勿忘草
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寒い冬を越え、暖かな春の日差しに包まれる四月。私は、三年生へと進級した。
今年は無事に場地も二年生へと進級出来たようで、千冬から報告のメールを貰った時は喜びでHR中に叫んでしまい、恥ずかしい思いをした。
だけど、それ以上に安堵と喜びですぐに羞恥心は忘れ、緩む頬を引き締める事が難しかった。
学校が終わるとすぐに場地に電話をすると、マイキー達と神社に集まるから来いと誘われ、場地と一緒に武蔵神社へとやって来た。
そこでは、マイキーとドラケンと三ツ谷とパーちんも大いに場地の進級を喜んでくれた。
「進級出来て、本当に良かったね」
「バカ言ってんじゃねーよ」
当然だと言わんばかりに鼻で笑って来る場地にムカッと来て、右頬を引っ張ってやると、それに対抗して彼も私の右頬を引っ張った。
「当然みたいな顔してるけど、去年留年したのはどこのどなたですかねぇ?」
「今年は平気だったろーが」
「千冬のサポートのおかげでしょ!?」
「オレの実力だっつーの!」
頬を引っ張り合いながら言い合いをしていれば、ドラケンと三ツ谷には呆れたように笑われた。言い合いを続けていると、この場に恐竜の鳴き声みたいな大きな音が響き渡り、みんな黙り込んだ。
音のした方に目を向けると、お腹を抑えて「腹減ったー」と言っている、マイキーが居た。
「なぁ、なんか食いに行こーぜ」
「賛成。オレも腹減った」
マイキーのお腹の音を聞いて、パーちんもお腹が空いたようで、お腹の虫を鳴らしていた。
二人のお腹の音が同時に鳴り、ハーモーニーを奏でていて思わず笑ってしまった。
「アイツら、腹に怪獣でも飼ってんのか?」
「凄い音だったね」
赤くなった頬をお互いに見合って、笑みを零した。
「そうだ。場地の進級祝いでもするか?」
「お、いーじゃん。三ツ谷と明日香でなんか作ってくれよ」
「私たちの料理でいいの?」
「文句あるやついねえよなぁ!?」
マイキーが抗争に行く前の時のような勢いで掛け声をかけて、謎のカリスマ性を発揮し始めたせいで、この場は一気に盛り上がってしまった。抗争の時のように滾った彼らに苦笑いを漏らす。隣にいる三ツ谷を見れば、困ったような呆れたような表情を浮かべていた。
「抗争に行く前みたい」
「アイツらにとっては食べる事さえ、戦いなんじゃねぇ?」
「じゃあ、作る側も戦だね」
「…だよなぁ。よし、オレらも気合い入れて勝負に挑もうぜ」
「うん、頑張ろ!」
手芸部に入部していたり、家事全般出来るから穏やかそうな性格にみせかけて、見た目通りの喧嘩上等な三ツ谷も抗争の前のように眼光を鋭く光らせ、ギラギラとした視線で彼らを見ていた。
今日は、両親共夜勤で不在の為、場地の進級祝いは家でやる事になり、四人には先に家へと行って貰って、三ツ谷と二人で買い出しに行く事になった。
三ツ谷と相談した結果、一つのメニューにするより、みんなの好きな物を一品ずつ作った方が喧嘩にならなくて済むだろうという事になり、みんなの好物の材料を購入し、足早に家に戻った。
リビングに入ると、帰る途中でコンビニにでも寄ったのか、ダイニングテーブルの上には菓子の袋が散乱していた。
「お菓子食べてるの!?」
「腹減ったんだよ」
「パーちん、ポテチ、何袋目?」
「ん?三袋だな」
「はい、没収」
食べかけのポテチをパーちんの手から奪い取ると悲しそうに眉を下げた。子供のおもちゃを取り上げたみたいになってしまい、返して上げたくなってしまったが、お腹いっぱい食べさせてあげたいからと、材料を大量に買ってきてしまっている。ここは少しくらい我慢してもらわなければならない。心を鬼にして、ポテチの袋はビニール袋の中にしまった。
