勿忘草
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通話を切った場地にどうしたのか聞くと彼は青い顔で「帰んぞ」と焦ったように言った。
「詳しくは分かんねぇが、パーが捕まったらしい」
さっきの言葉は私の聞き間違いなんかではなく、事実で嫌な感覚が胸の辺りから喉元までせり上がってきた。頭がクラクラして立っているのがやっとだ。パーちんが捕まった、その言葉を理解したくなくて身体が拒否しているようだった。
「行くぞ」
「…うん」
場地に連れられ動物園を出て、バイクに駆け足で乗り込み、いつもならゆっくりと走り出すが今日はすぐに加速した。
行きの一時間弱はあっという間だったのに、帰りの一時間は酷く長く感じて、颯爽と高速道路を走り抜けているはずなのに、やけに遅く見えた。
やっと、高速道路を下りて渋谷に入り、真っ先に向かったのはマイキーのお家だった。バイクを門扉の前に停めて、門をくぐり、インターフォンを押すと、しばらくしてから玄関が開いて顔を覗かしたのは、マイキーではなくエマだった。
「明日香…場地…」
エマは私たちを見るなり、大粒の涙をボロボロと零しながら、駆け寄って来て私に抱きついた。彼女の背中を擦りながら落ち着くのを待ち、すすり泣く声が治まってきた頃を見計らって顔を覗き込んだ。
「エマ、大丈夫?」
「ねぇ、どうしたらいいのぉ…?」
「何があったの?」
「ぱーちんの事でマイキーとドラケンが喧嘩しちゃってて…」
「えっ?なんであの二人が喧嘩してるの!?」
「オイ、エマ。マイキーはどこだ」
「部屋にいると思う…」
場地は「先に行ってる」と言い残し、母屋から離れた所にあるマイキーの部屋へと向かって行ってしまった。
また泣きじゃくってしまったエマの頭を撫でながら落ち着くのを待っていると、彼女はポツリ、ポツリと話し始めた。
エマが言うには、愛美愛主との抗争が決まり、その事について話し合いをしている間に愛美愛主が乗り込んで来たらしく、喧嘩が勃発した。
そこで、パーちんが親友の仇だと言って総長の長内をナイフで刺してしまい、パーちんは自首すると言い、捕まってしまった。
その事が発端で二人は喧嘩を始めてしまったらしい。
そして、その喧嘩が東卍に相当な影響を及ぼしているらしく、ドラケン派とマイキー派に分かれ、東卍が二つに割れてしまうほどの状況に陥ってしまっているとの事。何故、二人がパーちんが捕まってしまった後、喧嘩しているのかはエマには分からないらしい。
「エマ、泣かないで。二人の仲直りの解決策を見つける為に、マイキーの話聞きに行ってくるね」
「仲直り出来るかなぁ…?」
「きっと大丈夫。私も場地も最善を尽くすよ」
「…うん、ありがと」
泣き止んだエマは弱々しく小さく笑った。そんな彼女をもう一度、優しく抱き締めてから、マイキーの部屋へと向かった。
マイキーの部屋の前でノックをしてから、ドアを開けるとマイキーと場地が向かい合って、座りながら話していた。
「ここ座れ」
場地が自分の隣を指差して来たので、胡座をかいている場地の隣に腰を降ろす。
マイキーから話を聞くと、パーちんは一年以上、出て来れないらしい。
二人の喧嘩の原因は、マイキーはパーちんを無罪にさせたいと主張した一方、ドラケンはパーちんの意思を尊重するべきだと主張し、二人の意見の食い違いによる喧嘩が起きてしまったらしい。
「あのデクノボー、マジで何なんだよ」
「でも、ドラケンもパーちんの事を考えての行動でしょ?」
「だとしても、パーは大事な仲間だ。見捨てるワケにはいかねぇよ」
「それはそうだけど、ドラケンは見捨てるつもりじゃないじゃない」
「知らねー!」
「マイキーだってこのままで良いワケないと思ってるでしょ?それに、ドラケンが居ないと困るでしょ?」
「はぁ?別に困んねぇし!」
「寝ちゃった時、誰が運んでくれるの?お子様ランチの旗がない時、誰が刺してくれるの?」
「そんなの場地がやる!」
「何でオレなんだよ。自分でやれよ」
「変な意地張らないで、もう一回、ドラケンと話し合おうよ」
