勿忘草
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二人の喧嘩は収まる事はなく、二日が経過した。だけれど、その日の夕方、エマが突然家にやって来て、二人が仲直りしたと告げた。
気付いたら、二人は普通に話していて、何を聞いても「忘れた」と口を揃えて言うだけだったらしい。
場地が仲を取り持ってくれたのかと思い、すぐに場地に連絡して聞いても「オレじゃねぇ」と返って来た。誰がどうやって二人を仲直りさせたのか、または勝手に仲直りに至ったのかは謎のまま、終わりを告げた。
もし、誰かが仲裁に入り仲直りさせてくれていたのだとしたら、東卍の隊長クラスでもあの二人の喧嘩は止められないと言うのに、どうやって止めたのだろう。気にはなるが、とにかく感謝の気持ちでいっぱいだ。
二人が元に戻った事で東卍の内部争いも収まるとエマと二人で喜びを分かち合った。
そんな二人の喧嘩な話も逸れて、今はいつも通りの恋愛トークへと移り変わった頃だった。
「ねぇ、明日香は八月三日の武蔵祭り行くの?」
「あ、そう言えば、もうそんな時期かぁ」
「場地を誘って行きなよー!」
「行ってくれるかなぁ。人混み超嫌いだし」
「明日香の浴衣姿見たいが為に来るって!」
「いやいや、そんな単純な理由で来ないでしょ」
「どう考えても、場地は単純でしょ」
「エマは、ドラケンと行くの?」
「うん、誘ったよ!新しい浴衣も買ったし、今度こそドラケンに可愛いって言ってもらうの!」
そう意気込んでいるエマは凄く可愛いくて、綺麗だった。妹のような存在のエマと大事な友達のドラケンが上手く行ったら、私にとってもこれ以上の幸せはないだろう。
やる気満々のエマを見て、以前にドラケンが今はマイキーの世話で手一杯と言っていたのは、墓場まで持って行こうと決めた。
それにしても、武蔵祭りには中学に入ってからは一度も行っていない。一年の夏は場地を誘ったのだが「暑い、人多い、ダルい」のトリプルパンチで見事に砕け散った。二年の夏は去年の事を引きづっていた事もあり誘いづらく、武蔵祭りの話題すら出さなかった。
今年は、状況や関係性も大きく変わったので、少しの期待を持ち、誘う事に決めた。
もし行くとの返事貰えたら、浴衣はどうしようか。小学生の時に買った浴衣なんて小さいだろうし、新しく買おうか。だなんて、一人で考えにふけていると、エマに「明日香?意識どっか行ってない?」と目の前で手をヒラヒラと振られて、我に返った。
「あ、ごめん。浴衣とか色々考えてた」
「今から、誘って来たら?」
「え、今から!?」
「善は急げって言うでしょ?」
「そうだね、エマの言う通りだ。今から、場地を誘って来る」
「うん、健闘を祈る!」
ピシッと敬礼したエマに見送られ、戦場に向かうような面持ちで団地へと向かった。
団地へと着けば、場地と千冬が階段の踊り場で胡座をかいて話し込んでいるのが見えたので、二人の元へ駆け寄り、名前を呼ぶと二人は同時に私の方を見た。
「あ、明日香さん!」
「おー、どーした?」
どうしたと用件を聞いてくれたので、早速本題の武蔵祭りに誘おうかと思ったのだが、千冬も一緒にいるのに場地だけ誘うのも、何だか感じ悪い気もしたので、二人を武蔵祭りへと誘ってみた。しかし、千冬は大慌てで、顔の目の前で手を横にブンブンと振って「オレはいいですよ!」と断られてしまった。
「他に予定でもあるの?」
「いや、ないですけど…」
「じゃあ、一緒に行こうよ」
「いえ!お二人の邪魔をするワケにはいかないので」
「全然邪魔なんかじゃないよ。千冬が居たら嬉しいし。ね、場地?」
場地は「オレは行く前提かよ」と文句を漏らしていたが、前のようにトリプルパンチで断って来なかったので、これはオッケーと見て良さそうだ。心の中でガッツポーズをしながら、千冬を見ると、未だに戸惑ったような表情を浮かべていた。場地が「オマエも来いよ」と言えば、千冬はパッと明るい表情を見せた。
