勿忘草
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あの後、場地の部屋で話そうと言う事になり、団地へと向かった。
団地に着くと、場地は駐輪場に停めてあるバイクの所に行ってくるから先に行ってろと家の鍵を渡して来たので、それを受け取って先に千冬と五階にある場地の部屋にお邪魔した。
部屋へと入って、場地が戻って来るのを待っている間、物が乱雑に置かれた学習机の上にお守りが置いてある事に気づいた。お守りの周りだけは綺麗にしてあり、すぐ目に止まった。
自分の制服のスカートのポケットの中から二人貰ったお守りを取り出して、淡いピンク色のお守りを見つめる。
このお守りを貰った時から、ずっと肌身離さず持ち歩いている。場地も一虎も嬉しそうに目をキラキラさせていた時の事を思うと、少しだけ寂しさを感じた。
今も変わらず、あの頃のようにいられたのなら良かったのにと心のどこかで思ってしまう自分もいる。
黙ってお守りを見つめていると、それに気が付いた千冬が手元を覗き込んで来た。
「お守りですか?」
「うん。場地達に貰ったんだ」
「場地さん達に?」
「うん。場地と場地の親友がくれたの」
「へぇ、場地さんの親友…って、えっ!?」
千冬が驚きの声を上げたので、お守りから彼の顔へ視線を移すと千冬は顔を真っ赤にさせて、鯉が餌を食べている時のように何度も口をパクパクとさせていた。
「どうしたの?」
「安産…って、もしかして…場地さんとの子…?」
「違うよ」
「じゃあ、その親友との子ですか!?…もしかして、色々あるってこの事ですか?」
「それも違う。私の話をちゃんと、聞こうか?」
違うからと否定するが、千冬は全く聞く耳を持たない。頭を抱えたり、そこらをウロウロしたり挙動不審な行動を繰り返していた。そこへ、場地が戻って来て部屋に入って来た。
何を思ったのか、千冬は場地に詰め寄って「場地さんの親友とやらに会わせて下さい!」と叫んだ。場地もいきなりの事に目をパチパチと瞬きを繰り返し、唖然とした表情で千冬を見ていた。
「ちょっと、千冬!落ち着いてよ」
「順序っつーモンがあるじゃないですか!」
「あン?何言ってんだぁ?オマエ」
「男としてソイツだけは許せねぇ!」
「…何の話だ?」
千冬の言う、会わせろとは一発殴らせろの訳だろう。場地に詰寄る千冬を引き剥がして、このお守りを貰った経緯を話せば、千冬は顔を赤くして「すみませんでした」と勢いよく頭を下げた。
「てっきり、そうかと…」
「違うって言ったじゃない」
「付き合ってもねぇのにそういう事するヤツ許せねぇって思って、カッとなっちまいました」
その言葉に胸が少しだけ痛んだ。思い出されるのは、あの日の夜の事。自ら選んだ道なのだから後悔はないけれど、千冬の純粋さと真っ直ぐさが今の私には凄く眩しく見えた。真っ直ぐに見ていられなくなってしまって、スっと目を逸らした。その事に気づいたのか、場地は私の背中を軽くさすってくれた。彼の顔を見上げるが、私の視線に気付いていないかのように、ただ真っ直ぐに前を見ていた。その眼差しが力強くて、私の迷いを吹き飛ばしてくれたように思えた。
過去は消せないし、変えられないけど、未来は変えられる。私たちにはこれからがある。だから、今は精一杯前を向いて生きていくしかない。場地が隣にいてくれる限り、私は強くいれる気がする。
こうやって支え合いながら、その先の未来もずっとずっと一緒に居られたら良いな。
「千冬は真っ直ぐだね」
「そうですか?」
「うん。ずっと、そのままで居てね」
そう言えば、不思議そうにしながらも千冬は頷いた。
「なぁ、腹減らねぇ?」
「空きましたね」
「明日香、飯」
「二人とも何がいい?」
「牛丼」
「またぁ?千冬は?」
「オレも牛丼で!」
「じゃあ、牛丼にしますか!」
二人は嬉しそうに拳を掲げて「よっしゃあ!」と声を揃えた。
つゆだくがいいだとか、大盛りにしてくれなどの注文を受けながら、キッチンへと向かった。
三十分くらいで牛丼を作り終え、盛り付けている頃に千冬が「何か手伝いますか?」とキッチンに顔を覗かせた。作るのは終わってしまっていたので、台布巾を水に曝して硬く絞ってから千冬に「テーブル拭いてくれる?」と布巾を渡せば、「了解です!」とニッコリ笑ってリビングへと戻って行った。