私がそこまで言うと、場地は私の目の前に左手を出して来て制止した。横目で黙ってろと視線を送って来たので、口を噤み、静かに場地の方へ顔を向けた。
「この後、どーすんだ。東卍は」
「何でこう上手くいかねぇんだよ。ただ、オレは…」
マイキーは、場地の問に少しだけ弱音を零したが、それ以降は言葉にしなかった。私もそんなマイキーを見てそれ以上は何も言えなくなってしまった。
マイキーの言いたい事もドラケンの言う事もどっちも理解出来る。だからこそ難しい。
マイキーの沈んだ表情を見たら、この問題には私がやすやすと首を突っ込んで良い問題ではないような気がした。
「明日香、帰るぞ」
「え、もう帰るの?」
「いーから。マイキー、オレら帰るわ」
マイキーは何も返事はしなかったが、場地は私の腕を掴んで立ち上がらせ、そのまま腕を引っ張りながらマイキーの部屋から連れ出した。
難しい表情をした場地を見ると、今はなんだか話しかけてはいけないような気がして、敷地の外に出るまではお互い無言で歩いた。外に出た瞬間に場地は小さく溜息を吐いて表情を緩めたので、今なら話しかけてもいいように思えたので、なぜ解決していないのに帰ったのかと問い掛けた。
「頭に血ィ上っちまってるし、今のアイツに何言っても無理だろ」
「そうかもしれないけど…」
「今はお互い、冷静になる時間が必要なんじゃねぇの?」
「でも、その間にもっと拗れて、みんながバラバラになったりしたら…!」
「オレがそんな事にはさせねぇよ」
そう言いきった場地の瞳は真っ直ぐで力強くて迷いなんて一切なかった。その瞳は、まるで東卍の希望のようなそんな灯火を宿しているように見えた。
「心配すんな。マイキーもドラケンもバカじゃねぇ」
私がそうだねと小さく笑えば、場地は優しく頭を撫でてくれた。
「明日、ドラケンの所にも行ってみっか」
「そうだね。エマも心配してるし、早く仲直り出来ると良いけど…」
「ま、アイツらの喧嘩はいつもの事だし、なんとかなるだろ」
この重苦しい空気を変えようとしたのか、場地は明るい口調でそう言った。場地は東卍だけじゃなくて、いつだって私の希望の光で、いつだって彼は優しい事を知る。場地のおかげで大分、心が楽になったような気がした。
場地だって本当はパーちんの事もマイキーとドラケンの事も心配で仕方ないのに。
「場地、ありがと」
「何が」
「何となく」
「あっそ」
場地の腕に自身の腕を絡めて「さ、帰ろ」と言えば、場地は頷いてバイクの元へ向かった。
今日は両親共夜勤の日なので家に一人だから、場地が夕飯を食べに家に来る予定だったので、そのまま私の家に二人で帰った。
家に帰って来て、すぐにご飯を食べる気もしなかったので、先に部屋に戻った。
場地も色々な事が一気に起こって疲れたのか、私のベッドの上に顔からダイブして両手両足を放り投げて寝転んだ。枕に顔を埋めていたのを少しだけ顔をあげて、視線だけを私に寄越してくる。
「コレ、明日香の匂いして落ち着く…」
「ちょっと、変態っぽいから止めてくれない?」
また枕に顔を埋めて、今度はピクリとも動かなくなった。規則正しい呼吸のリズムで胸が上下しているだけだったので、すぐに寝てしまったのだと思い、起こさないようにとベッドを背にして床に腰を下ろした。
場地が起きるまでに夕飯の準備済ませておこうと頭の中で冷蔵庫にある中身を思い出して何を作ろうか考えていると、「こっち来ねぇの?」という、掠れた声が聞こえた。
場地の方を見ると、顔を横に向けて薄らと目を開けていた。こっちとはベッドの事だろう。
流石に同じベッドで寝るのはちょっと…と戸惑いながら答えあぐねていると、場地は私の腕を急に掴んだと思ったら、強引に引っ張ってベッドへと引きずり込んだ。
「何もしねぇよ…多分」
「いや、その多分って何!?」
恥ずかしさから暴れる私を他所に、場地は離す事なく、抱き締めたまま目を瞑り、寝息を立て始めた。
「ねぇ、離してから寝てよ!」
そう訴えるが私の声はもう届かないようだ。
気持ち良さそうに寝ている寝息が耳元で聞こえる。離してから寝て欲しかった。こんなの耐えられるワケがない。心臓が口から飛び出そうだ。
