勿忘草
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あの日から大きな喧嘩や揉め事が起こる事はなく、平穏に過ごせていた。
最初はぎこちなかったものの、マイキーが普段と変わらない明るさで接してくれたおかげで、少しすればみんなも普段通りに戻った。
たまに、どこか遠い目をしている時もあって気になるが、本人に大丈夫かと聞いても「大丈夫、気にすんな」と言われてしまった。
場地も明るさを取り戻して、四人と今まで通り接していた。普段と変わらないように接しているつもりなのだろうけど、少しだけ距離感があるように感じてしまう。
だけど、他の人達は二人を腫れ物に触るように接するワケでもなく、今まで通り喧嘩もしてバイク走らせて、笑い合ってくれている。それが彼らなりの優しさなのだと思う。
それが二人にとっても救いになっているのではないかと思う。
私と場地の関係は今まで通りのままだ。あの日の事を無かった事にしたワケではないけど、お互い口にしないし、必要以上に触れ合う事もない。ただ、場地の隣に私が居て、私の隣に場地が居る。それだけは、ずっと変わらない。
そんな私達も中学一年が終わろうとしていた。
あっという間に過ぎた、一年。楽しくも悲しくも様々な感情が起伏した一年だった。
濃い一年が終わる、春を目前に一つの事件が起きた。
「場地、ちゃんと説明して」
「だから、そのまんまの意味だっつーの」
「何で留年したかって聞いてるの!」
「オレが知るかよ」
大きく舌打ちをして悪態をつく場地の態度に軽く腹が立ってしまう。
昨日の夜、場地のお母さんから泣きながら電話がかかって来た。「圭介が留年しちゃったの」と。最初、その言葉の意味が分からず、失礼ながらも「は?」と聞き返してしまった。
お母さんは話せる状態じゃないくらい泣いてしまっていて、最終的には「中学生なのよ、あの子」と悲しみで震えた声で言った。
そう、私たちは中学生だ。義務教育真っ只中。
義務教育を終えた高校からは留年という制度もあるが、中学ではない。それなのに、留年するというのは常人では有り得ない事だ。
それは、泣くに決まってる。私だって泣きたいくらいだ。ここまで、本当に異次元のバカだとは思っていなかった。
「お母さんの事、何度も泣かせないでよ!」
「好きで留年したんじゃねーよ」
口を尖らせて自分が責められているのに納得いってない表情を浮かべていた。
お母さんから電話を貰った後、文句の一つくらい言ってやろうと電話したら、私が口を開く前に察していたのか「明日、詳しく話す。十一時にいつもの喫茶店に来い」と一気に捲し立て、私の返事を聞く前に電話を切った。その後、かけても電源を切ったのか、無機質な機械音声しか聞こえて来なかった。
言われた通り、十一時にいつもの喫茶店に行くと、三ツ谷とぱーちんが居て彼らはマイキーから呼び出されたらしい。
十一時を三十分ほど過ぎた頃に、場地とマイキーとドラケンがやって来た。
場地の顔は数発殴られたような痣があり、三ツ谷が「絶対ぇ、喧嘩したな」と呟いた。
私たちのいる席にドカッと場地が座り、隣の席にマイキーとドラケンが座った。
そして、場地は強烈な一言を放った。「オレ、留年したわ」と。
「心当たりはあるの?」
「…夏休み明けてから学校なんて、まともに行った記憶ねぇな」
「それだけじゃないよね?」
「テストは全部白紙で出した。なんなら、燃やした時もある」
「他は?」
「後はあれか?センコー殴った事か?」
「…バカなの?」
場地はあっけらかんと「避けねぇ、アイツが悪ぃ」と言った。
だけど、留年した事でお母さんを泣かしてしまった事には罪悪感を感じているようで「夜な夜なずっと泣いてんだよな」と言った声は、少し落ち込んでいるようだった。
「大事件だよ…」
「珍事件だろ」
「「「「間違いねぇ」」」」
三ツ谷の一言に全員が声を揃えた。その事に腹が立ったのか場地は舌打ちをした。
そして、呆れ顔の三ツ谷は私の顔を見て、真剣な表情で口を開いた。
「これは、明日香の責任だぞ」
「はい?」
「オレもそう思う。場地の面倒をちゃんと見ねぇから、こうなるんだぞ」
「ん?ドラケンまで何を…?」
「育児放棄はダメだぞ」
「最近、ネグレクトが問題視されてるもんな」
「ちょっと、待って。私って場地の母親なの?」
「「違ぇの?」」
東卍創設メンバーの保護者組の三ツ谷とドラケンは声を揃えてそう言う。二人は私の味方だと思ってたのに、まさかの敵側に回るとは思いもしなかった。
でも、私の味方は他にいるハズだ。パーちんは私の味方をしてくれるだろうと期待を込めて眼差しを送るが、パーちんは目の前のチョコレートケーキに夢中だった。
「パーちん、ケーキ美味しそうに食べるね」
「やんねぇぞ」
「いりません」