「パーちんの大好きなお肉あるから、我慢して」
「肉あんのか!?よっしゃー!なら、我慢するか」
「パーだけズリィ!三ツ谷、明日香!オレ、オムライス!」
「激辛カレー」
「ハンバーグ」
「だと思って、材料ちゃんと買って来てるよ」
そう言えば、彼らは手にしていたお菓子の袋をちゃんとしまって、大人しくご飯が出来るのを待ってくれるようだった。
場地の好物と言えばペヤングなのだけど、場地だけペヤングなのは如何なものかと思ったので、場地の今日の気分を勝手に予想してハンバーグと仮説を立ててみたら、見事に的中した。
その答えを聞いた三ツ谷はキッチンから顔を覗かして拍手を送って来た。
キッチンに向かい、三ツ谷の隣に並ぶと手際よく、先に準備を進めてくれていた。
「先にやらせちゃって、ごめんね」
「いや、大丈夫」
「三ツ谷は何食べたい?三ツ谷の好きな物は私が作るよ」
「オレ、カルボナーラがいいな」
「可愛いチョイス…」
「そうか?明日香は何がいい?」
「…豚のしょうが焼き」
三ツ谷より男っぽい物を選んでしまって、妙に言いづらくなってしまう。だけど、豚のしょうが焼きは美味しいから仕方ない。
三ツ谷は可笑しそうに喉を鳴らして笑っていた。
「女の子らしく、パンケーキがいいなとか言えばよかったかなぁ」
「明日香が本当に食いたいモン食った方がいいだろ。変にブってる女より明日香みたいな女の方がオレは好きだよ」
「三ツ谷は本当に心が広いよね」
「別にそんな事ねぇだろ」
軽く雑談をしながら料理を作り進めていると、三ツ谷はフと思い出したように「そう言えばさ」と切り出し、振り返ってリビングの様子を確認してから、小さな声で私に問いかけた。
「場地とは進展あったのか?」
「いや、特に何もないよ」
「マジかよ。場地もさぁ、もっとこう、グイグイ行けばいいのにな」
場地にこの話を聞かれないように振り返って確認していたようだった。
「明日香から告っちゃえば?」
「今はまだ無理だよ。時期じゃない気がする」
「…そっか。オマエらに関しては色々、難しいもんな」
このメンバーの中でまともに恋愛話なんて出来るのは三ツ谷くらいだと思っている。ドラケンは「そーゆーの分かんねぇ」とはぐらかしそうだし、パーちんは色気より食い気だし、残りの二人は論外だし。案外、一虎とも出来そうとも思ったが、アバンチュール感が強すぎて変な方向に走りそうだから、ナシ。
どう考えても、まともに恋愛トークが出来るのは三ツ谷だけのようだ。
「三ツ谷も好きな子が出来たら教えてね」
「出来たらな」
三ツ谷と色々な話をしているうちに、料理を作り終え、完成した物からリビングへ運ぶと、騒いでいた彼らはすぐさまにテーブルの元に集まった。
次の料理を出しに行く頃には、マイキーとパーちんがつまみ食いしてしまっていて半分くらい減っていた。それを見た三ツ谷が鬼のような形相で「大人しく待ってろ」と怒鳴り、二人は口を尖らして大人しく言うことを聞いていた。
全ての料理が出揃うと、待ちきれんと言わんばかりにスプーンやフォークを手に取って、いただきますの挨拶もする暇もなくご飯を食べ始めてしまった。
それぞれ自分たちのリクエストした料理から手を付けて、誰にも譲らないと言わんばかりにお皿を占領してかき込むように食べている。
その様子に、三ツ谷と目を合わせて小さく笑った。食欲旺盛な彼らに全部食べられてしまわないように、私達も急いで料理へと手を伸ばした。
*
ご飯を食べ終え、片付けも終わり、私の部屋へと移動してそれぞれ、ダラダラと寛いでいる。
