勿忘草
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十一月三日、誕生日当日がやって来た。千冬と一緒に買ったプレゼントも持って、足早に彼の住む団地へと向かった。
彼の部屋がある五階まで行くと、玄関の前でソワソワと落ち着かない様子の千冬が待っていた。
「遅くなってごめんね」
「いえ、オレも今、来た所です」
「場地、いるかな…」
「居ますよ、きっと」
千冬と頷き合ってから、インターフォンを押して反応が返って来るのを待つが、何の反応もなかった。再度、押してみるが結果は同じで、場地のケータイへと掛けてみるが、聞こえるのは無機質な音声のみで去年と同じだった。
千冬も肩を落として悲しそうに眉を下げていた。
「どこ行っちゃったんですかね、場地さん」
「分からない…」
去年、マイキー達にも聞いてみたが誰一人として知らないと首を横に振っていた。
どこに行ってしまったのだろうと懸命に頭を巡らせる。きっと、今年も去年と同じ場所にいるはず。そうなれば、去年探した場所は居ないと考えた方が良さそうなので、消去法で場地が行きそうな所を脳内でピックアップしていく。
「…あ、分かったかも」
「え?場地さんの居場所、分かったんですか?」
「多分だけど。私行ってくるから、千冬はお家で待ってて」
「オレも一緒に行きます」
「私一人で行かせて欲しい。必ず連れて帰るから」
「…分かりました」
私の真剣な表情で察してくれたのか、千冬も真剣な表情で深く頷いてくれた。
私は思い付いた場所へと向かって走り出した。去年は思い付かなかったけれど、きっとあそこにいるハズなんだ。場地ならそうすると思った。まだまだ場地の事を分かってあげられてない自分が嫌になって来てしまうが、今はそれよりも場地を探し出す事に集中しようと、首を振って自己嫌悪を振り払った。
暫く走って、十段ほどある階段を駆け上がり、敷地内に入ると走るのを止めて、ある場所へ早歩きで向かう。予想していた場所には、小さくなった彼の背中が見えた。ゆっくりと近づいて彼の名を呼ぶとゆらりと振り返って、静かに私の名前を呼んだ。足音で気付いていたのか驚いた様子は見られなかった。
「去年もここに来てたの?」
「あぁ。ずっと、謝ってた」
場地が来ていた場所は真一郎君の眠る場所だった。きっと、ここだろうと思った事は当たってしまった。その事実に胸がズキズキと痛み出すのは、本当は当たって欲しくなんてなかったのかもしれない。
「マイキーの為にってした事がアイツを傷付けちまった。マイキーが生まれた日を素直に喜べないようにしちまった」
「だから、自分の誕生日にここに来てたの?」
「人の命を奪っておいて、自分の生まれた日を喜べるかよ」
その言葉にジワッと涙が滲んで来てしまった。
ずっと、一人で十字架を背負って生きていたんだ。彼の苦しみも悩みも全部、受け止めてあげたいって思うけれど、私にはそれが出来ないのかもしれないと思ってしまった。私と場地が一人の人間だったら、罪も一緒に背負う事が出来るのに、なんで私たちは別々の人間なんだろう。
「分からねぇんだよ。真一郎君とマイキーへの償い方が。これしか思い付かねぇ」
「場地…」
「オレはどうしたら良いんだ…」
今にも消えてしまいそうな小さな背中を後ろから包み込むように抱きしめた。自分の腕の長さでは足りないくらいに大きな背中なのにどうしても、小さく見えてしまう。震える身体から腕を離して、彼の頬を両手で挟んで目をしっかりと合わせて彼の名を呼ぶ。揺れる瞳が痛くて目を逸らしたくなるが、射抜くように真っ直ぐに見つめる。
「私は場地と一緒に一つ、一つ、歳を重ねられる事が嬉しい。場地が生まれて来てくれて嬉しい」
彼の茶色い瞳が更にゆらゆらと揺れだした。
いつも、真っ直ぐと強い眼差しで前を見据えているのに、迷うように揺らぐ瞳が悲しい。
去年もこうやって一人で自分を責めていたのかと思うと胸が押し潰されそうになった。もっと早く見つけてあげられたら良かったのに。
「マイキーの為に出来る事なら、私、一つだけ知ってるよ」
場地は微かに目を見開いて、私の次の言葉を静かに待っている。
「みんなで時代を創るって約束したんでしょ?だったら、マイキーの力になってあげなきゃ。きっと、マイキーには場地がいないとダメ。マイキーの事も近くでよく見てきたから、分かるよ。マイキーは今でも場地の事、大好きだって」