「バカ!本当にバカっ!」
私の声は虚しく部屋に響き渡った。
「詳しくは分かんねぇが、パーが捕まったらしい」
さっきの言葉は私の聞き間違いなんかではなく、事実で嫌な感覚が胸の辺りから喉元までせり上がってきた。頭がクラクラして立っているのがやっとだ。パーちんが捕まった、その言葉を理解したくなくて身体が拒否しているようだった。
「行くぞ」
「…うん」
場地に連れられ動物園を出て、バイクに駆け足で乗り込み、いつもならゆっくりと走り出すが今日はすぐに加速した。
行きの一時間弱はあっという間だったのに、帰りの一時間は酷く長く感じて、颯爽と高速道路を走り抜けているはずなのに、やけに遅く見えた。
やっと、高速道路を下りて渋谷に入り、真っ先に向かったのはマイキーのお家だった。バイクを門扉の前に停めて、門をくぐり、インターフォンを押すと、しばらくしてから玄関が開いて顔を覗かしたのは、マイキーではなくエマだった。
「明日香…場地…」
エマは私たちを見るなり、大粒の涙をボロボロと零しながら、駆け寄って来て私に抱きついた。彼女の背中を擦りながら落ち着くのを待ち、すすり泣く声が治まってきた頃を見計らって顔を覗き込んだ。
「エマ、大丈夫?」
「ねぇ、どうしたらいいのぉ…?」
「何があったの?」
「ぱーちんの事でマイキーとドラケンが喧嘩しちゃってて…」
「えっ?なんであの二人が喧嘩してるの!?」
「オイ、エマ。マイキーはどこだ」
「部屋にいると思う…」
場地は「先に行ってる」と言い残し、母屋から離れた所にあるマイキーの部屋へと向かって行ってしまった。
また泣きじゃくってしまったエマの頭を撫でながら落ち着くのを待っていると、彼女はポツリ、ポツリと話し始めた。
エマが言うには、愛美愛主との抗争が決まり、その事について話し合いをしている間に愛美愛主が乗り込んで来たらしく、喧嘩が勃発した。
そこで、パーちんが親友の仇だと言って総長の長内をナイフで刺してしまい、パーちんは自首すると言い、捕まってしまった。
その事が発端で二人は喧嘩を始めてしまったらしい。
そして、その喧嘩が東卍に相当な影響を及ぼしているらしく、ドラケン派とマイキー派に分かれ、東卍が二つに割れてしまうほどの状況に陥ってしまっているとの事。何故、二人がパーちんが捕まってしまった後、喧嘩しているのかはエマには分からないらしい。
「エマ、泣かないで。二人の仲直りの解決策を見つける為に、マイキーの話聞きに行ってくるね」
「仲直り出来るかなぁ…?」
「きっと大丈夫。私も場地も最善を尽くすよ」
「…うん、ありがと」
泣き止んだエマは弱々しく小さく笑った。そんな彼女をもう一度、優しく抱き締めてから、マイキーの部屋へと向かった。
マイキーの部屋の前でノックをしてから、ドアを開けるとマイキーと場地が向かい合って、座りながら話していた。
「ここ座れ」
場地が自分の隣を指差して来たので、胡座をかいている場地の隣に腰を降ろす。
マイキーから話を聞くと、パーちんは一年以上、出て来れないらしい。
二人の喧嘩の原因は、マイキーはパーちんを無罪にさせたいと主張した一方、ドラケンはパーちんの意思を尊重するべきだと主張し、二人の意見の食い違いによる喧嘩が起きてしまったらしい。
「あのデクノボー、マジで何なんだよ」
「でも、ドラケンもパーちんの事を考えての行動でしょ?」
「だとしても、パーは大事な仲間だ。見捨てるワケにはいかねぇよ」
「それはそうだけど、ドラケンは見捨てるつもりじゃないじゃない」
「知らねー!」
「マイキーだってこのままで良いワケないと思ってるでしょ?それに、ドラケンが居ないと困るでしょ?」
「はぁ?別に困んねぇし!」
「寝ちゃった時、誰が運んでくれるの?お子様ランチの旗がない時、誰が刺してくれるの?」
「そんなの場地がやる!」
「何でオレなんだよ。自分でやれよ」
「変な意地張らないで、もう一回、ドラケンと話し合おうよ」
私がそこまで言うと、場地は私の目の前に左手を出して来て制止した。横目で黙ってろと視線を送って来たので、口を噤み、静かに場地の方へ顔を向けた。
