怒っているのは感じ取れた。後ろの席の子も同じ事を感じ取ったのか、恐怖の顔色が伺え、ビクビクした視線を場地に向けていた。
「コイツ、馬鹿だけど良い奴だぜ」
場地は八重歯を覗かしてニッと笑い、そう言い残して自分の席へと戻って行ってしまった。
お互い無言になっていると、彼女はゆっくりと私にもう一度笑顔を向けてくれた。
「場地くん、優しい人だね」
「うん。自慢の幼馴染なんだ」
私たちは、また笑い合った。
場地のおかげで誤解も解け、無事に新しい女の子の友達も出来そうだ。
こういう、さり気ない優しさに昔から何度助けられただろう。そんな優しさが昔から私は大好きで、大好きで仕方なかった。
「好きなんだね、場地くんの事」
場地の事を眺めていると彼女はそう言った。彼女の顔を見ると、ニヤニヤと笑って「分かりやすいね」と楽しそうだ。
「…うん、ずっと大好き」
「恋する女の子は可愛いね」
彼女は私に抱き着いて来て、可愛い可愛いと連呼していたので、恥ずかしいからやめてよと言いながらも私も彼女の腕に手を回して、笑い合った。
フと視線を感じたような気がしたので、視線のする方へ目を向けると、場地が頬杖を付きながら私たちを見ていた。目が合うと、彼は良かったなと言いだけに目を細めて口元を緩めた。
場地はいつも、笑う時は豪快に大口を開けてゲラゲラと笑うか、八重歯を覗かすようにニッと太陽のような笑顔を見せるのだが、今日のソレは今までにない表情だった。私の知らない笑い方に、胸がトクンと鳴る。
妙に恥ずかしくなってしまって、慌てて視線を逸らした。逸らしても、この高鳴る鼓動はいつまで経っても治まる事はなかった。
新しい友達できるかな。部活はなににしようかな。なんて、色々な事に胸を弾ませる。
小学校とは違う事を学べたり、沢山の経験が出来る中学に不安と期待を胸にまだ真新しい、パリパリの制服に腕を通す。着慣れないセーラー服に身を包んだ自分の姿を鏡で見て、やっぱり、少しだけ大人の仲間入りした気分になった。
この三年間で身長が伸びるだろうと想定して、規定の膝上より少し長めの丈のスカートを翻して、頬を緩ませる。きっと、三年生になる頃にはスカートも短くなっている自分の姿を想像して、更に胸が弾んだ。
小学校の時とは違う通学路を歩き、これから毎日この新しい道を歩いていく。そんな些細な事が無性に楽しかった。
ゆったりとしたペースでのんびりと桜並木を満喫しながら歩いていると、後ろから走っているような軽快な足音が聞こえ、その音は徐々に近くなって来る。振り向こうとした瞬間に後頭部にバシッという音ともに衝撃が走った。
「なんで先に行ってんだよ。オマエが起こしに来ねぇと遅刻すんだろーが」
近付いて来る足音で何となくだけれど、誰かは想像は付いていたが、その声で確信へと変わった。
「珍しいね。場地が自分で起きて来るなんて。さては、お母さんに叩き起されたでしょ?」
そう言いながら、振り向けば、彼は全速力で走って来たのか、額に薄らと汗を浮かべて頬が桜の花弁のように薄ピンクに染まっていた。
私と場地は幼馴染だ。近所に住んでいて物心付いた頃からずっと一緒にいた。出会いはどうだったとか、何をきっかけに仲良くなったのかもよく覚えていない。
覚えていないくらいの幼い頃からずっと一緒で何をするのにも一緒に居た。
私の隣には彼が、彼の隣には私が居る。それが当たり前になっていた。
さっきの「なんで先に行ってんだよ」という言葉は、中学生になっても、この関係は変わらないという表れで、本当は嬉しかった。私だけではなく、場地もそれが当たり前になっている事が分かって、嬉しかった。
「見ろよ、ココ。赤くなってねぇ?」
ココと指差したのは、右頬。その薄ピンク色は走って来た事によって、火照った色ではなかったようだ。本当にお母さんにぶっ叩かれて起こされたらしい。
寝起きがすこぶる悪い場地を起こすのは容易では無い。昔はよく、場地のお母さんが叩き起していたのだが、小学校の中学年になった頃からは、その日課は私の担当になった。
「いい加減、自分で起きれるようになりなよ」
「いつも、朝起きっと目覚ましぶっ壊れてんだよ」
「場地が壊してるんでしょ」
「壊してねーよ」
5年生くらいの時だったと思う。私たちが学校で喧嘩して、仲直りする事なくお互い家に帰った時、場地は次の日の朝私が起こしに来ないと思ったのか、ちゃんと目覚ましをセットして寝ていた。私は、習慣だったので躊躇いもなく場地を起こしに行った。部屋に入った途端に目覚ましのベルの音が鳴り響いた。
珍しい事もあるもんだと感心していたのも束の間、布団の中から手が伸びて来て目覚ましを掴んだと思ったら、そのまま思いっきり壁に投げ付けた。ガシャンと豪快な音を立てて、無惨に床に転げ落ちた壊れた目覚まし時計が何だか、悲しそうに見えた。
「相変わらず、バカだねぇ」
「あ?バカはオマエだろ」
これも、いつも通りのやり取りだ。何一つ変わらない私たちに、心がほっこりする感覚がして胸をじんわりと温かくさせた。