マイキーは食べた後なのでパーちんのお腹を枕にして寝ていたり、ドラケンはマリオのゲームをやっていたり、場地は漫画、三ツ谷はファッション雑誌を読んでいた。
私は、外の空気が吸いたくなり、窓を開けてベランダへと出ると、ほんのり冷たい夜風が吹いて気持ちが良かった。空を見上げてみれば、満天の星空とまではいかないが、群青色の空に無数の小さな光が映えていた。
「春の大三角って、しし座のデネボラとおとめ座のスピカとうしかい座のなんだっけなぁ」
一人でブツブツと喋りながら、三つの明るい星を繋げて大三角を探していると、窓の開く音が聞こえ「何やってんだぁ?」と声がした。
振り返らなくても分かる。場地の声だ。
「春の大三角形を探してるの」
「星なんてどれも一緒だろ」
「本当にロマンの欠片もない事を言うね、場地は」
「オレが星が綺麗だなとか言ったら、キモくねぇ?」
「ごめん。鳥肌立った」
なんて言いながらも、一番輝いて見える星を一緒に探してくれる。めんどくせぇだのくだらねぇだの言うくせに、ちゃんと最後まで付き合ってくれるのが場地の優しさだ。そういう所が大好きだ。
「お、アレじゃねぇ?」
「あ、ホントだ!思い出した。うしかい座のアークトゥルスだ!」
「は?日本人なら、日本語喋れよ」
「少し黙っててね」
そう言えば、軽く肩を殴られ、地味に痛くて顔を顰める。そのまま睨み付けてみるが、私の視線に気付く事はなく、星空を黙って見つめていた。暗闇に薄ら浮かび上がるように見える、場地の横顔が綺麗に見えて見惚れていると、場地は大きな声を上げた。
「おい、見たか!?今、流れ星流れたぞ!」
バッと横を向いた彼と急に目が合って、心臓が跳ねた。そして、久しぶりに見る無邪気な笑顔に胸がギュッと締め付けられた。
「ごめん。見てない」
「はぁ?オマエ、何見てたんだよ」
場地の横顔を眺めてた。なんて言える訳もなくて、笑って誤魔化すしかなかった。
「お願い事、出来た?」
「いや、急すぎて何も」
「残念だったね」
「別に」
「そっか。お願い事するタイプじゃないもんね」
「あぁ。願いは自分で叶えるモンだろ」
「場地の願い事って?」
場地は何も答える事もせず、ジッと私を見つめた。
まただ。雪が降った時もそうだった。私の瞳をジッと見つめて、何も言わない。感情を読み取ろうとしても分からなくて、聞いても答えてくれない。この視線にはなんの意味があるのか。
その意味を確認しようと口を開こうとした瞬間に、後ろからガタッと物音がして、場地と同時にバッと振り返る。
「パー!重ぇんだよ!上に乗ってくんじゃねーよ」
「ケンチン、ちゃんと支えろよ!」
「オレの上で暴れんな!」
「オマエら静かにしろ!バレるだろうが!」
「もうバレてるっつーの」
「「「「あ…」」」」
「何やってんの?」
微妙に開いていたカーテンの隙間から見えたのは、窓に張り付いて外を覗いている四人だった。
「暑いから窓を開けようとした」とか、「星空を見ようかなと思って」とかそれぞれ言い訳めいた事を言っていたが、マイキーが「オマエらのやり取り全部、覗いてた」と正直に答えてしまった。三人から「オマエも誤魔化せよ!」と怒られるマイキーに場地と目を合わせて笑った。
「場地も流れ星とか興味あるんだな」
「あ?」
「おい、見たか!?今、流れ星流れたぞ!って興奮してたもんなぁ?」
ニヤニヤして言うマイキーにドラケンと三ツ谷は呆れた顔でため息をついた。
「明日香、離れとけ」
「そうだね。巻き込まれるのは勘弁」
ドラケンに腕を引かれ、ベランダから部屋の中に避難する。案の定、からかわれた場地の怒りは爆発し、マイキーへと向けられた。
そして、小さい頃から見続けてきた光景。マイキーと場地の殴り合いの喧嘩を呆れた顔をしつつも、少し微笑ましく思いながら、ドラケン、三ツ谷、パーちんの四人で見守った。