「この後、どーすんだ。東卍は」
「何でこう上手くいかねぇんだよ。ただ、オレは…」
マイキーは、場地の問に少しだけ弱音を零したが、それ以降は言葉にしなかった。私もそんなマイキーを見てそれ以上は何も言えなくなってしまった。
マイキーの言いたい事もドラケンの言う事もどっちも理解出来る。だからこそ難しい。
マイキーの沈んだ表情を見たら、この問題には私がやすやすと首を突っ込んで良い問題ではないような気がした。
「明日香、帰るぞ」
「え、もう帰るの?」
「いーから。マイキー、オレら帰るわ」
マイキーは何も返事はしなかったが、場地は私の腕を掴んで立ち上がらせ、そのまま腕を引っ張りながらマイキーの部屋から連れ出した。
難しい表情をした場地を見ると、今はなんだか話しかけてはいけないような気がして、敷地の外に出るまではお互い無言で歩いた。外に出た瞬間に場地は小さく溜息を吐いて表情を緩めたので、今なら話しかけてもいいように思えたので、なぜ解決していないのに帰ったのかと問い掛けた。
「頭に血ィ上っちまってるし、今のアイツに何言っても無理だろ」
「そうかもしれないけど…」
「今はお互い、冷静になる時間が必要なんじゃねぇの?」
「でも、その間にもっと拗れて、みんながバラバラになったりしたら…!」
「オレがそんな事にはさせねぇよ」
そう言いきった場地の瞳は真っ直ぐで力強くて迷いなんて一切なかった。その瞳は、まるで東卍の希望のようなそんな灯火を宿しているように見えた。
「心配すんな。マイキーもドラケンもバカじゃねぇ」
私がそうだねと小さく笑えば、場地は優しく頭を撫でてくれた。
「明日、ドラケンの所にも行ってみっか」
「そうだね。エマも心配してるし、早く仲直り出来ると良いけど…」
「ま、アイツらの喧嘩はいつもの事だし、なんとかなるだろ」
この重苦しい空気を変えようとしたのか、場地は明るい口調でそう言った。場地は東卍だけじゃなくて、いつだって私の希望の光で、いつだって彼は優しい事を知る。場地のおかげで大分、心が楽になったような気がした。
場地だって本当はパーちんの事もマイキーとドラケンの事も心配で仕方ないのに。
「場地、ありがと」
「何が」
「何となく」
「あっそ」
場地の腕に自身の腕を絡めて「さ、帰ろ」と言えば、場地は頷いてバイクの元へ向かった。
今日は両親共夜勤の日なので家に一人だから、場地が夕飯を食べに家に来る予定だったので、そのまま私の家に二人で帰った。
家に帰って来て、すぐにご飯を食べる気もしなかったので、先に部屋に戻った。
場地も色々な事が一気に起こって疲れたのか、私のベッドの上に顔からダイブして両手両足を放り投げて寝転んだ。枕に顔を埋めていたのを少しだけ顔をあげて、視線だけを私に寄越してくる。
「コレ、明日香の匂いして落ち着く…」
「ちょっと、変態っぽいから止めてくれない?」
また枕に顔を埋めて、今度はピクリとも動かなくなった。規則正しい呼吸のリズムで胸が上下しているだけだったので、すぐに寝てしまったのだと思い、起こさないようにとベッドを背にして床に腰を下ろした。
場地が起きるまでに夕飯の準備済ませておこうと頭の中で冷蔵庫にある中身を思い出して何を作ろうか考えていると、「こっち来ねぇの?」という、掠れた声が聞こえた。
場地の方を見ると、顔を横に向けて薄らと目を開けていた。こっちとはベッドの事だろう。
流石に同じベッドで寝るのはちょっと…と戸惑いながら答えあぐねていると、場地は私の腕を急に掴んだと思ったら、強引に引っ張ってベッドへと引きずり込んだ。
「何もしねぇよ…多分」
「いや、その多分って何!?」
恥ずかしさから暴れる私を他所に、場地は離す事なく、抱き締めたまま目を瞑り、寝息を立て始めた。
「ねぇ、離してから寝てよ!」
そう訴えるが私の声はもう届かないようだ。
気持ち良さそうに寝ている寝息が耳元で聞こえる。離してから寝て欲しかった。こんなの耐えられるワケがない。心臓が口から飛び出そうだ。
「バカ!本当にバカっ!」
私の声は虚しく部屋に響き渡った。