「本当に良いんですか?」
「うん。一緒に花火見よ!」
「はい!」
千冬は嬉しそうに頷いた。二人で行くのも楽しいが、三人でお祭りに行くのも絶対楽しい。
気分が上がった私は「みんなで浴衣で行こう!」と提案したが、速攻で二人から「嫌だ」と却下されてしまった。
鎖骨辺りまで伸びた漆黒の髪を結って、浴衣を着たら絶対にカッコイイと思う。そんな姿を見たかったので、少し残念で肩を落とした。
でも、一昨年は断られているので、大きな進歩だと思い直し、お祭りに一緒に行けるだけ幸せだ。
自然と緩んでしまう口元を引き締めるのは難しかった。
*
八月三日、武蔵祭り当日がやって来た。
渋谷はいつも賑やかだが、今日はいつも以上の賑やかさと熱気を帯びていた。辺りは、男女問わず、浴衣を着ている人が大勢いた。
私もその一人。新調した紺色の生地に紫陽花柄の浴衣に身を包み、迎えに来てくれるという、場地を待っている。
白地の浴衣も可愛いなと迷ったが、大人っぽい場地に合わせて綺麗系に見せたかったので、紺色を選んだ。
場地は浴衣姿を見て何か言ってくれるかな。なんて、淡い期待をしてしまっているせいで妙に緊張をしてしまっている。
待ち合わせの時間にぴったりに現れた場地に手を振ると、片手だけを上げて返事を返してくれた。目の前までやって来た彼に裾を掴みながら
「浴衣、着ちゃった」と見せびらかしてみるが、反応は「ふーん」と言う、どうでも良さそうな相槌だけだった。
「早く千冬ンとこ行こーぜ」
「…はーい」
千冬とは武蔵神社で待ち合わせをしているので、武蔵神社へと歩みを進める。
浴衣のせいで歩幅が小さくなっているので、いつもみたいに早くは歩けない。その事は分かってくれているのか、いつもよりかは場地も歩くペースがゆっくりだった。
場地からは何も言って貰えなかったが、その気遣いが嬉しくて頬が緩んでしまう。欲を言えば、もちろん浴衣姿を褒めて貰いたかったけれど。
浴衣とかに興味ないのかと考えていると、前に言われた「可愛いと思った事がない」と言うセリフが蘇ってきた。
浴衣に興味が無いとかではなく、あれは本気だったのではないかと思い始めてきた。つまり、浴衣云々ではなく、私自身に問題があるのだ。
確かに私は突飛した美人でもないし、エマみたいに可愛いわけでもなく、本当に平凡な顔をしていると思う。
平凡なりに可愛くみえるようにと慣れないメイクをしてみたり、美容院を予約してヘアセットして貰ったりと色々準備はして来た。
だけど、浴衣マジックは発動されなかった。
全ての努力が水の泡になったような気がした。
それにしたって、嘘でも良いから、可愛いくらい言ってくれたって…と思った所で、この場地が「可愛いよ」なんて言ったら、本気で心配してしまう。頭を。
前もそんな事を考えたような気がして、場地はこのくらい冷めてる方が良いのだと自分を納得させた。
自己完結させた所で、武蔵神社へと着き、既に来ていた千冬と合流した。
千冬は私を見た瞬間に満面の笑みを浮かべて「浴衣、いいッスね」と言ってくれた。
「本当?」
「はい!似合ってます!」
「ありがとう、嬉しい」
「場地さんもそう思いますよね?」
「普通だろ、普通」
「え、普通…?」
場地の言葉に千冬の笑顔は固まり、困惑した表情で私を見た。付き合っているからって「オレの女、マジで可愛い」なんて言うタイプではない事は、私も身をもって知りました。
「えっと…何を食べます?」
微妙な表情を浮かべている私に気を遣ったのか、千冬が話題を逸らしてくれた。気遣いに感謝をしつつ、何を食べようかと辺りにある屋台を見渡す。
「あ、かき氷食べたいな。後は、りんご飴とチョコバナナと焼きそばとじゃがバタとお好み焼きと~」