喧嘩の勝敗は、言うまでもないだろう。
今年は無事に場地も二年生へと進級出来たようで、千冬から報告のメールを貰った時は喜びでHR中に叫んでしまい、恥ずかしい思いをした。
だけど、それ以上に安堵と喜びですぐに羞恥心は忘れ、緩む頬を引き締める事が難しかった。
学校が終わるとすぐに場地に電話をすると、マイキー達と神社に集まるから来いと誘われ、場地と一緒に武蔵神社へとやって来た。
そこでは、マイキーとドラケンと三ツ谷とパーちんも大いに場地の進級を喜んでくれた。
「進級出来て、本当に良かったね」
「バカ言ってんじゃねーよ」
当然だと言わんばかりに鼻で笑って来る場地にムカッと来て、右頬を引っ張ってやると、それに対抗して彼も私の右頬を引っ張った。
「当然みたいな顔してるけど、去年留年したのはどこのどなたですかねぇ?」
「今年は平気だったろーが」
「千冬のサポートのおかげでしょ!?」
「オレの実力だっつーの!」
頬を引っ張り合いながら言い合いをしていれば、ドラケンと三ツ谷には呆れたように笑われた。言い合いを続けていると、この場に恐竜の鳴き声みたいな大きな音が響き渡り、みんな黙り込んだ。
音のした方に目を向けると、お腹を抑えて「腹減ったー」と言っている、マイキーが居た。
「なぁ、なんか食いに行こーぜ」
「賛成。オレも腹減った」
マイキーのお腹の音を聞いて、パーちんもお腹が空いたようで、お腹の虫を鳴らしていた。
二人のお腹の音が同時に鳴り、ハーモーニーを奏でていて思わず笑ってしまった。
「アイツら、腹に怪獣でも飼ってんのか?」
「凄い音だったね」
赤くなった頬をお互いに見合って、笑みを零した。
「そうだ。場地の進級祝いでもするか?」
「お、いーじゃん。三ツ谷と明日香でなんか作ってくれよ」
「私たちの料理でいいの?」
「文句あるやついねえよなぁ!?」
マイキーが抗争に行く前の時のような勢いで掛け声をかけて、謎のカリスマ性を発揮し始めたせいで、この場は一気に盛り上がってしまった。抗争の時のように滾った彼らに苦笑いを漏らす。隣にいる三ツ谷を見れば、困ったような呆れたような表情を浮かべていた。
「抗争に行く前みたい」
「アイツらにとっては食べる事さえ、戦いなんじゃねぇ?」
「じゃあ、作る側も戦だね」
「…だよなぁ。よし、オレらも気合い入れて勝負に挑もうぜ」
「うん、頑張ろ!」
手芸部に入部していたり、家事全般出来るから穏やかそうな性格にみせかけて、見た目通りの喧嘩上等な三ツ谷も抗争の前のように眼光を鋭く光らせ、ギラギラとした視線で彼らを見ていた。
今日は、両親共夜勤で不在の為、場地の進級祝いは家でやる事になり、四人には先に家へと行って貰って、三ツ谷と二人で買い出しに行く事になった。
三ツ谷と相談した結果、一つのメニューにするより、みんなの好きな物を一品ずつ作った方が喧嘩にならなくて済むだろうという事になり、みんなの好物の材料を購入し、足早に家に戻った。
リビングに入ると、帰る途中でコンビニにでも寄ったのか、ダイニングテーブルの上には菓子の袋が散乱していた。
「お菓子食べてるの!?」
「腹減ったんだよ」
「パーちん、ポテチ、何袋目?」
「ん?三袋だな」
「はい、没収」
食べかけのポテチをパーちんの手から奪い取ると悲しそうに眉を下げた。子供のおもちゃを取り上げたみたいになってしまい、返して上げたくなってしまったが、お腹いっぱい食べさせてあげたいからと、材料を大量に買ってきてしまっている。ここは少しくらい我慢してもらわなければならない。心を鬼にして、ポテチの袋はビニール袋の中にしまった。
「パーちんの大好きなお肉あるから、我慢して」