素直な気持ちを口に出してみたが、黙ってしまった場地に余計な事を言ってしまったかと不安になった。出しゃばり過ぎたかもしれない。
オマエに何がわかると言われるかもしれない。
「なーんてね。私が口出せる問題じゃないのかもしれないけど、私はそう思うよ」
少しでも明るくしてみようと笑ってみるが、彼はずっと黙ったままだ。重たい沈黙が流れ、私たちの微かな息遣いだけが聞こえていた。
低い声で名前を呼ばれ、返事をしようとすると視界が真っ黒に染まった。同時に感じる温かさと小さく耳に響く鼓動。すぐに場地に抱きすくめられている事に気が付いた。
「明日香、ありがとな」
耳元でそう囁かれ、返事の代わりに場地の背中に手を回して抱き締め返す。
「家に帰ろう。千冬も待ってるよ」
「なんで、千冬が?」
「千冬も場地が大好きだからね」
場地は目尻を下げて微かに口角を上げた。
手を握って立ち上がると彼も立ち上がり、一緒に歩き出した。
団地へと着き階段を上ろうとすると、踊り場には千冬とマイキーとドラケンがいて、階段に座っていた。三人は私たちの姿を見た瞬間に立ち上がった。
「遅ぇよ、場地ー」
「何してたんだよ?」
「なんで、オマエらまで…」
「なんでって、今日はオマエの誕生日だろ?祝いに来たんだよ」
「マイキーは、明日香の作ったケーキが食いてぇって、言ってたけどな」
「あ、ごめん。今年は作ってないの」
マイキーは「何でだよ」と叫んでから、頬を膨らませて拗ねてしまった。「また今度作るから」と言えば、「絶対な!」と無邪気な笑みを浮かべて、機嫌を直してくれた。
ドラケンが場地の肩をガシッと組んで「おめでと」と言い、それに倣って千冬も場地の顔を見て笑いながら「おめでとうございます」と言った。それに続いてマイキーもドラケンの反対側の肩を組んで場地の顔を覗き込んだ。
「場地、誕生日おめでと」
「マイキー…、ありがとな」
「おう」
笑い合う二人を見て私とドラケンも安心したかのように笑った。
みんなで場地のお祝いする事になり、場地の部屋に移動して、五人でたくさん騒いだ。
楽しそうに幸せそうに大声を上げて笑う、場地の腕には私と千冬があげたシルバーのバングルが綺麗に光っていた。
彼の部屋がある五階まで行くと、玄関の前でソワソワと落ち着かない様子の千冬が待っていた。
「遅くなってごめんね」
「いえ、オレも今、来た所です」
「場地、いるかな…」
「居ますよ、きっと」
千冬と頷き合ってから、インターフォンを押して反応が返って来るのを待つが、何の反応もなかった。再度、押してみるが結果は同じで、場地のケータイへと掛けてみるが、聞こえるのは無機質な音声のみで去年と同じだった。
千冬も肩を落として悲しそうに眉を下げていた。
「どこ行っちゃったんですかね、場地さん」
「分からない…」
去年、マイキー達にも聞いてみたが誰一人として知らないと首を横に振っていた。
どこに行ってしまったのだろうと懸命に頭を巡らせる。きっと、今年も去年と同じ場所にいるはず。そうなれば、去年探した場所は居ないと考えた方が良さそうなので、消去法で場地が行きそうな所を脳内でピックアップしていく。
「…あ、分かったかも」
「え?場地さんの居場所、分かったんですか?」
「多分だけど。私行ってくるから、千冬はお家で待ってて」
「オレも一緒に行きます」
「私一人で行かせて欲しい。必ず連れて帰るから」
「…分かりました」
私の真剣な表情で察してくれたのか、千冬も真剣な表情で深く頷いてくれた。
私は思い付いた場所へと向かって走り出した。去年は思い付かなかったけれど、きっとあそこにいるハズなんだ。場地ならそうすると思った。まだまだ場地の事を分かってあげられてない自分が嫌になって来てしまうが、今はそれよりも場地を探し出す事に集中しようと、首を振って自己嫌悪を振り払った。
暫く走って、十段ほどある階段を駆け上がり、敷地内に入ると走るのを止めて、ある場所へ早歩きで向かう。予想していた場所には、小さくなった彼の背中が見えた。ゆっくりと近づいて彼の名を呼ぶとゆらりと振り返って、静かに私の名前を呼んだ。足音で気付いていたのか驚いた様子は見られなかった。
「去年もここに来てたの?」
「あぁ。ずっと、謝ってた」