「オマエ、そんなに食うのかよ」
「みんなで食べようって意味だよ!」
「ビックリした。明日香さんが全部食べるのかと。でも、いっぱい食べないとパワー付きませんもんね。オレも三ツ谷くんに勝てるようにパワー付けないと」
「は?」
「ウソです、冗談です」
冗談を言って、楽しそうに声を上げて笑う千冬はいつもよりテンションが高くて、浮かれているようだった。でも、その気持ちは私も充分に分かる。私もかなり浮かれている。
それに比べ場地は、至って静かだ。いつもなら、もっとうるさいハズなのに。もしかしたら、人混みにうんざりしてるのかと思い、場地の方を見ると、ケータイを開いて睨み付けるような険しい表情で画面を見つめていた。
「どうしたの?」
「東卍全員、招集かかった」
「え、今ですか?」
「あぁ。一旦、帰って特服に着替えねぇと」
「そうッスね。今すぐ行かないと」
「いや、オマエは残れ」
「え、でも、招集は全員ですよね?」
「明日香とここに残ってくれ」
「いいよ、私もこのまま家に帰るよ。気にしないで二人は集まり行って」
何があったのかは分からないが、場地の顔を見る限り、何か良くない事が起っているのはすぐに分かった。場地が東卍を一番に考え、大事にしている事はよく知っているので、仕方の無い事だと思うし、東卍を優先して欲しいとも思う。
「さっさと、終わらしてすぐ戻ってくる」
「え、でも…」
「勿体ねぇだろ、その格好」
「その格好って…浴衣?」
「楽しみにしてたんだろ。すぐに戻るから待ってろ」
「…うん」
「千冬ぅ、オレが戻るまで明日香の事、頼む」
「っはい!」
千冬の返事を聞くと同時に場地は人混みを器用に避けながら走り去っていった。
人が溢れ返っているので、すぐに人の波に飲み込まれたかのように場地の背中は見えなくなってしまった。
「千冬、本当に行かなくて大丈夫?」
「はい、隊長命令ですから」
気を使ってくれたのか、そう言って笑ってくれる千冬に「ありがとう」と言えば、千冬は静かに頷いた。
気付いたら、二人は普通に話していて、何を聞いても「忘れた」と口を揃えて言うだけだったらしい。
場地が仲を取り持ってくれたのかと思い、すぐに場地に連絡して聞いても「オレじゃねぇ」と返って来た。誰がどうやって二人を仲直りさせたのか、または勝手に仲直りに至ったのかは謎のまま、終わりを告げた。
もし、誰かが仲裁に入り仲直りさせてくれていたのだとしたら、東卍の隊長クラスでもあの二人の喧嘩は止められないと言うのに、どうやって止めたのだろう。気にはなるが、とにかく感謝の気持ちでいっぱいだ。
二人が元に戻った事で東卍の内部争いも収まるとエマと二人で喜びを分かち合った。
そんな二人の喧嘩な話も逸れて、今はいつも通りの恋愛トークへと移り変わった頃だった。
「ねぇ、明日香は八月三日の武蔵祭り行くの?」
「あ、そう言えば、もうそんな時期かぁ」
「場地を誘って行きなよー!」
「行ってくれるかなぁ。人混み超嫌いだし」
「明日香の浴衣姿見たいが為に来るって!」
「いやいや、そんな単純な理由で来ないでしょ」
「どう考えても、場地は単純でしょ」
「エマは、ドラケンと行くの?」
「うん、誘ったよ!新しい浴衣も買ったし、今度こそドラケンに可愛いって言ってもらうの!」
そう意気込んでいるエマは凄く可愛いくて、綺麗だった。妹のような存在のエマと大事な友達のドラケンが上手く行ったら、私にとってもこれ以上の幸せはないだろう。
やる気満々のエマを見て、以前にドラケンが今はマイキーの世話で手一杯と言っていたのは、墓場まで持って行こうと決めた。
それにしても、武蔵祭りには中学に入ってからは一度も行っていない。一年の夏は場地を誘ったのだが「暑い、人多い、ダルい」のトリプルパンチで見事に砕け散った。二年の夏は去年の事を引きづっていた事もあり誘いづらく、武蔵祭りの話題すら出さなかった。