「肉あんのか!?よっしゃー!なら、我慢するか」
「パーだけズリィ!三ツ谷、明日香!オレ、オムライス!」
「激辛カレー」
「ハンバーグ」
「だと思って、材料ちゃんと買って来てるよ」
そう言えば、彼らは手にしていたお菓子の袋をちゃんとしまって、大人しくご飯が出来るのを待ってくれるようだった。
場地の好物と言えばペヤングなのだけど、場地だけペヤングなのは如何なものかと思ったので、場地の今日の気分を勝手に予想してハンバーグと仮説を立ててみたら、見事に的中した。
その答えを聞いた三ツ谷はキッチンから顔を覗かして拍手を送って来た。
キッチンに向かい、三ツ谷の隣に並ぶと手際よく、先に準備を進めてくれていた。
「先にやらせちゃって、ごめんね」
「いや、大丈夫」
「三ツ谷は何食べたい?三ツ谷の好きな物は私が作るよ」
「オレ、カルボナーラがいいな」
「可愛いチョイス…」
「そうか?明日香は何がいい?」
「…豚のしょうが焼き」
三ツ谷より男っぽい物を選んでしまって、妙に言いづらくなってしまう。だけど、豚のしょうが焼きは美味しいから仕方ない。
三ツ谷は可笑しそうに喉を鳴らして笑っていた。
「女の子らしく、パンケーキがいいなとか言えばよかったかなぁ」
「明日香が本当に食いたいモン食った方がいいだろ。変にブってる女より明日香みたいな女の方がオレは好きだよ」
「三ツ谷は本当に心が広いよね」
「別にそんな事ねぇだろ」
軽く雑談をしながら料理を作り進めていると、三ツ谷はフと思い出したように「そう言えばさ」と切り出し、振り返ってリビングの様子を確認してから、小さな声で私に問いかけた。
「場地とは進展あったのか?」
「いや、特に何もないよ」
「マジかよ。場地もさぁ、もっとこう、グイグイ行けばいいのにな」
場地にこの話を聞かれないように振り返って確認していたようだった。
「明日香から告っちゃえば?」
「今はまだ無理だよ。時期じゃない気がする」
「…そっか。オマエらに関しては色々、難しいもんな」
このメンバーの中でまともに恋愛話なんて出来るのは三ツ谷くらいだと思っている。ドラケンは「そーゆーの分かんねぇ」とはぐらかしそうだし、パーちんは色気より食い気だし、残りの二人は論外だし。案外、一虎とも出来そうとも思ったが、アバンチュール感が強すぎて変な方向に走りそうだから、ナシ。
どう考えても、まともに恋愛トークが出来るのは三ツ谷だけのようだ。
「三ツ谷も好きな子が出来たら教えてね」
「出来たらな」
三ツ谷と色々な話をしているうちに、料理を作り終え、完成した物からリビングへ運ぶと、騒いでいた彼らはすぐさまにテーブルの元に集まった。
次の料理を出しに行く頃には、マイキーとパーちんがつまみ食いしてしまっていて半分くらい減っていた。それを見た三ツ谷が鬼のような形相で「大人しく待ってろ」と怒鳴り、二人は口を尖らして大人しく言うことを聞いていた。
全ての料理が出揃うと、待ちきれんと言わんばかりにスプーンやフォークを手に取って、いただきますの挨拶もする暇もなくご飯を食べ始めてしまった。
それぞれ自分たちのリクエストした料理から手を付けて、誰にも譲らないと言わんばかりにお皿を占領してかき込むように食べている。
その様子に、三ツ谷と目を合わせて小さく笑った。食欲旺盛な彼らに全部食べられてしまわないように、私達も急いで料理へと手を伸ばした。
*
ご飯を食べ終え、片付けも終わり、私の部屋へと移動してそれぞれ、ダラダラと寛いでいる。
マイキーは食べた後なのでパーちんのお腹を枕にして寝ていたり、ドラケンはマリオのゲームをやっていたり、場地は漫画、三ツ谷はファッション雑誌を読んでいた。