「場地!座ってないで運ぶの手伝って!」
「へいへい」
ダルそうに椅子から腰を上げ、のそのそとキッチンへとやって来た場地に牛丼を二つ手渡して、一緒にリビングへと戻る。ダイニングテーブルに牛丼と味噌汁を並べて三人が席に着いた所で、手を合わせて「いただきます」と挨拶をしてからご飯を食べ始めた。
丼を持ってかき込んで食べる千冬は「うめぇ!」と声を上げてから、また夢中で牛丼を食べた。
「店のより美味いっス!」
「当たりめぇだろ。明日香は料理だけは得意だからな。料理だけは」
「なんで二回も言うのよ」
「反復法を使って強調したんだよ」
「あ、今日、オレが教えたヤツっスね!」
「バラしてんじゃねーよ」
シレッと言って優等生ぶりを見せつけたかったようだが、千冬の言葉で全てが台無しだ。場地が千冬を睨みつけると、千冬はすぐに謝罪を述べた。
話を逸らすように千冬が「料理上手いんですね」と話を振った。
幼い頃から両親が夜勤で家に居ない事が多かった家では、最初のうちはお母さんが夕飯を作って置いてくれていたのだが、暫くするとコンビニのお弁当になった。その時、お母さんも忙しいのだと幼いながらに察した私は、お母さんが家にいる時に率先してお手伝いをして料理を習った。その甲斐もあって、今では一人で作れるレパートリーも増えた。
夜、私が一人でご飯を食べるのが寂しくないようにと両親が夜勤の時は、大抵場地が家に遊びに来てくれていた。そんな彼に美味しいご飯を作ってあげたいと思うようになってから、更に上達したと思う。上達と言っても、場地好みの味に仕上がっていったが正しい。
「次は千冬の好きな物作るから、また一緒に食べようね」
「また作ってくれるんスか!?」
「うん、いいよ。何がいい?」
「牛丼」
「場地には聞いてない」
「オレも牛丼がいいっス!」
「場地に流されてない?」
「オレ、肉に始まり肉で終わるがモットーなくらい、肉好きなんで」
「前菜も副菜もメインも肉がいいのね…」
千冬の謎な肉理論を聞きながら、三人で笑い合って食べた夕飯は、幸せの味がした。
団地に着くと、場地は駐輪場に停めてあるバイクの所に行ってくるから先に行ってろと家の鍵を渡して来たので、それを受け取って先に千冬と五階にある場地の部屋にお邪魔した。
部屋へと入って、場地が戻って来るのを待っている間、物が乱雑に置かれた学習机の上にお守りが置いてある事に気づいた。お守りの周りだけは綺麗にしてあり、すぐ目に止まった。
自分の制服のスカートのポケットの中から二人貰ったお守りを取り出して、淡いピンク色のお守りを見つめる。
このお守りを貰った時から、ずっと肌身離さず持ち歩いている。場地も一虎も嬉しそうに目をキラキラさせていた時の事を思うと、少しだけ寂しさを感じた。
今も変わらず、あの頃のようにいられたのなら良かったのにと心のどこかで思ってしまう自分もいる。
黙ってお守りを見つめていると、それに気が付いた千冬が手元を覗き込んで来た。
「お守りですか?」
「うん。場地達に貰ったんだ」
「場地さん達に?」
「うん。場地と場地の親友がくれたの」
「へぇ、場地さんの親友…って、えっ!?」
千冬が驚きの声を上げたので、お守りから彼の顔へ視線を移すと千冬は顔を真っ赤にさせて、鯉が餌を食べている時のように何度も口をパクパクとさせていた。
「どうしたの?」
「安産…って、もしかして…場地さんとの子…?」
「違うよ」
「じゃあ、その親友との子ですか!?…もしかして、色々あるってこの事ですか?」
「それも違う。私の話をちゃんと、聞こうか?」
違うからと否定するが、千冬は全く聞く耳を持たない。頭を抱えたり、そこらをウロウロしたり挙動不審な行動を繰り返していた。そこへ、場地が戻って来て部屋に入って来た。
何を思ったのか、千冬は場地に詰め寄って「場地さんの親友とやらに会わせて下さい!」と叫んだ。場地もいきなりの事に目をパチパチと瞬きを繰り返し、唖然とした表情で千冬を見ていた。
「ちょっと、千冬!落ち着いてよ」
「順序っつーモンがあるじゃないですか!」