今年は、状況や関係性も大きく変わったので、少しの期待を持ち、誘う事に決めた。
もし行くとの返事貰えたら、浴衣はどうしようか。小学生の時に買った浴衣なんて小さいだろうし、新しく買おうか。だなんて、一人で考えにふけていると、エマに「明日香?意識どっか行ってない?」と目の前で手をヒラヒラと振られて、我に返った。
「あ、ごめん。浴衣とか色々考えてた」
「今から、誘って来たら?」
「え、今から!?」
「善は急げって言うでしょ?」
「そうだね、エマの言う通りだ。今から、場地を誘って来る」
「うん、健闘を祈る!」
ピシッと敬礼したエマに見送られ、戦場に向かうような面持ちで団地へと向かった。
団地へと着けば、場地と千冬が階段の踊り場で胡座をかいて話し込んでいるのが見えたので、二人の元へ駆け寄り、名前を呼ぶと二人は同時に私の方を見た。
「あ、明日香さん!」
「おー、どーした?」
どうしたと用件を聞いてくれたので、早速本題の武蔵祭りに誘おうかと思ったのだが、千冬も一緒にいるのに場地だけ誘うのも、何だか感じ悪い気もしたので、二人を武蔵祭りへと誘ってみた。しかし、千冬は大慌てで、顔の目の前で手を横にブンブンと振って「オレはいいですよ!」と断られてしまった。
「他に予定でもあるの?」
「いや、ないですけど…」
「じゃあ、一緒に行こうよ」
「いえ!お二人の邪魔をするワケにはいかないので」
「全然邪魔なんかじゃないよ。千冬が居たら嬉しいし。ね、場地?」
場地は「オレは行く前提かよ」と文句を漏らしていたが、前のようにトリプルパンチで断って来なかったので、これはオッケーと見て良さそうだ。心の中でガッツポーズをしながら、千冬を見ると、未だに戸惑ったような表情を浮かべていた。場地が「オマエも来いよ」と言えば、千冬はパッと明るい表情を見せた。
「本当に良いんですか?」
「うん。一緒に花火見よ!」
「はい!」
千冬は嬉しそうに頷いた。二人で行くのも楽しいが、三人でお祭りに行くのも絶対楽しい。
気分が上がった私は「みんなで浴衣で行こう!」と提案したが、速攻で二人から「嫌だ」と却下されてしまった。
鎖骨辺りまで伸びた漆黒の髪を結って、浴衣を着たら絶対にカッコイイと思う。そんな姿を見たかったので、少し残念で肩を落とした。
でも、一昨年は断られているので、大きな進歩だと思い直し、お祭りに一緒に行けるだけ幸せだ。
自然と緩んでしまう口元を引き締めるのは難しかった。
*
八月三日、武蔵祭り当日がやって来た。
渋谷はいつも賑やかだが、今日はいつも以上の賑やかさと熱気を帯びていた。辺りは、男女問わず、浴衣を着ている人が大勢いた。
私もその一人。新調した紺色の生地に紫陽花柄の浴衣に身を包み、迎えに来てくれるという、場地を待っている。
白地の浴衣も可愛いなと迷ったが、大人っぽい場地に合わせて綺麗系に見せたかったので、紺色を選んだ。
場地は浴衣姿を見て何か言ってくれるかな。なんて、淡い期待をしてしまっているせいで妙に緊張をしてしまっている。
待ち合わせの時間にぴったりに現れた場地に手を振ると、片手だけを上げて返事を返してくれた。目の前までやって来た彼に裾を掴みながら
「浴衣、着ちゃった」と見せびらかしてみるが、反応は「ふーん」と言う、どうでも良さそうな相槌だけだった。
「早く千冬ンとこ行こーぜ」
「…はーい」
千冬とは武蔵神社で待ち合わせをしているので、武蔵神社へと歩みを進める。
浴衣のせいで歩幅が小さくなっているので、いつもみたいに早くは歩けない。その事は分かってくれているのか、いつもよりかは場地も歩くペースがゆっくりだった。
場地からは何も言って貰えなかったが、その気遣いが嬉しくて頬が緩んでしまう。欲を言えば、もちろん浴衣姿を褒めて貰いたかったけれど。