私は、外の空気が吸いたくなり、窓を開けてベランダへと出ると、ほんのり冷たい夜風が吹いて気持ちが良かった。空を見上げてみれば、満天の星空とまではいかないが、群青色の空に無数の小さな光が映えていた。
「春の大三角って、しし座のデネボラとおとめ座のスピカとうしかい座のなんだっけなぁ」
一人でブツブツと喋りながら、三つの明るい星を繋げて大三角を探していると、窓の開く音が聞こえ「何やってんだぁ?」と声がした。
振り返らなくても分かる。場地の声だ。
「春の大三角形を探してるの」
「星なんてどれも一緒だろ」
「本当にロマンの欠片もない事を言うね、場地は」
「オレが星が綺麗だなとか言ったら、キモくねぇ?」
「ごめん。鳥肌立った」
なんて言いながらも、一番輝いて見える星を一緒に探してくれる。めんどくせぇだのくだらねぇだの言うくせに、ちゃんと最後まで付き合ってくれるのが場地の優しさだ。そういう所が大好きだ。
「お、アレじゃねぇ?」
「あ、ホントだ!思い出した。うしかい座のアークトゥルスだ!」
「は?日本人なら、日本語喋れよ」
「少し黙っててね」
そう言えば、軽く肩を殴られ、地味に痛くて顔を顰める。そのまま睨み付けてみるが、私の視線に気付く事はなく、星空を黙って見つめていた。暗闇に薄ら浮かび上がるように見える、場地の横顔が綺麗に見えて見惚れていると、場地は大きな声を上げた。
「おい、見たか!?今、流れ星流れたぞ!」
バッと横を向いた彼と急に目が合って、心臓が跳ねた。そして、久しぶりに見る無邪気な笑顔に胸がギュッと締め付けられた。
「ごめん。見てない」
「はぁ?オマエ、何見てたんだよ」
場地の横顔を眺めてた。なんて言える訳もなくて、笑って誤魔化すしかなかった。
「お願い事、出来た?」
「いや、急すぎて何も」
「残念だったね」
「別に」
「そっか。お願い事するタイプじゃないもんね」
「あぁ。願いは自分で叶えるモンだろ」
「場地の願い事って?」
場地は何も答える事もせず、ジッと私を見つめた。
まただ。雪が降った時もそうだった。私の瞳をジッと見つめて、何も言わない。感情を読み取ろうとしても分からなくて、聞いても答えてくれない。この視線にはなんの意味があるのか。
その意味を確認しようと口を開こうとした瞬間に、後ろからガタッと物音がして、場地と同時にバッと振り返る。
「パー!重ぇんだよ!上に乗ってくんじゃねーよ」
「ケンチン、ちゃんと支えろよ!」
「オレの上で暴れんな!」
「オマエら静かにしろ!バレるだろうが!」
「もうバレてるっつーの」
「「「「あ…」」」」
「何やってんの?」
微妙に開いていたカーテンの隙間から見えたのは、窓に張り付いて外を覗いている四人だった。
「暑いから窓を開けようとした」とか、「星空を見ようかなと思って」とかそれぞれ言い訳めいた事を言っていたが、マイキーが「オマエらのやり取り全部、覗いてた」と正直に答えてしまった。三人から「オマエも誤魔化せよ!」と怒られるマイキーに場地と目を合わせて笑った。
「場地も流れ星とか興味あるんだな」
「あ?」
「おい、見たか!?今、流れ星流れたぞ!って興奮してたもんなぁ?」
ニヤニヤして言うマイキーにドラケンと三ツ谷は呆れた顔でため息をついた。
「明日香、離れとけ」
「そうだね。巻き込まれるのは勘弁」
ドラケンに腕を引かれ、ベランダから部屋の中に避難する。案の定、からかわれた場地の怒りは爆発し、マイキーへと向けられた。
そして、小さい頃から見続けてきた光景。マイキーと場地の殴り合いの喧嘩を呆れた顔をしつつも、少し微笑ましく思いながら、ドラケン、三ツ谷、パーちんの四人で見守った。
喧嘩の勝敗は、言うまでもないだろう。