「あン?何言ってんだぁ?オマエ」
「男としてソイツだけは許せねぇ!」
「…何の話だ?」
千冬の言う、会わせろとは一発殴らせろの訳だろう。場地に詰寄る千冬を引き剥がして、このお守りを貰った経緯を話せば、千冬は顔を赤くして「すみませんでした」と勢いよく頭を下げた。
「てっきり、そうかと…」
「違うって言ったじゃない」
「付き合ってもねぇのにそういう事するヤツ許せねぇって思って、カッとなっちまいました」
その言葉に胸が少しだけ痛んだ。思い出されるのは、あの日の夜の事。自ら選んだ道なのだから後悔はないけれど、千冬の純粋さと真っ直ぐさが今の私には凄く眩しく見えた。真っ直ぐに見ていられなくなってしまって、スっと目を逸らした。その事に気づいたのか、場地は私の背中を軽くさすってくれた。彼の顔を見上げるが、私の視線に気付いていないかのように、ただ真っ直ぐに前を見ていた。その眼差しが力強くて、私の迷いを吹き飛ばしてくれたように思えた。
過去は消せないし、変えられないけど、未来は変えられる。私たちにはこれからがある。だから、今は精一杯前を向いて生きていくしかない。場地が隣にいてくれる限り、私は強くいれる気がする。
こうやって支え合いながら、その先の未来もずっとずっと一緒に居られたら良いな。
「千冬は真っ直ぐだね」
「そうですか?」
「うん。ずっと、そのままで居てね」
そう言えば、不思議そうにしながらも千冬は頷いた。
「なぁ、腹減らねぇ?」
「空きましたね」
「明日香、飯」
「二人とも何がいい?」
「牛丼」
「またぁ?千冬は?」
「オレも牛丼で!」
「じゃあ、牛丼にしますか!」
二人は嬉しそうに拳を掲げて「よっしゃあ!」と声を揃えた。
つゆだくがいいだとか、大盛りにしてくれなどの注文を受けながら、キッチンへと向かった。
三十分くらいで牛丼を作り終え、盛り付けている頃に千冬が「何か手伝いますか?」とキッチンに顔を覗かせた。作るのは終わってしまっていたので、台布巾を水に曝して硬く絞ってから千冬に「テーブル拭いてくれる?」と布巾を渡せば、「了解です!」とニッコリ笑ってリビングへと戻って行った。
「場地!座ってないで運ぶの手伝って!」
「へいへい」
ダルそうに椅子から腰を上げ、のそのそとキッチンへとやって来た場地に牛丼を二つ手渡して、一緒にリビングへと戻る。ダイニングテーブルに牛丼と味噌汁を並べて三人が席に着いた所で、手を合わせて「いただきます」と挨拶をしてからご飯を食べ始めた。
丼を持ってかき込んで食べる千冬は「うめぇ!」と声を上げてから、また夢中で牛丼を食べた。
「店のより美味いっス!」
「当たりめぇだろ。明日香は料理だけは得意だからな。料理だけは」
「なんで二回も言うのよ」
「反復法を使って強調したんだよ」
「あ、今日、オレが教えたヤツっスね!」
「バラしてんじゃねーよ」
シレッと言って優等生ぶりを見せつけたかったようだが、千冬の言葉で全てが台無しだ。場地が千冬を睨みつけると、千冬はすぐに謝罪を述べた。
話を逸らすように千冬が「料理上手いんですね」と話を振った。
幼い頃から両親が夜勤で家に居ない事が多かった家では、最初のうちはお母さんが夕飯を作って置いてくれていたのだが、暫くするとコンビニのお弁当になった。その時、お母さんも忙しいのだと幼いながらに察した私は、お母さんが家にいる時に率先してお手伝いをして料理を習った。その甲斐もあって、今では一人で作れるレパートリーも増えた。
夜、私が一人でご飯を食べるのが寂しくないようにと両親が夜勤の時は、大抵場地が家に遊びに来てくれていた。そんな彼に美味しいご飯を作ってあげたいと思うようになってから、更に上達したと思う。上達と言っても、場地好みの味に仕上がっていったが正しい。
「次は千冬の好きな物作るから、また一緒に食べようね」
「また作ってくれるんスか!?」
「うん、いいよ。何がいい?」
「牛丼」
「場地には聞いてない」
「オレも牛丼がいいっス!」
「場地に流されてない?」
「オレ、肉に始まり肉で終わるがモットーなくらい、肉好きなんで」
「前菜も副菜もメインも肉がいいのね…」
千冬の謎な肉理論を聞きながら、三人で笑い合って食べた夕飯は、幸せの味がした。