今日から通う事になる、中学校の門を二人並んでくぐる。そのまま、昇降口へと向かった。
昇降口には、自分と同じようにまだ新しい制服を着た人達で溢れ返っていた。
「邪魔くせぇな。何でバカみてぇに一箇所に集まってんだぁ?」
「あそこにクラス表が出てるみたいだよ」
張り出されている掲示板の周りには、緊張気味な表情をしている人や友達と一緒に笑い合っている人、友達とクラスが別れてしまったのか悲しんでいる人など様々な感情が渦巻いていた。
クラスなんてどこでもいい。なんて、言える程大人ではない。もちろん、仲良しな友達と一緒がいいし、場地と同じクラスになりたいとも思う。少し緊張しながら、張り出されているクラス表を見て自分の名前、藤堂 明日香と場地圭介の文字を必死に探した。
だけれど、直ぐには見つからなくて焦燥感に駆られてしまう。すると、隣で「お!」という声が聞こえた。
「オレと明日香、同じクラスじゃん」
「えっ、本当!?」
「ほら、三組」
場地の指差す方向を見ると、探していた二つの名前を見つけた。嬉しくて抱き着きたくなる衝動をグッと抑えたが、やっぱり嬉しくて、満面の笑みを彼に向けて「やったね!」と両手の平を場地に向けると、彼も私と同じように満面の笑みで返して掌を合わせて、乾いた音を鳴らした。
下駄箱で靴から上履きへと履き替えて、教室へと向かう。一年三組の札が付いているドアを開けて、黒板に張り出されている座席表を確認してそれぞれの席へと座った。
場地とは少し席が離れてしまったのを残念に思っていると、後ろから背中をちょんちょんとつつかれたので振り返ると、垂れ目で笑顔の可愛い女の子が話しかけてくれた。軽くお互いの自己紹介を済ませると、彼女は内緒話をするように声を潜めて顔を寄せた。
「ねぇねぇ、さっき一緒に入ってきた人彼氏?」
「ううん、ただの幼馴染だよ」
この言葉は何十回と言ってきただろう。小学校の時も「オマエら付き合ってんの?」と幾度も言われて来た。その度に返すのは「幼馴染」という言葉。
「そうなの?でも、カッコいいね!モテたりしてたでしょ?」
「いやいや場地は全くモテてなかったよ」
「そうなの?」
「色々ぶっ飛んでるからねぇ」
「男の子はちょっとぶっ飛んでる方が魅力的じゃない?」
「場地の場合はちょっとじゃないから…」
「例えば?」
「眠いってだけですれ違った人殴るし、腹減ったからって車にガソリン撒いて火付けたり…」
まだまだ出てくる、場地のぶっ飛びエピソード。だけど、途中で気が付いてしまった。彼女の顔が引き攣っている事に。
「それ藤堂さんも一緒にやってたりするの…?」
この手の話は、普通の女の子はドン引きしてしまう事を知る。場地が仲良くしている人達にはこの手のエピソードは爆笑の渦を誘うのだが、普通の人間なら引いてしまうらしい。
このままでは、私までヤバい奴だと思われて、女の子の友達が一人も出来なくなるかもしれない。どう弁解しようかと考えていると誰が私の頭を掴んだ。
「やっぱ、オマエ馬鹿だろ」
振り返ると、場地が怪訝そうな顔をして私の頭を掴んでいた。場地の事をペラペラと勝手に話してたのが聞こえていたらしい。
声のトーンで呆れているような怒っているのは感じ取れた。後ろの席の子も同じ事を感じ取ったのか、恐怖の顔色が伺え、ビクビクした視線を場地に向けていた。
「コイツ、馬鹿だけど良い奴だぜ」
場地は八重歯を覗かしてニッと笑い、そう言い残して自分の席へと戻って行ってしまった。
お互い無言になっていると、彼女はゆっくりと私にもう一度笑顔を向けてくれた。
「場地くん、優しい人だね」
「うん。自慢の幼馴染なんだ」
私たちは、また笑い合った。
場地のおかげで誤解も解け、無事に新しい女の子の友達も出来そうだ。
こういう、さり気ない優しさに昔から何度助けられただろう。そんな優しさが昔から私は大好きで、大好きで仕方なかった。
「好きなんだね、場地くんの事」
場地の事を眺めていると彼女はそう言った。彼女の顔を見ると、ニヤニヤと笑って「分かりやすいね」と楽しそうだ。
「…うん、ずっと大好き」
「恋する女の子は可愛いね」
彼女は私に抱き着いて来て、可愛い可愛いと連呼していたので、恥ずかしいからやめてよと言いながらも私も彼女の腕に手を回して、笑い合った。
フと視線を感じたような気がしたので、視線のする方へ目を向けると、場地が頬杖を付きながら私たちを見ていた。目が合うと、彼は良かったなと言いだけに目を細めて口元を緩めた。
場地はいつも、笑う時は豪快に大口を開けてゲラゲラと笑うか、八重歯を覗かすようにニッと太陽のような笑顔を見せるのだが、今日のソレは今までにない表情だった。私の知らない笑い方に、胸がトクンと鳴る。
妙に恥ずかしくなってしまって、慌てて視線を逸らした。逸らしても、この高鳴る鼓動はいつまで経っても治まる事はなかった。
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