誰にも譲らないと言わんばかりに、バッとケーキの乗った皿を右腕で隠して私をキッと睨み上げた。
ケーキ泥棒は私ではなく、パーちんの横から獲物を狩るような鋭い目付きでケーキを見つめているマイキーだろう。後々、一悶着あるなと思うが今はそれ所ではないので、放っておく。
「場地、今後の事はちゃんと考えるの?」
「心配のしすぎで、明日香が禿げちまうぞ」
「三ツ谷はちょっと黙ってて」
さりげなく失礼な事をサラッと言う三ツ谷は何なのだろうか。
すると、場地は何かを思い出したかのように大きな声を上げてソファから立ち上がった。そして、ドラケンとマイキーの方を見て「大事な事忘れてんじゃねーか」と呟いた。
「メガネ買い忘れたわ」
「「は?」」
状況が読めない私と三ツ谷は同時に素っ頓狂な声を上げた。助けを求めるようにドラケンに目を移せば、ドラケンがここに来るまでの事を説明してくれた。
留年が決まった場地はマイキーに相談したらしく、マイキーからのアドバイスは「とりあえず、メガネをかけると頭良くなるよ」との事で、三人で渋谷にメガネを買いに行ったらしい。
しかし、その途中で肩が当たったヤンキーと喧嘩になり、そのヤンキーが仲間を大勢呼ぶとイキリ始めたので、大人しく待った。四十人くらい呼んで来たので、三人でジャンケンして勝った場地が一対四十を楽しんでいたせいで、遅れたとの事だった。
「その怪我はその時のやつだったのね」
「すっかり、メガネ忘れてたわ」
「本気で言ってるの?」
「明日香、買いに行くの付き合ってくれよ。オレに似合うメガネ選んで欲しいんだけど」
「瓶底メガネがお似合いよ」
「テメェ、喧嘩売ってんのか?」
問題は別にメガネじゃないのに、と思いながら重いため息をつく。形から入るタイプなのは、昔から変わらないようだ。マイキーが適当なアドバイスしてくれたおかげで、話は変な方向に向かってしまっている。
場地はテーブルに手をバンっと叩き付けながら立ち上がり「今から、行くぞ」と言い、私の腕を掴んで引っ張って喫茶店の外へ連れて行こうとした。
「いや、買いに行く暇あるなら勉強した方がいいんじゃない?」
「メガネなきゃ頭良くならねーだろ」
「そんなんで頭良くなったら、この世にバカは居ないよ」
何とか言ってやってと三ツ谷に手を伸ばして助けを求めるが、彼は爽やかな笑顔で「行ってらっしゃい」と手を振った。
「三ツ谷の裏切り者…!」
私の悲しい叫び声を喫茶店に反響させながら、場地にズルズルと引き摺られながら外へ連行された。
最初はぎこちなかったものの、マイキーが普段と変わらない明るさで接してくれたおかげで、少しすればみんなも普段通りに戻った。
たまに、どこか遠い目をしている時もあって気になるが、本人に大丈夫かと聞いても「大丈夫、気にすんな」と言われてしまった。
場地も明るさを取り戻して、四人と今まで通り接していた。普段と変わらないように接しているつもりなのだろうけど、少しだけ距離感があるように感じてしまう。
だけど、他の人達は二人を腫れ物に触るように接するワケでもなく、今まで通り喧嘩もしてバイク走らせて、笑い合ってくれている。それが彼らなりの優しさなのだと思う。
それが二人にとっても救いになっているのではないかと思う。
私と場地の関係は今まで通りのままだ。あの日の事を無かった事にしたワケではないけど、お互い口にしないし、必要以上に触れ合う事もない。ただ、場地の隣に私が居て、私の隣に場地が居る。それだけは、ずっと変わらない。
そんな私達も中学一年が終わろうとしていた。
あっという間に過ぎた、一年。楽しくも悲しくも様々な感情が起伏した一年だった。
濃い一年が終わる、春を目前に一つの事件が起きた。
「場地、ちゃんと説明して」
「だから、そのまんまの意味だっつーの」
「何で留年したかって聞いてるの!」
「オレが知るかよ」
大きく舌打ちをして悪態をつく場地の態度に軽く腹が立ってしまう。
昨日の夜、場地のお母さんから泣きながら電話がかかって来た。「圭介が留年しちゃったの」と。最初、その言葉の意味が分からず、失礼ながらも「は?」と聞き返してしまった。
お母さんは話せる状態じゃないくらい泣いてしまっていて、最終的には「中学生なのよ、あの子」と悲しみで震えた声で言った。
そう、私たちは中学生だ。義務教育真っ只中。
義務教育を終えた高校からは留年という制度もあるが、中学ではない。それなのに、留年するというのは常人では有り得ない事だ。
それは、泣くに決まってる。私だって泣きたいくらいだ。ここまで、本当に異次元のバカだとは思っていなかった。
「お母さんの事、何度も泣かせないでよ!」
「好きで留年したんじゃねーよ」
口を尖らせて自分が責められているのに納得いってない表情を浮かべていた。