場地が来ていた場所は真一郎君の眠る場所だった。きっと、ここだろうと思った事は当たってしまった。その事実に胸がズキズキと痛み出すのは、本当は当たって欲しくなんてなかったのかもしれない。
「マイキーの為にってした事がアイツを傷付けちまった。マイキーが生まれた日を素直に喜べないようにしちまった」
「だから、自分の誕生日にここに来てたの?」
「人の命を奪っておいて、自分の生まれた日を喜べるかよ」
その言葉にジワッと涙が滲んで来てしまった。
ずっと、一人で十字架を背負って生きていたんだ。彼の苦しみも悩みも全部、受け止めてあげたいって思うけれど、私にはそれが出来ないのかもしれないと思ってしまった。私と場地が一人の人間だったら、罪も一緒に背負う事が出来るのに、なんで私たちは別々の人間なんだろう。
「分からねぇんだよ。真一郎君とマイキーへの償い方が。これしか思い付かねぇ」
「場地…」
「オレはどうしたら良いんだ…」
今にも消えてしまいそうな小さな背中を後ろから包み込むように抱きしめた。自分の腕の長さでは足りないくらいに大きな背中なのにどうしても、小さく見えてしまう。震える身体から腕を離して、彼の頬を両手で挟んで目をしっかりと合わせて彼の名を呼ぶ。揺れる瞳が痛くて目を逸らしたくなるが、射抜くように真っ直ぐに見つめる。
「私は場地と一緒に一つ、一つ、歳を重ねられる事が嬉しい。場地が生まれて来てくれて嬉しい」
彼の茶色い瞳が更にゆらゆらと揺れだした。
いつも、真っ直ぐと強い眼差しで前を見据えているのに、迷うように揺らぐ瞳が悲しい。
去年もこうやって一人で自分を責めていたのかと思うと胸が押し潰されそうになった。もっと早く見つけてあげられたら良かったのに。
「マイキーの為に出来る事なら、私、一つだけ知ってるよ」
場地は微かに目を見開いて、私の次の言葉を静かに待っている。
「みんなで時代を創るって約束したんでしょ?だったら、マイキーの力になってあげなきゃ。きっと、マイキーには場地がいないとダメ。マイキーの事も近くでよく見てきたから、分かるよ。マイキーは今でも場地の事、大好きだって」
素直な気持ちを口に出してみたが、黙ってしまった場地に余計な事を言ってしまったかと不安になった。出しゃばり過ぎたかもしれない。
オマエに何がわかると言われるかもしれない。
「なーんてね。私が口出せる問題じゃないのかもしれないけど、私はそう思うよ」
少しでも明るくしてみようと笑ってみるが、彼はずっと黙ったままだ。重たい沈黙が流れ、私たちの微かな息遣いだけが聞こえていた。
低い声で名前を呼ばれ、返事をしようとすると視界が真っ黒に染まった。同時に感じる温かさと小さく耳に響く鼓動。すぐに場地に抱きすくめられている事に気が付いた。
「明日香、ありがとな」
耳元でそう囁かれ、返事の代わりに場地の背中に手を回して抱き締め返す。
「家に帰ろう。千冬も待ってるよ」
「なんで、千冬が?」
「千冬も場地が大好きだからね」
場地は目尻を下げて微かに口角を上げた。
手を握って立ち上がると彼も立ち上がり、一緒に歩き出した。
団地へと着き階段を上ろうとすると、踊り場には千冬とマイキーとドラケンがいて、階段に座っていた。三人は私たちの姿を見た瞬間に立ち上がった。
「遅ぇよ、場地ー」
「何してたんだよ?」
「なんで、オマエらまで…」
「なんでって、今日はオマエの誕生日だろ?祝いに来たんだよ」
「マイキーは、明日香の作ったケーキが食いてぇって、言ってたけどな」
「あ、ごめん。今年は作ってないの」
マイキーは「何でだよ」と叫んでから、頬を膨らませて拗ねてしまった。「また今度作るから」と言えば、「絶対な!」と無邪気な笑みを浮かべて、機嫌を直してくれた。
ドラケンが場地の肩をガシッと組んで「おめでと」と言い、それに倣って千冬も場地の顔を見て笑いながら「おめでとうございます」と言った。それに続いてマイキーもドラケンの反対側の肩を組んで場地の顔を覗き込んだ。
「場地、誕生日おめでと」
「マイキー…、ありがとな」
「おう」
笑い合う二人を見て私とドラケンも安心したかのように笑った。
みんなで場地のお祝いする事になり、場地の部屋に移動して、五人でたくさん騒いだ。
楽しそうに幸せそうに大声を上げて笑う、場地の腕には私と千冬があげたシルバーのバングルが綺麗に光っていた。