浴衣とかに興味ないのかと考えていると、前に言われた「可愛いと思った事がない」と言うセリフが蘇ってきた。
浴衣に興味が無いとかではなく、あれは本気だったのではないかと思い始めてきた。つまり、浴衣云々ではなく、私自身に問題があるのだ。
確かに私は突飛した美人でもないし、エマみたいに可愛いわけでもなく、本当に平凡な顔をしていると思う。
平凡なりに可愛くみえるようにと慣れないメイクをしてみたり、美容院を予約してヘアセットして貰ったりと色々準備はして来た。
だけど、浴衣マジックは発動されなかった。
全ての努力が水の泡になったような気がした。
それにしたって、嘘でも良いから、可愛いくらい言ってくれたって…と思った所で、この場地が「可愛いよ」なんて言ったら、本気で心配してしまう。頭を。
前もそんな事を考えたような気がして、場地はこのくらい冷めてる方が良いのだと自分を納得させた。
自己完結させた所で、武蔵神社へと着き、既に来ていた千冬と合流した。
千冬は私を見た瞬間に満面の笑みを浮かべて「浴衣、いいッスね」と言ってくれた。
「本当?」
「はい!似合ってます!」
「ありがとう、嬉しい」
「場地さんもそう思いますよね?」
「普通だろ、普通」
「え、普通…?」
場地の言葉に千冬の笑顔は固まり、困惑した表情で私を見た。付き合っているからって「オレの女、マジで可愛い」なんて言うタイプではない事は、私も身をもって知りました。
「えっと…何を食べます?」
微妙な表情を浮かべている私に気を遣ったのか、千冬が話題を逸らしてくれた。気遣いに感謝をしつつ、何を食べようかと辺りにある屋台を見渡す。
「あ、かき氷食べたいな。後は、りんご飴とチョコバナナと焼きそばとじゃがバタとお好み焼きと~」
「オマエ、そんなに食うのかよ」
「みんなで食べようって意味だよ!」
「ビックリした。明日香さんが全部食べるのかと。でも、いっぱい食べないとパワー付きませんもんね。オレも三ツ谷くんに勝てるようにパワー付けないと」
「は?」
「ウソです、冗談です」
冗談を言って、楽しそうに声を上げて笑う千冬はいつもよりテンションが高くて、浮かれているようだった。でも、その気持ちは私も充分に分かる。私もかなり浮かれている。
それに比べ場地は、至って静かだ。いつもなら、もっとうるさいハズなのに。もしかしたら、人混みにうんざりしてるのかと思い、場地の方を見ると、ケータイを開いて睨み付けるような険しい表情で画面を見つめていた。
「どうしたの?」
「東卍全員、招集かかった」
「え、今ですか?」
「あぁ。一旦、帰って特服に着替えねぇと」
「そうッスね。今すぐ行かないと」
「いや、オマエは残れ」
「え、でも、招集は全員ですよね?」
「明日香とここに残ってくれ」
「いいよ、私もこのまま家に帰るよ。気にしないで二人は集まり行って」
何があったのかは分からないが、場地の顔を見る限り、何か良くない事が起っているのはすぐに分かった。場地が東卍を一番に考え、大事にしている事はよく知っているので、仕方の無い事だと思うし、東卍を優先して欲しいとも思う。
「さっさと、終わらしてすぐ戻ってくる」
「え、でも…」
「勿体ねぇだろ、その格好」
「その格好って…浴衣?」
「楽しみにしてたんだろ。すぐに戻るから待ってろ」
「…うん」
「千冬ぅ、オレが戻るまで明日香の事、頼む」
「っはい!」
千冬の返事を聞くと同時に場地は人混みを器用に避けながら走り去っていった。
人が溢れ返っているので、すぐに人の波に飲み込まれたかのように場地の背中は見えなくなってしまった。
「千冬、本当に行かなくて大丈夫?」
「はい、隊長命令ですから」
気を使ってくれたのか、そう言って笑ってくれる千冬に「ありがとう」と言えば、千冬は静かに頷いた。