お母さんから電話を貰った後、文句の一つくらい言ってやろうと電話したら、私が口を開く前に察していたのか「明日、詳しく話す。十一時にいつもの喫茶店に来い」と一気に捲し立て、私の返事を聞く前に電話を切った。その後、かけても電源を切ったのか、無機質な機械音声しか聞こえて来なかった。
言われた通り、十一時にいつもの喫茶店に行くと、三ツ谷とぱーちんが居て彼らはマイキーから呼び出されたらしい。
十一時を三十分ほど過ぎた頃に、場地とマイキーとドラケンがやって来た。
場地の顔は数発殴られたような痣があり、三ツ谷が「絶対ぇ、喧嘩したな」と呟いた。
私たちのいる席にドカッと場地が座り、隣の席にマイキーとドラケンが座った。
そして、場地は強烈な一言を放った。「オレ、留年したわ」と。
「心当たりはあるの?」
「…夏休み明けてから学校なんて、まともに行った記憶ねぇな」
「それだけじゃないよね?」
「テストは全部白紙で出した。なんなら、燃やした時もある」
「他は?」
「後はあれか?センコー殴った事か?」
「…バカなの?」
場地はあっけらかんと「避けねぇ、アイツが悪ぃ」と言った。
だけど、留年した事でお母さんを泣かしてしまった事には罪悪感を感じているようで「夜な夜なずっと泣いてんだよな」と言った声は、少し落ち込んでいるようだった。
「大事件だよ…」
「珍事件だろ」
「「「「間違いねぇ」」」」
三ツ谷の一言に全員が声を揃えた。その事に腹が立ったのか場地は舌打ちをした。
そして、呆れ顔の三ツ谷は私の顔を見て、真剣な表情で口を開いた。
「これは、明日香の責任だぞ」
「はい?」
「オレもそう思う。場地の面倒をちゃんと見ねぇから、こうなるんだぞ」
「ん?ドラケンまで何を…?」
「育児放棄はダメだぞ」
「最近、ネグレクトが問題視されてるもんな」
「ちょっと、待って。私って場地の母親なの?」
「「違ぇの?」」
東卍創設メンバーの保護者組の三ツ谷とドラケンは声を揃えてそう言う。二人は私の味方だと思ってたのに、まさかの敵側に回るとは思いもしなかった。
でも、私の味方は他にいるハズだ。パーちんは私の味方をしてくれるだろうと期待を込めて眼差しを送るが、パーちんは目の前のチョコレートケーキに夢中だった。
「パーちん、ケーキ美味しそうに食べるね」
「やんねぇぞ」
「いりません」
誰にも譲らないと言わんばかりに、バッとケーキの乗った皿を右腕で隠して私をキッと睨み上げた。
ケーキ泥棒は私ではなく、パーちんの横から獲物を狩るような鋭い目付きでケーキを見つめているマイキーだろう。後々、一悶着あるなと思うが今はそれ所ではないので、放っておく。
「場地、今後の事はちゃんと考えるの?」
「心配のしすぎで、明日香が禿げちまうぞ」
「三ツ谷はちょっと黙ってて」
さりげなく失礼な事をサラッと言う三ツ谷は何なのだろうか。
すると、場地は何かを思い出したかのように大きな声を上げてソファから立ち上がった。そして、ドラケンとマイキーの方を見て「大事な事忘れてんじゃねーか」と呟いた。
「メガネ買い忘れたわ」
「「は?」」
状況が読めない私と三ツ谷は同時に素っ頓狂な声を上げた。助けを求めるようにドラケンに目を移せば、ドラケンがここに来るまでの事を説明してくれた。
留年が決まった場地はマイキーに相談したらしく、マイキーからのアドバイスは「とりあえず、メガネをかけると頭良くなるよ」との事で、三人で渋谷にメガネを買いに行ったらしい。
しかし、その途中で肩が当たったヤンキーと喧嘩になり、そのヤンキーが仲間を大勢呼ぶとイキリ始めたので、大人しく待った。四十人くらい呼んで来たので、三人でジャンケンして勝った場地が一対四十を楽しんでいたせいで、遅れたとの事だった。
「その怪我はその時のやつだったのね」
「すっかり、メガネ忘れてたわ」
「本気で言ってるの?」
「明日香、買いに行くの付き合ってくれよ。オレに似合うメガネ選んで欲しいんだけど」
「瓶底メガネがお似合いよ」
「テメェ、喧嘩売ってんのか?」
問題は別にメガネじゃないのに、と思いながら重いため息をつく。形から入るタイプなのは、昔から変わらないようだ。マイキーが適当なアドバイスしてくれたおかげで、話は変な方向に向かってしまっている。
場地はテーブルに手をバンっと叩き付けながら立ち上がり「今から、行くぞ」と言い、私の腕を掴んで引っ張って喫茶店の外へ連れて行こうとした。
「いや、買いに行く暇あるなら勉強した方がいいんじゃない?」
「メガネなきゃ頭良くならねーだろ」
「そんなんで頭良くなったら、この世にバカは居ないよ」
何とか言ってやってと三ツ谷に手を伸ばして助けを求めるが、彼は爽やかな笑顔で「行ってらっしゃい」と手を振った。
「三ツ谷の裏切り者…!」
私の悲しい叫び声を喫茶店に反響させながら、場地にズルズルと引き摺られながら外へ連行された。